HOME PR
PR

2026.09.18

NEWS
ソニーが世界アルティメット選手権で示した“究極”の技術 26台のカメラを使い、3DCGで最高峰の大会彩る「魅力を見える形に」わずか30秒で観客へ届ける
ソニーが世界アルティメット選手権で示した“究極”の技術 26台のカメラを使い、3DCGで最高峰の大会彩る「魅力を見える形に」わずか30秒で観客へ届ける

スタジアム内に流れるフィニッシュラインの3DCG映像(ソニー提供)

2026年、ハンガリー・ブダペストで陸上競技の新たな歴史がスタートした。世界陸連(WA)が新たに創設した「世界アルティメット選手権」が9月に開催。WAは演出なども従来の大会と異なるとし、「これまでの世界大会とは一線を画する画期的なものになる」。世界大会の優勝者やワールドランキング上位のみが出場できる、まさにナンバー1を決める『究極』の争いだ。

その名のとおり、9月11日から13日までの3日間、世界最高の選手たちがパフォーマンスを発揮。優勝賞金150,000ドル(約2300万円)を懸けた熱戦が繰り広げられた。テーマソングを手掛け自ら歌唱した男子棒高跳世界記録保持者のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が優勝し、女子やり投では日本の北口榛花(JAL)が日本新で初代女王に君臨。大会前日のレッドカーペットから、クロージングセレモニーまで大いに盛り上がりを見せた。

【動画】世界アルティメット選手権で「革新的な中継映像」披露!ソニーがフィニッシュシーンを3DCG映像で再現

陸上競技の魅力を伝えるための新たな手法と技術

その大会を演出面で彩ったのが、ソニー株式会社の技術だった。同社とWAは2024年1月にオフィシャルグローバルパートナー契約を締結。今大会に向けて、「革新的な中継映像の創出に取り組む」ことを発表していた。

それがフィニッシュシーンを3DCG映像化したいわば「バーチャルフィニッシュライン」と呼べる取り組みだ。独自の光学トラッキング技術を活用し、短距離種目の決定的瞬間であるフィニッシュシーンを瞬時に3DCG化し、大型スクリーンやテレビ・配信の映像に差し込むというもので、「陸上競技を新たな視点で楽しむ機会を提供し、世界トップレベルの選手たちのパフォーマンスをよりわかりやすく伝えることを目指した」という。

大会中、ほぼリアルタイムに3DCG化したフィニッシュシーンが大型スクリーンに映し出されたほか、国際映像にも統合され、BBC(英国)、NBCUniversal(米国)、CCTV(中国)、ARD/ZDF(ドイツ)、NRK(ノルウェー)、SVT(スウェーデン)、L’Équipe(フランス)、CPSL(カリブ地域)、Polsat(ポーランド)、TBS(日本)など30局以上の放送事業者を通じて配信され、映し出されるとスタンドからもきわどい決着のシーンに大きな反応があった。

会場内にはPTZオートフレーミングカメラ『BRC-AM7』を24台、デジタル一眼カメラ『α9 Ⅲ』を2台、合計26台のカメラを設置。今大会はWAからの「特にフィニッシュシーンにフォーカスしよう」という要望もあり、そのうちの8台をフィニッシュラインの撮影に使用した。そのカメラで撮影した映像が光ファイバーを使ってソニーの作業室に送られる。選手の動きをさまざまな角度から瞬時に解析し、実際にどんな姿勢で走り、フィニッシュしたかが3DCG化される。最終的には正式リザルトと照合してデータチェックするが、フィニッシュからわずか30秒後にはデータを中継車へ納品できるという。

スタジアムに設置したPTZオートフレーミングカメラ『BRC-AM7』(ソニー提供)

そのプロジェクトのリーダーがソニーの服部博憲さんだ。スポーツエンタテインメント事業部・コーポレートプランニング部の統括部長を務める。

24年1月にオフィシャルグローバルパートナー契約を締結。服部さんは中学、高校と陸上部で短距離選手だったこともあり、自然と気合が入った。

もともと理系で、大学、大学院では情報工学を専攻しソニーにエンジニアとして入社。「当時から映像解析を担当し、最近はスポーツ向けの業務に力を入れていました」。スポーツ事業は以前から活動していたが、23年にスポーツエンタテインメント事業部が立ち上げて拡大した。

