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2020.11.29

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第3回「浮遊する言葉~自粛~ 」
【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第3回「浮遊する言葉~自粛~ 」


山梨学大の上田誠仁監督の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第3回「浮遊する言葉~自粛~ 」

 山梨学院大学の所在地は甲府市の酒折で、市街を一望できる校舎からはこの季節、南アルプスの稜線から霊峰富士の雪渓を見渡すことができる。

 大学からほど近いところに「酒折宮」という神社がある。ここは古事記や日本書紀によると、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)と、かがり火をたいていた老人(御火焼翁・ミヒタキノオキナ)が片歌問答で歌を詠んだことから酒折宮が連歌発祥の地であるとされている。

 このことから山梨学院は1998年より酒折連歌賞を創設し、国内外から多数の応募をいただいている。題目の五・七・七の問いの片歌に対し、応募者は五・七・七に片歌で返し問答を完成させる。(酒折連歌のHP

 私自身も幾度か応募したのだが、わずかの言葉の中に広がる世界観や感情と情景を込めることにかなり腐心したことを思い出す。「言の葉連ねて歌遊び」のキャッチコピーが掲載されたポスターが酒折連歌賞の募集要項と共に貼りだされると、今年の片歌は何かなと見入ってしまう。

 言の葉とは「古今和歌集」仮名序にあるように「ひとのこころをたねとして よろずのことの葉とぞなりけり」と表現している。「葉」とはたくさんという意味であり豊かさを表すと考えられていたといえる。言語はその国の文化であり、その言葉を話し、文章に示す私たちは自分の思いを伝える重要な手段であることは疑う余地はない。

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 前置きが長くなってしまったが今回はその言葉についてである。

 関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)は、間近に迫った箱根駅伝の開催を、幾度の協議と関係諸機関との調整の結果、開催を決定した。その上で、主催者として開催の周知をどのように伝えるかに苦心。まさに言の葉をどのように選ばなければならないかということであり、共催の読売新聞社にもご協力いただきながら協議は長時間に及んだ。

そして、11月5日、関東学連のホームページにて、有吉会長が開催について公式発表をした。(声明文はこちら

 コロナ禍の中にあって多用される“自粛”という言葉。今回の発表で使った自粛の言葉は関東学連加盟校の関係者(部員・教職員・OB・保護者)に向けた言葉だ。

関東学連からのメッセージに込められた想いとは

 沿道での応援・来場の自粛を求めたもので、まず主催者である自分たちが襟を正し、大会運営のために最大限の協力をする姿勢を示すためである。自粛の要請ができるのは自分自身の行いとして語る場合と、加盟校など身内であることが望ましいと考えられるからだ。

 転じて、駅伝ファンの皆様や地域の皆様方に対して、我々はあくまでも協力のお願いと安心安全を担保するための行動指針として、「応援のための外出をお控えいただき、特に沿道やスタート・ フィニッシュ、中継所などでの観戦や応援行為はご遠慮くださいますようお願い申し上げます」との言葉を選んだ。

 前回のコラムに書いたように箱根駅伝を今後も継続して育てていただくには共創が不可欠である。そのためにも、自らを律しながらも周りの方々からは温かく見守っていただきたいという気持ちを込めたかったからである。

自粛”に対しては“要請”という言葉がセットになる。“ご遠慮”に対しては“お願い申し上げます”で締めるのが通例であろう。日本語が育んできた言語文化は、誰もが共有でき共感できるものであってほしいと願っている。

 俳句や短歌・連歌のように決められた文字数の中でも人の感性や四季の移ろいを映し出せる。同じように、コロナ禍に翻弄されながらも97回目を迎える箱根駅伝の歴史と“する・見る・支える”すべての方々に、あの開催決定の発表文章の中から選ばれた言の葉に対する想いを理解し共有していただけたらと願っている。

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。

第2回「With CORONA に思う ~共創なればこその競走~」
第1回「する・見る・支える Withコロナ」

山梨学大の上田誠仁監督の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第3回「浮遊する言葉~自粛~ 」

 山梨学院大学の所在地は甲府市の酒折で、市街を一望できる校舎からはこの季節、南アルプスの稜線から霊峰富士の雪渓を見渡すことができる。  大学からほど近いところに「酒折宮」という神社がある。ここは古事記や日本書紀によると、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)と、かがり火をたいていた老人(御火焼翁・ミヒタキノオキナ)が片歌問答で歌を詠んだことから酒折宮が連歌発祥の地であるとされている。  このことから山梨学院は1998年より酒折連歌賞を創設し、国内外から多数の応募をいただいている。題目の五・七・七の問いの片歌に対し、応募者は五・七・七に片歌で返し問答を完成させる。(酒折連歌のHP)  私自身も幾度か応募したのだが、わずかの言葉の中に広がる世界観や感情と情景を込めることにかなり腐心したことを思い出す。「言の葉連ねて歌遊び」のキャッチコピーが掲載されたポスターが酒折連歌賞の募集要項と共に貼りだされると、今年の片歌は何かなと見入ってしまう。  言の葉とは「古今和歌集」仮名序にあるように「ひとのこころをたねとして よろずのことの葉とぞなりけり」と表現している。「葉」とはたくさんという意味であり豊かさを表すと考えられていたといえる。言語はその国の文化であり、その言葉を話し、文章に示す私たちは自分の思いを伝える重要な手段であることは疑う余地はない。  前置きが長くなってしまったが今回はその言葉についてである。  関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)は、間近に迫った箱根駅伝の開催を、幾度の協議と関係諸機関との調整の結果、開催を決定した。その上で、主催者として開催の周知をどのように伝えるかに苦心。まさに言の葉をどのように選ばなければならないかということであり、共催の読売新聞社にもご協力いただきながら協議は長時間に及んだ。 そして、11月5日、関東学連のホームページにて、有吉会長が開催について公式発表をした。(声明文はこちら)  コロナ禍の中にあって多用される“自粛”という言葉。今回の発表で使った自粛の言葉は関東学連加盟校の関係者(部員・教職員・OB・保護者)に向けた言葉だ。 関東学連からのメッセージに込められた想いとは  沿道での応援・来場の自粛を求めたもので、まず主催者である自分たちが襟を正し、大会運営のために最大限の協力をする姿勢を示すためである。自粛の要請ができるのは自分自身の行いとして語る場合と、加盟校など身内であることが望ましいと考えられるからだ。  転じて、駅伝ファンの皆様や地域の皆様方に対して、我々はあくまでも協力のお願いと安心安全を担保するための行動指針として、「応援のための外出をお控えいただき、特に沿道やスタート・ フィニッシュ、中継所などでの観戦や応援行為はご遠慮くださいますようお願い申し上げます」との言葉を選んだ。  前回のコラムに書いたように箱根駅伝を今後も継続して育てていただくには共創が不可欠である。そのためにも、自らを律しながらも周りの方々からは温かく見守っていただきたいという気持ちを込めたかったからである。 “自粛”に対しては“要請”という言葉がセットになる。“ご遠慮”に対しては“お願い申し上げます”で締めるのが通例であろう。日本語が育んできた言語文化は、誰もが共有でき共感できるものであってほしいと願っている。  俳句や短歌・連歌のように決められた文字数の中でも人の感性や四季の移ろいを映し出せる。同じように、コロナ禍に翻弄されながらも97回目を迎える箱根駅伝の歴史と“する・見る・支える”すべての方々に、あの開催決定の発表文章の中から選ばれた言の葉に対する想いを理解し共有していただけたらと願っている。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。
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