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2020.02.06

【学生駅伝ストーリー】相澤晃を育てた「ガクセキ・メソッド」と東洋大での4年間
【学生駅伝ストーリー】相澤晃を育てた「ガクセキ・メソッド」と東洋大での4年間

箱根駅伝2区で衝撃の区間新記録を樹立した相澤晃(東洋大、左)。伊藤達彦(東京国際大)とのデッドヒートは100年の箱根史上に残る名勝負に

正月の箱根駅伝でMVPに選出された東洋大の相澤晃(4年)。大学3年時の全日本大学駅伝から4年目の箱根まで学生三大駅伝5大会連続区間賞と、その実力は圧倒的だ。高校時代はそこまで目立つ存在ではなかった相澤は、いかにして“学生長距離界のエース”となったのか。その成長の要因を探った。

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“土台”を構築した高校時代のスピード強化

箱根駅伝のエース区間である“花の2区”(23.1km)で、「1時間5分57秒」の区間新記録を樹立した相澤。そのタイムは前年に塩尻和也(順大、現・富士通)が樹立した日本人最高記録(1時間6分45秒)をはるかに飛び越え、“不滅の記録”と称されたメグボ・ジョブ・モグス(山梨学大)の区間記録(1時間6分04秒、09年)さえも上回った。

相澤は今回の成績について、「(20km過ぎまで並走した)伊藤君(達彦、東京国際大4年)と競ることができたのが大きかった」と謙遜するが、史上最強留学生と呼ばれたモグスさえ届かなかった「1時間5分台」を出した事実は、あまりにも衝撃的だった。

「前半から積極的に飛ばしていくのが僕の持ち味。20kmの通過で時計を見た時に56分51秒だったので、区間記録が出ると確信しました」

相澤は1964年東京五輪男子マラソン銅メダリスト・円谷幸吉と同じ福島県須賀川市出身。中学時代は地元の「円谷ランナーズ」に所属し、後に同じ高校へ進むことになる阿部弘輝(現・明大)もチームメイトだった。相澤はそこでメキメキと力をつけ、3年時には全中10位という結果を残した。

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卒業後は地元の長距離の名門・学法石川高へ進学。かつて中大時代に箱根駅伝総合優勝に貢献した松田和宏先生の指導を受け、高校生としては全国トップレベルである5000m13分台(13分54秒75)に突入した。

学法石川高時代の恩師である松田和宏先生とツーショット

相澤の強さの“土台”を作ったのは、高校時代のトレーニングだと言っていい。

当時の学法石川高のトレーニングは、高校長距離ではかなり異質だった。ロードを走ることはほぼなく、駅伝前でもトラックでのスピード練習ばかり。

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例えば1000m×5本のインターバル走を「2分40秒」という実際のレースよりもかなり速いペースで実施したり、400m×2本を全力で走るだけの日があったりと、まるで中距離ランナーのようなメニューが中心だった。

これには松田先生の育成方針が反映されている。

「スピードや神経系のトレーニングは若いうちにしかつかないと思っています。なるべく早い段階でスピードをつけ、大学や実業団に行ってから持久系のトレーニングをしていくのが理想的なトレーニングの仕方だと思っています」

高校時代は「3年間のうち半分くらいは故障していました」と話す相澤は、インターハイには出場していない。それでも高校3年時には5000mで13分台(13分54秒75)をマーク。同期の阿部、1学年下の遠藤日向(現・住友電工)とともに高校陸上界で初の13分台トリオとして注目を集めた。

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「鉄紺軍団」で“世界”を目指すエースに成長

高校卒業後は東京五輪男子マラソン代表に内定した服部勇馬(トヨタ自動車)や、マラソン前日本記録保持者の設楽悠太(Honda)らトップ選手を輩出した東洋大に進学する。

1年目はすね(シンスプリント)、腸脛靭帯、膝などを痛め、さらに、トラックでのスピード練習ばかりだった高校時代とは違い、ロードでの距離走が多い大学での練習に慣れるのに時間がかかった。

それでも、トレーニングを消化できるようになると、相澤は進化を発揮する。

「高校の時は、東洋大で実施するスピード練習よりも速い設定だったので、ゆとりを持って大学での練習に取り組めるようになりました。それに加え、大学ではロードの練習が増えて、それが噛み合ってきたことが自分の成長につながっているのかなと思います」

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1年時は11月の上尾ハーフでU20日本歴代3位の1時間2分05秒をマーク。12月にノロウイルスに感染した影響で箱根駅伝出場は逃したものの、2年時には全日本大学駅伝で1区区間賞を獲得すると、箱根駅伝のエース区間である2区で区間3位(1時間7分18秒)の好走を見せた。

