HOME 特集

2023.05.30

今年もNHKで解説!福島千里さんが語る日本選手権の思い出「世界を見据え、ただ1番になればいいわけじゃなかった」
今年もNHKで解説!福島千里さんが語る日本選手権の思い出「世界を見据え、ただ1番になればいいわけじゃなかった」

女子100m、200m日本記録保持者の福島千里さん

第107回日本選手権が明日6月1日から4日までの4日間、大阪市のヤンマースタジアム長居を舞台に行われる。ブダペスト世界選手権をはじめ、アジア選手権やアジア大会の日本代表選考も兼ねており、大熱戦の予感が漂う。

そこで、今季前半の大一番を盛り上げるべく、NHKの解説を務める女子100m、200m日本記録保持者の福島千里さんに、大会の見所や、自身の日本選手権への思いなどを聞いた。その前編は、日本選手権の足跡を振り返る。

広告の下にコンテンツが続きます

「世界で戦う目標に向けての日本選手権」という位置づけ

日本選手権には100mは2008年、200mは09年に初優勝。その後、100mは2年ぶりに制した10年から16年まで7連覇、200mは11年から6連覇を達成し、6年連続の「スプリント2冠」の偉業を成し遂げた。これは、1998年~2003年の新井初佳に並ぶ史上最多の偉業である。福島さんいとっての「日本選手権」とは、どんなものだったのか――。

私にとって日本選手権は、オリンピック、世界選手権など世界大会の代表選考会という位置づけのほうが常に大きかったです。日本一を目指すというよりも、世界大会の選考会という考え方です。世界で戦うことを見据えた時に、日本選手権は私にとって「1番になればいい」という大会ではなかったからです。

シーズンの組み立て方としては、春のグランプリシリーズ、日本選手権、世界大会と3つのピークを作るイメージで臨んでいました。その中間にある日本選手権は、前半シーズンのまとめとして、夏の世界大会に向けての手応えをつかんでおきたいという大会。春先の課題を克服して日本選手権に臨み、そこで手応えをつかんで世界大会への準備に向かう、という流れを作るために、日本選手権では常にベストを狙う心づもりでやっていました。

だから、日本選手権のレース中に心掛けていたことは、100mも200mも、予選からあまり力を抜かないことです。失敗したと思うレースはもちろんありましたが、中途半端なレースはしないと決めていました。トップスピードを1度出しておくことで、その後のレースでも出しやすくなるという感覚があったことも確かです。ただ、世界で戦うという目標に向けて、ここで(力を)抜いている場合じゃない、抜ける立場じゃないという思いのほうが強かったです。

広告の下にコンテンツが続きます

予選からしっかりといくことに関して、怖さは全然なかったですね。2種目出場と、そのラウンドを重ねることを前提に練習してきていますし、100m決勝の前に200m予選があっても勝てる準備をして臨んでいましたから。

メンタル的にも、大会への気持ちの持って行き方に苦労したことはあまりありません。もともと、気持ちで身体を引っ張っていくタイプじゃないんです。目の前のやるべきことを一つひとつ、1日1日を積み重ねていく中で、身体の調子が整ってくることで気持ちも盛り上がってくるというタイプでした。

第107回日本選手権が明日6月1日から4日までの4日間、大阪市のヤンマースタジアム長居を舞台に行われる。ブダペスト世界選手権をはじめ、アジア選手権やアジア大会の日本代表選考も兼ねており、大熱戦の予感が漂う。 そこで、今季前半の大一番を盛り上げるべく、NHKの解説を務める女子100m、200m日本記録保持者の福島千里さんに、大会の見所や、自身の日本選手権への思いなどを聞いた。その前編は、日本選手権の足跡を振り返る。