プロジェクトチームのリーダーを務めたソニーの服部博憲さん

2001年に英国で創業し11年からソニーの傘下に入ったHawk-Eye Innovations(ホークアイ)によるサッカーのオフサイド判定の映像などはよく知られている。陸上競技においても、判定にビデオリプレイサービスを提供している。

契約締結後、WAとソニーとのミーティングで「どんなことをやっていけばおもしろいだろうか」「こういう技術があります」などと話し合いがスタート。WAは陸上競技の発展のため「映像でどうファンを楽しませて、新しいかたちを見せられるか」という課題を持ち、その解決策を模索していた。

服部さんは元陸上部と、エンジニアの両方の視点からいろいろなアイデアを出した。「例えば100mでは、スタートから1歩目、2歩目……10歩でこんなに進んでいるんだ、とか、あるいは10歩でこれだけ差がつくんだ、など。そういったところを表現するとおもしろのではないかと考え、そのための技術はこういうものがある、と提案しました」

だが、WA、今大会の国際映像制作を担当するスポーツ国際映像制作のHBS(Host Broadcast Services)からはこうした要望があった。

「陸上競技において大切なのはフィニッシュの瞬間。どういうタイミングで、どういうふうにして決着がついたのか。そこにフォーカスできるようにしてみてほしい」

具体的に話が進んだのは昨年9月の東京世界選手権から、さかのぼること半年前だった。今回のプロジェクトはスポットのため、服部さんをはじめ、中心メンバーはみな、通常の業務もこなしながら開発を進めていく。「だいぶ無理を言ったと思います」と服部さんは苦笑いした。

陸上競技と同じく1分、1秒でも早く

3DCG化することが決まり、いくつか課題があった。「一つは寸分のズレも許されないこと」。今回の演出は判定には用いられないものの、「判定ではないからといって、適当ではいけません。あれだけ広い競技場で、精度を高めるために、カメラの設置場所などはかなりこだわりました」。

次にぶつかった課題が陸上競技にとっても重要なもの、つまり『時間』だった。当初はソニー側も「ミスが起こる可能性があるなら、後日SNSで配信するのでもいいのではないか」と提案したが、WAの「陸上競技はライブ感が大切である」という姿勢は変わらず。放送や会場の演出として採用するためには「翌日にコンテンツができます、というのでは意味がありません」と服部さん。そこからの作業は、まさに陸上競技とリンクするものだった。

WAからは「3分以内にできれば、使えるかもしれない」と話があった。そこでプロジェクトチームはそれを「1分」でできるように仕組みを作り上げてWAに提案。すると、「1分でできるなら、30秒でもできるんじゃないか」とWAはハードルを上げた。もちろん、ソニーの技術に対する驚き、そして信頼と期待の表われである。

フィニッシュラインは8台のカメラ映像から骨格データ・位置データを解析(ソニー提供)

「映像処理を順番立ててやるものから、同時進行できるように構築し、どうソフトウエアとして実装するか、地道な作業」で30秒を削り出していった。システムだけであれば時短は可能だが、納品する映像のパッケージとしては、公式記録データの送受信や中継車とのコミュニケーションも重要。そうした導線の効率化を図り、30秒でのデータ送信を実現させた。

「すごくチャレンジングでしたが、みんなおもしろくて、楽しみながら作り上げてこられたと思います」

東京世界選手権の頃にはある程度のシステム構築に成功した。試験的に導入し、WAからもお墨付きをもらい「これならファンの人にとってもおもしろいものになる」と高評価。果たして、「来年の世界アルティメット選手権で導入しよう」と決まった。

そこからも試練の連続。WAとHBSは“見せ方”について細かく求めた。世界アルティメット選手権にメダルはなく、「とにかくチャンピオンか、それ以外しかない」という考えや、「準決勝から決勝に進出する上位4着までをしっかり見せたい」などのオーダーがあり、その都度応えた。

