HOME バックナンバー
Rising Star Athlete 古賀友太 世界を見据える紫紺のウォーカー
Rising Star Athlete 古賀友太 世界を見据える紫紺のウォーカー

 大学3年目だった2020年、古賀友太(明大)はロード・トラックで次々と自己記録を更新した。だが、目の前にはいつも、〝大きな壁〟が立ちはだかる。「悔しい」。だからこそ、謙虚に、一歩ずつ成長してきた。今の競歩界において、国内で勝負することは、すなわち世界の頂に近いことを意味する。陸上を始めてからずっと駅伝にあこがれていた男は、紫紺のユニフォームをまとって世界を目指して歩いている。

文/向永拓史 写真/船越陽一郎

広告の下にコンテンツが続きます

トラック2種目で〝日本新〟

 歩いても歩いても、前を行く背中は遠い。古賀友太(明大)にとって自信を深めたと同時に、挫折も味わった2020年だった。

 成長著しい日本競歩陣は、今や世界のトップを歩いている。2019年のドーハ世界選手権では、男子20㎞を山西利和(愛知製鋼)、50㎞を鈴木雄介(富士通)が、それぞれ金メダルを獲得。すでに東京五輪の男子代表は2種目6人中、50㎞の残り1枠を除いて内定済み。その中には、池田向希(20㎞)、川野将虎(50㎞)という2人の東洋大生がいるため、同じく学生の古賀の存在はどうしても陰に隠れてしまっている。

「大学に入ってから、ずっと大きな壁なんです」

広告の下にコンテンツが続きます

 そう言う古賀も、高校時代からインターハイを制すなどエリート街道を〝歩いて〟きたホープだ。身長177㎝の大型ウォーカーは、昨秋の順大競技会では、10月25日に5000mで18分26秒70、11月14日の10000mでも37分35秒0をマーク。これはいずれも従来の日本記録を上回るもの。だが、古賀はどちらも「日本記録保持者」「学生記録保持者」の肩書きを持っていない。

「9月の日本インカレ(10000m)で、池田さんに周回遅れにされて、圧倒的な差を見せつけられました(2位)。情けない姿を見せたので、何としても勝ちたいと思っていました」

 だが、やはり池田のほうが一枚も二枚もうわてだった。5000mでは「最初から差がつくようなレースになって、僕は川野さんにつきました」。ラスト1000mで仕掛けて川野には先着したものの、アジア最高記録(18分20秒14)で歩いた池田からは6秒も離された。

 一方、10000mでは違ったかたちのレースを見せる。「5000mの悔しさがあって、後先を考えずに行けるところまで先頭で行く」。

 序盤は池田が前に出たが、古賀は20㎞東京五輪代表の髙橋英輝(富士通)とともに追いかけ、6000m過ぎまで1000mを3分45秒ペースで歩いた。そのまま池田について行く判断もできたが、「このレースではこれまでの自分と変わらない。殻を破りたかったんです」と、9000m付近まで先頭を引っ張る展開。

 五輪代表2人の前に出た。

「もちろん、ラストは2人とも力を残していらっしゃったのはわかっていたので、準備していましたが、反応できませんでした」

 一気にスパートをかけた2人に屈し、髙橋が37分25秒21、池田が37分25秒90という接戦を、古賀は10秒ほど後ろで見守ることしかできなかった。上位3人が世界最高記録(37分53秒09:F.J.フェルナンデス/スペイン、2008年)を上回る快記録にも、「記録面では2種目とも良かったですが、終わってみれば日本記録も学生記録も残らないので、悔しさのほうが大きいです」と振り返る。それでも、「これまで自分ができない展開でしたし、世界トップレベルの選手の前を歩くことができたのは自信になりました」と、大きな収穫を手にしたレースでもあった。

リハビリで競歩人生がスタート

福岡・大牟田高時代は3年時にインターハイを制覇(左端が古賀)

 福岡・前原東中時代、全国大会には出場できず、800mや1500mで県大会の入賞一歩手前にいる選手だった。そんな古賀が進学したのが大牟田高。全国高校駅伝で5度の優勝を誇る名門中の名門だ。もちろん、古賀も「都大路を走りたくて入学しました」。だが、1年の冬、そして2年の春と、脛骨の疲労骨折やシンスプリントなど立て続けに故障。赤池健先生からリハビリとして動きを取り入れようと勧められたのが競歩だった。

