2024.07.31
田中希実(New Balance)の言葉は、重い。パリ五輪には、前回の東京と同様に1500mと5000mで代表権を手にした。3年前も大会前に参加標準記録を突破したものの、6月の日本選手権終了までに2つとも参加標準記録をクリアしたのは世界選手権を含めても今回が初めてのこと。それだけ自力はついている。
ただ、田中は「標準を2種目とも切っているのは確かに今まで一番良い状態だと思います。ただ、それをちゃんと表現できるかわかりません」。日本選手権の最後のミックスゾーンで、唇を震わせ、涙がこぼれた。あの力強い走りからは想像できない苦悩が、田中の心の中にはある。
21年東京五輪は1500mで8位入賞の快挙。22年オレゴン世界選手権では800mも加えた3種目出場という、こちらも偉業だった。昨年のブダペスト世界選手権は5000mで8位。しかも、日本記録を最終的に14分29秒18にまで引き上げた。
今シーズン序盤は苦しんだが5月のダイヤモンドリーグ(DL)ユージンの5000mで14分47秒69をマークして五輪内定。DLストックホルム1500mでは東京五輪以降で最速となる4分02秒98をマーク。さらに、日本選手権1500mでサードベストの4分01秒44を叩き出して即内定を得た。
田中の目に焼きついているのはドーハの5000m決勝。シファン・ハッサン(オランダ)のラストスパート。「本当のかけっこがしたい。あの中に交じりたい」。日本選手権後に出たDLモナコ5000mではラスト勝負までもつれ込んで3位。まさに、あの日思い描いたレースが現実のものになろうとしている。
「日本人には無理、と思われるかもしれないけど、そこに向かっていく。世界と戦うには向かっていくしかないんです」
将来はどうなっていくのかわからない。ただ、ドーハから始まった父子の物語は、パリで一つのハイライトを迎えるのは田中自身も理解している。
「インターハイの時と同じように、『青春していたな』って思える時間」。フィナーレが近づくことが「ちょっと寂しい感情もあるんです」。
田中希実という奇跡のようなランナーにしか描けない物語。
「いちばんたいせつなことは、目に見えない」
(フランスの作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 『星の王子さま』)
心に秘める、田中希実にしか見えないもの。それを表現できれば、この物語は素敵なエピローグとなる。
パリ五輪・陸上競技 8月1日~11日
女子5000m 予選8月2日深夜1時10分/決勝8月5日深夜4時10分
女子1500m 予選8月6日17時05分/準決勝8月8日深夜2時35分/決勝8月10日深夜3時25分
文/向永拓史
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.06.15
-
2025.06.11
2025.05.28
女子10000mがレース途中で異例の中断!! 大雨と雷の影響も選手困惑/アジア選手権
2025.05.16
2025高校最新ランキング【女子】
-
2025.06.04
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.06.16
800m昨年全国8位の菊池晴太が1分50秒03の大会新V「収穫と悔しさがある」400mH長谷川桜介が51秒19、三段跳の菅野穂乃は大会新/IH東北
◇インターハイ東北地区大会(6月13~16日/青森・カクヒログループアスレチックスタジアム)3日目 広島インターハイを懸けた東北地区大会の3日目が行われ、男子800mは菊池晴太(盛岡第四3岩手)が1分50秒03の大会新で […]
2025.06.16
200mはバログン・ハル23秒77の高2歴代5位で400mとの2冠 東島権治21秒06 やり投は松本65m05、走高跳は清水2連覇/IH南関東
◇インターハイ南関東地区大会(6月13~16日/カンセキスタジアムとちぎ、栃木県総合運動公園多目的広場投てき場) 広島インターハイ出場を懸けた南関東地区大会の3日目が行われ、女子200mでバログン・ハル(市川2千葉)が従 […]
2025.06.16
走幅跳IH2位の成澤柚日が自己新6m11で3連覇!柴田弥聖が2年連続ロングスプリント2冠/IH北関東
◇インターハイ北関東地区大会(6月13~16日/栃木県宇都宮市・県総合運動公園カンセキスタジアム) 広島インターハイを懸けた北関東地区大会の2日目が行われ、女子走幅跳で成澤柚日(共愛学園3群馬)が自己新の6m11(+1. […]
2025.06.16
円盤投・松元美春が最終投てきで大逆転連覇&3年連続IHへ!走幅跳・木浦が自己新連発7m20、大混戦800mは田中が2年生V/IH南九州
◇インターハイ南九州地区大会(6月13~16日/熊本市・えがお健康スタジアム)3日目 広島インターハイを懸けた南九州地区大会の3日目が行われ、女子円盤投は松元美春(出水3鹿児島)が39m42で2連覇を達成した。 広告の下 […]
Latest Issue
最新号

2025年7月号 (6月13日発売)
詳報!アジア選手権
日本インカレ
IH都府県大会