HOME 特集

2023.07.15

【高平慎士の視点】19歳にして一段上の境地に入った栁田大輝 一気に9秒台とファイナルへ/アジア選手権
【高平慎士の視点】19歳にして一段上の境地に入った栁田大輝 一気に9秒台とファイナルへ/アジア選手権

23年アジア選手権男子100mを制した栁田大輝(東洋大、左から2人目)。右から2人目は6位の坂井隆一郎(大阪ガス)

タイ・バンコクで開催されている第25回アジア選手権の3日目(7月14日)、最終種目に行われた男子100m決勝。19歳の栁田大輝(東洋大)が日本歴代7位タイ、学生歴代2位の10秒02(±0)で金メダルに輝いた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

栁田大輝選手は「強かった」の一言です。前日の予選から、後半流して自己タイの10秒10(-0.5)。準決勝(10秒14/±0)から決勝が約2時間というスケジュールの中で、3本目の決勝を全体的にまとめたことが素晴らしいと思います。最後までしっかりと走り切れば、3本とも決勝と同じようなタイムで走れたのではないか。そう思わせるぐらいの高いパフォーマンスを発揮しましたね。

広告の下にコンテンツが続きます

決勝を振り返ってみると、スタートから7~8歩目ぐらいまでは、これまでは1歩1歩力を伝えながらグングンと進むタイプでしたが、非常にスムーズに加速していました。

それが意図的だったのか、目指していたものかはわかりません。グングン進んでいくことも、走幅跳をやっていた彼の走りのタイプとして決して悪いわけでもありません。ただ、0.01秒を削り出す100mの世界では、グンと地面に力を加えることは余計な時間であるとも言えます。スムーズに加速をしていた今回の走りは、一段階上の境地へと、ステップアップしたように感じました。

欲を言えば、60m以降の動き。3本目の疲労の中で当然だと思いますが、自分の身体をコントロールして動かし切れていない部分がありました。それができていれば「9秒台」の声が聞かれたのではないでしょうか。これが2本目(準決勝)で、思い切り一発を狙う世界陸上のような舞台だったとしたら、もしかすると出ていたかもしれません。

もはやシニアの舞台が当たり前のような立ち位置にいますが、まだシニア1年目の19歳で、シニアの日本代表としてはこれが初めての個人レース。これまでの歴史を振り返っても、アジアの舞台で勝つこと自体が簡単なことではありません。2位に0.17秒差の圧勝劇をやってのけたことは、記録や結果以上の驚きを受けています。

昨年からの成長点を見ると、最大スピードに乗るための加速局面の走りがうまくなったところでしょう。もともと、トップスピードを維持する能力に秀でていましたが、そこに加速がつながったことで、全体的なレベルアップに結び付いているのではないでしょうか。

今回、大きなポイントを稼ぐことができたので、ブダペスト世界陸上はほぼ間違いないでしょう。いよいよ、より上のステージで戦う機会が巡ってきそうです。

ここまで来たら、駆け上がれるだけ駆け上がって、いい景色を見るところまで一気に行ってほしいですね。その先に難しさを味わうことにはなるかもしれませんが、それでもこの勢いのままに行くことも大切なことです。

全米選手権などを見ても、世界はこれからブダペスト世界陸上に向けて仕上げてくるはずです。その中で、どう戦えるか。

今回、これは素晴らしいことではありますが、結果的に競り合う経験はできませんでした。世界陸上の準決勝で、競り合いながら今日のようなレースができれば――。どんなステージに上がっても、スイッチを入れたいところで入れ、パフォーマンスを発揮できることも彼の特徴の一つなので、注目したいと思います。

10秒26で6位だった坂井隆一郎選手(大阪ガス)は、日本選手権前に左足アキレス腱を痛めた影響が、まだまだ残っていましたね。3本とも質の高いレースをする体力が戻り切っていないように感じました。

