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2022.10.19

「ジュニアからシニアへつなぐ強化とは?」陸連強化委員会がオレゴン世界選手権とU20世界選手権を総括!【前編】
「ジュニアからシニアへつなぐ強化とは?」陸連強化委員会がオレゴン世界選手権とU20世界選手権を総括!【前編】

7月15日~24日に米国オレゴン州ユージンで第18回世界選手権が開催され、日本は2013年のモスクワ大会に並ぶ入賞9(メダル4を含む)。国別のプレイシングテーブルでは過去最高の40点を挙げ、11位に入った。8月1日~6日にコロンビア・カリで開かれた第19回U20世界選手権では、メダル4・入賞7の成果を収めた。

オレゴンでシニアチームを率いた日本陸連の山崎一彦強化委員長と、カリでU20チームを統率した強化育成部の杉井將彦ディレクターにそれぞれの大会を総括してもらいながら、もう一度ジュニアからシニアへつないでいく強化のあり方を探ってもらった。

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オレゴン世界選手権は男子20㎞競歩のワン・ツーをはじめ国別対抗得点で過去最高という活躍だった

「2028年までに世界のトップ8入りは可能」(山崎)

山崎 参加資格を得ることができたのは69名で海外大会最多人数でした。そのうち初出場が47名(男27名、女20名)で、そのほとんどが社会人選手。学生の個人種目代表は7名(出場は6名)のみで、そのうち5名が標準記録突破者です。ワールドランキング制度が導入されたことポイントを積み重ねれば出場への道は開けるのですが、若い選手はポイントの高い試合に出場する機会が少ないため、参加標準記録を切らないと出場は難しいのが現実です。

とはいえ、出場選手の自己記録達成率を見ると、日本のレベルだと99~98%に届かないと「大会で成績を残した」と言えない状況です。国内ですべてお膳立てされた大会で出した記録は、参考記録にしかりません。「世界で戦う」とは、気象条件やグラウンドコンディションに左右されず、どんな環境でもまず自己新を出すことを指します。

それを見事に証明してくれたのが、海外に出て経験を積んできた、女子やり投銅メダルの北口榛花選手(JAL)や男子100m7位入賞のサニブラウン アブデルハキーム選手(タンブルウィードTC)です。男子走高跳で8位入賞の真野友博選手(九電工)も、大きな大会で確実に結果を残していました。

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日本のメダルテーブルは10位でしたが、競歩勢のお陰と言えます。男子20㎞で山西利和選手(愛知製鋼)が連覇し、池田向希選手(旭化成)が銀、同35㎞でも川野将虎選手(旭化成)が銀と、3つのメダルを獲得しました。

「2028年までにトップ8に入る」という目標に向けては、メダルテーブル及びプレイシングテーブルの両方で可能だと思います。米国、ジャマイカ、エチオピア、ケニアの〝4強〟には届かなくても、英国、カナダ、中国、ポーランド、豪州、オランダあたりがひしめくその下のクラスで戦うのは可能な域に来ていると思います。

ただ、そのためには「タフな選手」をもっと増やしていかなければなりません。本当のタフな選手とは「どんな環境でも自分の力を出せる人」。環境整備された競技会で多くの試合に出ることや、練習がたくさんできるだけのタフさだけでは海外ではほとんど通用しません。

オレゴン世界選手権はリレー種目(男子4×400m、女子4×100m)で2つ日本記録が出ましたし、自己ベストを出す選手も多くいましたので、全体的に良かったと思います。しかし、次の段階へ進むためには、早いうちから海外へ行ってほしいと思っています。

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U20世界選手権では男子4×100mRで史上初の金メダルを獲得したほか3つのメダルを獲得

「育成段階では海外経験を積む必要がある」(杉井)

杉井 ジュニア・ユース世代の海外派遣は、2019年のユースオリンピックアジア予選を最後にストップしていました。2020年のU20世界選手権が1年延期(ケニア・ナイロビ)になり、昨年夏に開催された同大会は、日本は代表選手を選びながら現地のコロナ禍を考慮して、急遽渡航を取りやめました。