「世界で戦う目標に向けての日本選手権」という位置づけ

日本選手権には100mは2008年、200mは09年に初優勝。その後、100mは2年ぶりに制した10年から16年まで7連覇、200mは11年から6連覇を達成し、6年連続の「スプリント2冠」の偉業を成し遂げた。これは、1998年~2003年の新井初佳に並ぶ史上最多の偉業である。福島さんいとっての「日本選手権」とは、どんなものだったのか――。 私にとって日本選手権は、オリンピック、世界選手権など世界大会の代表選考会という位置づけのほうが常に大きかったです。日本一を目指すというよりも、世界大会の選考会という考え方です。世界で戦うことを見据えた時に、日本選手権は私にとって「1番になればいい」という大会ではなかったからです。 シーズンの組み立て方としては、春のグランプリシリーズ、日本選手権、世界大会と3つのピークを作るイメージで臨んでいました。その中間にある日本選手権は、前半シーズンのまとめとして、夏の世界大会に向けての手応えをつかんでおきたいという大会。春先の課題を克服して日本選手権に臨み、そこで手応えをつかんで世界大会への準備に向かう、という流れを作るために、日本選手権では常にベストを狙う心づもりでやっていました。 だから、日本選手権のレース中に心掛けていたことは、100mも200mも、予選からあまり力を抜かないことです。失敗したと思うレースはもちろんありましたが、中途半端なレースはしないと決めていました。トップスピードを1度出しておくことで、その後のレースでも出しやすくなるという感覚があったことも確かです。ただ、世界で戦うという目標に向けて、ここで(力を)抜いている場合じゃない、抜ける立場じゃないという思いのほうが強かったです。 予選からしっかりといくことに関して、怖さは全然なかったですね。2種目出場と、そのラウンドを重ねることを前提に練習してきていますし、100m決勝の前に200m予選があっても勝てる準備をして臨んでいましたから。 メンタル的にも、大会への気持ちの持って行き方に苦労したことはあまりありません。もともと、気持ちで身体を引っ張っていくタイプじゃないんです。目の前のやるべきことを一つひとつ、1日1日を積み重ねていく中で、身体の調子が整ってくることで気持ちも盛り上がってくるというタイプでした。

2015年は「すべてにおいて計画的に、冷静にできた」

日本選手権には07年の初出場から18年まで12年連続で出場。欠場の19年、20年を挟んで21年(100mで予選敗退)が最後の出場となった。自身にとってうまくいった大会、逆にうまくいかなかった大会など、さまざまに振り返ってもらった。 初めて出た日本選手権は必死でしたね。肉離れをしていたこともあって、100mは8位、200mは準決勝を棄権。シニア1年目の洗礼を浴び、これじゃ戦えない、しっかりとやろうと感じました。ただ、悔しいというよりは、同い年の高橋萌木子さんが100mで優勝したことで「私も目指せるんだ」と、素直にそう思えた大会でもあります。 一番良い流れだったのは、15年でしょうか。16年の北京五輪を見据え、14年のアジア大会までに作り上げたものにある程度手応えを感じていたので、15年に向けてはやることが絞られてきたタイミングでした。16年へ、手応えを得たいシーズン。その過程の中で、日本選手権を含め、すべてにおいて計画的に、冷静に、一つひとつを能動的に積み重ねることができました。 それが16年の200m決勝の日本新(22秒88)にもつながってくるのですが、この年は100mがあまり良くなかったので、「終わり良ければすべて良し」ではありますが、すべてが完璧だったとは言えません。 [caption id="attachment_103324" align="alignnone" width="800"] 16年日本選手権の福島千里。史上最多に並ぶ6年連続2冠を日本新で飾る会心のレースだった[/caption] 失敗したな、と思うのは2013年です。あの時はモスクワ世界選手権の参加標準記録を持っていなくて、100mも200mも常に全力で臨むつもりでした。でも、100mの予選でスタートを失敗してしまい、スーッと走るだけのレースになったんです。それなのに11秒38が出て、参加B標準(11秒36)にあと0.02秒。「抜かなければ良かった」と後悔したことがあります。決勝は11秒41どまり。「やってしまった」と思いましたね(苦笑)。 2021年が最後の日本選手権になりましたが、「最後かな」と思いつつも、それよりも「速く走らないと」という気持ちで臨みました。アキレス腱の痛みはありましたが、「痛いか、痛くないか」ではなく、常に「速く走れるかどうか」「勝つか負けるか」を目指して最善を尽くしていました。 「ここまでやったらアキレス腱は爆発するけど、ここまでだったら大丈夫」というコントロールが難しかったですが、私の気持ちは「終わったら足が痛くなってもいいから、速く走りたい」。そうじゃなかったら、もっと前に辞めていたのではないかと思います。 (つづく) ◎ふくしま・ちさと/1988年6月27日生まれ、北海道出身。糠内中→帯広南商高→北海道ハイテクAC→札幌陸協→セイコー。五輪には2008年北京、12年ロンドン、16年リオの3大会連続、世界選手権は09年ベルリン、11年テグ、13年モスクワ、15年北京の4大会連続で出場。10年アジア大会100m、200m2冠など女子スプリントを世界水準に引き上げた。自己ベストの100m11秒21(10年)、200m22秒88(16年)はともに日本記録。 構成/小川雅生 ※一部事実関係に誤りがあり、修正しました。