服部さんは6月にブダペストを一度訪れて競技場を視察。そこでおよそのカメラの設置位置や光ファイバー・電源の引き方など現地作業スタッフとも確認した。次にプロジェクトメンバーは9月1日に現地入り。作業ルームからスタジアムまでのケーブル導線は現地のスタッフが担当し、そこからカメラまでの配線はすべてプロジェクトメンバー(グループ会社のソニーPCL株式会社からのサポート含む)で担当した。

服部さんは大会3日前の7日に現地着。テストを繰り返したが、ここでも思わぬハプニングがあった。雷雨により周辺機材の一部がショートした。プロジェクトメンバーやサポートスタッフが駆けずり回って機材や部品を調達したという。

スタジアムにカメラを設置している様子(ソニー提供)

雨天対策も行ったが、一部は雷雨でショートしたという

最終的に、システムが構築され、ソフトウエアでの処理が動作するとフィニッシュの瞬間から30秒で映像パッケージを納品できるまでになった。大会前日の18時からリハーサル。「いくつか課題もありましたが、うまくいきそうだな」と手応えをつかんだ。今回は100m、200m、400m、110m(100m)ハードル、400mハードルのフィニッシュシーンにおいて3DCG化した映像がHBSに提供された。初日を無事に終えた時点でHBSからも「良かった」と声をもらい「一安心しました」と胸をなで下ろした。

世界アルティメット選手権におけるフィニッシュシーンを可視化した3DCGイメージ(ソニー提供)

WAも高く評価したソニーの技術

3日間、合計61,671人が来場(公式発表)。映像は170の国と地域に、48の放送権保有局を通じて配信された。WAも「バーチャルフィニッシュラインが初公開され、選手のパフォーマンスがいかに接戦であり、並外れたものか体感できる方法だった。この試みはファンや放送局から大きな反響があった」と高く評価。来年以降の世界大会ではさらなるイノベーションが、より大きな興奮を呼び起こす期待が高まる。

作業に取り組むソニーのエンジニア(ソニー提供)

HBSの中継車内で、作業を実施するHBSチーム(ソニー提供)

WAのチーフ・インフォメーション・オフィサーを務めるアン・ダン・ズイ氏は「WAの放送チームが長く構想してきたものであり、東京世界選手権のテストを経て実現しました。ライブ制作という厳しい環境の中でも、ソニーは私たちが思い描いていたリアルタイムの映像表現を実現してくれました。ファンからの反応も非常に好評でした。何より重要なのは、テクノロジーの導入そのものが目的ではなく、アスリートの卓越したパフォーマンスをよりわかりやすく、より魅力的に伝えるための新たなストーリーテリングを生み出していることです」と語り、今後の展望について「私たちはすでに、この技術をさらに発展させる可能性を検討しています。ソニーとともにどのような新しい体験を実現できるかを楽しみにしています」と期待を寄せていた。

プロジェクトを完遂した服部さんは、「ここまでの道のりは容易ではありませんでしたが、WA、HBS、そしてソニーの各チームの一人ひとりの情熱が一つになり、まさに『One Team』として同じゴールを目指せたことが、今回の結果につながったと感じています。組織や立場を超えて、ともに挑戦できました」と感謝する。

「陸上競技をやっている人なら、0.01秒でも記録が縮まることの素晴らしさ、金メダルを取る喜びが理解できます。でも、それが伝わりにくいという課題をずっと感じていました。世界中の陸上競技ファンに、新たな魅力や楽しみ方をより広く届けるために進めてきた新たな挑戦が、無事に成果につながったと思います。陸上競技の魅力、僅差に人生を懸けているという情熱が、コンテンツとして見える形にできたことに喜びを感じます」

こう服部さんは述べる。陸上競技経験者そして、エンジニアとして、こだわり抜いてきた。「今回の取り組みを通じて、私たちのテクノロジーおよびオペレーションには、さらなる可能性が残されていることも確信しています」と胸を張る一方、「ただ、『ソニーの技術はどうだ!』ではなく、自分たちがこだわって作ってきた技術によって、多くのファンが喜んでくれた。それが一番うれしいんです」と笑顔を浮かべる。

