名実ともに、日本スプリント界のエースに――。男子100m決勝、山縣亮太(セイコー)が9秒95(+2.0)の日本新記録を打ち立てた。
スタートから多田修平(住友電工)がリードし、山縣が追う展開。多田と山縣が力を引き出すような激しいバトルが繰り広げられる。
だが、80m付近で山縣ややリードを奪うと、そのままフィニッシュ。その時、フィニッシュタイマーに刻まれたタイムに、有観客のスタンドがどよめいた。「9.97」。サニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)が、フロリダ大時代の2019年の全米学生選手権で出した日本記録と同じタイムが表示されたのだ。
思わずといった感じでガッツポーズが出た山縣。そこから、正式記録が表示されるまでに、少し間があった。風速も出ない。日本新なのか、日本人4人目の9秒台なのか、それとも追い風参考なのか――。
そして、その瞬間が訪れた。「9.95」。風は公認ギリギリの追い風2.0m。ついに日本人4人目の9秒台スプリンターの仲間入りを果たしただけでなく、「日本記録保持者」に。これまで、日本のエースと称されながら、なかなか記録を手に入れられなかった男が、名実ともに日本スプリント界の頂点に立った。
「9秒台をずっと出したいと思ってやってきた。今日出せて良かった。いつも近くで支えてくれるチームメイトがすごく力になった。」
その言葉に、さまざまな思いが乗っていた。
これまで、10秒00が2度、10秒01が今大会の予選を含めて2回。9秒の壁がなかなか越えられなかった。
その中で、2019年以降は腰や背中、肺気胸、足首の靭帯断裂など、さまざまな困難が山縣に襲い掛かった。20代後半に差し掛かったアスリートとしては、あきらめてもおかしくない場面は何度もあっただろう。
それでも山縣は、前を見続けた。雌伏の時を経て、今季、見事に復活。4月末の織田記念を10秒15で制し、雨と強烈な向かい風だった5月5日の水戸国際を挟んで、この大会に臨んだ。
第一目標は3大会連続の五輪代表入りのために最低限必要だった五輪参加標準記録(10秒05)を突破すること。それは予選でクリアし、「肩の荷が下りた」。
あとは決勝をどう走るか。「五輪を狙ううえで、勝負という意味でも外せない大会と思っていた」という山縣。予選で追い風参考ながら10秒01(+2.6)をマークした桐生祥秀(日本生命)は決勝を棄権したが、多田、小池祐貴(住友電工)、ケンブリッジ飛鳥(Nike)ら、ライバルたちに勝っておくことは何よりも大事。今できる自分の走りを出し切ることに集中し、それを見事にやってのけ、完全復活を日本中にアピールした。
五輪の舞台で必ず輝いてきた。過去2回は、いずれも準決勝に進出し、予選なり、準決勝なりで自己新をマーク。4×100mリレーでも1走として12年ロンドンでは4位、リオでは銀メダル獲得の原動力となった。1年延期された五輪イヤーで再び輝くための準備は、整った。
サニブラウン、小池祐貴(住友電工)、桐生祥秀(日本生命)に続き、4人目の五輪標準突破者にもなった山縣。今大会2位ながら日本歴代6位の10秒01で標準突破を果たした多田を含む5人のうち、日本選手権で3位以内に入った者が代表内定となる。史上空前の争いとなるのは間違いないが、もう山縣の自信は揺るがない。
「日本選手権で3番に入って、五輪の権利を得たい。勝負を五輪だと思っているので、そこに向けてがんばりたい」
悲願の9秒台は成し遂げた。次はもう1つの悲願「五輪のファイナル」をつかみにいく。
■男子100m日本歴代10傑
9.95 2.0 山縣 亮太(セイコー) 2021. 6. 6
9.97 0.8 サニブラウン・A・ハキーム 2019. 6. 7
9.98 1.8 桐生 祥秀(東洋大4) 2017. 9. 9
9.98 0.5 小池 祐貴(住友電工) 2019. 7.20
10.00 1.9 伊東 浩司(富士通) 1998.12.13
10.01 2.0 多田 修平(住友電工) 2021. 6. 6
10.02 2.0 朝原 宣治(大阪ガス) 2001. 7.13
10.03 1.8 末續 慎吾(ミズノ) 2003. 5. 5
10.03 1.0 ケンブリッジ飛鳥(Nike) 2020. 8.29
10.07 1.9 江里口匡史(早大3) 2009. 6.28

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