HOME 学生長距離

2023.01.29

最後の箱根路/大東大の頼れる主将・谷口辰煕 予選会トップ通過などチームを蘇らせた前向きな姿勢と言葉
最後の箱根路/大東大の頼れる主将・谷口辰煕 予選会トップ通過などチームを蘇らせた前向きな姿勢と言葉

大東大の谷口辰煕(2023年箱根駅伝)

2023年、最後の箱根駅伝を終えた大学4年生ランナーたち。納得のいく走りができた選手や悔いを残した選手、なかにはアクシデントでスタートラインにすら立てなかったエース級もいる。お届けするのは、そんな最上級生たちの物語――。

新監督就任でチームに変化

昨年10月の箱根駅伝予選会で大東大が堂々のトップ通過で4年ぶりの本戦出場を決めた際、主将の谷口辰煕(4年)は「真名子(圭)監督を絶対に箱根に連れていきたいという思いが一番強かった」と安堵の表情で語っていた。

もちろん選手たち自身の目標でもあるが、「誰かのために」という気持ちは、より大きな力を引き出すのかもしれない。

広告の下にコンテンツが続きます

谷口が頭角を現したのは、3年目のシーズンだった。5月の関東インカレ(2部)では主戦場の3000m障害で6位入賞。11月に10000mで28分台(28分58秒24)をマークし、12月には5000mで14分00秒45と13分台にあと一歩まで迫っている。その前にあった箱根予選会もチーム2番手に入る力走を見せたが、チームは総合12位で3年連続敗退に終わった。

最終学年となった2022年度。チーム再建を託された真名子監督が新たな指揮官として就任した。谷口は新監督の指導を受けるなかで、チームの変化を感じていたという。

「“1”への固執というか、選手一人ひとりに『誰よりも速く走りたい』『チームの中で自分が1番になりたい』という気持ちが芽生えてきました。今まではチーム内で争う雰囲気はあまり感じませんでしたが、監督が代わってこれまでとはまったく違う練習や雰囲気に変わった気がします」

5月から8月にかけて右脚の腸脛靭帯炎で離脱したのは、「監督の期待に応えたい、自分がやらなければという思いから無理してしまった」ことが原因。走れる時期は主将として、副主将の木山凌や寮長の井田春(ともに4年)らとチームをまとめてきた。

「どんな時もチームが悪い方向に行かないように意識しました。きつい練習の後はみんなが下を向いてしまいがちですが、後輩たちには『きつかったけど、楽しかったな』とか『今日できなくても、次に絶対つながるから』といった前向きな言葉をかけるようにしました」

そうした言動は、自身が1年時に「4年生とはあまり話すことがなかった」という経験による。「チームが強くなるには、縦のつながりが不可欠」と考えたのだった。

10区8位で「やり切った」

チームが着実に力をつけ、ようやく立てた夢舞台の箱根駅伝で、谷口はアンカーを任された。17位でタスキを受け、シード権獲得というチーム目標の達成はすでに厳しい状況だったが、走っている最中は「沿道の声援が途絶えなくて、どうなっているんだろうと、ずっと楽しかった」と振り返る。何より運営管理車の真名子監督からかけられる言葉が力強く背中を後押しした。

「『今年、キャプテンを務めてくれてありがとう』と言ってもらえたことと、真名子監督も4年生の時にキャプテンで10区を走られて、9位から6位に押し上げるという活躍をされましたが、『俺も苦しんで同じ状況だから、ラスト3kmきついけど、本当に楽しんでこい』と言ってくれたことがすごくうれしかったです」

チームメイトが待つ大手町に向かって力走を続けた谷口は、1時間10分03秒の区間8位。総合16位でフィニッシュした。

「目標だった1時間9分30秒で走れることはできませんでしたが、監督が4年時に獲得された10区区間賞の記録(1時間10分19秒)をクリアでき、自分としては100%以上の走りができました。チームとしては、狙っていたシード権に及びませんでしたが、この1年やってきたことに悔いはありません。3年生以下が来年、この悔しい思いをバネにしてシードにつなげてほしいと思います」

卒業後はNTNで競技を続ける谷口。「やり切った」というすがすがしい表情を浮かべつつ、堂々とした振る舞いは最後まで頼れるキャプテンだった。

2023年箱根駅伝9区・10区のタスキリレー

谷口辰煕(たにぐち・たつひろ:大東大)/2000年9月16日生まれ。滋賀県高島市出身。滋賀・比叡山高。自己ベストは5000m14分00秒45、10000m28分46秒52、ハーフ1時間3分56秒

文/小野哲史

2023年、最後の箱根駅伝を終えた大学4年生ランナーたち。納得のいく走りができた選手や悔いを残した選手、なかにはアクシデントでスタートラインにすら立てなかったエース級もいる。お届けするのは、そんな最上級生たちの物語――。