“究極”のアスリートの輝きを、ソニーが誇る“究極”の技術と情熱で多くの人々に伝えた。プロジェクトチームは大会最終日、深夜2時まで後片付け。服部さんは大仕事を終えた充実感を覚えつつ、「陸上競技のアスリートの躍動や競技の興奮を、より多くの方々に届けるために、ここを新たなスタートラインとして、さらにその先への挑戦を続けていきたい」と、出場した世界トップアスリートと同じように、次への一歩目を歩み始めた。

【動画】世界アルティメット選手権で「革新的な中継映像」披露!ソニーがフィニッシュシーンを3DCG映像で再現

2026年、ハンガリー・ブダペストで陸上競技の新たな歴史がスタートした。世界陸連(WA)が新たに創設した「世界アルティメット選手権」が9月に開催。WAは演出なども従来の大会と異なるとし、「これまでの世界大会とは一線を画する画期的なものになる」。世界大会の優勝者やワールドランキング上位のみが出場できる、まさにナンバー1を決める『究極』の争いだ。 その名のとおり、9月11日から13日までの3日間、世界最高の選手たちがパフォーマンスを発揮。優勝賞金150,000ドル(約2300万円)を懸けた熱戦が繰り広げられた。テーマソングを手掛け自ら歌唱した男子棒高跳世界記録保持者のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が優勝し、女子やり投では日本の北口榛花(JAL)が日本新で初代女王に君臨。大会前日のレッドカーペットから、クロージングセレモニーまで大いに盛り上がりを見せた。 【動画】世界アルティメット選手権で「革新的な中継映像」披露!ソニーがフィニッシュシーンを3DCG映像で再現

陸上競技の魅力を伝えるための新たな手法と技術

その大会を演出面で彩ったのが、ソニー株式会社の技術だった。同社とWAは2024年1月にオフィシャルグローバルパートナー契約を締結。今大会に向けて、「革新的な中継映像の創出に取り組む」ことを発表していた。 それがフィニッシュシーンを3DCG映像化したいわば「バーチャルフィニッシュライン」と呼べる取り組みだ。独自の光学トラッキング技術を活用し、短距離種目の決定的瞬間であるフィニッシュシーンを瞬時に3DCG化し、大型スクリーンやテレビ・配信の映像に差し込むというもので、「陸上競技を新たな視点で楽しむ機会を提供し、世界トップレベルの選手たちのパフォーマンスをよりわかりやすく伝えることを目指した」という。 大会中、ほぼリアルタイムに3DCG化したフィニッシュシーンが大型スクリーンに映し出されたほか、国際映像にも統合され、BBC(英国)、NBCUniversal(米国)、CCTV(中国)、ARD/ZDF(ドイツ)、NRK(ノルウェー)、SVT(スウェーデン)、L’Équipe(フランス)、CPSL(カリブ地域)、Polsat(ポーランド)、TBS(日本)など30局以上の放送事業者を通じて配信され、映し出されるとスタンドからもきわどい決着のシーンに大きな反応があった。 会場内にはPTZオートフレーミングカメラ『BRC-AM7』を24台、デジタル一眼カメラ『α9 Ⅲ』を2台、合計26台のカメラを設置。今大会はWAからの「特にフィニッシュシーンにフォーカスしよう」という要望もあり、そのうちの8台をフィニッシュラインの撮影に使用した。そのカメラで撮影した映像が光ファイバーを使ってソニーの作業室に送られる。選手の動きをさまざまな角度から瞬時に解析し、実際にどんな姿勢で走り、フィニッシュしたかが3DCG化される。最終的には正式リザルトと照合してデータチェックするが、フィニッシュからわずか30秒後にはデータを中継車へ納品できるという。 [caption id="attachment_216683" align="alignnone" width="800"] スタジアムに設置したPTZオートフレーミングカメラ『BRC-AM7』(ソニー提供)[/caption] そのプロジェクトのリーダーがソニーの服部博憲さんだ。スポーツエンタテインメント事業部・コーポレートプランニング部の統括部長を務める。 24年1月にオフィシャルグローバルパートナー契約を締結。服部さんは中学、高校と陸上部で短距離選手だったこともあり、自然と気合が入った。 もともと理系で、大学、大学院では情報工学を専攻しソニーにエンジニアとして入社。「当時から映像解析を担当し、最近はスポーツ向けの業務に力を入れていました」。スポーツ事業は以前から活動していたが、23年にスポーツエンタテインメント事業部が立ち上げて拡大した。 [caption id="attachment_216674" align="alignnone" width="800"] プロジェクトチームのリーダーを務めたソニーの服部博憲さん[/caption] 2001年に英国で創業し11年からソニーの傘下に入ったHawk-Eye Innovations(ホークアイ)によるサッカーのオフサイド判定の映像などはよく知られている。陸上競技においても、判定にビデオリプレイサービスを提供している。 契約締結後、WAとソニーとのミーティングで「どんなことをやっていけばおもしろいだろうか」「こういう技術があります」などと話し合いがスタート。WAは陸上競技の発展のため「映像でどうファンを楽しませて、新しいかたちを見せられるか」という課題を持ち、その解決策を模索していた。 服部さんは元陸上部と、エンジニアの両方の視点からいろいろなアイデアを出した。「例えば100mでは、スタートから1歩目、2歩目……10歩でこんなに進んでいるんだ、とか、あるいは10歩でこれだけ差がつくんだ、など。そういったところを表現するとおもしろのではないかと考え、そのための技術はこういうものがある、と提案しました」 だが、WA、今大会の国際映像制作を担当するスポーツ国際映像制作のHBS(Host Broadcast Services)からはこうした要望があった。 「陸上競技において大切なのはフィニッシュの瞬間。どういうタイミングで、どういうふうにして決着がついたのか。そこにフォーカスできるようにしてみてほしい」 具体的に話が進んだのは昨年9月の東京世界選手権から、さかのぼること半年前だった。今回のプロジェクトはスポットのため、服部さんをはじめ、中心メンバーはみな、通常の業務もこなしながら開発を進めていく。「だいぶ無理を言ったと思います」と服部さんは苦笑いした。

