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2024.09.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第49回「教え子から学べる喜び~日本インカレ中距離を見て~」


山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第49回「教え子から学べる喜び~日本インカレ中距離を見て~」

日本インカレで東秀太(左)、寺西満輝(右)と記念撮影する筆者

昨年より1週遅く開催された日本インカレ(天皇賜盃第93回日本学生陸上競技対校選手権大会)は、残暑も少し和らぎ“秋高気爽”の中開催されるとの期待があった。

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しかし、9月半ばを過ぎても猛暑日が続くなか、真夏の大会と同等のコンディションと覚悟を決めて、甲府から神奈川県川崎市の等々力陸上競技場へと向かった。

大会初日は雷雨による競技の一時中断があり、2日目以降も強風や雨により高温多湿に追い打ちをかけるようなコンディションであった。

しかしながら、学生チャンピオンと対校戦“天皇賜杯”獲得を目指す学生競技者の熱き挑戦は随所に好勝負・好記録を展開した。

圧巻は男子400mハードル準決勝。立て続けにU20日本記録が更新され、来年9月に東京で開催される世界選手権の参加標準記録を突破者が出るなど会場を沸かせた。

男子4×100mリレーでは早大と東洋大が息詰まるような接戦。両校とも日本学生新記録でバトンをつないだ。早大に軍配が上がるも、大会最終種目の4×400mリレーでは東洋大のアンカーがバックストレートで早大を捉え、そのまま逃げ切って2連覇を達成した。

競技場の選手・役員、そしてスタンドの観客すべての視線が注がれるインカレ最終種目とあって、全力を振り絞る熱き走りが毎年心を揺さぶり、感動を与えてくれる。

そして、すべての競技を終えた後の競技場の余韻と静寂は、熱き夏を越えて鍛えてきた学生競技者たちに、しばしの安息を与えてくれる。このような高揚感を感じるのは私だけではないだろう。

来年岡山県で6月に開催予定の日本インカレを観戦にご来場される方がおられるなら、この一瞬まで味わっていただければと願っている。

24年日本インカレ男子800mを制した東秀太(左)と2位の寺西満輝

私は2019年からは駅伝監督を次世代の指導者に引き継ぎ、もっぱら中距離コーチとして指導している。800mでは2020年には瀬戸口大地が日本インカレ2位、日本選手権優勝。昨年の日本インカレは北村魁士が優勝した。今年は1500mでは北村と八鍬拓斗の2人が決勝に進み。北村が6位(八鍬は12位)。800mでは寺西満輝が2位、北村が4位であった。

中距離ランナー競技力育成方法は、「(有酸素能力+無酸素能力)×ランニングエコノミー」と書けば簡単に競技力向上の理論展開が説明できそうだが、レース展開やポジショニングなど含めるとなかなか奥深くおもしろい。

800m、1500mの中距離のトレーニング変革とパフォーマンス向上は、必ず5000mのレベルアップに寄与できるはずだと信じている。そのスピードなくして世界は見えてこない。

ノルウェーのヤコブ・インゲブリグトセンがアフリカ勢を置き去りにし、猛烈なラストスパートに痺れる思いを抱くのも、スローペースからギアチェンジしたわけではないからだった。

その走りは指導者としての好奇心に火をつけるには十分すぎるインパクトであった。

30年以上もアフリカ・ケニアからの留学生を指導し、幾度となくケニアのトレーニングや競技会を目の当たりにしてきて、ケニアのトップ選手のすさまじい強さは肌で感じてきた。その彼らが後塵を拝する姿は驚愕に値した。「なぜ?」から「どうすれば?」と疑問がぐるぐる頭の中を駆け巡った。

同じように軸足を中距離の指導において、素晴らしい結果に導いているのが広島経大監督の尾方剛氏である。山梨学大時代は箱根駅伝で、大会新記録を樹立した第70回大会(1994年)のアンカーを走り区間賞。その後は故障やストレスから全身の脱毛症になるなど苦しい時期を耐え、卒業後は中国電力陸上部に在籍した。

少しずつ走りのリズムと自信を取り戻し、世界選手権のマラソン代表として2003年パリ、05年ヘルシンキ、07年大阪大会に出場。ヘルシンキ大会では銅メダルを獲得している。04年の福岡国際優勝、08年北京五輪では13位と第一線で活躍してきた。

現役引退後は指導者としての道を歩むため、広島大大学院生涯活動教育学を専攻。健康スポーツ教育学を専修し、現在は広島経大スポーツ経営学科教授となっている。マラソンや駅伝の解説者としてもこれまでの経験と知見を生かした解説は好評である。

今回の日本インカレで男子800mを大会新記録で制したのは尾方監督が指導育成している東秀太君(3年)である。1500mを3位入賞した後のレースで、4日間フル出場であった。

尾方監督はインカレ期間の土曜日と日曜日は、日本スポーツ協会が主催するコーチデベロッパー養成講習会をオンラインで受講しなければならず、800mの予選、準決勝はzoomで講習中。レースを見ることはできなかったらしい。決勝はお昼休みの時間帯だったので、走りを見ることができて、「おめでとう」の一声だけかけて午後の講習会を受講したとのことだった。

学生競技者として東君は日頃の指導を基に、レース展開やメンタルコントロールを自身で、判断→決断→実行に移し、勝利を得たことに喝采を送りたい。そのような選手育成を実践できていることは、まさにコーチデベロッパーの資格獲得に相応しいコーチではないかと感嘆した。

教え子から学べる喜びを感じつつ脱帽し、乾杯!

