2025.07.11
今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。
これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。2011年に韓国のテグで行われた第13回大会を振り返る。
ボルトが100mでまさかの失格
この大会で最も注目を浴びていたのが前回のベルリン大会で100m9秒58、200m19秒19と世界記録を樹立したウサイン・ボルト(ジャマイカ)。トラック種目では4×400mリレーが最終種目になるのが通例だが、今大会は4×100mリレーに変更され、この日程は“ボルト・テーブル”と呼ばれた。
予選、準決勝とも悠々と駆け抜け、他の選手を圧倒して決勝へと駒を進めた。そして迎えた決勝。世界記録更新にも期待が懸かった。
全世界の視線が集まるスタートの瞬間。号砲よりも明らかにボルトの身体が前へと進んだ。ボルトは自ら状況をすぐに理解し、頭を抱えた。まさかの不正スタートで失格。2010年から不正スタートは1回目に犯した選手が一発失格にルール変更されており、屋外の世界大会ではこのルールが初適用だった。
世界記録保持者不在となったレース。会場もまだ信じられないと騒然とするなか、仕切り直しのあと、当時21歳だったボルトの同胞ヨハン・ブレイク(ジャマイカ)が9秒92(-1.4)で、この種目を史上最年少で制した。
7日目からの200mに出場したボルトは、100mの影響からか、スタートはいつもより慎重だったものの、こちらも予選、準決勝を1着で通過。決勝のリアクションタイムは8人中最下位だったが、自己3番目となる19秒40(+0.8)で連覇を達成した。2位のウォルター・ディクス(米国)に0.30秒差をつける圧勝だった。
最終種目の4×100mリレーでは、アンカーを担ったボルト。ジャマイカはネスタ・カーター(9秒78)、マイケル・フレイター(9秒88)、ヨハン・ブレイク(9秒89)、ボルト(9秒58)と全員が100mで9秒90を切る豪華メンバー。ライバルの米国がバトンパスでミスをしたこともあり、アンカーのボルトに首位でバトンが渡った時点で勝負は決していた。
記録はベルリン大会でジャマイカが出した37秒31の世界記録を上回る37秒04。2位のフランスには1.16秒の大差をつけた。ボルトは100mでの失格がありながらも新たに伝説を残したのである。なお、この世界記録は翌年の2012年ロンドン五輪で、同じオーダーのジャマイカが36秒84まで更新した。
男子4×100mリレー以外では大会新記録と大会タイ記録がそれぞれ一つずつ誕生している。女子100mハードルではサリー・ピアーソン(豪州)が12秒28(+1.1)で1987年のローマ大会でギンカ・ザゴルチェワ(ブルガリア)が出した12秒34の大会記録を24年ぶりに塗り替えた。
女子砲丸投ではヴァレリー・アダムズ(ニュージーランド)が3連覇を達成。最終投てきでプットした21m24は、ナタリア・リソフスカヤ(ソ連)がローマ大会で樹立した大会記録に並ぶ記録だった。
また、女子やり投ではマリア・アバクモワ(ロシア)が世界歴代2位となる71m99を記録。オスレイディス・メネンデス(キューバ)が2005年のヘルシンキ大会で記録した71m70の大会記録を上回ったが、2016年にドーピング違反が発覚しメダルが剥奪された。この結果、世界記録保持者のバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)が繰り上がりで金メダルとなった。
男子4×100mリレーでバトンをつなげなかった米国だが、女子4×100mリレーと男女4×400mリレーで優勝。女子の両リレーを走ったアリソン・フェリックスは世界陸上で通算8個目の金メダルを獲得し、カール・ルイスとマイケル・ジョンソン(ともに米国)の最多記録に並んだ。
男子400mではキラニ・ジェームス(グレナダ)が44秒60で優勝し、母国に世界選手権初のメダルをもたらした。また、18歳362日での優勝は同種目での最年少金メダリストである。
今大会には世界陸上で初の義足選手となるオスカー・ピストリウス(南アフリカ)が男子400mと男子4×400mリレー予選に出場。4×400mリレーで決勝を走ることはできなかったが、南アフリカが銀メダルを獲得し、ピストリウスにもメダルが贈られた。
36歳・室伏広治が最年長金メダル
日本からは男子28名、女子22名の選手が出場。メダル1を含む入賞7という結果を収めた。
日本勢で唯一のメダルを獲得したのが男子ハンマー投の室伏広治(ミズノ)。81m24を投げて、世界陸上では自身初の金メダルを手にした。36歳325日での優勝は、当時の男子選手で大会史上最年長記録となった。
室伏は1投目に79m72を投げてトップに立つと、2投目に81m03、3投目に81m24と伸ばしていく。さらに5投目にも81m24と安定した投げを見せる。6投目にクリスチャン・パルシュ(ハンガリー)が81m18と6㎝差に迫られたが、からくも勝ち切った。

ハンマー投で金メダルを獲得した室伏広治