陸上競技と同じく1分、1秒でも早く

3DCG化することが決まり、いくつか課題があった。「一つは寸分のズレも許されないこと」。今回の演出は判定には用いられないものの、「判定ではないからといって、適当ではいけません。あれだけ広い競技場で、精度を高めるために、カメラの設置場所などはかなりこだわりました」。 次にぶつかった課題が陸上競技にとっても重要なもの、つまり『時間』だった。当初はソニー側も「ミスが起こる可能性があるなら、後日SNSで配信するのでもいいのではないか」と提案したが、WAの「陸上競技はライブ感が大切である」という姿勢は変わらず。放送や会場の演出として採用するためには「翌日にコンテンツができます、というのでは意味がありません」と服部さん。そこからの作業は、まさに陸上競技とリンクするものだった。 WAからは「3分以内にできれば、使えるかもしれない」と話があった。そこでプロジェクトチームはそれを「1分」でできるように仕組みを作り上げてWAに提案。すると、「1分でできるなら、30秒でもできるんじゃないか」とWAはハードルを上げた。もちろん、ソニーの技術に対する驚き、そして信頼と期待の表われである。 [caption id="attachment_216677" align="alignnone" width="800"] フィニッシュラインは8台のカメラ映像から骨格データ・位置データを解析(ソニー提供)[/caption] 「映像処理を順番立ててやるものから、同時進行できるように構築し、どうソフトウエアとして実装するか、地道な作業」で30秒を削り出していった。システムだけであれば時短は可能だが、納品する映像のパッケージとしては、公式記録データの送受信や中継車とのコミュニケーションも重要。そうした導線の効率化を図り、30秒でのデータ送信を実現させた。 「すごくチャレンジングでしたが、みんなおもしろくて、楽しみながら作り上げてこられたと思います」 東京世界選手権の頃にはある程度のシステム構築に成功した。試験的に導入し、WAからもお墨付きをもらい「これならファンの人にとってもおもしろいものになる」と高評価。果たして、「来年の世界アルティメット選手権で導入しよう」と決まった。 そこからも試練の連続。WAとHBSは“見せ方”について細かく求めた。世界アルティメット選手権にメダルはなく、「とにかくチャンピオンか、それ以外しかない」という考えや、「準決勝から決勝に進出する上位4着までをしっかり見せたい」などのオーダーがあり、その都度応えた。 服部さんは6月にブダペストを一度訪れて競技場を視察。そこでおよそのカメラの設置位置や光ファイバー・電源の引き方など現地作業スタッフとも確認した。次にプロジェクトメンバーは9月1日に現地入り。作業ルームからスタジアムまでのケーブル導線は現地のスタッフが担当し、そこからカメラまでの配線はすべてプロジェクトメンバー(グループ会社のソニーPCL株式会社からのサポート含む)で担当した。 服部さんは大会3日前の7日に現地着。テストを繰り返したが、ここでも思わぬハプニングがあった。雷雨により周辺機材の一部がショートした。プロジェクトメンバーやサポートスタッフが駆けずり回って機材や部品を調達したという。 [caption id="attachment_216679" align="alignnone" width="800"] スタジアムにカメラを設置している様子(ソニー提供)[/caption] [caption id="attachment_216673" align="alignnone" width="800"] 雨天対策も行ったが、一部は雷雨でショートしたという[/caption] 最終的に、システムが構築され、ソフトウエアでの処理が動作するとフィニッシュの瞬間から30秒で映像パッケージを納品できるまでになった。大会前日の18時からリハーサル。「いくつか課題もありましたが、うまくいきそうだな」と手応えをつかんだ。今回は100m、200m、400m、110m(100m)ハードル、400mハードルのフィニッシュシーンにおいて3DCG化した映像がHBSに提供された。初日を無事に終えた時点でHBSからも「良かった」と声をもらい「一安心しました」と胸をなで下ろした。 [caption id="attachment_215956" align="alignnone" width="800"] 世界アルティメット選手権におけるフィニッシュシーンを可視化した3DCGイメージ(ソニー提供)[/caption]

