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2026.06.13

【高平慎士の視点】勝利の“経験”生かした多田修平の5年ぶり栄冠 決勝でタイム上げることが世界への課題/日本選手権
【高平慎士の視点】勝利の“経験”生かした多田修平の5年ぶり栄冠 決勝でタイム上げることが世界への課題/日本選手権

26年日本選手権男子100m決勝の様子

6月13日に愛知県名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた第110回日本選手権の男子100mは、多田修平(住友電工)が10秒17(+0.1)で5年ぶり2度目の優勝を飾り、アジア大会代表に内定した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。

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多田修平選手は、桐生祥秀選手という存在がいて、新しい時代の選手がいる中でしっかりと勝ち切ったことは素晴らしいと思います。

スタートからの流れは、多田選手らしくないものだったかもしれません。予選、準決勝は彼らしい身体ごと倒れ込んでいくように前に突っ込む感じが出ていましたが、決勝はそこまでではありませんでした。どちらかと言うと、中盤から後半で突き抜けたというイメージ。本来とは違うパターンで良さを発揮したという印象です。

ただ、それでも勝てたのはこれまでの経験が生きたからだと感じます。本意でないでしょうけど、先行逃げ切りのレースパターンの中で、5年前に勝っている経験があり、その後に入賞にも届かない経験もある。だからこそ、大一番でも安定して走れた。負けた経験を力にできたのではないでしょうか。

多田選手には、もう1回勝てたことを次につなげてほしいですし、勝った人にしかわらかないものがあるからこそ、次につなげることができると思っています。今日の走りから、タイムはまだまだですが、10秒01を出したり、4×100mリレー1走として世界の舞台で活躍した2019年から21年頃のイメージが湧いてきました。本当に欲しいところはここではないというのは、日本スプリント界全体がわかっているところですが、日本で一番を取ることの価値、ましてや代表が懸かっている勝負を制したことは、大いに称えられるものだと思います。

ここ10年で連覇をした選手が23年、24年の坂井隆一郎選手(大阪ガス)しかいない中で、桐生選手も連覇を達成できませんでした。

スタートからの流れを、今年は数年前のように1歩1歩大きな動きを意識するよう大きく変えていますが、30歳という段階で「桐生祥秀を改革する」こと自体、なかなか勇気のいることだと思います。ただ、タイムで見れば、10秒1台で勝てたレース。予選の10秒09(+0.1)から準決勝(10秒13/+0.2)、決勝10秒24とタイムを落としているわけですから、そこは国際大会では勝負ができないと言わざるを得ません。

5月後半の関西実業団選手権では、追い風参考ながら10秒02(+2.6)をマークしていますが、記録を強さに変える試行錯誤がまだ続いているのでしょう。それは、同大会で10秒06(+1.4)を出した小池祐貴選手(住友電工)も同様。今回は準決勝で敗退しており、条件の良いレースでの記録を、いかに勝負に結び付けるかは、日本全体の課題でもあります。

アジア大会代表選考基準に則れば、参考競技会の記録上位選手が内定となるため、現状でトップの小池選手が有力、桐生選手は厳しい立場となりました。リレーで選出される可能性は残していますが、個人としては来年の北京世界選手権、再来年のロサンゼルス五輪に向けて、動き出していくことになるでしょう。日本スプリントの中心人物としての存在感を、また示してほしいと思います。

今回はサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東レ)、栁田大輝選手(Honda)、坂井選手らが不在ではありましたが、若手の台頭が光った大会でもありました。なかでも10秒20で2位に入った西岡尚輝選手(筑波大)は、昨年のケガを乗り越えて、インターハイ優勝や10秒11を出すなど大阪・東海大仰星高時代の勢いを取り戻してきた印象です。準決勝では10秒09(+0.7)の自己新で1着。彼の今後のステップアップへの流れが、しっかりと整った大会になったのではないかと思います。

予選で学生歴代5位タイの10秒07(+0.9)を出した小室歩久斗選手(中大)は、10秒26で5位。課題は明確で、やはり得意の序盤から抜け出す展開ではなく、競り合った中での強さを身につけていってほしいと思います。

10秒25で4位の山本匠真選手(広島大)ら決勝を戦った選手たちに加え、昨年の東京世界選手権代表・守祐陽選手(渡辺パイプ)、準決勝で高校歴代4位の10秒14を出した菅野唯翔選手(東農大二高3群馬)、今回は欠場しましたが昨年のインターハイで10秒00を出した清水空跳選手(星稜高3石川)ら、次の世代も着々と力をつけてきました。

そんな日本の力を世界にぶつけるためには、まず日本選手権の決勝でタイムを落とすことは大きな課題。準決勝までが良かっただけに、これはかなりもったいないと感じました。

秋に自国開催のアジア大会が控えています。世界と戦うためには、やはり日本チーム全体として目指す「アジアナンバーワン」を、しっかりと胸に刻む必要があります。日本代表として臨む以上は、2人とも決勝に進むことは最低限の責任であり、その覚悟が必要。もちろん、アジア最速の称号を得ることは並大抵のことではないですが、世界に挑むというのであればクリアしないといけないものです。それを目指して、ぜひ頑張ってほしいと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

