2026.04.29

山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第68回「温暖化傾向と陸上界~その時代に生きるための知見~」
4月は深緑の眩しさと富士山や南アルプスの残雪の景色に癒されはしたものの、花粉症と黄砂で鼻水とくしゃみ、そして目の痒みに苦しめられた。花粉症のアスリートや指導者は日々苦慮されたことだろう。本格的にトラックシーズンが始まり、競技会での審判や補助員の方々も大変なご苦労をされたことと拝察する。
近年の気温や天候の変化は、気象庁の発表を待たずとも敏感な読者のみなさんは、継続的な“温暖化トレンド”を体感しているだろう。4月の最高気温は東京で27.3度。25度を超える“夏日”が大阪とともに複数回観測されている。
気象庁は最高気温40度以上の日の名称を「酷暑日」に決めたと、4月17日に発表した。温暖化傾向の影響を大きく受けるスポーツ界も、暑熱対策としてのリスクマネジメントの方針を打ち出し、実行に移しつつある。
日本陸連は近年の気候変動に伴い、猛暑による競技者・関係者への健康影響がより深刻化していることを受け、競技会では競技者・審判・関係者・観客等の安全と健康を守ることを最優先とし「熱中症予防運動指針」(日本スポーツ協会)に基づいた安全な運営方針を発表している。
内容は「暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)」に応じた対応方針を定め、競技の実施および進行(中止・中断・延期・時間変更など)について適切に判断すると記されている。WBGTは外気温だけではなく湿度や日差しなどを取り入れた指数である。

インターハイは暑熱対策を講じて開催された
主な決定事項は以下のとおりである。
1.WBGT31度以上となる暑熱環境下での運動(競技)は原則中止・中断する。
2.WBGT31度以上となる可能性が極めて高い7月・8月については、確実にWBGT31度以上にならない地域または時間帯(競技時間のみならずウォーミングアップなどすべての運動・活動を含む)での開催を除き、競技会は開催しない。
3.7月・8月以外の競技会においても、暑熱環境下での運動(競技)やその判断は、上記1. および2.と同様とする。
※小学生以下においては特に厳重な注意のもと判断すること。
※国際競技会およびそれに関連する競技会等については主催団体の運用に応じる。ただし、暑熱環境下が想定される場合には、いかなる競技会においても徹底した暑熱対策を行うこと。
昨年度の各競技会では関係する主催団体の協力を得て、可能な限りの暑熱対策を講じて開催していただいていた。しかしながら、各地、各競技会では多数の熱中症が発生。また、猛暑下での運営は、選手をはじめとする参加者のみならず、運営者・運営団体にも大きな負担を強いることとなった。
山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第68回「温暖化傾向と陸上界~その時代に生きるための知見~」
4月は深緑の眩しさと富士山や南アルプスの残雪の景色に癒されはしたものの、花粉症と黄砂で鼻水とくしゃみ、そして目の痒みに苦しめられた。花粉症のアスリートや指導者は日々苦慮されたことだろう。本格的にトラックシーズンが始まり、競技会での審判や補助員の方々も大変なご苦労をされたことと拝察する。 近年の気温や天候の変化は、気象庁の発表を待たずとも敏感な読者のみなさんは、継続的な“温暖化トレンド”を体感しているだろう。4月の最高気温は東京で27.3度。25度を超える“夏日”が大阪とともに複数回観測されている。 気象庁は最高気温40度以上の日の名称を「酷暑日」に決めたと、4月17日に発表した。温暖化傾向の影響を大きく受けるスポーツ界も、暑熱対策としてのリスクマネジメントの方針を打ち出し、実行に移しつつある。 日本陸連は近年の気候変動に伴い、猛暑による競技者・関係者への健康影響がより深刻化していることを受け、競技会では競技者・審判・関係者・観客等の安全と健康を守ることを最優先とし「熱中症予防運動指針」(日本スポーツ協会)に基づいた安全な運営方針を発表している。 内容は「暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)」に応じた対応方針を定め、競技の実施および進行(中止・中断・延期・時間変更など)について適切に判断すると記されている。WBGTは外気温だけではなく湿度や日差しなどを取り入れた指数である。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"]
インターハイは暑熱対策を講じて開催された[/caption]
主な決定事項は以下のとおりである。
