2021.10.15
一昨年に三段跳でU20日本記録を42年ぶりに塗り替えた伊藤陸(近大高専)が、90回目を迎えた日本インカレで再び扉を開いた。大会初日の走幅跳で8m05(+1.5)の自己ベストで制すと、最終日の三段跳では学生初の17m超えとなる17m00(+1.3)をマーク。1985年に山下訓
史(筑波大)が作った最古の大会記録を塗り替え、石川和義(筑波大)が2004年に作った16m98を更新する学生新記録、日本人3人目の大台到達を果たした。日本インカレでは41年ぶりとなる走幅跳・三段跳の2冠。日本人初の8m&17mを跳んだマルチジャンパーとして歴史にそ
の名を刻むこととなった。大会から数日後、「徐々に実感が湧いてきました」と言う20歳に話しを聞いた。
構成/花木 雫 撮影/弓庭保夫
春は走幅跳中心、夏から三段跳にシフト
昨年の日本インカレで前年に作ったU20日本記録(16m34)を1㎝更新する16m35(-0.1)をマークし、走幅跳でも7m75を跳んで3位に食い込んでいた伊藤。続く日本選手権では走幅跳で3位(7m75)、三段跳でも4位(16m00)と健闘していた。
そんな伊藤が2021年シーズンを迎えるにあたり選んだのが走幅跳。東京五輪、そして中止となったが地元・三重国体をにらんでの選択だった。2019年に7m82を跳んでいる伊藤だが、2020年シーズンに記録した7m88は追い風参考のため日本選手権の参加標準記録に未到達だった。そのため、今年2月末のJapan Athlete Games in Osakiから始動し、走幅跳は5月の東海インカレまで8戦を要し、ようやく7m85を跳んで日本選手権の標準記録を突破。勢いそのままに6月の日本学生個人選手権で、8m00(+1.5)をマークして8mジャンパーの仲間入りを果たしていた。
――まずはインカレに向けてのコンディション、過程について教えてください。
伊藤 6月の日本選手権までは、東京五輪により近いと感じていた走幅跳に専念していました。コロナ禍で、昨年は試合が限られていたこともあり、日本選手権の標準記録(7m80)を突破できていなかったので、シーズン前半は、まずはそれをクリアしなければいけませんでした。そのため、試合過多の状況となってしまったと思います。追い込んだ練習ができず、学生個人で一つの目標だった8mを跳ぶことはできましたが、結果的に日本選手権の頃にはガス欠という状態でした。
前半戦の反省もあって、日本選手権以降は、三段跳との2種目でしっかり挑んでいく本来の自分のスタイルに戻して取り組んできました。五輪へのチャレンジがひと段落したことで肩の荷も下りたというか、いつも通りのかたちで大会前であってもしっかり跳躍練習で追い込むことができたのが今回の結果につながったと思います。
――三段跳の練習はいつ頃から再開しましたか?
伊藤 7月に入ってからです。夏まであまり練習ができていなかったこともあって、新鮮な気持ちで取り組めたのが良かったと思います。初心に帰ってイチから積み上げられた実感があります。走幅跳で8m跳べたことで走力を含めたベースアップが図れていることは自覚できていたので、それをどう三段跳につなげていくかというのが大きなテーマでした。
日本インカレで16m後半を目標にしていたので、そのためには練習の中助走で16mを超えるのが一つの目安でした。練習でしっかり自信をつけた上で試合に臨みたかったので、練習の質、基準をワンランク上げて取り組んできました。
―― 中助走で、普段はどれぐらい跳んでいたのでしょう。
伊藤 普段の練習の中助走で、しっかり着地まで持っていけることが少なかったです。1本1本集中して、着地までまとめることを意識して跳ぶようにしていました。以前は15m中盤が跳べればいいほうでしたね。
今回、練習で16mには一度も届きませんでしたが、中助走で安定して15m後半を跳べるようになっていたのでベストを更新する手応えを持って挑むことができました。
ここ2年間の取り組みがかたちになった
東京五輪代表選考会という特別な舞台を経験するために、無理をしてでも走幅跳に絞った日本選手権。結果は7m70の8位にとどまったが、その過程での経験が伊藤をひと回り大きくしたと言える。
万全の状態で臨んだ3度目の日本インカレ。初日に走幅跳、そして中1日で三段跳というスケジュールに臨んだ。
―― 走幅跳について、調子はどうだったのでしょう。
伊藤 8月末に国体が中止となったこともあり、三段跳の練習ばかりしていて、2冠というよりは三段跳で16m後半を跳ぶことに集中しようと思っていました。でも、そのあたりが練習の集中力にも影響したのか、松尾(大介)先生から「出るからには中途半端ではいけない」と指摘され、気持ちを入れ直しました。インカレの1週間前ぐらいから走幅跳の練習をしましたが、三段跳のトレーニングが生きて、いい感触を持って大会に臨めました。先行される展開で、8mを超えても最後まで勝てるかわからない苦しい試合でしたが初優勝できてホッとしました。
この続きは2021年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