「その時の先輩もケガのため競歩をしていたので、教えてもらいながら始めました。股関節の可動域を広げたり、身体のバランスを整えたりするのが狙いです。もちろん、走りにつなげるためでした」

 競歩は長距離ランナーが故障によるリハビリがきっかけで始める選手が多い。ただ、歩いているうちに、思ったよりもタイムが良く、「これはちょっとおもしろいぞ」と赤池先生は目を見張った。古賀もまた、「ポンポンとタイムが更新できて、フォームを考える面など奥深さを感じて、段々とおもしろく感じるようになりました」と言う。

 すると、2年目にはあれよあれよとインターハイへ駒を進めた。初めての全国では決勝で失格に終わったが、秋には5000mで高2歴代5位となる20分12秒59をマーク。3年時の山形インターハイではついに頂点に立った。

この続きは2021年1月14日発売の『月刊陸上競技2月号』をご覧ください。

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

 大学3年目だった2020年、古賀友太(明大)はロード・トラックで次々と自己記録を更新した。だが、目の前にはいつも、〝大きな壁〟が立ちはだかる。「悔しい」。だからこそ、謙虚に、一歩ずつ成長してきた。今の競歩界において、国内で勝負することは、すなわち世界の頂に近いことを意味する。陸上を始めてからずっと駅伝にあこがれていた男は、紫紺のユニフォームをまとって世界を目指して歩いている。 文/向永拓史 写真/船越陽一郎

トラック2種目で〝日本新〟

 歩いても歩いても、前を行く背中は遠い。古賀友太(明大)にとって自信を深めたと同時に、挫折も味わった2020年だった。  成長著しい日本競歩陣は、今や世界のトップを歩いている。2019年のドーハ世界選手権では、男子20㎞を山西利和(愛知製鋼)、50㎞を鈴木雄介(富士通)が、それぞれ金メダルを獲得。すでに東京五輪の男子代表は2種目6人中、50㎞の残り1枠を除いて内定済み。その中には、池田向希(20㎞)、川野将虎(50㎞)という2人の東洋大生がいるため、同じく学生の古賀の存在はどうしても陰に隠れてしまっている。 「大学に入ってから、ずっと大きな壁なんです」  そう言う古賀も、高校時代からインターハイを制すなどエリート街道を〝歩いて〟きたホープだ。身長177㎝の大型ウォーカーは、昨秋の順大競技会では、10月25日に5000mで18分26秒70、11月14日の10000mでも37分35秒0をマーク。これはいずれも従来の日本記録を上回るもの。だが、古賀はどちらも「日本記録保持者」「学生記録保持者」の肩書きを持っていない。 「9月の日本インカレ(10000m)で、池田さんに周回遅れにされて、圧倒的な差を見せつけられました(2位)。情けない姿を見せたので、何としても勝ちたいと思っていました」  だが、やはり池田のほうが一枚も二枚もうわてだった。5000mでは「最初から差がつくようなレースになって、僕は川野さんにつきました」。ラスト1000mで仕掛けて川野には先着したものの、アジア最高記録(18分20秒14)で歩いた池田からは6秒も離された。  一方、10000mでは違ったかたちのレースを見せる。「5000mの悔しさがあって、後先を考えずに行けるところまで先頭で行く」。  序盤は池田が前に出たが、古賀は20㎞東京五輪代表の髙橋英輝(富士通)とともに追いかけ、6000m過ぎまで1000mを3分45秒ペースで歩いた。そのまま池田について行く判断もできたが、「このレースではこれまでの自分と変わらない。殻を破りたかったんです」と、9000m付近まで先頭を引っ張る展開。  五輪代表2人の前に出た。 「もちろん、ラストは2人とも力を残していらっしゃったのはわかっていたので、準備していましたが、反応できませんでした」  一気にスパートをかけた2人に屈し、髙橋が37分25秒21、池田が37分25秒90という接戦を、古賀は10秒ほど後ろで見守ることしかできなかった。上位3人が世界最高記録(37分53秒09:F.J.フェルナンデス/スペイン、2008年)を上回る快記録にも、「記録面では2種目とも良かったですが、終わってみれば日本記録も学生記録も残らないので、悔しさのほうが大きいです」と振り返る。それでも、「これまで自分ができない展開でしたし、世界トップレベルの選手の前を歩くことができたのは自信になりました」と、大きな収穫を手にしたレースでもあった。