1.WBGT31度以上となる暑熱環境下での運動(競技)は原則中止・中断する。
2.WBGT31度以上となる可能性が極めて高い7月・8月については、確実にWBGT31度以上にならない地域または時間帯(競技時間のみならずウォーミングアップなどすべての運動・活動を含む)での開催を除き、競技会は開催しない。
3.7月・8月以外の競技会においても、暑熱環境下での運動(競技)やその判断は、上記1. および2.と同様とする。
※小学生以下においては特に厳重な注意のもと判断すること。
※国際競技会およびそれに関連する競技会等については主催団体の運用に応じる。ただし、暑熱環境下が想定される場合には、いかなる競技会においても徹底した暑熱対策を行うこと。
昨年度の各競技会では関係する主催団体の協力を得て、可能な限りの暑熱対策を講じて開催していただいていた。しかしながら、各地、各競技会では多数の熱中症が発生。また、猛暑下での運営は、選手をはじめとする参加者のみならず、運営者・運営団体にも大きな負担を強いることとなった。
良き方向への改革を願う
その結果、「する・みる・ささえる」すべての人が安心して関わることのできる環境が損なわれ、陸上競技を通じて社会とつながり、楽しさや感動を共有するというJAAFビジョンの理念にも反する状況となってしまった。これらを背景に、 2026年度およびそれ以降については、本連盟の主催競技会における方針を決定した。 この方針に沿って、加盟団体・協力団体においても、 競技会に関わるすべての人々の安全と健康を最優先とする競技会の設定・運営をお願いしたい――と記されている。 昨年の全国高校総体(インターハイ)は、大会直前に暑熱対策のため競技方法や日程を大幅に変更するなど異例の対応を取ったことは記憶に新しい。 1.トラック種目で800m以内の距離は予選の後、準決勝を行わずタイムレースの決勝を実施。 2.1500m以上はタイムレース決勝のみを行う。 3.走高跳と棒高跳は、通常より1回少ない2回連続の無効試技で競技終了。 4.正午から午後3時ごろまでは極力競技を行わない。として開催された。 そして、日本学連・関東学連は温暖化の影響による選手の安全確保を目的として、複数の競技会で抜本的な暑熱対策の実施に踏み切っている。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"]
暑熱対策から4月の日本学生個人選手権と併催された日本インカレの10000m男子の様子[/caption]
主な対策は以下の通りだ。
・箱根駅伝予選会の時間変更::2025年大会(第102回)より、酷暑を避ける対策としてスタート時間を午前8時30分に早めた。
・関東インカレハーフマラソンの早期開催: 2026年度より、これまで5月に行われていた関東インカレ内のハーフマラソンを、トラックシーズンとロードシーズンの期分けを行い、暑熱対策と同時に選手の負担を軽減も目的として4月の「焼津みなとマラソン・大学対抗ペアマラソン」と併催するかたちに変更した。
・日本インカレ10000mの変更::日本インカレの10000mを気温上昇が見込まれる6月や9月開催を避け、4月の日本学生個人選手権と併催した。
・全日本大学駅伝関東選考会の前倒し:2026年度の選考会は5月4日に平塚で開催され、昨年度よりもさらに早い日程での開催とした。
選手が安全安心に競技に取り組める暑熱対策等の環境整備は主催者の責務であり、暑熱対策を講じた体調管理やトレーニング管理は選手と指導者の必須事項であると思う。
気象庁による外気温40℃以上を「酷暑日」と制定するほどに日本列島の温暖化が進んでいるように、時代の移り変わりとともに選手を取り巻く環境に変化が訪れ、その時代に生きるために必要な知見が必要となる。その意味で指導の現場においてはその知見を知る努力とともに、それを生かしつつ実践し、対応力の向上を期すことが必然となってくる。
暑熱対策のように各競技組織が対策を講じたとて、それが万全に効果を発揮できるという保証はどこにもない。それでも競技会運営方法を改善したことによって陸上競技界全体の改革が進められ、良き方向に変革が訪れることを信じたい。
いずれにせよ暑熱対策に関しては、事前の対策と備えを最大限講じる努力を双方向で実施した中で、最高のパフォーマンスを発揮する競技会であってほしいと願うばかりである。
| 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学名誉教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任し、26年3月に退任。 |
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