HOME 世界陸上

2025.09.19

NEWS
【コラム】「あの大きい子は誰ですか…?」400m6位快挙の中島佑気ジョセフ ボルトにあこがれ、恩師・山村貴彦先生が期待した大器/東京世界陸上
【コラム】「あの大きい子は誰ですか…?」400m6位快挙の中島佑気ジョセフ ボルトにあこがれ、恩師・山村貴彦先生が期待した大器/東京世界陸上

城西高3年時にインターハイに出場した中島佑気ジョセフ

東京世界陸上の男子400mで6位入賞の快挙を成し遂げた中島佑気ジョセフ(富士通)。予選で44秒44という衝撃的な日本新を打ち立てると、準決勝(44秒53)、決勝(44秒62)と、大会前の日本記録(44秒77)、自己ベスト(44秒85)をすべて大きく上回るパフォーマンスで、まさに覚醒した。

この種目の入賞は、1991年、34年前の東京大会で7位に入った高野進以来だ。

「あの大きい子は誰ですか?」

広告の下にコンテンツが続きます

当時、サニブラウン・アブデル・ハキーム(現・東レ)や塚本ジャスティン惇平らが育った城西高(東京)を大会やチームへの取材する機会が多かった。その中でひときわ目を引いたのが190cmを超える長身だった中島佑気ジョセフだった。

いつも山村先生やチームメイトの少し後ろにいて、どんな時もにっこりと笑顔であいさつする姿が印象的だった。まだまだ細身でインターハイにも出ていない。明らかに潜在能力を秘めていそうな体格だった。

「まだまだ身体ができていなくて、動かし方がわかっていない。気持ちも弱いです。時間はかかりますが、すごいですよ」

広告の下にコンテンツが続きます

山村先生が中島を見てニヤッと笑った。「山村先生が言うのだから間違いない。覚えておかないと」と思った。

東京出身の中島。もともと、サッカーやバスケットボールで汗を流していたが、「集団競技が苦手でした」と振り返る。

小学校の時に陸上の都内の有名チーム「KMC陸上クラブ」に入部。ハードルの澤田イレーネ・オギモンギや、清水羽菜らが在籍していたクラブで、全国小学生では清水の付き添いだった。

小学生のころから「すべて自分の責任になる陸上が向いていると直感しました。自立した状態で、トレーニングもレースも自分でやらないといけない。分析しながら成長していく。そのプロセスがおもしろかったです。身体さえあれば何でもできる」と考えていたというから驚かされる。

今でも遠征に分厚い本を何冊か持参するほどの読書家。小学生の時にウサイン・ボルト(ジャマイカ)の自伝を読んで「いつかそんなふうになりたい。自分が努力して成長していくのは陸上なんだ」と心に決めたというのも中島らしいエピソードだ。

高校時代は故障も多く、インターハイでは準決勝敗退でベストは48秒05。そのインターハイ準決勝を見た瞬間に「この子は伸びるね」と惚れ込んだのが東洋大の梶原道明監督だった。

実は高野進を静岡吉原商高(現・富士市立高)時代に指導していたのが梶原コーチの兄・千秋氏というのも不思議な縁だ。

今年、中島はあと0.01秒届いていなかった、恩師・山村先生の記録を超え、恩師の兄が礎を築いた「英雄」高野進も超えた。

準決勝をスタンドで見守った山村先生は「本当に落ち着いて走りましたね」と目を細め、6位の激走に梶原コーチは「これが世界への第一歩」と語った。

ケガも挫折もあった。「いろんな失敗があって、違う道を選べば良かったと思える経験も、今振り返ると自分の糧になっています」。歴史を塗り替えた23歳。大偉業もこの先へとつながる一歩にすぎない。

