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2025.12.23

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箱根駅伝Stories/3度目の山で伝説を作る早大・工藤慎作 スピードに磨き「ストロングポイントとして活躍を」

“山の名探偵”の愛称がすっかり定着した早大・工藤慎作

新春の風物詩・第102回箱根駅伝に挑む選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。学生三大駅伝最終決戦に向かうそれぞれの歩みや思いを紹介する。

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中学では当初卓球部を希望

「いよいよ始まるなっていうところで、純粋にワクワクしています」。12月13日の壮行会、合同取材会を終えて、早大・工藤慎作(3年)は3度目の箱根駅伝に向けた心境をこう吐露した。

チームで公募しているSNSの応援ハッシュタグも、工藤のものは全日本大学駅伝までの「#早稲田の名探偵」から「#山の名探偵」と箱根仕様になった。今や“山の名探偵”のニックネームはすっかり定着している。

工藤は小学生の頃は校内マラソン大会でも「10番くらい」と決して足が速かったわけではなかった。「6年生の時に駅伝の練習に参加してみたんですけど、メンバー落ちしました。それが人生唯一のメンバー落ちだったと思います」と当時を振り返る。

中学では卓球部に入るつもりだった。だが、活動場所が学校から少し離れており、その場所が分からなかったため、結局、担任の先生が顧問を務めていた陸上部に入った。これが工藤の長距離ランナーとしてのスタートになった。

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「そこも含めて運なのかもしれません。その偶然の一つ一つが今の自分を作っているのかなとか思ったりもします」。そして、中学時代から全国大会に出場するなど、めきめきと力をつけていく。

千葉・八千代松陰高に進むと、年末の全国高校駅伝では上り基調の3区で活躍。2年時は区間6位、3年時が区間5位と2年連続で好走した。大学に入学する前の鴨川合宿では、上りの走りを見た花田勝彦駅伝監督が、さっそく箱根駅伝5区起用をほのめかしたほど、その資質はあった。

その通りに、1年目から箱根駅伝5区の出番が回ってくると、区間6位と好走。さらに、前回は区間歴代3位となる1時間9分31秒で走り切った。区間賞こそ青学大・若林宏樹に譲ったものの、区間2位と奮闘し、箱根山中で3人抜きの活躍を見せている。“山の名探偵”の愛称も一気に知れ渡った。

箱根5区でこれだけの活躍を見せたのにもかかわらず、工藤は意外な言葉を口にする。「“山の神”って言われる人たちに比べると、上り自体の適性は、自分はちょっと怪しいところがあります」と言うのだ。

だが、こうも言葉を続ける。「でも、その神と呼ばれた方々と違うのは、平地の走力っていうところだと思います」。もちろん歴代の“山の神”も上りの適性だけでなく、平地でも実績があった。しかし、工藤は平地の走りに自信を覗かせる。それもそのはず。この1年はハーフマラソンを中心に圧巻の走りを披露し続けてきた。

前回大会の約1ヵ月後、2月に香川・丸亀国際ハーフマラソンと併催された日本学生ハーフマラソン選手権。工藤は先頭集団にはつかず、後方で淡々とマイペースを刻んで、気がつけば上位に浮上していた。そして、日本人学生歴代2位となる1時間0分06秒の好記録で、学生日本一のタイトルを手にした。

7月のワールドユニバーシティゲームズでは、5kmを前に先頭に立って独走。最後は6秒差に詰められたものの、1時間2分29秒の大会新記録を打ち立てて、金メダルを獲得した。

実は、大会約1ヵ月前に股関節付近に痛みが走り、1週間程度走らなかった期間があったという。万全な状態では臨めなかったからこそ、学生ハーフの時とは打って変わって、前半からリードを奪う策に出た。

まさに変幻自在。自分の状態に合わせたレースプランを立てて、しっかりと結果を残す――。工藤は勝負勘に長けた選手だ。

「レースプランは、アバウトですけど、『こういうレースがしたいな』とある程度幅を持たせて考えてはいます。それがうまくいくことがこの1年は多かったなと思っています」と自身も振り返る。

[caption id="attachment_194111" align="alignnone" width="800"] “山の名探偵”の愛称がすっかり定着した早大・工藤慎作[/caption] 新春の風物詩・第102回箱根駅伝に挑む選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。学生三大駅伝最終決戦に向かうそれぞれの歩みや思いを紹介する。

