2024年8月8日、フランス・パリ。10台のハードルを跳び越えてフィニッシュラインに身体を突き出した。「東京で絶対にメダルを取ってやる」。それが、男子110mハードルで日本初の五輪入賞となる5位に入った村竹ラシッド(JAL)の頭に浮かんだ、最初の思いだったという。
「毎日メダル、12秒台のことを考えて練習してきました」。冬季には2部練習で身体を鍛え上げ、走練習、ウエイトトレーニングでさらなるベースアップを図った。それでもシーズンイン前にはなお、「もっと練習がしたい。初戦を遅らせたい」と語っていたほど。
成果は如実に表れる。世界最高峰の一握りの選手だけが出場できるダイヤモンドリーグ(DL)を主戦場にすると、優勝こそなかったが常に上位争いを繰り広げる。初戦から3試合連続で13秒1台をマークすると、5月末のアジア選手権でも優勝を果たす。
「メダルを取るためには、いつでも13秒0台を出せて、12秒台のスピードがないといけない」
その言葉は、9月が近づくにつれて現実になる。6月DLパリで予選・準決勝とも13秒08をマークすると(4位)、8月の福井で歴史を動かす。日本人初の13秒切りとなる世界歴代11位タイの12秒92。世界に衝撃が走った。
今季、最も改善したのが「抜き脚の軌道」だ。昨年までの課題でもあり、「遅れがあった」。冬の間から柔軟性を高めるエクササイズなどに積極的に取り組んだという。福井の前にはハードリングに磨きをかけ、「コンパクトかつ、大臀筋、中臀筋を使って可動域を広げた」動きでキレ味が増した。福井の走りは、まさにワールドクラスだった。

福井ではスタートから他を寄せ付けず、ハードルを超えるたびに加速していくような走りだった
山崎一彦コーチと「記録よりも海外で継続して結果を出す」をテーマにしたが、しっかり戦い抜いた。その上で記録も到達。「平均的に13秒1台を出せたのは大きな成果」。世界選手権前最後のレースだった初出場のDLファイナルでは1台目までのアプローチで「大きく行き過ぎた」ため失速したが、「本番でなくて良かった」と切り替えている。
本番までに2度のハードル練習を予定。「1台目のアプローチをどういった塩梅で行くか。その形を作って、中盤から後半にどうつなげていくか」をポイントに置いている。
かつて、『世界から最も遠いスプリント種目』と言われたこの種目で、堂々とメダル候補として自国開催の世界選手権を迎える。ライバルになりそうなのはDLで今季強さを見せ、世界リストトップの12秒87を出しているC.ティンチ(米国)。さらに、世界選手権3連覇中のG.ホロウェイ(米国)も状態を上げてくるだろう。
「ここまでの経験値をどれだけ本番で生かせるか。本番で12秒台を出してメダルを取りたい」
個人の短距離種目でメダルとなれば、400mハードルの為末大(01年エドモントン、05年ヘルシンキの銅)、200mの末續慎吾(03年パリの銅)に続く3人目の偉業だ。
昨年のパリでは入場の際に“ジョジョ立ち”をして話題になった。「ポーズの候補はいくつかあります。お楽しみにしてください」。
4年前、東京五輪の参加標準記録を突破しながら日本選手権のフライング失格により立てなかった舞台。そうした悔しさを含めた、これまでの経験すべてをぶつけてメダルをつかみに行く。
男子110mハードルの予選は3日目15日の午後、準決勝・決勝は4日目16日の午後に行われる。
文/向永拓史

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