したがって、今回のU20世界選手権は日本として3年ぶりの参加となり、ほとんどの選手が初めての海外遠征。しかも、場所が遠く南米のコロンビアということで、「これは大きなトラブルが起きかねないな」という心の準備をして対応しました。

今回の場所(コロンビア・カリ)は2015年に世界ユース選手権が開かれ、サニブラウン選手(当時・城西高2東京)が男子100m、200mの2冠、女子やり投の北口選手(当時・旭川東高3北海道)も金メダルを取っています。ですから、その競技場とかウォーミングアップエリアのイメージをしっかり持って行きました。

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ところが、ウォーミングアップエリアのオールウェザーが剥がされた状態で、コンクリートのままでした。スパイクを履けるのは120mの直線だけ。長距離は治安の問題もあって、ホテル周辺もジョグが禁止されました。唯一走れたのは、早朝の人気のないホテル隣接のモールの通路のみ。

しかし、日本人にとっては厳しい環境も、海外に出たら当たり前のことで、海外選手はそれでも自己記録を更新してきます。日本も自己新を出した選手が3名いましたが、それならそれで自分なりの準備をする強さが必要です。先ほど山崎強化委員長が話された「タフさ」ですね。

移動距離や時差、現地の環境など、特に育成段階の選手たちはイレギュラーな場面に対応できるような経験を積んでおく必要があると、改めて痛感しました。そのうえで、すべてが整ったシニアの世界大会に臨むことができれば、もっともっと自分の力を発揮できるのではないかと思います。

女子ハンマー投でシニアを含めて初メダルとなる銅メダルを獲得した村上来花選手(九州共立大)がアクシデントに負けずに力を発揮しました女子ハンマー投は雷雨で競技が2時間ぐらい中断。しかも、再開直後には次のプログラムだった男子やり投が先に始まってしまいました。その後、やり投が終わった後に女子ハンマー投の3回目以降が再開しました。このような状況にもかかわらず、村上選手はよく力を発揮したと思います。他の種目についても、経験豊富なスタッフのサポートがあって、選手たちはうまく力を発揮していました。

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山崎一彦強化委員長(左)と強化育成部の杉井將彦ディレクター

7月15日~24日に米国オレゴン州ユージンで第18回世界選手権が開催され、日本は2013年のモスクワ大会に並ぶ入賞9(メダル4を含む)。国別のプレイシングテーブルでは過去最高の40点を挙げ、11位に入った。8月1日~6日にコロンビア・カリで開かれた第19回U20世界選手権では、メダル4・入賞7の成果を収めた。 オレゴンでシニアチームを率いた日本陸連の山崎一彦強化委員長と、カリでU20チームを統率した強化育成部の杉井將彦ディレクターにそれぞれの大会を総括してもらいながら、もう一度ジュニアからシニアへつないでいく強化のあり方を探ってもらった。 オレゴン世界選手権は男子20㎞競歩のワン・ツーをはじめ国別対抗得点で過去最高という活躍だった

「2028年までに世界のトップ8入りは可能」(山崎)

