HOME 国内、五輪

2024.08.20

【コラム】笑顔の女王・北口榛花が見せた忘れられない涙 高校3年生の国体での光景に感じたこと
【コラム】笑顔の女王・北口榛花が見せた忘れられない涙 高校3年生の国体での光景に感じたこと

北口榛花(JAL)

パリ五輪の女子やり投で、女子トラック&フィールド種目初となる金メダル獲得を果たした北口榛花(JAL)。昨年のブダペスト世界選手権も制し、これで正真正銘の『世界一』となった。

トレードマークとなっているその笑顔は人々を魅了する。ただ、これまで取材してきた中で、笑顔と同じくらい、涙を流しているのを何度も見てきた。そんな中で忘れられない涙が一つある。

2015年、秋の和歌山国体。インターハイ連覇女王として臨んだ国体のやり投では57m02で優勝した。ライバルであり、今回のパリ五輪にも応援に駆けつけた山下実花子が55m35を投げたが、そのハイレベルな争いを制してインターハイと2冠。この時はケラケラと笑っていた。

印象に残っているのは翌日のこと。1年前に8位に入っていた砲丸投でも国体に2年連続で選ばれていた北口は、総合11位でトップ8に残れなかった。スタジアム前ですれ違った北口は、国体のコーチに肩を寄せられながら大粒の涙をこぼしていた。目が合ってほんの少し会釈を交わしたが、涙は止まらずチームのテントに戻っていった。

当年にはU18の世界一(世界ユース選手権優勝)になったスロワー。本職のやり投でしっかり国体も勝ったのだから……。そう思いつつ、サブ種目で負けてもあんなに悔しがれる。ああいう選手が成長して、強くなるんだろうなぁと感じたのをずっと忘れられないでいる。

その約10日後に今も破られない58m90の高校記録を樹立。のちに大きく、大きく羽ばたいていく。その間にもたくさんの涙を見たが、その度に強くなったのが北口榛花というアスリートだった。

広告の下にコンテンツが続きます

パリ五輪で真の世界一の座についてもなお、思っていたような記録を残せなかった悔し涙を浮かべ「満足できない理由があるのは幸せ」と話していたが、きっとこの感情も夢の70mスロワーへの糧としていくのだろう。

文/向永拓史

パリ五輪の女子やり投で、女子トラック&フィールド種目初となる金メダル獲得を果たした北口榛花(JAL)。昨年のブダペスト世界選手権も制し、これで正真正銘の『世界一』となった。 トレードマークとなっているその笑顔は人々を魅了する。ただ、これまで取材してきた中で、笑顔と同じくらい、涙を流しているのを何度も見てきた。そんな中で忘れられない涙が一つある。 2015年、秋の和歌山国体。インターハイ連覇女王として臨んだ国体のやり投では57m02で優勝した。ライバルであり、今回のパリ五輪にも応援に駆けつけた山下実花子が55m35を投げたが、そのハイレベルな争いを制してインターハイと2冠。この時はケラケラと笑っていた。 印象に残っているのは翌日のこと。1年前に8位に入っていた砲丸投でも国体に2年連続で選ばれていた北口は、総合11位でトップ8に残れなかった。スタジアム前ですれ違った北口は、国体のコーチに肩を寄せられながら大粒の涙をこぼしていた。目が合ってほんの少し会釈を交わしたが、涙は止まらずチームのテントに戻っていった。 当年にはU18の世界一(世界ユース選手権優勝)になったスロワー。本職のやり投でしっかり国体も勝ったのだから……。そう思いつつ、サブ種目で負けてもあんなに悔しがれる。ああいう選手が成長して、強くなるんだろうなぁと感じたのをずっと忘れられないでいる。 その約10日後に今も破られない58m90の高校記録を樹立。のちに大きく、大きく羽ばたいていく。その間にもたくさんの涙を見たが、その度に強くなったのが北口榛花というアスリートだった。 パリ五輪で真の世界一の座についてもなお、思っていたような記録を残せなかった悔し涙を浮かべ「満足できない理由があるのは幸せ」と話していたが、きっとこの感情も夢の70mスロワーへの糧としていくのだろう。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.30

中村宏之氏が79歳で死去 福島千里、寺田明日香、伊藤佳奈恵ら女子短距離日本記録保持者を育成

女子短距離で数々のトップ選手を育成した北海道ハイテクアスリートクラブ前監督の中村宏之氏が4月29日に逝去した。享年79。 中村氏は1945年6月9日生まれ。北海道・札幌東高,日体大で三段跳、走幅跳選手として活躍し、卒業後 […]

NEWS 女子七種競技・アラウホが今季世界最高6396点で優勝 男子100mはバルディが9秒99/南米選手権

2025.04.30

女子七種競技・アラウホが今季世界最高6396点で優勝 男子100mはバルディが9秒99/南米選手権

4月25日から27日まで、アルゼンチンのマル・デル・プラタで南米選手権が開催され、女子七種競技ではM.アラウホ(コロンビア)が6396点(13秒13、1m73、13m55、24秒43/6m55、47m62、2分17秒38 […]

NEWS 【高平慎士の視点】自信持って走り切った井上直紀の強さ光る 選手層に厚み“標準突破”へ期待持てるレース/織田記念

2025.04.30

【高平慎士の視点】自信持って走り切った井上直紀の強さ光る 選手層に厚み“標準突破”へ期待持てるレース/織田記念

4月29日に広島・ホットスタッフフィールド広島で行われた織田記念。その男子100mは上位5人が10秒1台、それも0.03秒差以内にひしめく大熱戦となり、大学4年の井上直紀(早大)が自己新の10秒12(+0.4)で制した。 […]

NEWS 廣中璃梨佳が5000m日本人トップ!熱戦の男子100mは井上直紀 女子100mH中島が12秒93/織田記念

2025.04.30

廣中璃梨佳が5000m日本人トップ!熱戦の男子100mは井上直紀 女子100mH中島が12秒93/織田記念

◇織田記念(4月29日/広島・ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリシリーズの織田記念が行われ、女子5000mは序盤から積極的なレース運びをした廣中璃梨佳(JP日本郵政G)が日本人トップの15分19秒23で3位に […]

NEWS 中大・吉居駿恭が5000m連覇!圧巻スパートで13分26秒71「一歩一歩前進できるように」/織田記念

2025.04.29

中大・吉居駿恭が5000m連覇!圧巻スパートで13分26秒71「一歩一歩前進できるように」/織田記念

◇織田記念(4月29日/広島・ホットスタッフフィールド広島) 日本グランプリシリーズの織田記念が行われ、最終種目となった男子5000mは残り250mから仕掛けた吉居駿恭(中大)が13分26秒31で混成を制し、大会連覇を果 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top