WAも高く評価したソニーの技術

3日間、合計61,671人が来場(公式発表)。映像は170の国と地域に、48の放送権保有局を通じて配信された。WAも「バーチャルフィニッシュラインが初公開され、選手のパフォーマンスがいかに接戦であり、並外れたものか体感できる方法だった。この試みはファンや放送局から大きな反響があった」と高く評価。来年以降の世界大会ではさらなるイノベーションが、より大きな興奮を呼び起こす期待が高まる。 [caption id="attachment_216676" align="alignnone" width="800"] 作業に取り組むソニーのエンジニア(ソニー提供)[/caption] [caption id="attachment_216680" align="alignnone" width="800"] HBSの中継車内で、作業を実施するHBSチーム(ソニー提供)[/caption] WAのチーフ・インフォメーション・オフィサーを務めるアン・ダン・ズイ氏は「WAの放送チームが長く構想してきたものであり、東京世界選手権のテストを経て実現しました。ライブ制作という厳しい環境の中でも、ソニーは私たちが思い描いていたリアルタイムの映像表現を実現してくれました。ファンからの反応も非常に好評でした。何より重要なのは、テクノロジーの導入そのものが目的ではなく、アスリートの卓越したパフォーマンスをよりわかりやすく、より魅力的に伝えるための新たなストーリーテリングを生み出していることです」と語り、今後の展望について「私たちはすでに、この技術をさらに発展させる可能性を検討しています。ソニーとともにどのような新しい体験を実現できるかを楽しみにしています」と期待を寄せていた。 プロジェクトを完遂した服部さんは、「ここまでの道のりは容易ではありませんでしたが、WA、HBS、そしてソニーの各チームの一人ひとりの情熱が一つになり、まさに『One Team』として同じゴールを目指せたことが、今回の結果につながったと感じています。組織や立場を超えて、ともに挑戦できました」と感謝する。 「陸上競技をやっている人なら、0.01秒でも記録が縮まることの素晴らしさ、金メダルを取る喜びが理解できます。でも、それが伝わりにくいという課題をずっと感じていました。世界中の陸上競技ファンに、新たな魅力や楽しみ方をより広く届けるために進めてきた新たな挑戦が、無事に成果につながったと思います。陸上競技の魅力、僅差に人生を懸けているという情熱が、コンテンツとして見える形にできたことに喜びを感じます」 こう服部さんは述べる。陸上競技経験者そして、エンジニアとして、こだわり抜いてきた。「今回の取り組みを通じて、私たちのテクノロジーおよびオペレーションには、さらなる可能性が残されていることも確信しています」と胸を張る一方、「ただ、『ソニーの技術はどうだ!』ではなく、自分たちがこだわって作ってきた技術によって、多くのファンが喜んでくれた。それが一番うれしいんです」と笑顔を浮かべる。 “究極”のアスリートの輝きを、ソニーが誇る“究極”の技術と情熱で多くの人々に伝えた。プロジェクトチームは大会最終日、深夜2時まで後片付け。服部さんは大仕事を終えた充実感を覚えつつ、「陸上競技のアスリートの躍動や競技の興奮を、より多くの方々に届けるために、ここを新たなスタートラインとして、さらにその先への挑戦を続けていきたい」と、出場した世界トップアスリートと同じように、次への一歩目を歩み始めた。 【動画】世界アルティメット選手権で「革新的な中継映像」披露!ソニーがフィニッシュシーンを3DCG映像で再現

