【シューズレポ】サブスリー編集者が語る!!
ニューバランスの「FuelCell TC」
このところニューバランスが急速に存在感を増してきている。2019年に登場したミッドソールプラットフォーム「FuelCell(フューエルセル)」が好評で、今年7月にはそのテクノロジーを搭載したシューズ「FuelCell 5280」を履いた田中希実選手(豊田自動織機)が女子3000mで日本新記録を樹立した。今回は同じFuelCellシリーズで、レース&トレーニング兼用モデルである「FuelCell TC」(税込24,200円)を紹介する。
高いクッション性と反発性を誇るニューバランスの「FuelCell TC」
長い距離を楽に走れる
レース&トレーニング兼用モデル
柔らかくて反発のあるミッドソールに湾曲したカーボンファイバープレートを内蔵。近年のランニングシューズではすっかり定番化した組み合わせかもしれない。しかし、ニューバランスの「FuelCell(フューエルセル)TC」は一味違う。それは、クッション性と反発性がケタ違いなのだ。
「FuelCell」とはミッドソール素材の名称で、ニューバランスによれば「スピード」をテーマに開発され、「驚異的な反発弾性と軽量性を両立した」という。そこにカーボンファイバープレートを加えたのが今回紹介する「FuelCell TC」。同じシリーズの「FuelCell 5280」は『ロードのスパイク』と呼ばれるほどのスピード特化モデルだが、FuelCell TCはマラソンなどのロードレースのほか、普段のトレーニングでの使用も想定されたシューズだ。
FuelCell TCは「ランニングエコノミーを高める」ことをコンセプトに開発されており、ソールが分厚い分、クッション性が高く、反発も強い。クッション性とカーボンファイバープレートの相乗効果で、脚へのダメージを和らげながら楽に長い距離が走れる設計となっている。
FuelCell TCの構造図。ミッドソールにはカーボンファイバープレートを内蔵し、FuelCell素材との相乗効果で推進力を生み出す
驚くべき高反発&高クッション
では、実際の履き心地はどうか。サイズ感は標準的か若干大きめで、普段25.0~25.5cmの靴を履いている筆者は25.0cmでちょうどだった。エンジニアードメッシュ構造ながらアッパーの足当たりは柔らかく、シューレース(靴紐)も伸び縮みするので、かなりタイトに締め上げても走行時は窮屈に感じにくいだろう。
足を入れて最初に感じるのは驚くほどのソールの柔らかさだ。柔らかすぎて歩きにくいと感じてしまうほどで、走ってみると1歩ごとに足が沈み込み、そこから「ギュン!」という反発が戻ってくる。筆者がこれまで履いた靴の中でもクッション性と反発性はトップクラスだと感じた。
スピードへの対応も申し分なく、トラックで1000mなどを走っても高反発のソールがしっかり推進力を生み出してくれる。しかも、短い距離をダッシュしても反発のタイムラグがほとんどなく、厚底シューズにありがちな「空回り感」は生まれない。クッション性があるのにレスポンスが速く、スピード系メニューでの使い勝手は良いだろう。
そして、走っていて気づくのは、この靴を履いていると「ゆっくり走れない」こと。踵や足裏全体で地面にベッタリ着地すると反発が逃げてしまうらしく、接地は前足部(フォアフット)に重心を乗せて、その状態のまま脚を回す意識のほうがスムーズに走れるようだ。
前足部が傾斜しており、フォアフットに荷重したまま脚を回すほうがスムーズに走れる印象
ただ、そうするとペースが自然に上がってしまう。クッション性が高いとはいえ、練習でゆっくり走りたい時は別のシューズを履いたほうがしっくりくるかもしれない。FuelCell TCはあくまでもスピードを上げてテンポよく走るための靴であって、ジョギングで使うにはオーバースペック(過剰性能)なのだろう。
尖った性能をどう生かすか
高いクッション性と強烈な反発性があり、スピードも出せる。では、この靴に弱点はないのかと言うと、唯一気になるのが重さだ。25.0cmで237g(実測値)あるため、レーシングシューズとしては重い部類に入るだろう。反発の強さによってカバーされる面はあるものの、マラソンだと脚が疲れてくる後半に重さを感じるかもしれない。5km~ハーフマラソンなどのレースで使う時にしても、しっかりトレーニングを積んで脚ができているランナーほど「もう少し軽ければ……」と感じるように思う。
すなわち、FuelCell TCは軽量性に目をつぶりつつ、クッション性と反発性をとことん突き詰めたシューズと言えそうだ。マラソンで3時間を切れるランナーがレースで使うには重さが気になるものの、それも練習で使うには許容できるレベル。クッション性が高いことから初心者でも使いやすく、上級者でもトレーニングで履くことにはメリットを感じられるだろう。尖った性能のシューズながら、気に入るランナーは多いと思われる。
個人的にはあと少しミッドソールが薄ければ、軽くて反発性もクッション性も備えた上級者向けレーシングモデルになったように感じる。しかし、驚くなかれ。この秋にはカーボンファイバープレートを搭載した軽量モデル「FuelCell RC Elite」の発売が予定されているのだ。これこそがFuelCellシリーズの『完成版』なのかもしれない。
文/山本慎一郎
<関連記事>
・【ドーハから東京へ】from DOHA 2019 to TOKYO 2020 田中希実(女子長距離/豊田自動織機TC)『月刊陸上競技』2020年1月号誌面転載記事
・【シューズレポ】ニューバランスのカーボンプレート搭載シューズ「FuelCell TC」で走ってみた!
