2020.09.24
日大を支えた4年生の丸山、橋岡、江島
9月11日から13日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムで行われた日本インカレで、日大が男子総合優勝を果たした。2年ぶり22回目の栄冠。その中心にいたのは、橋岡優輝、江島雅紀、そして主将の丸山優真だった。入学時から大きな期待を寄せられた3人が戦った最後の日本インカレ。チームをまとめたのは、1年3ヵ月ぶりに競技場に戻ってきた丸山だった。
橋岡、江島が頂点に立つ
これまで数々の実績を残してきた日大が誇る“三本柱”にとって、これが最後のインカレだった。「うれしいの一言です。一人ひとりが自分の目標に向かって頑張ってくれたと思います」。男子総合優勝を果たした日大の主将・丸山優真は感慨に浸った。
初日の男子走幅跳。橋岡優輝が8m29(-0.6)という自身2番目となる記録をマークし、大会新で優勝。無観客の中で行われたインカレだったが、これで会場の雰囲気はガラッと変わった。
〈日本ICクローズアップ/走幅跳・橋岡優輝が見せた世界への助走〉
最終日の棒高跳では、江島雅紀が5m40を跳んで優勝。実は左脚を痛めており、満身創痍の状況だった。だが、最後のインカレに臨み、そして勝ち切った。
「うれしいのと、記録面で悔しいのと両方。日本インカレに4回出させてもらって、最後はこのタスキ(がかかるユニフォーム)を着て連覇できたのはうれしかったです」
棄権も考えたというが、「前日まで悩んでいたのですが、橋岡や丸山ががんばっているのを見て、総合優勝のために8点を取りたかったです」。同期の吉田賢明も3位入賞。最後のインカレで一緒に表彰台に上った。学生で競技から離れるつもりの吉田は「江島はやっぱりすごい奴です」と、高校時代から戦ってきた仲間を称えた。
棒高跳は江島と吉田の2人で表彰台に上った
喜び、重圧からの解放、安堵感。スタンドでは、橋岡、丸山が声援を送っていた。その姿を見て、江島は泣いた。
この他にも、400mで井上大地(3年)が制し、同5位に鵜池優至(4年)が入り、院生の山本竜大が400mハードル優勝、ハンマー投では福田翔大が2年生V。だが、その中心にいたのは、間違いなく主将の丸山優真だった。
丸山が主将として戦い抜く
1年3ヵ月ぶりの実戦復帰を果たした丸山
十種競技の若手のホープだった丸山を悲劇が襲ったのは昨年の6月の日本選手権。関東インカレでも少し痛めていた背中に強烈な痛みが襲った。「胸椎椎間板ヘルニア」を発症し、途中棄権。そこから長い闘病の日々が始まった。
「これ以上やったら危なかった」と医師に告げられるほどで、一時は競技どころか、日常生活も危ぶまれた。手術をするのも難しい部位で、何度も検討されたものの自然治癒を優先。「これからどうなるんだろう」。元通りになるかどうか、不透明だった。
それでも丸山は、我慢、我慢、我慢。あれだけ身体を動かすことが取り柄で、大好きだった大男が、自分の将来と可能性を信じ、我慢を続けた。
「痛みが取れてから、走れる状態なのに練習を我慢するのが一番しんどかったです。毎朝、起きてから『無理するな』と言い聞かせていましたね」
戦線離脱している丸山に、名門・日大は主将という大役を託す。
丸山の背中は奇跡的に症状が改善。今年1月から少しずつ練習を再開し、合間を縫ってピラティスに通って体幹や身体の使い方を見直した。
「今回の目標はケガなく終えること」
始まる前、そう笑顔を見せていたが、それは半分かなって、半分かなわなかった。
1年3ヵ月ぶりに復帰戦。まだスプリント練習もしていない状況であることと、投てきや跳躍種目は背中への負荷を考慮して本数を絞った。加えて、左ハムストリングスを肉離れした影響と足首の痛みもある状態。初日の最終種目の400mでは「痛みも出て無理してしまった」と言い、途中で辞めることも考えたが、どうしても最後まで戦いたかった理由がある。
「去年の日本インカレで、4点差で(順大に)負けて総合連覇が7で途切れてしまいました。僕が出られていれば」
その思いは丸山だけでなく、江島も、橋岡も、日大の誰もが抱いていた共通のもの。
ハムストリングスと足首は種目をこなすごとに痛みを増した。加藤弘一部長から「お前の将来のためにやめよう」と説得を試みたが、「主将として戦いたかった」。
結果は7278点で3位。400mでは十種競技でのベストとなる49秒96をマークした。「総合優勝に懸けていた思いが強かったので、3位で点数を取ることができたと思います」。2年ぶり22回目の総合優勝。仲間を誇るように、表彰式に出席した。
「大きなケガもなく、悪化しなくてよかった。十種競技はタフな競技だと改めて実感しました。まだまだ初心者ですし、課題しかないです。本当だったらインカレも、日本選手権も出られない予定だった。率直に楽しかったです。出られただけで、幸せです」
まだ万全な状態でないのは自分が一番わかっているはず。それでも、「ボルトになる」と豪語していた中学時代から絶対に変わることのない“根拠のない自信”が、いつも丸山を突き動かしてきた。
「日本選手権で2番になってアジア選手権につながるようにしたい。右代(啓祐)さんと(中村)明彦さんと勝負して勝つ」
期待を一身に背負って名門の扉を開け、想像以上の結果を残し続けてきた4年生世代。その目に見える実績以上に、同期や後輩たちの「当たり前」のレベルを高く引き上げた功績は計り知れない。
華やかさも、強さも、苦しみを乗り越える泥臭さも見せた3人が、一緒のチームで戦う姿が見られなくなるのは一抹の寂しさを感じる。次に同じユニフォームを着て“チーム”として戦うのは、きっと「JAPAN」を背負う時。きっと、そんなに遠い将来の話ではないだろう。
文/向永拓史