中学では当初卓球部を希望

「いよいよ始まるなっていうところで、純粋にワクワクしています」。12月13日の壮行会、合同取材会を終えて、早大・工藤慎作(3年)は3度目の箱根駅伝に向けた心境をこう吐露した。 チームで公募しているSNSの応援ハッシュタグも、工藤のものは全日本大学駅伝までの「#早稲田の名探偵」から「#山の名探偵」と箱根仕様になった。今や“山の名探偵”のニックネームはすっかり定着している。 工藤は小学生の頃は校内マラソン大会でも「10番くらい」と決して足が速かったわけではなかった。「6年生の時に駅伝の練習に参加してみたんですけど、メンバー落ちしました。それが人生唯一のメンバー落ちだったと思います」と当時を振り返る。 中学では卓球部に入るつもりだった。だが、活動場所が学校から少し離れており、その場所が分からなかったため、結局、担任の先生が顧問を務めていた陸上部に入った。これが工藤の長距離ランナーとしてのスタートになった。 「そこも含めて運なのかもしれません。その偶然の一つ一つが今の自分を作っているのかなとか思ったりもします」。そして、中学時代から全国大会に出場するなど、めきめきと力をつけていく。 千葉・八千代松陰高に進むと、年末の全国高校駅伝では上り基調の3区で活躍。2年時は区間6位、3年時が区間5位と2年連続で好走した。大学に入学する前の鴨川合宿では、上りの走りを見た花田勝彦駅伝監督が、さっそく箱根駅伝5区起用をほのめかしたほど、その資質はあった。 その通りに、1年目から箱根駅伝5区の出番が回ってくると、区間6位と好走。さらに、前回は区間歴代3位となる1時間9分31秒で走り切った。区間賞こそ青学大・若林宏樹に譲ったものの、区間2位と奮闘し、箱根山中で3人抜きの活躍を見せている。“山の名探偵”の愛称も一気に知れ渡った。 箱根5区でこれだけの活躍を見せたのにもかかわらず、工藤は意外な言葉を口にする。「“山の神”って言われる人たちに比べると、上り自体の適性は、自分はちょっと怪しいところがあります」と言うのだ。 だが、こうも言葉を続ける。「でも、その神と呼ばれた方々と違うのは、平地の走力っていうところだと思います」。もちろん歴代の“山の神”も上りの適性だけでなく、平地でも実績があった。しかし、工藤は平地の走りに自信を覗かせる。それもそのはず。この1年はハーフマラソンを中心に圧巻の走りを披露し続けてきた。 前回大会の約1ヵ月後、2月に香川・丸亀国際ハーフマラソンと併催された日本学生ハーフマラソン選手権。工藤は先頭集団にはつかず、後方で淡々とマイペースを刻んで、気がつけば上位に浮上していた。そして、日本人学生歴代2位となる1時間0分06秒の好記録で、学生日本一のタイトルを手にした。 7月のワールドユニバーシティゲームズでは、5kmを前に先頭に立って独走。最後は6秒差に詰められたものの、1時間2分29秒の大会新記録を打ち立てて、金メダルを獲得した。 実は、大会約1ヵ月前に股関節付近に痛みが走り、1週間程度走らなかった期間があったという。万全な状態では臨めなかったからこそ、学生ハーフの時とは打って変わって、前半からリードを奪う策に出た。 まさに変幻自在。自分の状態に合わせたレースプランを立てて、しっかりと結果を残す――。工藤は勝負勘に長けた選手だ。 「レースプランは、アバウトですけど、『こういうレースがしたいな』とある程度幅を持たせて考えてはいます。それがうまくいくことがこの1年は多かったなと思っています」と自身も振り返る。

圧巻だった全日本大学駅伝の8区

[caption id="attachment_194111" align="alignnone"width="800"] 11月の全日本大学駅伝8区で渡辺康幸の日本人最高記録を5秒更新した[/caption] 駅伝シーズンに入ってからも調子は上々だ。出雲駅伝は6区3位。区間賞の青学大・黒田朝日(4年)には30秒以上のタイム差があったが、これは優勝をあきらめずに果敢に前を追った結果だったので仕方がなかった。 圧巻だったのは全日本大学駅伝の8区。6位でタスキを受けた工藤は、自身は「余裕を持って入った」と言うが、序盤からハイペースを刻んだ。そして、早大OBの渡辺康幸さんが持っていた8区の日本人最高記録を30年ぶりに更新。5秒上回る56分54秒をマークし、区間賞に輝いた。順位も、1人を抜いて5位でフィニッシュしている。 「全日本8区で大きな目標としてきた渡辺康幸さんの記録を塗り替えることができたので、良かったです。自分のハーフマラソンの力的には十分達成は可能だと思っていたので、うれしい結果でした」。工藤にとっても会心の走りだった。 工藤は、箱根駅伝の後にマラソン挑戦を表明している。今季はその強化にも取り組んできた。「昨シーズンよりも力がついたと感じるのは、やっぱりマラソンに向けた強化が進んでいるからかなと思います」と強調する。 「ハーフマラソンである程度の結果を出せているので、大きくマラソンに向けて寄せていくのではなく、ハーフで出せるスピードを(マラソンの距離で)持続できたらいいなと思っています。長い距離への耐性をつけるだけでなく、並行して純粋にスピードも強化しているところです」と、冷静に組み立ててきた。 驚くべきは、じっくり走り込んでスタミナを蓄えてきただけでなく、スピードをも磨いてきたこと。出雲、全日本とアンカーを担った工藤について、花田監督は「アンカー勝負になったら勝てる」と自信を口にしていたが、実際に工藤自身もスピード強化に手応えを得ていた。 「今までだったら、ラスト勝負になると100%負けていましたが、今は逆にスプリントの力がついたので勝てています。チーム内では、以前は“鈍足キャラ”だったんですけど、むしろ速い分類になりました。そういった点も地道に強化してきました」と、笑顔をも交えて語る。 山上りの適性、ハーフマラソンで強化してきた高い有酸素能力、そして、今季磨いてきたスピードと、工藤にはいくつも武器があり、明らかに昨シーズン以上にバージョンアップしている。 「自分が2区のパターンも、もちろんゼロではない」と工藤は言うが、花田監督の発言からも、今回も5区が有力。もちろん工藤自身もそのつもりだ。早稲田が目標の総合優勝を果たすには、往路優勝は絶対条件だろう。さらには、往路でアドバンテージを得る必要もある。工藤には、その役割を果たす覚悟がある。 「チームにとって自分が一番必要とされるところはやっぱり山(5区)だと思っています。山は一番差をつけやすい区間だと思うので、自分が、ストロングポイントとして活躍できればと思います。区間賞を目標にしたいですし、区間賞を取るには区間新を出さないといけないと思います。区間新を狙っていくことを意識していきたいです」 ロードで快進撃を続ける工藤が、箱根の山でも新たな伝説を作るかもしれない。 文/和田悟志

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