<関連リンク>
FuelCell特設ページ(ニューバランス公式サイト内)
【シューズレポ】サブスリー編集者が語る!! ニューバランスの「FuelCell TC」
このところニューバランスが急速に存在感を増してきている。2019年に登場したミッドソールプラットフォーム「FuelCell(フューエルセル)」が好評で、今年7月にはそのテクノロジーを搭載したシューズ「FuelCell 5280」を履いた田中希実選手(豊田自動織機)が女子3000mで日本新記録を樹立した。今回は同じFuelCellシリーズで、レース&トレーニング兼用モデルである「FuelCell TC」(税込24,200円)を紹介する。 高いクッション性と反発性を誇るニューバランスの「FuelCell TC」長い距離を楽に走れる レース&トレーニング兼用モデル
柔らかくて反発のあるミッドソールに湾曲したカーボンファイバープレートを内蔵。近年のランニングシューズではすっかり定番化した組み合わせかもしれない。しかし、ニューバランスの「FuelCell(フューエルセル)TC」は一味違う。それは、クッション性と反発性がケタ違いなのだ。 「FuelCell」とはミッドソール素材の名称で、ニューバランスによれば「スピード」をテーマに開発され、「驚異的な反発弾性と軽量性を両立した」という。そこにカーボンファイバープレートを加えたのが今回紹介する「FuelCell TC」。同じシリーズの「FuelCell 5280」は『ロードのスパイク』と呼ばれるほどのスピード特化モデルだが、FuelCell TCはマラソンなどのロードレースのほか、普段のトレーニングでの使用も想定されたシューズだ。 FuelCell TCは「ランニングエコノミーを高める」ことをコンセプトに開発されており、ソールが分厚い分、クッション性が高く、反発も強い。クッション性とカーボンファイバープレートの相乗効果で、脚へのダメージを和らげながら楽に長い距離が走れる設計となっている。 FuelCell TCの構造図。ミッドソールにはカーボンファイバープレートを内蔵し、FuelCell素材との相乗効果で推進力を生み出す驚くべき高反発&高クッション
では、実際の履き心地はどうか。サイズ感は標準的か若干大きめで、普段25.0~25.5cmの靴を履いている筆者は25.0cmでちょうどだった。エンジニアードメッシュ構造ながらアッパーの足当たりは柔らかく、シューレース(靴紐)も伸び縮みするので、かなりタイトに締め上げても走行時は窮屈に感じにくいだろう。 足を入れて最初に感じるのは驚くほどのソールの柔らかさだ。柔らかすぎて歩きにくいと感じてしまうほどで、走ってみると1歩ごとに足が沈み込み、そこから「ギュン!」という反発が戻ってくる。筆者がこれまで履いた靴の中でもクッション性と反発性はトップクラスだと感じた。 スピードへの対応も申し分なく、トラックで1000mなどを走っても高反発のソールがしっかり推進力を生み出してくれる。しかも、短い距離をダッシュしても反発のタイムラグがほとんどなく、厚底シューズにありがちな「空回り感」は生まれない。クッション性があるのにレスポンスが速く、スピード系メニューでの使い勝手は良いだろう。 そして、走っていて気づくのは、この靴を履いていると「ゆっくり走れない」こと。踵や足裏全体で地面にベッタリ着地すると反発が逃げてしまうらしく、接地は前足部(フォアフット)に重心を乗せて、その状態のまま脚を回す意識のほうがスムーズに走れるようだ。 前足部が傾斜しており、フォアフットに荷重したまま脚を回すほうがスムーズに走れる印象 ただ、そうするとペースが自然に上がってしまう。クッション性が高いとはいえ、練習でゆっくり走りたい時は別のシューズを履いたほうがしっくりくるかもしれない。FuelCell TCはあくまでもスピードを上げてテンポよく走るための靴であって、ジョギングで使うにはオーバースペック(過剰性能)なのだろう。尖った性能をどう生かすか
高いクッション性と強烈な反発性があり、スピードも出せる。では、この靴に弱点はないのかと言うと、唯一気になるのが重さだ。25.0cmで237g(実測値)あるため、レーシングシューズとしては重い部類に入るだろう。反発の強さによってカバーされる面はあるものの、マラソンだと脚が疲れてくる後半に重さを感じるかもしれない。5km~ハーフマラソンなどのレースで使う時にしても、しっかりトレーニングを積んで脚ができているランナーほど「もう少し軽ければ……」と感じるように思う。 すなわち、FuelCell TCは軽量性に目をつぶりつつ、クッション性と反発性をとことん突き詰めたシューズと言えそうだ。マラソンで3時間を切れるランナーがレースで使うには重さが気になるものの、それも練習で使うには許容できるレベル。クッション性が高いことから初心者でも使いやすく、上級者でもトレーニングで履くことにはメリットを感じられるだろう。尖った性能のシューズながら、気に入るランナーは多いと思われる。 個人的にはあと少しミッドソールが薄ければ、軽くて反発性もクッション性も備えた上級者向けレーシングモデルになったように感じる。しかし、驚くなかれ。この秋にはカーボンファイバープレートを搭載した軽量モデル「FuelCell RC Elite」の発売が予定されているのだ。これこそがFuelCellシリーズの『完成版』なのかもしれない。 文/山本慎一郎 <関連記事> ・【ドーハから東京へ】from DOHA 2019 to TOKYO 2020 田中希実(女子長距離/豊田自動織機TC)『月刊陸上競技』2020年1月号誌面転載記事 ・【シューズレポ】ニューバランスのカーボンプレート搭載シューズ「FuelCell TC」で走ってみた! <関連リンク> FuelCell特設ページ(ニューバランス公式サイト内)
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