6月13日に愛知県名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた第110回日本選手権の男子100mは、多田修平(住友電工)が10秒17(+0.1)で5年ぶり2度目の優勝を飾り、アジア大会代表に内定した。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。◇ ◇ ◇多田修平選手は、桐生祥秀選手という存在がいて、新しい時代の選手がいる中でしっかりと勝ち切ったことは素晴らしいと思います。スタートからの流れは、多田選手らしくないものだったかもしれません。予選、準決勝は彼らしい身体ごと倒れ込んでいくように前に突っ込む感じが出ていましたが、決勝はそこまでではありませんでした。どちらかと言うと、中盤から後半で突き抜けたというイメージ。本来とは違うパターンで良さを発揮したという印象です。ただ、それでも勝てたのはこれまでの経験が生きたからだと感じます。本意でないでしょうけど、先行逃げ切りのレースパターンの中で、5年前に勝っている経験があり、その後に入賞にも届かない経験もある。だからこそ、大一番でも安定して走れた。負けた経験を力にできたのではないでしょうか。多田選手には、もう1回勝てたことを次につなげてほしいですし、勝った人にしかわらかないものがあるからこそ、次につなげることができると思っています。今日の走りから、タイムはまだまだですが、10秒01を出したり、4×100mリレー1走として世界の舞台で活躍した2019年から21年頃のイメージが湧いてきました。本当に欲しいところはここではないというのは、日本スプリント界全体がわかっているところですが、日本で一番を取ることの価値、ましてや代表が懸かっている勝負を制したことは、大いに称えられるものだと思います。ここ10年で連覇をした選手が23年、24年の坂井隆一郎選手(大阪ガス)しかいない中で、桐生選手も連覇を達成できませんでした。スタートからの流れを、今年は数年前のように1歩1歩大きな動きを意識するよう大きく変えていますが、30歳という段階で「桐生祥秀を改革する」こと自体、なかなか勇気のいることだと思います。ただ、タイムで見れば、10秒1台で勝てたレース。予選の10秒09(+0.1)から準決勝(10秒13/+0.2)、決勝10秒24とタイムを落としているわけですから、そこは国際大会では勝負ができないと言わざるを得ません。5月後半の関西実業団選手権では、追い風参考ながら10秒02(+2.6)をマークしていますが、記録を強さに変える試行錯誤がまだ続いているのでしょう。それは、同大会で10秒06(+1.4)を出した小池祐貴選手(住友電工)も同様。今回は準決勝で敗退しており、条件の良いレースでの記録を、いかに勝負に結び付けるかは、日本全体の課題でもあります。アジア大会代表選考基準に則れば、参考競技会の記録上位選手が内定となるため、現状でトップの小池選手が有力、桐生選手は厳しい立場となりました。リレーで選出される可能性は残していますが、個人としては来年の北京世界選手権、再来年のロサンゼルス五輪に向けて、動き出していくことになるでしょう。日本スプリントの中心人物としての存在感を、また示してほしいと思います。今回はサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東レ)、栁田大輝選手(Honda)、坂井選手らが不在ではありましたが、若手の台頭が光った大会でもありました。なかでも10秒20で2位に入った西岡尚輝選手(筑波大)は、昨年のケガを乗り越えて、インターハイ優勝や10秒11を出すなど大阪・東海大仰星高時代の勢いを取り戻してきた印象です。準決勝では10秒09(+0.7)の自己新で1着。彼の今後のステップアップへの流れが、しっかりと整った大会になったのではないかと思います。予選で学生歴代5位タイの10秒07(+0.9)を出した小室歩久斗選手(中大)は、10秒26で5位。課題は明確で、やはり得意の序盤から抜け出す展開ではなく、競り合った中での強さを身につけていってほしいと思います。10秒25で4位の山本匠真選手(広島大)ら決勝を戦った選手たちに加え、昨年の東京世界選手権代表・守祐陽選手(渡辺パイプ)、準決勝で高校歴代4位の10秒14を出した菅野唯翔選手(東農大二高3群馬)、今回は欠場しましたが昨年のインターハイで10秒00を出した清水空跳選手(星稜高3石川)ら、次の世代も着々と力をつけてきました。そんな日本の力を世界にぶつけるためには、まず日本選手権の決勝でタイムを落とすことは大きな課題。準決勝までが良かっただけに、これはかなりもったいないと感じました。秋に自国開催のアジア大会が控えています。世界と戦うためには、やはり日本チーム全体として目指す「アジアナンバーワン」を、しっかりと胸に刻む必要があります。日本代表として臨む以上は、2人とも決勝に進むことは最低限の責任であり、その覚悟が必要。もちろん、アジア最速の称号を得ることは並大抵のことではないですが、世界に挑むというのであればクリアしないといけないものです。それを目指して、ぜひ頑張ってほしいと思います。◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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