リハビリで競歩人生がスタート

福岡・大牟田高時代は3年時にインターハイを制覇(左端が古賀)  福岡・前原東中時代、全国大会には出場できず、800mや1500mで県大会の入賞一歩手前にいる選手だった。そんな古賀が進学したのが大牟田高。全国高校駅伝で5度の優勝を誇る名門中の名門だ。もちろん、古賀も「都大路を走りたくて入学しました」。だが、1年の冬、そして2年の春と、脛骨の疲労骨折やシンスプリントなど立て続けに故障。赤池健先生からリハビリとして動きを取り入れようと勧められたのが競歩だった。 「その時の先輩もケガのため競歩をしていたので、教えてもらいながら始めました。股関節の可動域を広げたり、身体のバランスを整えたりするのが狙いです。もちろん、走りにつなげるためでした」  競歩は長距離ランナーが故障によるリハビリがきっかけで始める選手が多い。ただ、歩いているうちに、思ったよりもタイムが良く、「これはちょっとおもしろいぞ」と赤池先生は目を見張った。古賀もまた、「ポンポンとタイムが更新できて、フォームを考える面など奥深さを感じて、段々とおもしろく感じるようになりました」と言う。  すると、2年目にはあれよあれよとインターハイへ駒を進めた。初めての全国では決勝で失格に終わったが、秋には5000mで高2歴代5位となる20分12秒59をマーク。3年時の山形インターハイではついに頂点に立った。 この続きは2021年1月14日発売の『月刊陸上競技2月号』をご覧ください。
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.09.16

DAY3は延べ8万6000人超が国立へ イブニングセッション3日連続5万超で大きな熱気/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京2025世界陸上財団は9月15日、東京世界陸上3日目(DAY3)のモーニングセッションとイブニングセッションの入場者数(15日21日時点の速報値)を発表した。 […]

NEWS 3000m障害・三浦龍司が2大会連続入賞 女子は齋藤みうが日本新 マラソン・近藤亮太は11位/世界陸上Day3

2025.09.16

3000m障害・三浦龍司が2大会連続入賞 女子は齋藤みうが日本新 マラソン・近藤亮太は11位/世界陸上Day3

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目が行われ、イブニングセッションの男子3000m障害では三浦龍司(SUBARU)が8分35秒90で8位に入った。23年ブダペスト大会に続く、2大会連 […]

NEWS 3000m障害・三浦龍司「金メダル見えた」ケガ、接触乗り越えつかんだ価値ある8位/東京世界陸上

2025.09.16

3000m障害・三浦龍司「金メダル見えた」ケガ、接触乗り越えつかんだ価値ある8位/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目のイブニングセッションに行われた男子3000m障害で、三浦龍司(SUBARU)が8分35秒90で2大会連続入賞となる8位に入った。 明確にメダルを […]

NEWS デュプランティス「今夜は最高のスタジアムだった」 自身14度目の世界新で6m30到達!/東京世界陸上

2025.09.16

デュプランティス「今夜は最高のスタジアムだった」 自身14度目の世界新で6m30到達!/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上の3日目が行われ、男子棒高跳のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が6m30の世界新記録を樹立し、大会3連覇を達成した。 「想像以上に素晴らしい […]

NEWS 100mH福部真子「もう終わりなのかな」からたどり着いた涙のセミファイナル/東京世界陸上

2025.09.16

100mH福部真子「もう終わりなのかな」からたどり着いた涙のセミファイナル/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)3日目 東京世界陸上3日目のイブニングセッションに行われた女子100m準決勝に出場した福部真子(日本建設工業)は、13秒06(-0.5)の組7着だった。 スタートから「うま […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年10月号 (9月9日発売)

2025年10月号 (9月9日発売)

【別冊付録】東京2025世界陸上観戦ガイド
村竹ラシッド/桐生祥秀/中島佑気ジョセフ/中島ひとみ/瀬古優斗
【Coming EKIDEN Season 25-26】
学生長距離最新戦力分析/青学大/駒大/國學院大/中大/

page top