女子やり投でブダペスト世界選手権、パリ五輪を制している北口榛花(JAL)が本誌の単独インタビューに応じ、予選敗退に終わった東京世界選手権を振り返り、来季に対する思いも語った。
連覇を逃して涙に暮れた世界選手権予選から1週間。北口にいつもの笑顔が戻っていた。
「予選落ちに終わって、さすがに2日間くらいは落ち込みました。完全に糸が切れて、2、3日は夜に寝ても17時半くらいまで起きなくて、1日の稼働時間が4時間くらい(笑)。この状態だと(国立競技場まで)観に行けないなと思って、テレビで見ていました。決勝も見ました。みんなが努力しているのを知っています。できれば、仲の良い選手に頑張ってほしいな、とは思っていました」
予選が終わった直後は、「B組の結果を見ず、すぐに(NTCに)戻ってケアをしていました」。これは万が一決勝に残れた時のことを考え、決勝に向けて少しでも状態を良くするためだった。
今年6月のチェコ・オストラヴァ「ゴールデンスパイク」で右肘を痛めた。当時のことをこう振り返る。
「6回目を投げた時に、ブチブチって音がしたのを感じました。結構、やばいやつだろうなって。予兆はなかったです。すぐに日本の病院を予約してもらって、帰国後すぐに診察してもらえたのは良かったです」
右肘内側上顆炎と診断され、その後は日本選手権を含めて2ヵ月半試合から遠ざかった。
「最初はハンドボール投げから始めました。痛めた靱帯よりも、腕の周りの筋肉が痛みました。ゴムで髪を縛ったり、化粧水を顔に塗ったり。指を引っかけるような動作で結構痛かったんです。もしかしたら、少し肉離れをしていたのかもしれませんが、治療を開始したためハッキリとはわかりませんでした」
8月末のダイヤモンドリーグ2連戦で復帰すると、何とか世界選手権に出場。だが、痛みがあったため満足な投てき練習ができず。世界選手権前の最後の投てき練習でやっとサポーターとして巻いていたテープを外したという。予選で60m38を投げたが全体14位。決勝進出を逃した。
「世界選手権をあきらめるという選択肢はなかったです。それは自国開催だから、ではなくて、シーズン最後にはちゃんと出て終わりたいと思っていたので。結果的に、間に合わなかった。技術どうこうというところまで行けませんでした。今思えば、もう少し調整を変えれば違ったかな、とも思います。例えば投てき練習の回数を増やしたり、小さな試合を挟んだり。いつも通りの調整をしてしまいました。どうなったかはわかりませんが、技術的なところはもう少し改善できたかなって思います」
あと1ヵ月あれば、もし決勝に行けていれば。「違ったとは思います」。“たら・れば”は尽きない。時間は戻って来ないが、北口のこれまでの功績、2つの金メダルが色あせることもない。「できる限りのことはやれたと思います」と胸を張り、まだ終わったばかりのため「もう少ししてから診察」だというが、今のところ新たな痛みなど、問題はない。
北口は春先にはパリ五輪までのサポート体制から、トレーナーや栄養士など変わらない部分もあったが、新たに力を貸してくれる人も加わり、一部再構築する形となった。「それが肘のケガにつながったわけではありません」と語り、信頼できるスタッフとともに進んできた。
「オストラヴァでは、アキレス腱が久しぶりに痛くなかったので、最近の中ではかなり助走が速くなり、それに動作が追いつけなかったのではないか」と冷静に自己分析している。
自国開催の世界選手権は、かねてから「競技人生、最初で最後だと思う」と語っていた北口。だが、本番を迎え、スタジアムに入れば良い意味で特別感はなかったという。
「知っている顔以外は、全員外国の陸上好きな人たちって思うようにしていました(笑)。他の世界大会と同じように思えたのは、これまでの場数が物を言ったかなって感じます」
ただ、やはり会場の雰囲気はこれまでとは違う感動を覚えた。
「国立競技場が埋まるというのは本当に想像できませんでした。これまでの国内大会だと、(人気の)トラック種目が終わったら帰る人も多かったですが、今回はそんなことはなかったですよね。選手たち(の魅力)が引き寄せたのだと思いますが、最後まで見てくれる人が多かった。本当に素晴らしい空間だったと思います。来年以降、日本選手権やグランプリなどに戻ってきてもらえるようにしていかなきゃいけないですね」
本人は「どうですかね…」と照れくさそうだったが、ここまで陸上界を盛り上げ、世界選手権への注目度を高めた北口の貢献度は計り知れない。すでに来シーズンの試合の計画を立ており、例年通りオフを挟んで秋にはトレーニングを再開する構えだ。
「来年はアルティメット選手権(ブダペスト)とアジア大会があります。またダイヤモンドリーグも転戦したいし、ファイナルも勝ちたい。世界選手権が終わっても、やりたいことは変わらないし、尽きないなって。これからのことを考えるのが今はすごく楽しいです」
10月には自身プロデュースで中高生に向けた初めてのやり投教室を開催する。「初めてなのでチャレンジングですが、自分が海外で見てきたことや、中高生に本当に必要なことなど、十分な時間ではないかもしれませんが、伝えられれば。そして、今後も発展させていきたいです」と笑顔を見せた。
構成/向永拓史
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