2020.12.30
山梨学大の上田誠仁監督の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
年末特別編「〜黄色きウェアーでランナーに背を向けて立つ君たちへ〜」
箱根駅伝の沿道に立つ黄色いウェアーの走路補助員は、箱根駅伝出場校及び予選会に出場した大学から関東学連に登録している部員数の3割を目処に派遣依頼して協力していただいている。
コロナ禍の中で迎える97回大会は67大学1800名の補助員が往路107.5km、復路109.6kmの両日その任にあたる。
走路審判員は東京陸上競技協会から約300名、神奈川陸上競技協会から約700名、警備のSECOMが約900名と、合わせて2000人規模で臨む。
警視庁、神奈川県警からはおよそ2000名の警察官が、交通規制及び道路警備と重要な役割を果たしていただいている。警察官は正月の間、初詣や年始行事の交通規制や雑踏警備など人員を割かなければならない。それでも、箱根駅伝運営のために協力していただいていることに、毎年のことながら心から感謝申し上げたい。
さらに幹線道路を交通規制して行う箱根駅伝は、生活や商業活動、旅行など多大なるご迷惑をおかけしていることから、目を逸らすことができない。この場をお借りして深謝させていただきます。
ランナーが通り抜ける横では黄色いジャンパーを着た学生走路補助員がコースの安全を守っている
今回は学生走路補助員、黄色きウェアーを着る君たちに語りかけたい。
ランナーが駆けてくるコースに背を向け、両手を水平に広げ背筋を伸ばして立つ。君は、この日このために走り続けできたのではない。
きっとゴールや中継点を目指し、タスキを肩にかけ、風を切るように走る日を夢見ていたに違いない。
今、タスキをかけて走る選手と共に汗を流し、遜色ないトレーニングをこなしたかもしれない。
それとも、つい先日まで好調であったにもかかわらず、突然の怪我や故障でそこに立つ者もいるかもしれない。
怪我や故障に苦しみ、いっそ辞めてしまおうと逡巡しつつも、最後まで諦めずに学生競技者の誇りを胸に、選手のサポートに徹した部員であった者もいるだろう。絶望や挫折、敗北やスランプはスポーツの世界には当然の如く訪れる。過酷な現実を受け止めて、乗り越えてきた者たちの背中がそこにある。
手を広げた指先が、他の補助員と触れ合うことはなくとも、すべての大学のすべての補助員の心はつながっている。
2021年1月2日と3日、第97回東京箱根間往復大学駅伝競走を成功に導いたのは、自分たちが「箱根駅伝」とプリントされた背中をランナーに示し、ゴールへ誘う誘導灯の如く整然と走路を確保したからだ、と。
チームメイトのランナーと視線を交えることは無くとも、走りくるランナーは君たちの存在に背中を押されていることを確信している。
君達に対する賞賛や「がんばれ!」の声援はなくとも、君達にはランナーのリズムを刻む足音と、通り過ぎる時の呼吸の息吹からわかる。
ランナーが何を思い、今通り過ぎたのかを。
君の視線は沿道に向かっているが、走りくるランナーの熱い視線と、どのような日々を過ごしてきたのかを。
コロナ禍の中、グラウンドが使えず、あらゆる大会が中止になろうとも、それが不自由と愚痴にせず、更に仲間と共に走れずとも心をひとつに今日を迎えたことを。
そしてこの大会を支えたことの誇りを胸に帰路についてほしい。
テレビの前で観戦される皆様は時々つぶやいてあげてください。
「お疲れ様、よくがんばってきたね、そしてありがとう」
きっとその声は届いているはずです。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。 |

年末特別編「〜黄色きウェアーでランナーに背を向けて立つ君たちへ〜」
箱根駅伝の沿道に立つ黄色いウェアーの走路補助員は、箱根駅伝出場校及び予選会に出場した大学から関東学連に登録している部員数の3割を目処に派遣依頼して協力していただいている。 コロナ禍の中で迎える97回大会は67大学1800名の補助員が往路107.5km、復路109.6kmの両日その任にあたる。 走路審判員は東京陸上競技協会から約300名、神奈川陸上競技協会から約700名、警備のSECOMが約900名と、合わせて2000人規模で臨む。 警視庁、神奈川県警からはおよそ2000名の警察官が、交通規制及び道路警備と重要な役割を果たしていただいている。警察官は正月の間、初詣や年始行事の交通規制や雑踏警備など人員を割かなければならない。それでも、箱根駅伝運営のために協力していただいていることに、毎年のことながら心から感謝申し上げたい。 さらに幹線道路を交通規制して行う箱根駅伝は、生活や商業活動、旅行など多大なるご迷惑をおかけしていることから、目を逸らすことができない。この場をお借りして深謝させていただきます。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。 |
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.04.30
【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」
2025.04.30
5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場
-
2025.04.30
-
2025.04.30
-
2025.04.30
-
2025.04.30
2025.04.29
100mH田中佑美が予選トップ通過も決勝棄権「故障ではない」昨年の結婚も明かす/織田記念
-
2025.04.28
-
2025.04.26
2025.04.12
3位の吉居大和は涙「想像していなかったくらい悔しい」/日本選手権10000m
-
2025.04.01
-
2025.04.12
-
2025.04.12
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.04.30
【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! 第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」 昨年は記念大会となる第100回箱根駅伝が開催され […]
2025.04.30
【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦
FOCUS! 高校生INTERVIEW 山田大智 Yamada Daichi 西脇工高3兵庫 2025年シーズンが本格的に始まり、高校陸上界では記録会、競技会が次々と開かれています。その中で好記録も生まれており、男子50 […]
2025.04.30
5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場
5月3日に行われる静岡国際のエントリーリストが更新され、現時点で欠場届を提出した選手が判明した。 男子100mはパリ五輪代表の坂井隆一郎(大阪ガス)が欠場。坂井は4月13日の出雲陸上で脚を痛め、29日の織田記念の出場も見 […]
2025.04.30
26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得
世界陸連(WA)は4月29日、2026年に新設する「世界陸上アルティメット選手権」の大会500日前を受け、昨年のパリ五輪の金メダリストに出場資格を与えることを発表した。女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花(JAL)も含 […]
2025.04.30
100mH寺田明日香 恩師の訃報に「熱意と愛情を少しでも次の世代へ引き継げるように」
福島千里や寺田明日香ら女子短距離を中心に数々の名選手を育成した中村宏之氏が4月29日に79歳で他界したことを受け、寺田が自身のSNSを更新して思いを綴った。 寺田は北海道・恵庭北高時代に中村氏の指導を受け、100mハード […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL)
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)