女子短距離の歴史を塗り替えたのが福島千里(北海道ハイテクAC)。100mと200mで日本人女子選手として初の準決勝進出を果たした。100mは11秒35(+0.1)の組2着で通過。200mは23秒25(-0.1)と国外日本人最高記録をマークし、タイム順で準決勝に進んだ。
日本は得意のロード種目でも健闘。男子20km競歩では鈴木雄介(富士通)が序盤から積極的なレースを見せ、1時間21分39秒で4位入賞を果たしている。
男子50km競歩では森岡紘一朗(富士通)が3時間46分21秒で5位、谷井孝行(佐川急便)が3時間48分03秒でダブル入賞。同一大会で競歩2種目の入賞は初の快挙だった。
マラソンでは女子の赤羽有紀子(ホクレン)が2時間29分35秒で5位、男子は堀端宏行(旭化成)が2時間11分52秒の6位でそれぞれ入賞している。
女子やり投では海老原有希(スズキ浜松AC)が女子投てきで初の決勝進出。59m08で9位と19㎝差の9位でトップ8入りを逃したが、のちに優勝したアバクモワのドーピング違反が発覚して、繰り上がりで8位入賞となった。
ボルトが100mでまさかの失格
この大会で最も注目を浴びていたのが前回のベルリン大会で100m9秒58、200m19秒19と世界記録を樹立したウサイン・ボルト(ジャマイカ)。トラック種目では4×400mリレーが最終種目になるのが通例だが、今大会は4×100mリレーに変更され、この日程は“ボルト・テーブル”と呼ばれた。 予選、準決勝とも悠々と駆け抜け、他の選手を圧倒して決勝へと駒を進めた。そして迎えた決勝。世界記録更新にも期待が懸かった。 全世界の視線が集まるスタートの瞬間。号砲よりも明らかにボルトの身体が前へと進んだ。ボルトは自ら状況をすぐに理解し、頭を抱えた。まさかの不正スタートで失格。2010年から不正スタートは1回目に犯した選手が一発失格にルール変更されており、屋外の世界大会ではこのルールが初適用だった。 世界記録保持者不在となったレース。会場もまだ信じられないと騒然とするなか、仕切り直しのあと、当時21歳だったボルトの同胞ヨハン・ブレイク(ジャマイカ)が9秒92(-1.4)で、この種目を史上最年少で制した。 7日目からの200mに出場したボルトは、100mの影響からか、スタートはいつもより慎重だったものの、こちらも予選、準決勝を1着で通過。決勝のリアクションタイムは8人中最下位だったが、自己3番目となる19秒40(+0.8)で連覇を達成した。2位のウォルター・ディクス(米国)に0.30秒差をつける圧勝だった。 最終種目の4×100mリレーでは、アンカーを担ったボルト。ジャマイカはネスタ・カーター(9秒78)、マイケル・フレイター(9秒88)、ヨハン・ブレイク(9秒89)、ボルト(9秒58)と全員が100mで9秒90を切る豪華メンバー。ライバルの米国がバトンパスでミスをしたこともあり、アンカーのボルトに首位でバトンが渡った時点で勝負は決していた。 記録はベルリン大会でジャマイカが出した37秒31の世界記録を上回る37秒04。2位のフランスには1.16秒の大差をつけた。ボルトは100mでの失格がありながらも新たに伝説を残したのである。なお、この世界記録は翌年の2012年ロンドン五輪で、同じオーダーのジャマイカが36秒84まで更新した。 男子4×100mリレー以外では大会新記録と大会タイ記録がそれぞれ一つずつ誕生している。女子100mハードルではサリー・ピアーソン(豪州)が12秒28(+1.1)で1987年のローマ大会でギンカ・ザゴルチェワ(ブルガリア)が出した12秒34の大会記録を24年ぶりに塗り替えた。 女子砲丸投ではヴァレリー・アダムズ(ニュージーランド)が3連覇を達成。最終投てきでプットした21m24は、ナタリア・リソフスカヤ(ソ連)がローマ大会で樹立した大会記録に並ぶ記録だった。 また、女子やり投ではマリア・アバクモワ(ロシア)が世界歴代2位となる71m99を記録。オスレイディス・メネンデス(キューバ)が2005年のヘルシンキ大会で記録した71m70の大会記録を上回ったが、2016年にドーピング違反が発覚しメダルが剥奪された。この結果、世界記録保持者のバルボラ・シュポターコヴァ(チェコ)が繰り上がりで金メダルとなった。 男子4×100mリレーでバトンをつなげなかった米国だが、女子4×100mリレーと男女4×400mリレーで優勝。女子の両リレーを走ったアリソン・フェリックスは世界陸上で通算8個目の金メダルを獲得し、カール・ルイスとマイケル・ジョンソン(ともに米国)の最多記録に並んだ。 男子400mではキラニ・ジェームス(グレナダ)が44秒60で優勝し、母国に世界選手権初のメダルをもたらした。また、18歳362日での優勝は同種目での最年少金メダリストである。 今大会には世界陸上で初の義足選手となるオスカー・ピストリウス(南アフリカ)が男子400mと男子4×400mリレー予選に出場。4×400mリレーで決勝を走ることはできなかったが、南アフリカが銀メダルを獲得し、ピストリウスにもメダルが贈られた。36歳・室伏広治が最年長金メダル
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