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2025.09.20

【高平慎士の視点】ライルズ圧勝のカギは準決勝の19秒51 日本勢は「19秒8」を持ち、着順通過想定の勝負を/東京世界陸上
【高平慎士の視点】ライルズ圧勝のカギは準決勝の19秒51  日本勢は「19秒8」を持ち、着順通過想定の勝負を/東京世界陸上

男子200mはライルズが4連覇を達成した

9月19日に行われた東京世界陸上7日目の男子200m決勝。ノア・ライルズ(米国)が19秒52(±0)で制し、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)に並ぶ史上2人目の4連覇を達成した。日本勢は鵜澤飛羽(JAL)が準決勝に進出したものの、20秒23(-0.1)で6着にとどまり、日本人3人目のファイナル進出は果たせなかった。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。

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ノア・ライルズ選手が勝つと予想してはいましたが、100mで負けた流れがあり、ライルズの大会ではない可能性もあるとも考えていました。その中で、決勝もそうですが、予選、準決勝を含めた200m全体としてライルズ選手の強さが際立ちました。

特に準決勝。2組で21歳のブライアン・レヴェル選手(ジャマイカ)が19秒78(±0)をマークするなか、3組のライルズ選手は19秒51(+1.0)を叩き出した。準決勝ではおよそ考えられない、クレイジーとも言えるようなタイムですが、レヴェル選手や他の選手たちに自身の存在感を強烈に意識させる意図があったと思います。「ライルズには勝てないんじゃないか」と。

結果、決勝では前半こそやや後れを取りましたが、コーナーを抜けてから並ぶと、他を圧倒しました。ライルズ選手が19秒52(±0)、2位のケネス・ベドナレク選手(米国)が世界歴代9位の自己記録に0.01秒と迫る19秒58、3位のレヴェル選手が自己新の19秒64をマークし、パリ五輪覇者のレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)が19秒65で4位というハイレベルのレースで抜け出すことができたのは、自分が世界一になるための戦略が奏功したから。タイム差は少なくとも「圧勝」と言える内容だったと言えるでしょう。ライルズ選手自身はタイムを落としましたが、「素晴らしい3本」だったと思います。

200mレースにおけるライルズ選手の強さは、「200mを走り切れること」に尽きます。200mをガス欠ギリギリで走るようなレースはほとんどありません。前半から行き過ぎてもダメだし、行かなかったら足りないということは、どんな選手にもあり得ること。それが250mあっても同じスピードで走れると思わせるほど、その時に必要なエネルギーのさじ加減が非常にうまい選手だと思います。あれだけ高速に身体を動かして間違いがない。どのようにして作り上げていくのか、本当に興味があります。走高跳や棒高跳のバー種目のように、この時に必要なタイムを出すにはこの走り、というものが見えているように思えてなりません。

前述したように、19秒6台を出してもメダルを取れず、決勝進出ラインは19秒98と19秒台を出さないと残れないほど、男子200mはレベルは上がりました。レヴェル選手が21歳、テボゴ選手は22歳。追い風参考で19秒台を出している17歳のガウト・ガウト選手(豪州)らポテンシャルの高い若手が数多く出てきています。2年後の北京世界選手権では、この中からライルズ選手を上回る成長を遂げる選手が出てくる可能性は、もちろんあります。それをライルズ選手がさらに上回り、ボルトを超える5連覇を達成するのか。今後の争いがますます楽しみになりました。

これからさらに進んでいくであろう高速化に対して、日本勢はどう挑んでいけばいいのか。

今回、準決勝のレベルは想定よりも0.2秒近く速いと感じました。鵜澤飛羽選手はその中で、予選(20秒39/±0)を上回る20秒23(-0.1)を出し、勝負をする気概を見せてくれたと思います。しかし、今季あれだけ安定して出せていた20秒1台を出せなかったということは、競り合いの中で出せる力はまだなかったということ。これは本人が一番感じていると思いますし、乗り越えないといけない部分だと思います。

やはり、19秒8台をもって臨み、タイムを落としても通過できるという絵を描いていくこと。プラス通過ではなく着順通過を前提としたパフォーマンスを求めていく必要があるのではないでしょうか。グローバルのレース経験を増やしていくことももちろん大切。日本の最前線にいる選手として、ぜひ道を切り拓いてほしいと思います。

水久保選手はケガがあったシーズンの流れの中で、20秒51(-0.3)のシーズンベストまで持ってきたことは評価できます。20秒14が自分の実力なのか、この舞台に立つことで見えたものがあると思います。それを上回ることで、ぜひ証明してもらいたいです。

飯塚選手はスプリント種目で6大会出場は素晴らしいこと。ただ、それで満足する選手ではなく、今回、自分がどんな結果になるかも想像できるレベルの選手です。それでも、日本代表としての立ち居振る舞いの在り方を見せてくれました。まだまだ、貪欲に上を目指していくでしょうし、その姿を今回出られなかった選手たちが感じて、200m全体のレベルが上がっていくことを願っています。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

