2023.08.30
箱根駅伝5区区間新を経て、「山の妖精」が向かう先とは
大学に入り、急成長を遂げる。憧れていた箱根駅伝5区も、1年目から任され、区間6位。「大学の近くに5区を想定した山道があり、ポイント練習以外でも1人でジョグに行くこともありました。上りに対しての意識は当時から強かったと思います」と意欲的だった。
そして今年の正月は、3年生で区間賞を獲得。「大学4年間での目標が5区区間賞だったので、まさか3年目で達成できるとは予想できませんでした。でも上りは絶対に誰にも負けないくらい練習してきたので、その努力が報われたと感じました」。
一躍学生長距離界で有名になったことで、注目を浴びたり、他の選手からターゲットにされたりすることも自覚している。「でも、強い選手はみんなそうなのかなとも思っています。そこはプレッシャーに感じすぎず、自分はもっと上を目指したい」と頼もしい。
自己ベストは現在、5000m13分51秒08、10000m28分25秒21、ハーフ1時間1分34秒まで伸ばしている。成長の要因は何なのか。
「櫛部監督や五十嵐コーチ、あとはチームメートのおかげです。全国から集まった強い人たちと一緒に練習できていることも大きいです。また城西大は低酸素環境があることも自分を強くしているのでは」と自己分析する。
いよいよ最終学年として三大駅伝を迎える。「3つ全部出場できるのは今年が初めて。チームとして出雲8位、全日本5位、箱根3位という目標を掲げています。その順位を達成できるよう、個人としても区間賞を目指して、目標に貢献できるよう頑張りたい」。
「山の神」を目指すかどうか聞いてみると、「まだ5区を走るかどうかわかりませんが、走るとすれば1時間9分は切りたいです。今井正人さん(順大→トヨタ自動車九州/ほぼ同じコース&距離で1時間9分12秒の区間記録を保持していた)の記録を超えないと『神』にはなれませんから」と、密かに妖精から神様への昇格も狙っている。
ワールドユニバーシティゲームズでは、5000mで同じ4年生の安原太陽(駒大)と石原翔太郎(東海大)が海外勢と壮絶なラスト勝負を演じ、それぞれ2位と4位に入った。山本は2人をサポートし、応援していた。「やはり強いな」と生で見て感じたという。
「彼らは自分よりも高いレベルでやっていて、結果を残しています。ユニバではチームメートでしたが、駅伝シーズンではライバルです。一緒に食事をしたり、いろいろ話もできました。同学年なので、2人に負けないように頑張ります」
卒業後は実業団に進みマラソンに取り組む予定。ベースを作り、早くて3年目でのチャレンジを視野に入れている。山の妖精からその先へ、さらなる進化を遂げるつもりだ。
◎やまもと・ゆいと/新潟県十日町市出身。松代中→開志国際高→城西大。自己記録5000m13分51秒08、10000m28分25秒21、ハーフ1時間1分34秒。
文/荒井寛太
学生世界3位の称号を手に
「山の妖精」が世界の舞台で羽ばたいた――。8月に中国・成都で開かれたワールドユニバーシティゲームズ男子10000mで、山本唯翔(城西大4年)が銅メダルを獲得した。 レース当日、日本と同じような蒸し暑い気象条件。山本はスローな展開を予測していた。櫛部静二監督からは「特にアフリカ系の選手はタイム以上に強さがあるから用心しよう」とアドバイスを受けており、「スローではあった中でも上げ下げがあるレースでした。特に5000m過ぎてからの揺さぶりで、集団も絞られていきました」と振り返る。 6000m過ぎにウガンダとトルコの選手が抜け出し、4人ほどの3位集団で山本は粘った。終盤はケニアの選手と一騎打ちに。「粘りに粘って、ケニアの選手が離れ、最後までペースを落とさず押せたことが3位につながりました」。 メダル獲得を目標に挑んだ。「陸上人生でメダルを取ったことがなかったのでうれしかった」と語る。一方、「前の2人の持ちタイムは自分より下だった。そういう選手に負けたのは悔しい。『うれしさ半分、悔しさ半分』みたいな感じです」 初めて挑む国際大会。独特の雰囲気を感じ取り、「アップを始めてから急に緊張してきました。招集所で他の選手を見て『自分より強そう』と勝手に思い込んでしまって……。気持ちの面で初めから負けていました」と反省を口にする。 一方で、「どういう状況でも冷静に対処できる選手にならないといけません。海外では必ずしも日本のレースとは一緒じゃないと実感できました」と収穫を得たことは今後の糧にするつもりだ。 フィニッシュ後には日本の国旗を背負い、上位2選手と健闘を称えあった。「日本代表として中国に行き、恥のない走りを心掛けました。メダルを獲得でき、これまで陸上をやってきて良かったなという思いもあります」。この先も競技を続けていく山本にとって、世界陸上や五輪を目指すモチベーションも生まれたようだ。山に囲まれた環境で幼少期を過ごす