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一昨年に三段跳でU20日本記録を42年ぶりに塗り替えた伊藤陸(近大高専)が、90回目を迎えた日本インカレで再び扉を開いた。大会初日の走幅跳で8m05(+1.5)の自己ベストで制すと、最終日の三段跳では学生初の17m超えとなる17m00(+1.3)をマーク。1985年に山下訓
史(筑波大)が作った最古の大会記録を塗り替え、石川和義(筑波大)が2004年に作った16m98を更新する学生新記録、日本人3人目の大台到達を果たした。日本インカレでは41年ぶりとなる走幅跳・三段跳の2冠。日本人初の8m&17mを跳んだマルチジャンパーとして歴史にそ
の名を刻むこととなった。大会から数日後、「徐々に実感が湧いてきました」と言う20歳に話しを聞いた。
構成/花木 雫 撮影/弓庭保夫
春は走幅跳中心、夏から三段跳にシフト
昨年の日本インカレで前年に作ったU20日本記録(16m34)を1㎝更新する16m35(-0.1)をマークし、走幅跳でも7m75を跳んで3位に食い込んでいた伊藤。続く日本選手権では走幅跳で3位(7m75)、三段跳でも4位(16m00)と健闘していた。 そんな伊藤が2021年シーズンを迎えるにあたり選んだのが走幅跳。東京五輪、そして中止となったが地元・三重国体をにらんでの選択だった。2019年に7m82を跳んでいる伊藤だが、2020年シーズンに記録した7m88は追い風参考のため日本選手権の参加標準記録に未到達だった。そのため、今年2月末のJapan Athlete Games in Osakiから始動し、走幅跳は5月の東海インカレまで8戦を要し、ようやく7m85を跳んで日本選手権の標準記録を突破。勢いそのままに6月の日本学生個人選手権で、8m00(+1.5)をマークして8mジャンパーの仲間入りを果たしていた。 ――まずはインカレに向けてのコンディション、過程について教えてください。 伊藤 6月の日本選手権までは、東京五輪により近いと感じていた走幅跳に専念していました。コロナ禍で、昨年は試合が限られていたこともあり、日本選手権の標準記録(7m80)を突破できていなかったので、シーズン前半は、まずはそれをクリアしなければいけませんでした。そのため、試合過多の状況となってしまったと思います。追い込んだ練習ができず、学生個人で一つの目標だった8mを跳ぶことはできましたが、結果的に日本選手権の頃にはガス欠という状態でした。 前半戦の反省もあって、日本選手権以降は、三段跳との2種目でしっかり挑んでいく本来の自分のスタイルに戻して取り組んできました。五輪へのチャレンジがひと段落したことで肩の荷も下りたというか、いつも通りのかたちで大会前であってもしっかり跳躍練習で追い込むことができたのが今回の結果につながったと思います。
――三段跳の練習はいつ頃から再開しましたか?
伊藤 7月に入ってからです。夏まであまり練習ができていなかったこともあって、新鮮な気持ちで取り組めたのが良かったと思います。初心に帰ってイチから積み上げられた実感があります。走幅跳で8m跳べたことで走力を含めたベースアップが図れていることは自覚できていたので、それをどう三段跳につなげていくかというのが大きなテーマでした。
日本インカレで16m後半を目標にしていたので、そのためには練習の中助走で16mを超えるのが一つの目安でした。練習でしっかり自信をつけた上で試合に臨みたかったので、練習の質、基準をワンランク上げて取り組んできました。
―― 中助走で、普段はどれぐらい跳んでいたのでしょう。
伊藤 普段の練習の中助走で、しっかり着地まで持っていけることが少なかったです。1本1本集中して、着地までまとめることを意識して跳ぶようにしていました。以前は15m中盤が跳べればいいほうでしたね。
今回、練習で16mには一度も届きませんでしたが、中助走で安定して15m後半を跳べるようになっていたのでベストを更新する手応えを持って挑むことができました。
ここ2年間の取り組みがかたちになった
東京五輪代表選考会という特別な舞台を経験するために、無理をしてでも走幅跳に絞った日本選手権。結果は7m70の8位にとどまったが、その過程での経験が伊藤をひと回り大きくしたと言える。 万全の状態で臨んだ3度目の日本インカレ。初日に走幅跳、そして中1日で三段跳というスケジュールに臨んだ。 ―― 走幅跳について、調子はどうだったのでしょう。 伊藤 8月末に国体が中止となったこともあり、三段跳の練習ばかりしていて、2冠というよりは三段跳で16m後半を跳ぶことに集中しようと思っていました。でも、そのあたりが練習の集中力にも影響したのか、松尾(大介)先生から「出るからには中途半端ではいけない」と指摘され、気持ちを入れ直しました。インカレの1週間前ぐらいから走幅跳の練習をしましたが、三段跳のトレーニングが生きて、いい感触を持って大会に臨めました。先行される展開で、8mを超えても最後まで勝てるかわからない苦しい試合でしたが初優勝できてホッとしました。 この続きは2021年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。RECOMMENDED おすすめの記事
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