女子800mで東京世界選手権の代表入りを果たした久保凛(東大阪大敬愛高3)。女子個人では2007年大阪大会で10000mに出場した絹川愛(仙台育英高)以来、18年ぶり5人目の高校生代表となる。
仲間を目いっぱい応援し、良い記録が出れば笑顔を見せるし、悔しかったら大粒の涙がこぼれる。普段、同級生や後輩と話す様子は普通の17歳。だが、ハチマキをグッと締め、スタートラインに立つと日本トップランナーの表情となる。
今年の日本選手権で自らの日本記録を更新する1分59秒52で連覇を達成。東京世界選手権の参加標準記録(1分59秒00)には届かなかったが、堂々ワールドランキングで出場権を得た。
昨年、一躍ヒロインとなった時には、サッカー・スペインリーグで活躍する日本代表の久保建英のいとこだと騒ぎ立て、ニュースの見出しにはいつも『久保のいとこ』という肩書きがついた。しかし、今や、誰もそれを表題にはしない。自らの走り、努力、結果で打ち消した。
「いっつも文句を言っていました。試合に出たくない、帰りたいって。気持ちが弱かったんです」。今の久保の姿からは想像できない言葉。陸上を本格的に始めた中学時代のことだという。
父がサッカーのコーチ、兄も弟もサッカー少年。久保も幼稚園の頃からボールを蹴り始めたが、「結構、インドア派だったんです。運動も好きでしたが、家にいて遊んでいるのも好きでした」。
陸上に触れたのは小学校の低学年から。陸上教室を開いていた祖母に教えてもらうようになったのは、「和歌山にあるジュニア駅伝」がきっかけ。「ほぼ毎日練習に行っていました」と振り返る。祖母はハードル経験者で、教え子もハードル選手で全国大会出場者を指導したが、「私は全然向いていなかったです」と苦笑い。
「当時はサッカーのほうが好きで、サッカーをしたかったんです。スピードはあったのですが、身体も細くて当たったら吹っ飛ばされていました。なんとなく、サッカーで生きていくのは難しいって感じ始めていて。家族からもそんな雰囲気もあったので、陸上のほうが向いているなって思いました」
中学に入り、横目でサッカー部の練習を見て「楽しそうやな」とうらやましく思いつつ、陸上の道へ進んだ。ただ、1人で試合に出ることも多く、泣き言が増えていく。サッカーであれば仲間とともに勝ちを目指すが、1人だと戦う理由がなかなか見出せなかった。
試合のたびに「出たくない」「帰りたい」と泣き言が漏れた。祖母から「そんなに文句があって、嫌ならサッカーをやればいい」と叱られたこともあったという。祖母は一番のファンであり「めちゃくちゃ感謝しています」と久保は照れくさそうに笑う。
中学では全中800mで優勝を果たし、陸上を始めた時に祖母と約束した「日本一」に輝いた。地元・和歌山を離れ、名門に進んでからの活躍は周知の通りだ。
昨年は高2で日本選手権を制すると、日本女子初の2分切り。今年は日本選手権連覇、インターハイは3連覇の偉業を成し遂げた。そして、満を持して世界選手権に挑む。
今季、少し気になっていた左膝裏の痛みは、日本選手権後に左脚に2箇所、軽度の肉離れがあった。野口雅嗣先生から「焦らなくてもいい。チャレンジすればいいから」と声をかけられ、2週間ほどしっかり休みを取った。菅平で合宿をし、錚々たる先輩たちが居並ぶ壮行会で、「ワクワクしています」と初々しい表情を見せた。
国立競技場で走る姿は「まだ想像できない」とスタジアムを見渡して目を輝かせる17歳。「自国開催でたくさんの方に見てもらえるチャンス。その中で楽しんで走りたいですし、1本でも多く素晴らしい舞台で走りたいです。自己ベストを更新して、ファイナルを目指します」と、心に大冒険の地図を広げている。
女子800mの予選は大会6日目の18日午後に実施。準決勝は7日目、決勝は最終日に行われる。
文/向永拓史
チームメイトと笑顔で食事する様子は普通の17歳[/caption]
父がサッカーのコーチ、兄も弟もサッカー少年。久保も幼稚園の頃からボールを蹴り始めたが、「結構、インドア派だったんです。運動も好きでしたが、家にいて遊んでいるのも好きでした」。
陸上に触れたのは小学校の低学年から。陸上教室を開いていた祖母に教えてもらうようになったのは、「和歌山にあるジュニア駅伝」がきっかけ。「ほぼ毎日練習に行っていました」と振り返る。祖母はハードル経験者で、教え子もハードル選手で全国大会出場者を指導したが、「私は全然向いていなかったです」と苦笑い。