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第49回「教え子から学べる喜び~日本インカレ中距離を見て~」

[caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 日本インカレで東秀太(左)、寺西満輝(右)と記念撮影する筆者[/caption] 昨年より1週遅く開催された日本インカレ(天皇賜盃第93回日本学生陸上競技対校選手権大会)は、残暑も少し和らぎ“秋高気爽”の中開催されるとの期待があった。 しかし、9月半ばを過ぎても猛暑日が続くなか、真夏の大会と同等のコンディションと覚悟を決めて、甲府から神奈川県川崎市の等々力陸上競技場へと向かった。 大会初日は雷雨による競技の一時中断があり、2日目以降も強風や雨により高温多湿に追い打ちをかけるようなコンディションであった。 しかしながら、学生チャンピオンと対校戦“天皇賜杯”獲得を目指す学生競技者の熱き挑戦は随所に好勝負・好記録を展開した。 圧巻は男子400mハードル準決勝。立て続けにU20日本記録が更新され、来年9月に東京で開催される世界選手権の参加標準記録を突破者が出るなど会場を沸かせた。 男子4×100mリレーでは早大と東洋大が息詰まるような接戦。両校とも日本学生新記録でバトンをつないだ。早大に軍配が上がるも、大会最終種目の4×400mリレーでは東洋大のアンカーがバックストレートで早大を捉え、そのまま逃げ切って2連覇を達成した。 競技場の選手・役員、そしてスタンドの観客すべての視線が注がれるインカレ最終種目とあって、全力を振り絞る熱き走りが毎年心を揺さぶり、感動を与えてくれる。 そして、すべての競技を終えた後の競技場の余韻と静寂は、熱き夏を越えて鍛えてきた学生競技者たちに、しばしの安息を与えてくれる。このような高揚感を感じるのは私だけではないだろう。 来年岡山県で6月に開催予定の日本インカレを観戦にご来場される方がおられるなら、この一瞬まで味わっていただければと願っている。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 24年日本インカレ男子800mを制した東秀太(左)と2位の寺西満輝[/caption] 私は2019年からは駅伝監督を次世代の指導者に引き継ぎ、もっぱら中距離コーチとして指導している。800mでは2020年には瀬戸口大地が日本インカレ2位、日本選手権優勝。昨年の日本インカレは北村魁士が優勝した。今年は1500mでは北村と八鍬拓斗の2人が決勝に進み。北村が6位(八鍬は12位)。800mでは寺西満輝が2位、北村が4位であった。 中距離ランナー競技力育成方法は、「(有酸素能力+無酸素能力)×ランニングエコノミー」と書けば簡単に競技力向上の理論展開が説明できそうだが、レース展開やポジショニングなど含めるとなかなか奥深くおもしろい。 800m、1500mの中距離のトレーニング変革とパフォーマンス向上は、必ず5000mのレベルアップに寄与できるはずだと信じている。そのスピードなくして世界は見えてこない。 ノルウェーのヤコブ・インゲブリグトセンがアフリカ勢を置き去りにし、猛烈なラストスパートに痺れる思いを抱くのも、スローペースからギアチェンジしたわけではないからだった。 その走りは指導者としての好奇心に火をつけるには十分すぎるインパクトであった。 30年以上もアフリカ・ケニアからの留学生を指導し、幾度となくケニアのトレーニングや競技会を目の当たりにしてきて、ケニアのトップ選手のすさまじい強さは肌で感じてきた。その彼らが後塵を拝する姿は驚愕に値した。「なぜ?」から「どうすれば?」と疑問がぐるぐる頭の中を駆け巡った。 同じように軸足を中距離の指導において、素晴らしい結果に導いているのが広島経大監督の尾方剛氏である。山梨学大時代は箱根駅伝で、大会新記録を樹立した第70回大会(1994年)のアンカーを走り区間賞。その後は故障やストレスから全身の脱毛症になるなど苦しい時期を耐え、卒業後は中国電力陸上部に在籍した。 少しずつ走りのリズムと自信を取り戻し、世界選手権のマラソン代表として2003年パリ、05年ヘルシンキ、07年大阪大会に出場。ヘルシンキ大会では銅メダルを獲得している。04年の福岡国際優勝、08年北京五輪では13位と第一線で活躍してきた。 現役引退後は指導者としての道を歩むため、広島大大学院生涯活動教育学を専攻。健康スポーツ教育学を専修し、現在は広島経大スポーツ経営学科教授となっている。マラソンや駅伝の解説者としてもこれまでの経験と知見を生かした解説は好評である。 今回の日本インカレで男子800mを大会新記録で制したのは尾方監督が指導育成している東秀太君(3年)である。1500mを3位入賞した後のレースで、4日間フル出場であった。 尾方監督はインカレ期間の土曜日と日曜日は、日本スポーツ協会が主催するコーチデベロッパー養成講習会をオンラインで受講しなければならず、800mの予選、準決勝はzoomで講習中。レースを見ることはできなかったらしい。決勝はお昼休みの時間帯だったので、走りを見ることができて、「おめでとう」の一声だけかけて午後の講習会を受講したとのことだった。 学生競技者として東君は日頃の指導を基に、レース展開やメンタルコントロールを自身で、判断→決断→実行に移し、勝利を得たことに喝采を送りたい。そのような選手育成を実践できていることは、まさにコーチデベロッパーの資格獲得に相応しいコーチではないかと感嘆した。 教え子から学べる喜びを感じつつ脱帽し、乾杯!
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。

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