それでも、3本走り切ったことは彼にとって収穫。栁田選手の刺激も入って、これから立て直してくるでしょう。本番までには、いい形を持ってこれるのではないでしょうか。

タイ・バンコクで開催されている第25回アジア選手権の3日目(7月14日)、最終種目に行われた男子100m決勝。19歳の栁田大輝(東洋大)が日本歴代7位タイ、学生歴代2位の10秒02(±0)で金メダルに輝いた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 栁田大輝選手は「強かった」の一言です。前日の予選から、後半流して自己タイの10秒10(-0.5)。準決勝(10秒14/±0)から決勝が約2時間というスケジュールの中で、3本目の決勝を全体的にまとめたことが素晴らしいと思います。最後までしっかりと走り切れば、3本とも決勝と同じようなタイムで走れたのではないか。そう思わせるぐらいの高いパフォーマンスを発揮しましたね。 決勝を振り返ってみると、スタートから7~8歩目ぐらいまでは、これまでは1歩1歩力を伝えながらグングンと進むタイプでしたが、非常にスムーズに加速していました。 それが意図的だったのか、目指していたものかはわかりません。グングン進んでいくことも、走幅跳をやっていた彼の走りのタイプとして決して悪いわけでもありません。ただ、0.01秒を削り出す100mの世界では、グンと地面に力を加えることは余計な時間であるとも言えます。スムーズに加速をしていた今回の走りは、一段階上の境地へと、ステップアップしたように感じました。 欲を言えば、60m以降の動き。3本目の疲労の中で当然だと思いますが、自分の身体をコントロールして動かし切れていない部分がありました。それができていれば「9秒台」の声が聞かれたのではないでしょうか。これが2本目(準決勝)で、思い切り一発を狙う世界陸上のような舞台だったとしたら、もしかすると出ていたかもしれません。 もはやシニアの舞台が当たり前のような立ち位置にいますが、まだシニア1年目の19歳で、シニアの日本代表としてはこれが初めての個人レース。これまでの歴史を振り返っても、アジアの舞台で勝つこと自体が簡単なことではありません。2位に0.17秒差の圧勝劇をやってのけたことは、記録や結果以上の驚きを受けています。 昨年からの成長点を見ると、最大スピードに乗るための加速局面の走りがうまくなったところでしょう。もともと、トップスピードを維持する能力に秀でていましたが、そこに加速がつながったことで、全体的なレベルアップに結び付いているのではないでしょうか。 今回、大きなポイントを稼ぐことができたので、ブダペスト世界陸上はほぼ間違いないでしょう。いよいよ、より上のステージで戦う機会が巡ってきそうです。 ここまで来たら、駆け上がれるだけ駆け上がって、いい景色を見るところまで一気に行ってほしいですね。その先に難しさを味わうことにはなるかもしれませんが、それでもこの勢いのままに行くことも大切なことです。 全米選手権などを見ても、世界はこれからブダペスト世界陸上に向けて仕上げてくるはずです。その中で、どう戦えるか。 今回、これは素晴らしいことではありますが、結果的に競り合う経験はできませんでした。世界陸上の準決勝で、競り合いながら今日のようなレースができれば――。どんなステージに上がっても、スイッチを入れたいところで入れ、パフォーマンスを発揮できることも彼の特徴の一つなので、注目したいと思います。 10秒26で6位だった坂井隆一郎選手(大阪ガス)は、日本選手権前に左足アキレス腱を痛めた影響が、まだまだ残っていましたね。3本とも質の高いレースをする体力が戻り切っていないように感じました。 それでも、3本走り切ったことは彼にとって収穫。栁田選手の刺激も入って、これから立て直してくるでしょう。本番までには、いい形を持ってこれるのではないでしょうか。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.12.11

青学大・原晋監督が最大のライバルに駒大 「勝つ知識、ノウハウを兼ね備える」 箱根V3へ不安材料は「経験者が少ない」

第102回箱根駅伝で3連覇を狙う青学大が、都内の青山キャンパスで壮行会を開き、原晋監督やエントリー選手たちが登壇した。 壮行会後に記者会見が行われ、一番のライバル校を問われた原監督は「一番はやはり駒澤大学です。ここ11年 […]

NEWS 箱根駅伝V3へ青学大が壮行会 主将・黒田朝日「新たな歴史を作る舞台」 2年連続区間賞・塩出翔太「良い報告ができるように」

2025.12.11

箱根駅伝V3へ青学大が壮行会 主将・黒田朝日「新たな歴史を作る舞台」 2年連続区間賞・塩出翔太「良い報告ができるように」

第102回箱根駅伝で3連覇を狙う青学大が、都内の青山キャンパスで壮行会を開き、原晋監督やエントリー選手たちが登壇した。 お昼休みで多くの学生や教職員が集まるなか、原監督は「シーズン当初は新体制となり、学生たちには『勝つ確 […]

NEWS 青学大・原監督「バーディー×2」駒大・藤田監督「4本の柱」総合力の「上握り10貫」など指揮官たちが“前哨戦”/箱根駅伝トークバトル

2025.12.11

青学大・原監督「バーディー×2」駒大・藤田監督「4本の柱」総合力の「上握り10貫」など指揮官たちが“前哨戦”/箱根駅伝トークバトル

「第102回箱根駅伝トークバトル」が12月10日、東京・恵比寿ガーデンプレイスで行われた。 前回優勝校の青学大・原晋監督、同2位の駒大・藤田敦史監督、同3位の國學院大・前田康弘監督、同4位でトークバトル初登場の早大・花田 […]

NEWS 【箱根駅伝エントリー】登録選手336人が決定 最多出身高は13年ぶりの駅伝名門校! 都道府県別では埼玉が2年連続トップ

2025.12.10

【箱根駅伝エントリー】登録選手336人が決定 最多出身高は13年ぶりの駅伝名門校! 都道府県別では埼玉が2年連続トップ

第102回箱根駅伝のチームエントリーが12月10日に行われ、今回も1チーム16人、21チーム計336人が選手登録された。 登録選手を出身高校別に見ると、佐久長聖高(長野)が13人で最多となった。続いて、洛南高(京都)が1 […]

NEWS 前回6位の城西大・櫛部静二監督「アッと驚く試合を」 20年連続シード東洋大・酒井俊幸監督「誰が出ても粘りながら」/箱根駅伝

2025.12.10

前回6位の城西大・櫛部静二監督「アッと驚く試合を」 20年連続シード東洋大・酒井俊幸監督「誰が出ても粘りながら」/箱根駅伝

第102回箱根駅伝の記者発表会が12月10日、都内で行われ、出場校の監督が意気込みを語った。 前回6位の城西大は16人のエントリーの半数を4年生が占めた。櫛部静二監督は「ここ数年、この4年生の力によって、城西大としては上 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top