2026.09.18
「NEXT STAGE~企業の未来を創るスポーツの未来を創る~」をテーマとしたトークイベントが8月27日に都内で開かれ、パネリストとして男子短距離のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が登壇した。
マーケティングなどを手掛ける株式会社フリークアウト・ホールディングスと、サニブラウランをはじめ多くのアスリートのマネジメントを受け持つ株式会社UDN SPORTSが主催したもの。両社は今年5月にグループ化。「アスリート価値最大化プロジェクト」を始動させた。
このイベントには男子サッカー日本代表の森保一監督をゲストに迎え、フリークアウト・ホールディングスの本田謙代表取締役社長をMCに、経営者、アスリート、クリエイターが、組織論やリーダーシップ論などについてディスカッションした。
サニブラウンも自身の経験を踏まえ、「スポーツも経営も、成功するよりも失敗することが多いと思う。目の前の1日、1日で何をするか。成功しても失敗しても、その過程が一番大事だと思っています」と語ると、森保監督も共感していた。
イベントを終え、サニブラウンが本誌の単独インタビューに応じた。22年オレゴン、23年ブダペストと世界選手権100mで2年連続ファイナル進出。24年パリ五輪では準決勝敗退となったが、9秒96の自己新をマークした。だが、昨年は故障などが響いて東京世界選手権で予選敗退。さらに、今季は出走ゼロに。新たな環境での挑戦、そして今季走れなかった理由なども明かした。
森保一監督や実業家との交流で刺激
――トークイベントに森保監督をはじめ、経営者らさまざまな分野の方が参加されました。
「こういった機会はなかなかないので参加できてうれしかったです。いろんな目線から質問が飛び交っていたのが刺激になりましたね。僕はアスリートですが、経営者の方々でも同じようなことに疑問を持つものなのだっていうふうに感じました。森保監督とは初めてお会いしました。日本代表監督を何年も続けられている方。貴重な経験になりましたし、もっといろんなお話を聞きたいです」
――印象に残っているトークテーマは?
「『組織か個か』という話ですね。個人競技とチームスポーツで違いはあると思いますが、僕はリレーに置き換えて聞いていました」
――森保監督は「組織として哲学を示して、役割をはっきりさせれば個の力は発揮できる。誤解されると困るが一つ選ぶなら『個』。戦術などどれも大切ですが、個の意識が高いと目標に向かっていける」といったような回答でしたね。
「リレーもチームワークやバトンの技術がもちろん大切で、その中で作っていくのが大事です。ただ、しっかり個人、個人がパフォーマンスを信じてやっていくこと。個々が成長していくことが一番大事だというのは森保監督と同じ考えでした。僕もいい年齢(27歳)になって、日本代表だと年齢も上のほうです(笑)。組織の中でのリーダーシップという点でも参考になりました。『100』を伝えるよりも、『1、2』を言って効果を出せるような個人・組織があれば、いいリーダーシップではないかな、と」
――組織(会社)をビルドアップさせていくという点でもアスリートとの共通点も多いですね。
「その通りで、競技も企業もリスクを負ってチャレンジしないと成長しない部分がたくさんあると思います。失敗を得て成長している人が大半だと思うので、とても共感できました。こういう場で質問をしたり、相談したりする方々は、きっと自分なりに答えがある。その上で意見を聞いてみたい、という感じがしたのもおもしろかったです」
自身初のシーズン試合出場ゼロ
――率直に、今季はシーズンアウトということですか? 8月に国内(富士北麓ワールドトライアル、Athlete Night Games)で2試合エントリーされましたが欠場でした。
「ここからレースに出る予定はありません。日本でのレースは本当に出たかったですし、調整していました。ただ、7月末、帰国の前日くらいに左ハムストリングスに違和感が出ました。調子が良い時に違和感が出ることもあるので、帰国してからも様子を見ながら練習をしていました。ただ、なかなか痛みが引かなくて、MRIを撮ったら出血があったんです。ハムストリングスだけならまだしも、少し腱にも影響しそうでした。ここで無理をしてケガしては、来年に響いてしまうので欠場を判断しました」
――昨シーズン終了後から、レイナ・レイダー・コーチから、フロリダ州立大のディレクターを務めるマット・ケイン・コーチに変更されました。
「選手は多い時で4人。しかも、そのうちの2人はハードルの選手なので、以前のスプリントチームとは大きく違います。一緒に練習はしませんが、大学で練習をしているので学生とコミュニケーションを取ることもあります。“ノリ”が違うから歳を感じますよ(笑)。コーチと2017年ロンドン世界選手権(200m7位)の話をしても、学生は『小学生だった』と。言わないでよ、って。一緒に練習しているクリスチャン・ミラー(米国)は二十歳ですからね(※9秒93を持つホープ)」
――昨年は7月の日本選手権直前に股関節の骨挫傷。東京世界選手権に万全の状態では臨めませんでした。その影響は?