「当時はサッカーのほうが好きで、サッカーをしたかったんです。スピードはあったのですが、身体も細くて当たったら吹っ飛ばされていました。なんとなく、サッカーで生きていくのは難しいって感じ始めていて。家族からもそんな雰囲気もあったので、陸上のほうが向いているなって思いました」
中学に入り、横目でサッカー部の練習を見て「楽しそうやな」とうらやましく思いつつ、陸上の道へ進んだ。ただ、1人で試合に出ることも多く、泣き言が増えていく。サッカーであれば仲間とともに勝ちを目指すが、1人だと戦う理由がなかなか見出せなかった。
試合のたびに「出たくない」「帰りたい」と泣き言が漏れた。祖母から「そんなに文句があって、嫌ならサッカーをやればいい」と叱られたこともあったという。祖母は一番のファンであり「めちゃくちゃ感謝しています」と久保は照れくさそうに笑う。
中学では全中800mで優勝を果たし、陸上を始めた時に祖母と約束した「日本一」に輝いた。地元・和歌山を離れ、名門に進んでからの活躍は周知の通りだ。
昨年は高2で日本選手権を制すると、日本女子初の2分切り。今年は日本選手権連覇、インターハイは3連覇の偉業を成し遂げた。そして、満を持して世界選手権に挑む。
今季、少し気になっていた左膝裏の痛みは、日本選手権後に左脚に2箇所、軽度の肉離れがあった。野口雅嗣先生から「焦らなくてもいい。チャレンジすればいいから」と声をかけられ、2週間ほどしっかり休みを取った。菅平で合宿をし、錚々たる先輩たちが居並ぶ壮行会で、「ワクワクしています」と初々しい表情を見せた。
[caption id="attachment_181846" align="alignnone" width="800"]
日本選手権連覇、日本女子初の2分切りを成し遂げ、満を持して世界に挑む[/caption]
国立競技場で走る姿は「まだ想像できない」とスタジアムを見渡して目を輝かせる17歳。「自国開催でたくさんの方に見てもらえるチャンス。その中で楽しんで走りたいですし、1本でも多く素晴らしい舞台で走りたいです。自己ベストを更新して、ファイナルを目指します」と、心に大冒険の地図を広げている。
女子800mの予選は大会6日目の18日午後に実施。準決勝は7日目、決勝は最終日に行われる。
文/向永拓史 RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2025.12.14
中学駅伝日本一決定戦がいよいよ開催 女子11時10分、男子12時15分スタート/全中駅伝
-
2025.12.14
-
2025.12.14
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
中央学大駅伝部が「TKK株式会社」とスポンサー契約を結んだことを発表した。 同社は千葉県八千代市に本社を構え、主にプレキャストコンクリート鋼製型枠を取り扱うメーカー。中央学大卒業の安保誠司氏が代表取締役を務めており、「未 […]
2025.12.16
今年度限りでの「引退」を表明した村澤明伸インタビュー【前編】 大学3・4年時はトラックと駅伝の両立に挑戦したが「バランスを取るのが難しかった」
全国高校駅伝で日本一に輝き、箱根駅伝は花の2区で快走。日本選手権10000mでも上位に食い込んだのが、村澤明伸(SGホールディングス、34歳)だ。紆余曲折を経て、今年度限りでの「引退」を表明したが、どんな競技生活を過ごし […]
2025.12.16
赤﨑優花が自身の思いと感謝綴る 移籍は「前向きな決断」「この道を正解にします」
12月15日で第一生命グループを退社し、夫の赤﨑暁も所属するクラフティア(前・九電工)へ移籍加入した赤﨑優花(旧姓・鈴木)が自身のSNSを更新し、改めて思いを綴った。 昨年のパリ五輪女子マラソン6位入賞の赤﨑。「決して悲 […]
2025.12.16
お詫びと訂正(月刊陸上競技2026年1月号)
月刊陸上競技2026年1月号別冊付録「全国高校駅伝総展望」に掲載したデータに誤りがございました。 正しいデータの情報を掲載するとともに、関係者の皆様にお詫びをし、訂正いたします。 男子 今治北(愛媛) 誤 都大路学校最高 […]
Latest Issue
最新号
2026年1月号 (12月12日発売)
箱根駅伝観戦ガイド&全国高校駅伝総展望
大迫傑がマラソン日本新
箱根駅伝「5強」主将インタビュー
クイーンズ駅伝/福岡国際マラソン
〔新旧男子100m高校記録保持者〕桐生祥秀×清水空跳