HOME 特集

2023.08.10

【ドキュメント】今年も福井の夏空に上がった好記録連発の“花火” 来年は「もっと楽しんでもらえるように」/福井ナイトゲームズ
【ドキュメント】今年も福井の夏空に上がった好記録連発の“花火” 来年は「もっと楽しんでもらえるように」/福井ナイトゲームズ

110mHで好記録を出した村竹ラシッドがファンと交流

2019年に始まって以降、「Athlete Night Games」は福井の夏の“風物詩”的な競技会となった。1回目は日本記録が連発。その後も毎年のようにハイパフォーマンスが繰り広げられている。

クラウドファンディングのリターン席として、トラック脇や走幅跳・やり投のピット脇で観戦できるスタイルにリピーターは多い。今年も7月29日に開催された。

ただ、今年は大会前に不穏な空気が漂った。海外遠征やブダペスト世界選手権までのコンディション調整のため、出場を予定していたトップ選手たちにキャンセルが相次ぐ。もちろん関係者の間でも不安が広がった。

広告の下にコンテンツが続きます

しかし、福井陸協の木原靖之・専務理事は「元々、大きな記録を出そうとした大会ではない。原点に戻ろう」と声をかけたという。

始まりは2017年の日本インカレ。当時・東洋大4年だった桐生祥秀(現・日本生命)が、100mで日本人初の9秒台をマークした時に、「あの盛り上がりをもう一度」という思いが湧き、「海外のようにナイター競技会にして、観客も選手も楽しめるようにしよう」「クラウドファンディングで募った資金は選手の賞金に充てよう」と次々とアイディアを出して開催に至った。

その1回目には“主役”とも言うべき桐生も参戦。大いに盛り上げた。

それから早5年。今年は日本グランプリシリーズにも加盟し、「企業からの協力は得やすくなった」一方で、スタンド観戦も含めたチケット販売数は「苦戦した」と木原専務理事は言う。

ただ、そうした不安材料を吹き飛ばしたのは、選手たちのパフォーマンスであり、高校生補助員を含めた地元・福井の人たち。そして、それを支えた観客だった。

大会前日、強い追い風が競技場に吹いていた。相次ぐトップ選手の出場辞退に、少しのんびりした空気感。探り探りだった1回目に近い雰囲気だった。「これは明日、何か起こりますよ。競技場が“ゾーン”に入っていますから」。木原専務理事はニヤリと笑った。

男子やり投で小椋健司(エイジェックスポーツ)が今季初の大台となる80m13。もちろん、選手のテントと横並びにいる観客は間近でそのビッグスローに酔いしれた。男子110mハードルでは、ケガから復帰の村竹ラシッド(順大)と野本周成(愛媛陸協)が、ともに自己新でパリ五輪の参加標準記録を突破。最終種目の男子100mでは、春は不調にあえいでいた多田修平(住友電工)が復活を示す10秒10をマークして優勝した。

大会終了後は選手とファンの交流会も4年ぶりに復活。写真やサインに応じて、選手もファンも笑顔であふれていた。

節目の5回目を終え、収穫も課題もあった。「来年は集客の面で、クラウドファンディングを活用するかどうかも含めて検討していきたい」と木原専務理事。ただ、「ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会は50000人が集まった。我々がやっているのはそういう競技なんだから自信を持とうと思えました。続けることが大事。来年は前からプランにあるように、いろいろな競技やイベント、観光とコラボレーションして、出場する選手に関係なく、もっと楽しんでもらえるようにできればと思っています」と語った。

大会終了後、中心となって進めている役員の多くは、休む間もなく教え子とともにインターハイが行われる北海道へ。創ることも、続けることも、決して簡単ではない。ただ、選手と観客の笑顔がある限り、福井陸協の情熱が消えることはない。