「まず冬季練習をスタートしたのもかなり遅かったです。ケガで練習を積めていなかったので、ブランクから身体の状態が上がらなかった。コーチとは6月上旬にレースに出ようと調整していましたね」
――練習内容も変わったと思います。
「目指している動き、スプリントの技術自体はそれほど変わりませんが、アプローチが違う。練習パターンが180度変わったので、慣れるのに少し時間がかかりました。例えば、前は走ってからウエイトトレーニングというパターンが多かったですが、今はウエイトトレーニングをしてから走る。狙いは、スクワットで使う筋肉に刺激を入れて、トラックで意識するというものです。少しスプリント練習では身体が重く感じていました。逆に、ウエイトトレーニングの種類自体は多くなくて、細かい筋力を鍛える補強、エクササイズが多い。これは逆にスタート練習でパワーが足りないな、と感じることもある。練習で90m、120mという距離を走っても、タイムや動きは悪くない。それを試合で試せたら良かったのですが……」
――実現しませんでしたね。
「コーチの言っていることを頭では理解できても、身体で表現しようとすると全然できなくて。ズルズルいってしまいました。徐々に良くなってきたので、7月上旬のアイルランドのレースにエントリーしました。ウォーミングアップもして、調子も良かったんです。良い感じだな、と。レーンに立って、スターティングブロックもセットしてスタート練習して、これから走るぞという直前に両ふくらはぎをケイレンしたんです。ついていないなって。その後は欧州選手権やコモンウェルスゲームズがあって、欧州の試合が少なくて出たくても出られなかったんです」
「ないです。初めてですよ。何してるんだかっていう感じの年になってしまいましたね。ただ、練習においては慣れてきましたし、来年に向けて土台を作る時間にはなったとプラスに捉えています。コーチがしっかりプランニングしてくれるのですが、試合に出ないとわからない部分もあるので、来年は模索しながら、コミュニケーションを取っていきます」
思い出の北京、そしてロス五輪へ
――来年の世界選手権は北京です。思い出深い場所ではないですか? それに、2028年の五輪は拠点としている米国のロサンゼルスです。
「北京は15歳で初めて世界選手権に出た場所です。それに、パリ五輪からもう2年が経った。あっという間ですね。ゆったり構えていたわけではないですが、本当に早い。キャリアも折り返しは過ぎていると自覚しています。悔いのないように1日、1日やっていく。来年の結果がロス五輪にもつながると思うので、しっかりプランを立てていきます」
――何度も聞いてしまいますが、200mは……?
「僕も走りたいんですよ(笑)。本当は今年も走る予定でしたが、技術練習などの兼ね合いでそこまでたどり着けなかった。日本代表どうこうより、好きなんでシンプルに200mを走りたいですね。もちろん、ロス五輪は2種目をターゲットに見据えてやっていきます」
構成/向永拓史
森保一監督や実業家との交流で刺激
――トークイベントに森保監督をはじめ、経営者らさまざまな分野の方が参加されました。「こういった機会はなかなかないので参加できてうれしかったです。いろんな目線から質問が飛び交っていたのが刺激になりましたね。僕はアスリートですが、経営者の方々でも同じようなことに疑問を持つものなのだっていうふうに感じました。森保監督とは初めてお会いしました。日本代表監督を何年も続けられている方。貴重な経験になりましたし、もっといろんなお話を聞きたいです」[caption id="attachment_216768" align="alignnone" width="800"]
トークイベントに出席したサニブラウン[/caption]――印象に残っているトークテーマは?「『組織か個か』という話ですね。個人競技とチームスポーツで違いはあると思いますが、僕はリレーに置き換えて聞いていました」――森保監督は「組織として哲学を示して、役割をはっきりさせれば個の力は発揮できる。誤解されると困るが一つ選ぶなら『個』。戦術などどれも大切ですが、個の意識が高いと目標に向かっていける」といったような回答でしたね。「リレーもチームワークやバトンの技術がもちろん大切で、その中で作っていくのが大事です。ただ、しっかり個人、個人がパフォーマンスを信じてやっていくこと。個々が成長していくことが一番大事だというのは森保監督と同じ考えでした。僕もいい年齢(27歳)になって、日本代表だと年齢も上のほうです(笑)。組織の中でのリーダーシップという点でも参考になりました。『100』を伝えるよりも、『1、2』を言って効果を出せるような個人・組織があれば、いいリーダーシップではないかな、と」[caption id="attachment_216769" align="alignnone" width="800"]
サッカー日本代表の森保一監督との貴重なツーショットも実現[/caption]――組織(会社)をビルドアップさせていくという点でもアスリートとの共通点も多いですね。「その通りで、競技も企業もリスクを負ってチャレンジしないと成長しない部分がたくさんあると思います。失敗を得て成長している人が大半だと思うので、とても共感できました。こういう場で質問をしたり、相談したりする方々は、きっと自分なりに答えがある。その上で意見を聞いてみたい、という感じがしたのもおもしろかったです」自身初のシーズン試合出場ゼロ
