HOME 特集

2023.05.07

【高平慎士の視点】重圧の中で自分のレース徹した坂井隆一郎 桐生の10秒03で雰囲気は一変
【高平慎士の視点】重圧の中で自分のレース徹した坂井隆一郎 桐生の10秒03で雰囲気は一変

男子100mは坂井隆一郎が10秒12で優勝。桐生祥秀も予選で10秒03の大会新を出した。

終始強い風が吹くコンディションで行われた木南記念。その男子100mは予選で桐生祥秀(日本生命)が10秒03(+0.7)の大会新を出して盛り上げると、決勝は昨年のオレゴン世界選手権代表・坂井隆一郎(大阪ガス)が強さを見せて10秒12(-0.3)で優勝と、見応えのあるレースとなった。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、その男子100mを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

静岡国際は200mが盛り上がりましたが、100mは4月29日の織田記念が悪条件に見舞われたこともあり、まだ公認の10秒1台が1人だけという状況でした。その中で、桐生祥秀選手(日本生命)が予選で10秒03を出し、地元・大阪出身の坂井隆一郎選手(大阪ガス)が勝った。大会としては非常に盛り上がりましたね。

広告の下にコンテンツが続きます

決勝の坂井隆一郎選手(大阪ガス)が追われる立場の重圧を感じながらも、しっかりと自分の走りをやり遂げました。スタートは「バッチリ」というところまではいっていませんでしたが、前半の加速から主導権を握る彼らしい走りでしたね。決勝の10秒12というタイムは、今後に向けても好材料だと思います。

肩周りの筋肉の盛り上がりなど、身体が大きくなった印象なので、トレーニングをしっかりと積めたことがうかがえます。ここから試合を重ねて絞れてくれば、さらに上げてくることは間違いないでしょう。自分の身体、心をコントロールすることができていると感じました。

これから一気にタイムを狙っていくことも大事ではありますが、まずは10秒1台あたりを安定して積み重ねて、ピラミッドの土台をしっかりと作ることが大切。そうすれば、9秒台を狙うレースを作り上げることができるようになるでしょう。

あとは昨年の日本選手権決勝で前半先行しながら、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)に後半逆転されたように、強い選手と相まみえる時に自分のレースをどう構築するか。前半から絶対的なリードを奪う展開が理想だと思うので、今日のようなレースを落ち着いてできるかが、勝負や9秒台へのカギとなるでしょう。

桐生選手は条件が良かったこともあるとはいえ、10秒0台のインパクトはやはりすごいですね。1人の力であれだけ会場も、日本中も沸かせることがでいるのはさすがです。

まだ記録を狙っていない状況で「出ちゃった」部分はあるでしょう。しかし、そのタイムを「出せる」だけの動きができていたということです。

決勝(10秒26で2位)の走りを見ても、勝負という面ではまだこれからという段階。自分の目指すところと、周りが期待することはまだマッチしていないと感じますので、このあとも試合を重ねて、「自分でコントロールした10秒0台」まで上げてくれば、いよいよ復活と言えるのではないでしょうか。

3位には楊俊瀚選手(台湾)が10秒27で入りましたが、アジア系の選手がこの春は多くの大会に参加してくれています。今年はアジア選手権、アジア大会とあるので、彼らと切磋琢磨して、アジアのレベルを引き上げてほしいです。竹田一平選手(スズキ)、本郷汰樹選手(オノテック)が3位争いをしましたが、そこから抜け出せるかどうかで、日本選手権決勝の盛り上がりが違ってくると感じました。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