山崎 参加資格を得ることができたのは69名で海外大会最多人数でした。そのうち初出場が47名(男27名、女20名)で、そのほとんどが社会人選手。学生の個人種目代表は7名(出場は6名)のみで、そのうち5名が標準記録突破者です。ワールドランキング制度が導入されたことポイントを積み重ねれば出場への道は開けるのですが、若い選手はポイントの高い試合に出場する機会が少ないため、参加標準記録を切らないと出場は難しいのが現実です。 とはいえ、出場選手の自己記録達成率を見ると、日本のレベルだと99~98%に届かないと「大会で成績を残した」と言えない状況です。国内ですべてお膳立てされた大会で出した記録は、参考記録にしかりません。「世界で戦う」とは、気象条件やグラウンドコンディションに左右されず、どんな環境でもまず自己新を出すことを指します。 それを見事に証明してくれたのが、海外に出て経験を積んできた、女子やり投銅メダルの北口榛花選手(JAL)や男子100m7位入賞のサニブラウン アブデルハキーム選手(タンブルウィードTC)です。男子走高跳で8位入賞の真野友博選手(九電工)も、大きな大会で確実に結果を残していました。 日本のメダルテーブルは10位でしたが、競歩勢のお陰と言えます。男子20㎞で山西利和選手(愛知製鋼)が連覇し、池田向希選手(旭化成)が銀、同35㎞でも川野将虎選手(旭化成)が銀と、3つのメダルを獲得しました。 「2028年までにトップ8に入る」という目標に向けては、メダルテーブル及びプレイシングテーブルの両方で可能だと思います。米国、ジャマイカ、エチオピア、ケニアの〝4強〟には届かなくても、英国、カナダ、中国、ポーランド、豪州、オランダあたりがひしめくその下のクラスで戦うのは可能な域に来ていると思います。 ただ、そのためには「タフな選手」をもっと増やしていかなければなりません。本当のタフな選手とは「どんな環境でも自分の力を出せる人」。環境整備された競技会で多くの試合に出ることや、練習がたくさんできるだけのタフさだけでは海外ではほとんど通用しません。 オレゴン世界選手権はリレー種目(男子4×400m、女子4×100m)で2つ日本記録が出ましたし、自己ベストを出す選手も多くいましたので、全体的に良かったと思います。しかし、次の段階へ進むためには、早いうちから海外へ行ってほしいと思っています。 U20世界選手権では男子4×100mRで史上初の金メダルを獲得したほか3つのメダルを獲得

「育成段階では海外経験を積む必要がある」(杉井)

杉井 ジュニア・ユース世代の海外派遣は、2019年のユースオリンピックアジア予選を最後にストップしていました。2020年のU20世界選手権が1年延期(ケニア・ナイロビ)になり、昨年夏に開催された同大会は、日本は代表選手を選びながら現地のコロナ禍を考慮して、急遽渡航を取りやめました。 したがって、今回のU20世界選手権は日本として3年ぶりの参加となり、ほとんどの選手が初めての海外遠征。しかも、場所が遠く南米のコロンビアということで、「これは大きなトラブルが起きかねないな」という心の準備をして対応しました。 今回の場所(コロンビア・カリ)は2015年に世界ユース選手権が開かれ、サニブラウン選手(当時・城西高2東京)が男子100m、200mの2冠、女子やり投の北口選手(当時・旭川東高3北海道)も金メダルを取っています。ですから、その競技場とかウォーミングアップエリアのイメージをしっかり持って行きました。 ところが、ウォーミングアップエリアのオールウェザーが剥がされた状態で、コンクリートのままでした。スパイクを履けるのは120mの直線だけ。長距離は治安の問題もあって、ホテル周辺もジョグが禁止されました。唯一走れたのは、早朝の人気のないホテル隣接のモールの通路のみ。 しかし、日本人にとっては厳しい環境も、海外に出たら当たり前のことで、海外選手はそれでも自己記録を更新してきます。日本も自己新を出した選手が3名いましたが、それならそれで自分なりの準備をする強さが必要です。先ほど山崎強化委員長が話された「タフさ」ですね。 移動距離や時差、現地の環境など、特に育成段階の選手たちはイレギュラーな場面に対応できるような経験を積んでおく必要があると、改めて痛感しました。そのうえで、すべてが整ったシニアの世界大会に臨むことができれば、もっともっと自分の力を発揮できるのではないかと思います。 女子ハンマー投でシニアを含めて初メダルとなる銅メダルを獲得した村上来花選手(九州共立大)がアクシデントに負けずに力を発揮しました女子ハンマー投は雷雨で競技が2時間ぐらい中断。しかも、再開直後には次のプログラムだった男子やり投が先に始まってしまいました。その後、やり投が終わった後に女子ハンマー投の3回目以降が再開しました。このような状況にもかかわらず、村上選手はよく力を発揮したと思います。他の種目についても、経験豊富なスタッフのサポートがあって、選手たちはうまく力を発揮していました。 山崎一彦強化委員長(左)と強化育成部の杉井將彦ディレクター

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