橋岡、江島が頂点に立つ
これまで数々の実績を残してきた日大が誇る“三本柱”にとって、これが最後のインカレだった。「うれしいの一言です。一人ひとりが自分の目標に向かって頑張ってくれたと思います」。男子総合優勝を果たした日大の主将・丸山優真は感慨に浸った。 初日の男子走幅跳。橋岡優輝が8m29(-0.6)という自身2番目となる記録をマークし、大会新で優勝。無観客の中で行われたインカレだったが、これで会場の雰囲気はガラッと変わった。 〈日本ICクローズアップ/走幅跳・橋岡優輝が見せた世界への助走〉 最終日の棒高跳では、江島雅紀が5m40を跳んで優勝。実は左脚を痛めており、満身創痍の状況だった。だが、最後のインカレに臨み、そして勝ち切った。 「うれしいのと、記録面で悔しいのと両方。日本インカレに4回出させてもらって、最後はこのタスキ(がかかるユニフォーム)を着て連覇できたのはうれしかったです」 棄権も考えたというが、「前日まで悩んでいたのですが、橋岡や丸山ががんばっているのを見て、総合優勝のために8点を取りたかったです」。同期の吉田賢明も3位入賞。最後のインカレで一緒に表彰台に上った。学生で競技から離れるつもりの吉田は「江島はやっぱりすごい奴です」と、高校時代から戦ってきた仲間を称えた。
丸山が主将として戦い抜く


|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.07.11
七種競技・熱田心 連覇へ「プレッシャーを力に変えたい」日本記録へ挑戦/日本選手権混成
2025.07.11
十種競技・奥田啓祐「まとめる練習してきた」3年ぶりVと自己新狙う/日本選手権混成
-
2025.07.11
-
2025.07.11
-
2025.07.11
-
2025.07.10
-
2025.07.10
-
2025.07.05
2025.06.17
2025中学最新ランキング【男子】
-
2025.06.17
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.07.11
アディダスから爆発的なスピードを生み出すことを目指したスパイク最新モデル「ADIZERO PRIME SP 4」が登場!
アディダス ジャパンは、1秒でも速いベストタイムを目指して走るランナーのためのランニングシリーズ「アディゼロ」より、100mなど短距離のレースで最速のパフォーマンスを発揮することを目指した、陸上用スパイク「ADIZERO […]
2025.07.11
七種競技・熱田心 連覇へ「プレッシャーを力に変えたい」日本記録へ挑戦/日本選手権混成
◇第109回日本選手権・混成競技(7月12、13日/岐阜・岐阜メモリアルセンター長良川競技場) 東京世界選手権の代表選考会を兼ねた日本選手権・混成競技を前日に控え、有力選手が会見に出席した。 女子七種競技で前回初優勝を飾 […]
2025.07.11
十種競技・奥田啓祐「まとめる練習してきた」3年ぶりVと自己新狙う/日本選手権混成
◇第109回日本選手権・混成競技(7月12、13日/岐阜・岐阜メモリアルセンター長良川競技場) 東京世界選手権の代表選考会を兼ねた日本選手権・混成競技を前日に控え、有力選手が会見に出席した。 男子十種競技で3年ぶり優勝を […]
2025.07.11
セメニャが勝訴 スイス最高裁に対し1370万円の支払い命令 欧州人権裁判所が権利侵害認定
女子800mで五輪、世界選手権を制したキャスター・セメニャ氏(南アフリカ)が起こしていた係争をめぐり、欧州人権裁判所(ECHR)はスイス連邦最高裁判所に対し、69,000ポンド(約1370万円)の支払いを命じる判決を下し […]
2025.07.11
【女子200m】村田愛衣紗(ナンバーワンクラブ・中2)24秒79=中2歴代7位タイ
鹿児島県中学通信が6月28日、県立鴨池陸上競技場で行われ、女子共通200m予選で村田愛衣紗(ナンバーワンクラブ)が中2歴代7位タイの24秒79(+1.5)をマークした。 村田は小学生から県内のクラブチーム、ナンバーワンク […]
Latest Issue
最新号

2025年7月号 (6月13日発売)
詳報!アジア選手権
日本インカレ
IH都府県大会