――率直に、今季はシーズンアウトということですか? 8月に国内(富士北麓ワールドトライアル、Athlete Night Games)で2試合エントリーされましたが欠場でした。「ここからレースに出る予定はありません。日本でのレースは本当に出たかったですし、調整していました。ただ、7月末、帰国の前日くらいに左ハムストリングスに違和感が出ました。調子が良い時に違和感が出ることもあるので、帰国してからも様子を見ながら練習をしていました。ただ、なかなか痛みが引かなくて、MRIを撮ったら出血があったんです。ハムストリングスだけならまだしも、少し腱にも影響しそうでした。ここで無理をしてケガしては、来年に響いてしまうので欠場を判断しました」――昨シーズン終了後から、レイナ・レイダー・コーチから、フロリダ州立大のディレクターを務めるマット・ケイン・コーチに変更されました。「選手は多い時で4人。しかも、そのうちの2人はハードルの選手なので、以前のスプリントチームとは大きく違います。一緒に練習はしませんが、大学で練習をしているので学生とコミュニケーションを取ることもあります。“ノリ”が違うから歳を感じますよ(笑)。コーチと2017年ロンドン世界選手権(200m7位)の話をしても、学生は『小学生だった』と。言わないでよ、って。一緒に練習しているクリスチャン・ミラー(米国)は二十歳ですからね(※9秒93を持つホープ)」――昨年は7月の日本選手権直前に股関節の骨挫傷。東京世界選手権に万全の状態では臨めませんでした。その影響は?「まず冬季練習をスタートしたのもかなり遅かったです。ケガで練習を積めていなかったので、ブランクから身体の状態が上がらなかった。コーチとは6月上旬にレースに出ようと調整していましたね」――練習内容も変わったと思います。「目指している動き、スプリントの技術自体はそれほど変わりませんが、アプローチが違う。練習パターンが180度変わったので、慣れるのに少し時間がかかりました。例えば、前は走ってからウエイトトレーニングというパターンが多かったですが、今はウエイトトレーニングをしてから走る。狙いは、スクワットで使う筋肉に刺激を入れて、トラックで意識するというものです。少しスプリント練習では身体が重く感じていました。逆に、ウエイトトレーニングの種類自体は多くなくて、細かい筋力を鍛える補強、エクササイズが多い。これは逆にスタート練習でパワーが足りないな、と感じることもある。練習で90m、120mという距離を走っても、タイムや動きは悪くない。それを試合で試せたら良かったのですが……」――実現しませんでしたね。「コーチの言っていることを頭では理解できても、身体で表現しようとすると全然できなくて。ズルズルいってしまいました。徐々に良くなってきたので、7月上旬のアイルランドのレースにエントリーしました。ウォーミングアップもして、調子も良かったんです。良い感じだな、と。レーンに立って、スターティングブロックもセットしてスタート練習して、これから走るぞという直前に両ふくらはぎをケイレンしたんです。ついていないなって。その後は欧州選手権やコモンウェルスゲームズがあって、欧州の試合が少なくて出たくても出られなかったんです」 [caption id="attachment_216770" align="alignnone" width="800"]
今季は試合に出場できなかったが、前向きに捉えている[/caption]
――ケガには泣いてきたほうですが、これまで一度も試合に出なかったのは……。「ないです。初めてですよ。何してるんだかっていう感じの年になってしまいましたね。ただ、練習においては慣れてきましたし、来年に向けて土台を作る時間にはなったとプラスに捉えています。コーチがしっかりプランニングしてくれるのですが、試合に出ないとわからない部分もあるので、来年は模索しながら、コミュニケーションを取っていきます」思い出の北京、そしてロス五輪へ
――来年の世界選手権は北京です。思い出深い場所ではないですか? それに、2028年の五輪は拠点としている米国のロサンゼルスです。「北京は15歳で初めて世界選手権に出た場所です。それに、パリ五輪からもう2年が経った。あっという間ですね。ゆったり構えていたわけではないですが、本当に早い。キャリアも折り返しは過ぎていると自覚しています。悔いのないように1日、1日やっていく。来年の結果がロス五輪にもつながると思うので、しっかりプランを立てていきます」――何度も聞いてしまいますが、200mは……?「僕も走りたいんですよ(笑)。本当は今年も走る予定でしたが、技術練習などの兼ね合いでそこまでたどり着けなかった。日本代表どうこうより、好きなんでシンプルに200mを走りたいですね。もちろん、ロス五輪は2種目をターゲットに見据えてやっていきます」構成/向永拓史RECOMMENDED おすすめの記事
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