文/向永拓史

東京世界陸上の男子400mで6位入賞の快挙を成し遂げた中島佑気ジョセフ(富士通)。予選で44秒44という衝撃的な日本新を打ち立てると、準決勝(44秒53)、決勝(44秒62)と、大会前の日本記録(44秒77)、自己ベスト(44秒85)をすべて大きく上回るパフォーマンスで、まさに覚醒した。 この種目の入賞は、1991年、34年前の東京大会で7位に入った高野進以来だ。 「あの大きい子は誰ですか?」 当時、サニブラウン・アブデル・ハキーム(現・東レ)や塚本ジャスティン惇平らが育った城西高(東京)を大会やチームへの取材する機会が多かった。その中でひときわ目を引いたのが190cmを超える長身だった中島佑気ジョセフだった。 いつも山村先生やチームメイトの少し後ろにいて、どんな時もにっこりと笑顔であいさつする姿が印象的だった。まだまだ細身でインターハイにも出ていない。明らかに潜在能力を秘めていそうな体格だった。 「まだまだ身体ができていなくて、動かし方がわかっていない。気持ちも弱いです。時間はかかりますが、すごいですよ」 山村先生が中島を見てニヤッと笑った。「山村先生が言うのだから間違いない。覚えておかないと」と思った。 東京出身の中島。もともと、サッカーやバスケットボールで汗を流していたが、「集団競技が苦手でした」と振り返る。 小学校の時に陸上の都内の有名チーム「KMC陸上クラブ」に入部。ハードルの澤田イレーネ・オギモンギや、清水羽菜らが在籍していたクラブで、全国小学生では清水の付き添いだった。 小学生のころから「すべて自分の責任になる陸上が向いていると直感しました。自立した状態で、トレーニングもレースも自分でやらないといけない。分析しながら成長していく。そのプロセスがおもしろかったです。身体さえあれば何でもできる」と考えていたというから驚かされる。 今でも遠征に分厚い本を何冊か持参するほどの読書家。小学生の時にウサイン・ボルト(ジャマイカ)の自伝を読んで「いつかそんなふうになりたい。自分が努力して成長していくのは陸上なんだ」と心に決めたというのも中島らしいエピソードだ。 高校時代は故障も多く、インターハイでは準決勝敗退でベストは48秒05。そのインターハイ準決勝を見た瞬間に「この子は伸びるね」と惚れ込んだのが東洋大の梶原道明監督だった。 実は高野進を静岡吉原商高(現・富士市立高)時代に指導していたのが梶原コーチの兄・千秋氏というのも不思議な縁だ。 今年、中島はあと0.01秒届いていなかった、恩師・山村先生の記録を超え、恩師の兄が礎を築いた「英雄」高野進も超えた。 準決勝をスタンドで見守った山村先生は「本当に落ち着いて走りましたね」と目を細め、6位の激走に梶原コーチは「これが世界への第一歩」と語った。 ケガも挫折もあった。「いろんな失敗があって、違う道を選べば良かったと思える経験も、今振り返ると自分の糧になっています」。歴史を塗り替えた23歳。大偉業もこの先へとつながる一歩にすぎない。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.09.19

【コラム】「あの大きい子は誰ですか…?」400m6位快挙の中島佑気ジョセフ ボルトにあこがれ、恩師・山村貴彦先生が期待した大器/東京世界陸上

東京世界陸上の男子400mで6位入賞の快挙を成し遂げた中島佑気ジョセフ(富士通)。予選で44秒44という衝撃的な日本新を打ち立てると、準決勝(44秒53)、決勝(44秒62)と、大会前の日本記録(44秒77)、自己ベスト […]

NEWS 男子20km競歩 古賀友太の補欠登録を解除/東京世界陸上

2025.09.19

男子20km競歩 古賀友太の補欠登録を解除/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場) 日本陸連は9月19日、世界陸上男子20km競歩の補欠だった古賀友太(大塚製薬)の登録を解除したと発表した。 古賀は昨年のパリ五輪では8位に入賞。世界陸上の出場を目指してい […]

NEWS 男子4継・日本は2組8レーン! 英国や南アフリカと同組 マイルはボツワナと同じ2組3レーン リレースタートリスト発表/東京世界陸上

2025.09.19

男子4継・日本は2組8レーン! 英国や南アフリカと同組 マイルはボツワナと同じ2組3レーン リレースタートリスト発表/東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日〜21日/国立競技場) 東京世界陸上8日目のイブニングセッションで行われる男女の4×100mリレー予選と4×400mリレー予選のスタートリストが発表された。 2019年ドーハ大会以来3大会ぶりの […]

NEWS オレゴン世界陸上100m金・カーリーがドーピング容認大会参加を表明 今季トラブル続きでスポンサー契約も解除

2025.09.19

オレゴン世界陸上100m金・カーリーがドーピング容認大会参加を表明 今季トラブル続きでスポンサー契約も解除

オレゴン世界選手権男子100m金メダリストのF.カーリー(米国)がドーピング容認の大会、エンハンスト・ゲームズに参加することを表明した。陸上からは同大会への登録は初となる。 エンハンスト・ゲームズは26年5月に米国・ラス […]

NEWS 34年の時を超えて 91年東京7位・高野進氏「自分の勝負パターンを見つけた」 400m中島佑気ジョセフの6位入賞を称賛 /東京世界陸上

2025.09.19

34年の時を超えて 91年東京7位・高野進氏「自分の勝負パターンを見つけた」 400m中島佑気ジョセフの6位入賞を称賛 /東京世界陸上

◇東京世界陸上(9月13日~21日/国立競技場)6日目 東京世界陸上6日目のイブニングセッションが行われ、男子400mで日本勢34年ぶりとなる決勝に進出した中島佑気ジョセフ(富士通)が44秒62で日本勢過去最高位となる6 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年10月号 (9月9日発売)

2025年10月号 (9月9日発売)

【別冊付録】東京2025世界陸上観戦ガイド
村竹ラシッド/桐生祥秀/中島佑気ジョセフ/中島ひとみ/瀬古優斗
【Coming EKIDEN Season 25-26】
学生長距離最新戦力分析/青学大/駒大/國學院大/中大/

page top