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2019年沖縄インターハイでは3000mSCで決勝に進んだ山本唯翔(左)[/caption]
新潟県十日町市生まれ。日本有数の豪雪地帯だ。特に山本の育った松代地区は標高150m~600mの丘陵地帯に集落が点在する。里山の原風景「棚田」が数多く残る地域として知られている。小学生の頃から起伏のある山道を走ることが大好きだった。校内マラソンでも1位をとった。雪の時期はクロスカントリースキーを小学校6年間続け、自然と起伏にタフな体力を身につけていった。
正月は箱根駅伝を見るのが小さい時から好きだった。「親せきで必ず集まって見ていました。当時は同じ十日町出身の服部勇馬さん(東洋大→トヨタ自動車)が走っていて、すごくかっこいいなと思いました。東洋大の柏原竜二さんも印象に残っています」。山本は駅伝への憧れを抱いていく。
松代中時代の3000m自己記録は9分13秒13。「学校の200m土トラックや、周辺の起伏のある山道を毎日走っていました。雪の時期は体育館の中を走ったり、階段で1階から4階までダッシュをしたり」。学校全体を使って走れるところを探し工夫して練習を重ねた。
実家を離れ、長距離に力を入れ始めていた胎内市の開志国際高に進む。将来箱根駅伝を走るため、強くなるために寮生活を決断した。インターハイ路線は高校2年時に3000m障害で北信越大会9位。その年の冬には学校として初の全国高校駅伝出場を決め、山本は3区を走った(区間21位)。
高校3年になると、5000mと3000m障害の2種目でのインターハイ出場を目指した。しかし、北信越の5000mはレベルが高かった。留学生2人に加え、平林清澄(福井・美方高→國學院大)、伊藤大志(長野・佐久長聖高→早大)、服部凱杏(長野・佐久長聖高→立大)、田中悠登(福井・敦賀気比高→青学大)に阻まれ、9位で全国を逃した。
傷心の5000m決勝からわずか2時間後。3000m障害の予選が控えていた。ハードなスケジュールで身も心もボロボロだったが、「ここであきらめたらいけない」と奮起。「うまく気持ちを切り替えて、全国に行きたいという気持ちを前面に出しました」。
その結果、予選通過を決めて決勝でも5位。見事全国行きを決めた。山本自身、この時のレースが一番印象深く心に刻まれている。
そんな中学・高校時代の山本を、城西大の五十嵐真悟コーチが見ていた。実は山本と同じ十日町の松代中学出身で、育った環境も性格もよく知っていた。山本は「地元が一緒というのも何かの縁」と、城西大へ進んだ。
箱根駅伝5区区間新を経て、「山の妖精」が向かう先とは
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23年箱根駅伝5区で区間新記録を樹立した山本唯翔[/caption]
大学に入り、急成長を遂げる。憧れていた箱根駅伝5区も、1年目から任され、区間6位。「大学の近くに5区を想定した山道があり、ポイント練習以外でも1人でジョグに行くこともありました。上りに対しての意識は当時から強かったと思います」と意欲的だった。
そして今年の正月は、3年生で区間賞を獲得。「大学4年間での目標が5区区間賞だったので、まさか3年目で達成できるとは予想できませんでした。でも上りは絶対に誰にも負けないくらい練習してきたので、その努力が報われたと感じました」。
一躍学生長距離界で有名になったことで、注目を浴びたり、他の選手からターゲットにされたりすることも自覚している。「でも、強い選手はみんなそうなのかなとも思っています。そこはプレッシャーに感じすぎず、自分はもっと上を目指したい」と頼もしい。
自己ベストは現在、5000m13分51秒08、10000m28分25秒21、ハーフ1時間1分34秒まで伸ばしている。成長の要因は何なのか。
「櫛部監督や五十嵐コーチ、あとはチームメートのおかげです。全国から集まった強い人たちと一緒に練習できていることも大きいです。また城西大は低酸素環境があることも自分を強くしているのでは」と自己分析する。
いよいよ最終学年として三大駅伝を迎える。「3つ全部出場できるのは今年が初めて。チームとして出雲8位、全日本5位、箱根3位という目標を掲げています。その順位を達成できるよう、個人としても区間賞を目指して、目標に貢献できるよう頑張りたい」。
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