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

         

Latest articles 最新の記事

2026.09.19

5kmの早大勢・鈴木琉胤は28位、増子陽太は40位 女子は水本佳菜の24位が最高/世界ロードランニング選手権

◇世界ロードランニング選手権(9月19~20日/デンマーク・コペンハーゲン)1日目 世界ロードランニング選手権の1日目に5kmが行われ、男子は早大勢の鈴木琉胤が13分38秒で28位、増子陽太が13分50秒で40位だった。 […]

NEWS 田中友梨と赤松諒一が開会式で選手宣誓の大役! 「栄光と名誉のために参加することを約束」/名古屋アジア大会

2026.09.19

田中友梨と赤松諒一が開会式で選手宣誓の大役! 「栄光と名誉のために参加することを約束」/名古屋アジア大会

◇第20回アジア大会・陸上競技(9月23~29日/愛知県名古屋市・パロマ瑞穂スタジアム) 名古屋アジア大会の開会式が9月19日、名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われ、開幕を迎えた。 広告の下にコンテンツが続きます 日本 […]

NEWS 初出場の北口榛花「元気に全力で」最年少・後藤大樹は「最高な状態」各選手意気込み/名古屋アジア大会

2026.09.19

初出場の北口榛花「元気に全力で」最年少・後藤大樹は「最高な状態」各選手意気込み/名古屋アジア大会

日本オリンピック委員会(JOC)のTEAM JAPAN広報は9月19日、名古屋アジア大会に向けての日本代表選手たちのコメントを発表した。 陸上競技は男子45名、女子41名が内定(※辞退を含む)。これは過去最大の派遣数とな […]

NEWS 男子1マイル・本田桜二郎が3分57秒50で16位 中野倫希も自己新/世界ロードランニング選手権

2026.09.19

男子1マイル・本田桜二郎が3分57秒50で16位 中野倫希も自己新/世界ロードランニング選手権

◇世界ロードランニング選手権(9月19~20日/デンマーク・コペンハーゲン)1日目 世界ロードランニング選手権の1日目に1マイルが行われ、男子は本田桜二郎(早大)が3分57秒50で16位、中野倫希(トーエネック)は4分0 […]

NEWS 【プレゼント】アスリートの為のハードボイルドゼリー『オレは摂取す』/2026年10月号

2026.09.19

【プレゼント】アスリートの為のハードボイルドゼリー『オレは摂取す』/2026年10月号

静岡県焼津市に本社を構えるダイトー水産株式会社が水産加工で培った技術を応用して開発したゼリー飲料『オレは摂取す』は、2017年12月の以来、アスリートの疲労回復やパフォーマンス向上に役立つサプリメントとして多くのスポーツ […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2026年10月号 (9月14日発売)

2026年10月号 (9月14日発売)

アジア大会総展望
山口全中&日本インカレ
サウェ特集

page top