文/向永拓史

2019年に始まって以降、「Athlete Night Games」は福井の夏の“風物詩”的な競技会となった。1回目は日本記録が連発。その後も毎年のようにハイパフォーマンスが繰り広げられている。 クラウドファンディングのリターン席として、トラック脇や走幅跳・やり投のピット脇で観戦できるスタイルにリピーターは多い。今年も7月29日に開催された。 ただ、今年は大会前に不穏な空気が漂った。海外遠征やブダペスト世界選手権までのコンディション調整のため、出場を予定していたトップ選手たちにキャンセルが相次ぐ。もちろん関係者の間でも不安が広がった。 しかし、福井陸協の木原靖之・専務理事は「元々、大きな記録を出そうとした大会ではない。原点に戻ろう」と声をかけたという。 始まりは2017年の日本インカレ。当時・東洋大4年だった桐生祥秀(現・日本生命)が、100mで日本人初の9秒台をマークした時に、「あの盛り上がりをもう一度」という思いが湧き、「海外のようにナイター競技会にして、観客も選手も楽しめるようにしよう」「クラウドファンディングで募った資金は選手の賞金に充てよう」と次々とアイディアを出して開催に至った。 その1回目には“主役”とも言うべき桐生も参戦。大いに盛り上げた。 それから早5年。今年は日本グランプリシリーズにも加盟し、「企業からの協力は得やすくなった」一方で、スタンド観戦も含めたチケット販売数は「苦戦した」と木原専務理事は言う。 ただ、そうした不安材料を吹き飛ばしたのは、選手たちのパフォーマンスであり、高校生補助員を含めた地元・福井の人たち。そして、それを支えた観客だった。 大会前日、強い追い風が競技場に吹いていた。相次ぐトップ選手の出場辞退に、少しのんびりした空気感。探り探りだった1回目に近い雰囲気だった。「これは明日、何か起こりますよ。競技場が“ゾーン”に入っていますから」。木原専務理事はニヤリと笑った。 男子やり投で小椋健司(エイジェックスポーツ)が今季初の大台となる80m13。もちろん、選手のテントと横並びにいる観客は間近でそのビッグスローに酔いしれた。男子110mハードルでは、ケガから復帰の村竹ラシッド(順大)と野本周成(愛媛陸協)が、ともに自己新でパリ五輪の参加標準記録を突破。最終種目の男子100mでは、春は不調にあえいでいた多田修平(住友電工)が復活を示す10秒10をマークして優勝した。 大会終了後は選手とファンの交流会も4年ぶりに復活。写真やサインに応じて、選手もファンも笑顔であふれていた。 節目の5回目を終え、収穫も課題もあった。「来年は集客の面で、クラウドファンディングを活用するかどうかも含めて検討していきたい」と木原専務理事。ただ、「ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会は50000人が集まった。我々がやっているのはそういう競技なんだから自信を持とうと思えました。続けることが大事。来年は前からプランにあるように、いろいろな競技やイベント、観光とコラボレーションして、出場する選手に関係なく、もっと楽しんでもらえるようにできればと思っています」と語った。 大会終了後、中心となって進めている役員の多くは、休む間もなく教え子とともにインターハイが行われる北海道へ。創ることも、続けることも、決して簡単ではない。ただ、選手と観客の笑顔がある限り、福井陸協の情熱が消えることはない。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.03

高知農が県高校最高記録の2時間6分36秒で5連覇 女子は山田がオール区間賞で都大路は“皆勤”の37に/高知県高校駅伝

全国高校駅伝の出場権を懸けた高知県高校駅伝は11月2日、高知市東部総合運動場周回コースで行われ、男子(7区間42.195km)は高知農が県高校最高記録となる2時間6分36秒で5年連続49回目の優勝。女子(5区間21.09 […]

NEWS 今治北が初の男女V!女子は序盤からトップを守り初の全国大会 男子は2時間7分23秒で2年ぶりに制す/愛媛県高校駅伝

2025.11.03

今治北が初の男女V!女子は序盤からトップを守り初の全国大会 男子は2時間7分23秒で2年ぶりに制す/愛媛県高校駅伝

全国高校駅伝の出場権を懸けた愛媛県高校駅伝が11月2日、西条市の西条ひうち高校駅伝特設コースで行われ、今治北が初の男女優勝を遂げた。女子(5区間21.0975km)は1時間14分13秒で初V。男子(7区間42.195km […]

NEWS 城東が初優勝で悲願の都大路へ 男子はつるぎが6連覇 男女ともに1区から先頭を譲らず逃げ切る/徳島県高校駅伝

2025.11.03

城東が初優勝で悲願の都大路へ 男子はつるぎが6連覇 男女ともに1区から先頭を譲らず逃げ切る/徳島県高校駅伝

全国高校駅伝の出場権を懸けた徳島県高校駅伝が11月2日、鳴門市の鳴門・大塚スポーツパーク周回長距離コースで行われ、女子(5区間21.0975km)は城東が1時間14分27秒で初制覇し、初の全国大会出場を決めた。男子(7区 […]

NEWS マラソン王者・キプチョゲがエリートレースを“卒業” 七大陸を巡るワールドツアーを発表「人間に限界がないことを示したい」

2025.11.03

マラソン王者・キプチョゲがエリートレースを“卒業” 七大陸を巡るワールドツアーを発表「人間に限界がないことを示したい」

男子マラソンのエリウド・キプチョゲ(ケニア)が「キプチョゲ・ワールドツアー」と銘打ち、今後2年間で七大陸を巡り、マラソンに参加する計画を発表した。11月2日のニューヨークシティマラソンがエリートレースへの最後の出場となり […]

NEWS 西脇工大会新V 新妻遼己1区28分22秒、双子の弟・昂己3区快走で兄弟区間新 女子は須磨学園が3連覇/兵庫県高校駅伝

2025.11.03

西脇工大会新V 新妻遼己1区28分22秒、双子の弟・昂己3区快走で兄弟区間新 女子は須磨学園が3連覇/兵庫県高校駅伝

全国高校駅伝の出場権を懸けた兵庫県高校駅伝が11月3日、丹波篠山市の大正ロマン館前をスタートし、篠山鳳鳴高でフィニッシュするコースで行われ、男子(7区間42.195km)は西脇工が2時間3分25秒の大会新記録で2年連続3 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年11月号 (10月14日発売)

2025年11月号 (10月14日発売)

東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望

page top