終始強い風が吹くコンディションで行われた木南記念。その男子100mは予選で桐生祥秀(日本生命)が10秒03(+0.7)の大会新を出して盛り上げると、決勝は昨年のオレゴン世界選手権代表・坂井隆一郎(大阪ガス)が強さを見せて10秒12(-0.3)で優勝と、見応えのあるレースとなった。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、その男子100mを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 静岡国際は200mが盛り上がりましたが、100mは4月29日の織田記念が悪条件に見舞われたこともあり、まだ公認の10秒1台が1人だけという状況でした。その中で、桐生祥秀選手(日本生命)が予選で10秒03を出し、地元・大阪出身の坂井隆一郎選手(大阪ガス)が勝った。大会としては非常に盛り上がりましたね。 決勝の坂井隆一郎選手(大阪ガス)が追われる立場の重圧を感じながらも、しっかりと自分の走りをやり遂げました。スタートは「バッチリ」というところまではいっていませんでしたが、前半の加速から主導権を握る彼らしい走りでしたね。決勝の10秒12というタイムは、今後に向けても好材料だと思います。 肩周りの筋肉の盛り上がりなど、身体が大きくなった印象なので、トレーニングをしっかりと積めたことがうかがえます。ここから試合を重ねて絞れてくれば、さらに上げてくることは間違いないでしょう。自分の身体、心をコントロールすることができていると感じました。 これから一気にタイムを狙っていくことも大事ではありますが、まずは10秒1台あたりを安定して積み重ねて、ピラミッドの土台をしっかりと作ることが大切。そうすれば、9秒台を狙うレースを作り上げることができるようになるでしょう。 あとは昨年の日本選手権決勝で前半先行しながら、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィードTC)に後半逆転されたように、強い選手と相まみえる時に自分のレースをどう構築するか。前半から絶対的なリードを奪う展開が理想だと思うので、今日のようなレースを落ち着いてできるかが、勝負や9秒台へのカギとなるでしょう。 桐生選手は条件が良かったこともあるとはいえ、10秒0台のインパクトはやはりすごいですね。1人の力であれだけ会場も、日本中も沸かせることがでいるのはさすがです。 まだ記録を狙っていない状況で「出ちゃった」部分はあるでしょう。しかし、そのタイムを「出せる」だけの動きができていたということです。 決勝(10秒26で2位)の走りを見ても、勝負という面ではまだこれからという段階。自分の目指すところと、周りが期待することはまだマッチしていないと感じますので、このあとも試合を重ねて、「自分でコントロールした10秒0台」まで上げてくれば、いよいよ復活と言えるのではないでしょうか。 3位には楊俊瀚選手(台湾)が10秒27で入りましたが、アジア系の選手がこの春は多くの大会に参加してくれています。今年はアジア選手権、アジア大会とあるので、彼らと切磋琢磨して、アジアのレベルを引き上げてほしいです。竹田一平選手(スズキ)、本郷汰樹選手(オノテック)が3位争いをしましたが、そこから抜け出せるかどうかで、日本選手権決勝の盛り上がりが違ってくると感じました。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.06

10000m記録挑戦競技会は日体大競技会など3大会と併催 参加資格男子は34分ターゲット

関東学生陸上競技連盟は、主催の10000m記録挑戦競技会について、今年は11月15日の日体大長距離競技会(横浜市・日体大健志台)、11月22日のMARCH対抗戦(東京・町田市)、11月22日の東海大長距離競技会(秦野市) […]

NEWS RIKUJOフェスティバルに勝木隼人、赤松諒一、佐藤早也伽らトップ選手が参加

2025.11.06

RIKUJOフェスティバルに勝木隼人、赤松諒一、佐藤早也伽らトップ選手が参加

11月6日、日本陸連は11月29日に開催される「RIKUJO フェスティバル in 国立競技場」に参加するゲストアスリートを発表した。 同イベントは連盟創立100周年を記念して開かれるもの。参加者とトップアスリートが一緒 […]

NEWS 北海道・北照高が来春から陸上部で駅伝チームを強化 43年ぶりに再始動 工藤裕行氏が総監督就任

2025.11.06

北海道・北照高が来春から陸上部で駅伝チームを強化 43年ぶりに再始動 工藤裕行氏が総監督就任

11月5日、北照高は2026年春から陸上部において駅伝チームの強化を本格的にスタートすることを発表した。 北照高は北海道小樽市に校舎を置く私立高。野球部は甲子園に春夏あわせて10回出場を数える強豪として知られる。スキー部 […]

NEWS 全国高校駅伝都道府県代表出そろう 前年V佐久長聖&長野東など 最速は男女とも仙台育英 6日から地区大会順次開幕

2025.11.05

全国高校駅伝都道府県代表出そろう 前年V佐久長聖&長野東など 最速は男女とも仙台育英 6日から地区大会順次開幕

全国高校駅伝の出場権を懸けた都道府県高校駅伝が11月4日の埼玉をもってすべて終了し、都道府県代表がすべて出そろった。 昨年の全国大会は男子が佐久長聖、女子は長野東といずれも長野勢が優勝を遂げた。全国2連覇中の佐久長聖は県 […]

NEWS 神戸マラソンの招待選手発表 荒生実慧、平田幸四郎らがエントリー 21年パリ優勝のロティッチも参戦

2025.11.05

神戸マラソンの招待選手発表 荒生実慧、平田幸四郎らがエントリー 21年パリ優勝のロティッチも参戦

11月5日、神戸マラソンの主催者は16日に開催される神戸マラソン2025の招待選手を発表した。 国内からは、8月末のシドニーで2時間7分42秒の6位に入った荒生実慧(NDソフト)がエントリー。前回大会で日本人トップの4位 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年11月号 (10月14日発売)

2025年11月号 (10月14日発売)

東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望

page top