2023.12.25
◇全国高校駅伝・男子第74回(12月24日/京都・たけびしスタジアム京都発着:7区間42.195km)
「谷間」と言われた3年生世代を中心にしたチームが大仕事を成し遂げた。第74回全国高校駅伝男子は、佐久長聖(長野)が2時間1分00秒の衝撃的なタイムで優勝。大会記録を10秒、自校が前回出した高校最高を57秒更新し、26年ぶりに「大会記録」と「高校最高」の2つを“統一”した。
1、2区で優勢を築き、3区でトップへ。連覇がかかる倉敷(岡山)に、前回と同じ選手の3、4区で追い上げられたがリードを保った。そして、5区区間新が優勝への決定打になった。
5000m13分台6人を擁するドリームチームを結成した。「佐久長聖高校にとって13分台は特別ではない。両角(速)先生の時代から築き上げた環境とメソッドで練習をしていけば、おのずと目標になるタイム」と高見澤勝監督は言う。
1区永原颯磨(3年)は区間4位。前回は区間2位で、今季は3000m障害の高校新をマークした永原だが、10月に負ったケガから復調途上したばかり。しかし、この永原の苦闘が、優勝への大きなポイントになる。ここで前回優勝の倉敷に対して40秒のリード。最長区間にエースが座り、万全ではなくとも相応の働きをしたことが、アドバンテージを築いたのだ。
2区の遠藤大成(3年)が果敢な走りで先頭争いに持ち込む。1位は学法石川(福島)に譲ったものの2位に浮上。倉敷との差をさらに広げて56秒とした。
中盤の山場となる3、4区の攻防へ。例年、8km強の2区間で形勢が決まる。佐久長聖はここに5000m13分30秒台コンビの山口竣平(3年)と濱口大和(2年)を置く。対する倉敷は前回の区間賞コンビであるサムエル・キバティ(3年)と桑田駿介(3年)だ。
「フロントランナーゆえ、目標とされる1区よりは、自分で押していける特長を生かせる3区に」(高見澤監督)と期待された山口が好走。横風に対処しながら、23分21秒の区間3位(日本人1位)でまとめた。4区はいよいよ2位に上がってきた倉敷に、じわじわと詰められたが、濱口が終盤に再び突き放す粘り。倉敷との差は3区終了時で22秒、4区で15秒。リードを保ち、しかしどう転ぶかわからない状況にもなって、終盤3区間へ突入した。
しかし佐久長聖の5~7区が、過去最強だった。この時点でビハインドを負っていたとしても、「5区で大きく追い上げ、6区で逆転できれば」と高見澤監督が事前に描いた自信の区間。そして「とくに自信を持っています」とした3kmの5区が2年生の佐々木哲だ。
メンバー7人の中で5000mの自己記録がもっとも低く、ただ1人の14分台が佐々木。それでも14分03秒だ。11月以降に調子を上げ、メンバーに滑り込んできた。
その佐々木が大偉業を達成する。5区区間記録を“51年ぶり”に更新したのだ。佐々木ははっきりと「伝説の記録」を狙っていた。1km2分40秒で突き進み、3区を終えた山口が「時計が壊れているのか?」と驚くほどのペース。
待ち受けるのはコース後半の上り。「苦しくなるのはわかっていましたが、そこでスピードをキープできたことが区間新につながりました」と佐々木。区間新だけでなく、倉敷との差が51秒に再拡大。相手にしてみれば、わずか3kmで36秒も水を開けられたらお手上げだ。
その勢いに乗って、6区吉岡斗真(3年)が区間賞。14分16秒はこの区間の歴代4位タイ(日本人3位タイ)。7区は篠和真(2年)が区間2位で駆け、総合2時間1分00秒の快記録を手にするとともに、6年ぶり3度目の優勝をもぎ取った。
13分台6人の「最速チーム」。レースに臨むにあたっては、むしろ「タイム」を度外視していたという。「個々の目標はもちろんありましたが、高校最高などの総合タイムはいっさい考えませんでした。狙ったのは優勝だけです」と永原主将。
速さより強さを。テーマ通り、区間5位未満が1つもない安定感と逞しさを表現する継走だった。「支えてくださった方々に少しでも恩返しを体現できたことがうれしい。タイムはそれを目指した結果」と、選手たちは口をそろえる。
佐久長聖は初優勝時の2008年に当時の高校最高(2時間2分18秒)をマーク。その前年に「歴代最速の2位」だった点も今回と共通している。
初優勝に導いた前任の両角速監督(現・東海大駅伝監督)は全国初出場から13年、受け継いだ高見澤勝監督がそれと同じ13年目。「もう13年になるんだなという思い。ようやく回数だけは追いつきました」。恩師を超えたと言っていい偉業にも、低姿勢の高見澤監督だった。
文/奥村 崇
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