新監督就任でチームに変化

昨年10月の箱根駅伝予選会で大東大が堂々のトップ通過で4年ぶりの本戦出場を決めた際、主将の谷口辰煕(4年)は「真名子(圭)監督を絶対に箱根に連れていきたいという思いが一番強かった」と安堵の表情で語っていた。 もちろん選手たち自身の目標でもあるが、「誰かのために」という気持ちは、より大きな力を引き出すのかもしれない。 谷口が頭角を現したのは、3年目のシーズンだった。5月の関東インカレ(2部)では主戦場の3000m障害で6位入賞。11月に10000mで28分台(28分58秒24)をマークし、12月には5000mで14分00秒45と13分台にあと一歩まで迫っている。その前にあった箱根予選会もチーム2番手に入る力走を見せたが、チームは総合12位で3年連続敗退に終わった。 最終学年となった2022年度。チーム再建を託された真名子監督が新たな指揮官として就任した。谷口は新監督の指導を受けるなかで、チームの変化を感じていたという。 「“1”への固執というか、選手一人ひとりに『誰よりも速く走りたい』『チームの中で自分が1番になりたい』という気持ちが芽生えてきました。今まではチーム内で争う雰囲気はあまり感じませんでしたが、監督が代わってこれまでとはまったく違う練習や雰囲気に変わった気がします」 5月から8月にかけて右脚の腸脛靭帯炎で離脱したのは、「監督の期待に応えたい、自分がやらなければという思いから無理してしまった」ことが原因。走れる時期は主将として、副主将の木山凌や寮長の井田春(ともに4年)らとチームをまとめてきた。 「どんな時もチームが悪い方向に行かないように意識しました。きつい練習の後はみんなが下を向いてしまいがちですが、後輩たちには『きつかったけど、楽しかったな』とか『今日できなくても、次に絶対つながるから』といった前向きな言葉をかけるようにしました」 そうした言動は、自身が1年時に「4年生とはあまり話すことがなかった」という経験による。「チームが強くなるには、縦のつながりが不可欠」と考えたのだった。

10区8位で「やり切った」

チームが着実に力をつけ、ようやく立てた夢舞台の箱根駅伝で、谷口はアンカーを任された。17位でタスキを受け、シード権獲得というチーム目標の達成はすでに厳しい状況だったが、走っている最中は「沿道の声援が途絶えなくて、どうなっているんだろうと、ずっと楽しかった」と振り返る。何より運営管理車の真名子監督からかけられる言葉が力強く背中を後押しした。 「『今年、キャプテンを務めてくれてありがとう』と言ってもらえたことと、真名子監督も4年生の時にキャプテンで10区を走られて、9位から6位に押し上げるという活躍をされましたが、『俺も苦しんで同じ状況だから、ラスト3kmきついけど、本当に楽しんでこい』と言ってくれたことがすごくうれしかったです」 チームメイトが待つ大手町に向かって力走を続けた谷口は、1時間10分03秒の区間8位。総合16位でフィニッシュした。 「目標だった1時間9分30秒で走れることはできませんでしたが、監督が4年時に獲得された10区区間賞の記録(1時間10分19秒)をクリアでき、自分としては100%以上の走りができました。チームとしては、狙っていたシード権に及びませんでしたが、この1年やってきたことに悔いはありません。3年生以下が来年、この悔しい思いをバネにしてシードにつなげてほしいと思います」 卒業後はNTNで競技を続ける谷口。「やり切った」というすがすがしい表情を浮かべつつ、堂々とした振る舞いは最後まで頼れるキャプテンだった。 [caption id="attachment_91855" align="alignnone" width="800"] 2023年箱根駅伝9区・10区のタスキリレー[/caption] 谷口辰煕(たにぐち・たつひろ:大東大)/2000年9月16日生まれ。滋賀県高島市出身。滋賀・比叡山高。自己ベストは5000m14分00秒45、10000m28分46秒52、ハーフ1時間3分56秒 文/小野哲史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.12.06

第一工科大が最終区での逆転で3年ぶり栄冠! 初V目指した鹿児島大は13秒差で涙/島原学生駅伝

12月6日、第43回九州学生駅伝が長崎県島原市の市営競技場をスタートし、島原文化会館にフィニッシュする7区間57.75kmのコースで行われ、第一工科大が3時間3分10秒で3年ぶり21回目の優勝を飾った。 第一工科大は1区 […]

NEWS 全日本入賞の福岡大が全区間トップで圧勝 九大5年連続2位 佐賀大は過去最高3位/九州学生女子駅伝

2025.12.06

全日本入賞の福岡大が全区間トップで圧勝 九大5年連続2位 佐賀大は過去最高3位/九州学生女子駅伝

12月6日、第25回九州学生女子駅伝(5区間22.8km)が長崎県島原市で行われ、福岡大が1時間17分31秒で14回目の優勝を果たした。 10月の全日本大学女子駅伝で8位に入賞している福岡大は1区から他校を圧倒。前回に続 […]

NEWS やり投・﨑山雄太がヤマダHDへ!「新たな船出」今年日本歴代2位、世界陸上代表

2025.12.06

やり投・﨑山雄太がヤマダHDへ!「新たな船出」今年日本歴代2位、世界陸上代表

男子やり投の﨑山雄太が自身のSNSを更新し、12月1日からヤマダホールディングスに移籍加入したことを発表した。 﨑山は奈良県出身の29歳。大阪・関西創価高でやり投を始めるとケガのため主要大会の実績こそないが、日大入学早々 […]

NEWS 西山和弥、竹内竜真、デレセらが防府読売マラソンでV目指す 五輪MGC出場権懸けた一戦

2025.12.05

西山和弥、竹内竜真、デレセらが防府読売マラソンでV目指す 五輪MGC出場権懸けた一戦

◇第56回防府読売マラソン(12月7日/山口県防府市) MGCシリーズ2025-26の第56回防府読売マラソンが12月7日(日)に行われる。大会は男子がMGCシリーズのG1(グレード1)、女子がG3に位置づけられており、 […]

NEWS 細谷恭平が悲願の初Vなるか!?伝統の福岡国際マラソン 2時間9分でロス五輪MGCへ

2025.12.05

細谷恭平が悲願の初Vなるか!?伝統の福岡国際マラソン 2時間9分でロス五輪MGCへ

◇福岡国際マラソン2025(12月7日/福岡市・平和台陸上競技場発着) MGCシリーズ2025-26男子G1の福岡国際マラソン2025が12月7日に行われる。来年の名古屋アジア大会代表選考会を兼ねているだけでなく、28年 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年12月号 (11月14日発売)

2025年12月号 (11月14日発売)

EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選

Follow-up Tokyo 2025

page top