「1年目は先輩たちの練習についていくので必死でしたが、2年目には自分で練習を引っ張ることが増えました。エースとまではいかないですけど、チームの中心になろうと思って練習をしたことで、結果が出るようになってきました」

3年時からは東洋大のエースとして君臨し、学生三大駅伝では同年の全日本大学駅伝から4年目の箱根駅伝まで5大会連続で区間賞を獲得。うち4度が区間新という強烈なインパクトを残した。

特に4年目はチームの主将を努め、精神的な成長も大きかった。

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実は恩師である松田先生は、相澤のキャプテン就任を「予想外だった」と明かす。

「相澤たちの学年はとにかく活発な子が多かったのですが、彼はおとなしくて学年内では目立っていませんでした。そんな相澤が東洋大のキャプテンをやると聞いた時はびっくりしました。(1月の)都道府県対抗駅伝で福島県チームとして戻ってきた時は、自ら進んで手を挙げ、後輩たちの前で発言していて、そういった姿を見た時に『相澤も成長したな』と感じました。人間的な成長が自信につながり、それが走りにも表れているのかなと思います」

高校3年時は全国高校駅伝で優勝候補に推されながらも7位。写真は3区の遠藤日向(現・住友電工)から4区の相澤への中継シーン

相澤自身も、「キャプテンを任されて考え方が変わりましたし、『もっと周りを見なくてはいけない』と思えたことが成長のきっかけになったと思います。酒井(俊幸)監督もそういう想いを込めてキャプテンに任命してくれたと思いますので、それに応えたいという気持ちがありました」と学生最終シーズンを振り返る。

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大学卒業後は名門・旭化成に進み、東京五輪の10000m代表を射止めるため、春先から記録を狙いに行く。

「まずは日本選手権クロカン(2月22日、福岡・海の中道海浜公園)で3位以内に入ること。そのあと4月、5月、6月と大事な試合が続くので、1本1本、日本人トップを最低条件として、27分40秒~50秒をターゲットにしてやっていきたいです」

「学生長距離界のエース」から「日本のエースへ」――。

相澤晃の進化はまだまだ止まらない。

文/松永貴允

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“土台”を構築した高校時代のスピード強化

箱根駅伝のエース区間である“花の2区”(23.1km)で、「1時間5分57秒」の区間新記録を樹立した相澤。そのタイムは前年に塩尻和也(順大、現・富士通)が樹立した日本人最高記録(1時間6分45秒)をはるかに飛び越え、“不滅の記録”と称されたメグボ・ジョブ・モグス(山梨学大)の区間記録(1時間6分04秒、09年)さえも上回った。 相澤は今回の成績について、「(20km過ぎまで並走した)伊藤君(達彦、東京国際大4年)と競ることができたのが大きかった」と謙遜するが、史上最強留学生と呼ばれたモグスさえ届かなかった「1時間5分台」を出した事実は、あまりにも衝撃的だった。 「前半から積極的に飛ばしていくのが僕の持ち味。20kmの通過で時計を見た時に56分51秒だったので、区間記録が出ると確信しました」 相澤は1964年東京五輪男子マラソン銅メダリスト・円谷幸吉と同じ福島県須賀川市出身。中学時代は地元の「円谷ランナーズ」に所属し、後に同じ高校へ進むことになる阿部弘輝(現・明大)もチームメイトだった。相澤はそこでメキメキと力をつけ、3年時には全中10位という結果を残した。 卒業後は地元の長距離の名門・学法石川高へ進学。かつて中大時代に箱根駅伝総合優勝に貢献した松田和宏先生の指導を受け、高校生としては全国トップレベルである5000m13分台(13分54秒75)に突入した。 学法石川高時代の恩師である松田和宏先生とツーショット 相澤の強さの“土台”を作ったのは、高校時代のトレーニングだと言っていい。 当時の学法石川高のトレーニングは、高校長距離ではかなり異質だった。ロードを走ることはほぼなく、駅伝前でもトラックでのスピード練習ばかり。 例えば1000m×5本のインターバル走を「2分40秒」という実際のレースよりもかなり速いペースで実施したり、400m×2本を全力で走るだけの日があったりと、まるで中距離ランナーのようなメニューが中心だった。 これには松田先生の育成方針が反映されている。 「スピードや神経系のトレーニングは若いうちにしかつかないと思っています。なるべく早い段階でスピードをつけ、大学や実業団に行ってから持久系のトレーニングをしていくのが理想的なトレーニングの仕方だと思っています」 高校時代は「3年間のうち半分くらいは故障していました」と話す相澤は、インターハイには出場していない。それでも高校3年時には5000mで13分台(13分54秒75)をマーク。同期の阿部、1学年下の遠藤日向(現・住友電工)とともに高校陸上界で初の13分台トリオとして注目を集めた。

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