9月19日に行われた東京世界陸上7日目の男子200m決勝。ノア・ライルズ(米国)が19秒52(±0)で制し、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)に並ぶ史上2人目の4連覇を達成した。日本勢は鵜澤飛羽(JAL)が準決勝に進出したものの、20秒23(-0.1)で6着にとどまり、日本人3人目のファイナル進出は果たせなかった。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ ノア・ライルズ選手が勝つと予想してはいましたが、100mで負けた流れがあり、ライルズの大会ではない可能性もあるとも考えていました。その中で、決勝もそうですが、予選、準決勝を含めた200m全体としてライルズ選手の強さが際立ちました。 特に準決勝。2組で21歳のブライアン・レヴェル選手(ジャマイカ)が19秒78(±0)をマークするなか、3組のライルズ選手は19秒51(+1.0)を叩き出した。準決勝ではおよそ考えられない、クレイジーとも言えるようなタイムですが、レヴェル選手や他の選手たちに自身の存在感を強烈に意識させる意図があったと思います。「ライルズには勝てないんじゃないか」と。 結果、決勝では前半こそやや後れを取りましたが、コーナーを抜けてから並ぶと、他を圧倒しました。ライルズ選手が19秒52(±0)、2位のケネス・ベドナレク選手(米国)が世界歴代9位の自己記録に0.01秒と迫る19秒58、3位のレヴェル選手が自己新の19秒64をマークし、パリ五輪覇者のレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)が19秒65で4位というハイレベルのレースで抜け出すことができたのは、自分が世界一になるための戦略が奏功したから。タイム差は少なくとも「圧勝」と言える内容だったと言えるでしょう。ライルズ選手自身はタイムを落としましたが、「素晴らしい3本」だったと思います。 200mレースにおけるライルズ選手の強さは、「200mを走り切れること」に尽きます。200mをガス欠ギリギリで走るようなレースはほとんどありません。前半から行き過ぎてもダメだし、行かなかったら足りないということは、どんな選手にもあり得ること。それが250mあっても同じスピードで走れると思わせるほど、その時に必要なエネルギーのさじ加減が非常にうまい選手だと思います。あれだけ高速に身体を動かして間違いがない。どのようにして作り上げていくのか、本当に興味があります。走高跳や棒高跳のバー種目のように、この時に必要なタイムを出すにはこの走り、というものが見えているように思えてなりません。 前述したように、19秒6台を出してもメダルを取れず、決勝進出ラインは19秒98と19秒台を出さないと残れないほど、男子200mはレベルは上がりました。レヴェル選手が21歳、テボゴ選手は22歳。追い風参考で19秒台を出している17歳のガウト・ガウト選手(豪州)らポテンシャルの高い若手が数多く出てきています。2年後の北京世界選手権では、この中からライルズ選手を上回る成長を遂げる選手が出てくる可能性は、もちろんあります。それをライルズ選手がさらに上回り、ボルトを超える5連覇を達成するのか。今後の争いがますます楽しみになりました。 これからさらに進んでいくであろう高速化に対して、日本勢はどう挑んでいけばいいのか。 今回、準決勝のレベルは想定よりも0.2秒近く速いと感じました。鵜澤飛羽選手はその中で、予選(20秒39/±0)を上回る20秒23(-0.1)を出し、勝負をする気概を見せてくれたと思います。しかし、今季あれだけ安定して出せていた20秒1台を出せなかったということは、競り合いの中で出せる力はまだなかったということ。これは本人が一番感じていると思いますし、乗り越えないといけない部分だと思います。 やはり、19秒8台をもって臨み、タイムを落としても通過できるという絵を描いていくこと。プラス通過ではなく着順通過を前提としたパフォーマンスを求めていく必要があるのではないでしょうか。グローバルのレース経験を増やしていくことももちろん大切。日本の最前線にいる選手として、ぜひ道を切り拓いてほしいと思います。 水久保選手はケガがあったシーズンの流れの中で、20秒51(-0.3)のシーズンベストまで持ってきたことは評価できます。20秒14が自分の実力なのか、この舞台に立つことで見えたものがあると思います。それを上回ることで、ぜひ証明してもらいたいです。 飯塚選手はスプリント種目で6大会出場は素晴らしいこと。ただ、それで満足する選手ではなく、今回、自分がどんな結果になるかも想像できるレベルの選手です。それでも、日本代表としての立ち居振る舞いの在り方を見せてくれました。まだまだ、貪欲に上を目指していくでしょうし、その姿を今回出られなかった選手たちが感じて、200m全体のレベルが上がっていくことを願っています。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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