次ページ:

ページ: 1 2

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.04.29

東京五輪代表・青山華依が涙の復活 チャレンジレースから決勝へ「レース経験を戻していきたい」/織田記念

◇第58回織田幹雄記念(4月29日/ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリシリーズG1の織田記念が行われ、女子100mはハリス・ジョージア(豪州)が11秒57(±0)で優勝した。日本人トップの2位に石川優(青学大 […]

NEWS 女子100mH・田中佑美が混戦抜け出し13秒00でV 「しっかり流れに乗れた」/織田記念

2024.04.29

女子100mH・田中佑美が混戦抜け出し13秒00でV 「しっかり流れに乗れた」/織田記念

◇第58回織田幹雄記念(4月29日/ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリG1の織田記念が行われ、12秒台のベストを持つ日本人5人が出場した女子100mハードルは、ブタペスト世界選手権代表の田中佑美(富士通)が1 […]

NEWS 110mH村竹ラシッドが13秒29!社会人デビューもフィニッシュ後転倒で「2年連続ヒヤヒヤ」/織田記念

2024.04.29

110mH村竹ラシッドが13秒29!社会人デビューもフィニッシュ後転倒で「2年連続ヒヤヒヤ」/織田記念

◇第58回織田幹雄記念(4月29日/ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリG1の織田記念が行われ、男子110mハードルは村竹ラシッド(JAL)が13秒29(-0.6)をマークして制した。 広告の下にコンテンツが続 […]

NEWS 【大会結果】第58回織田幹雄記念(2024年4月29日)

2024.04.29

【大会結果】第58回織田幹雄記念(2024年4月29日)

【大会結果】第58回織田幹雄記念(2024年4月29日/ホットスタッフフィールド広島) グランプリ ●男子 100m   守祐陽(大東大)    10秒26(+0.7) 1500m  G.アブラハム(阿見AC) 3分39 […]

NEWS やり投・オレゴン代表の武本紗栄が59m06でV!五輪へ「やれること全部やる」肉体改造やチェコ遠征にも挑戦/織田記念

2024.04.29

やり投・オレゴン代表の武本紗栄が59m06でV!五輪へ「やれること全部やる」肉体改造やチェコ遠征にも挑戦/織田記念

◇第58回織田幹雄記念(4月29日/ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリG1の織田記念が行われ、女子やり投は武本紗栄(Team SSP)が59m06で優勝した。 広告の下にコンテンツが続きます 武本は1回目に5 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年5月号 (4月12日発売)

2024年5月号 (4月12日発売)

パリ五輪イヤー開幕!

page top