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2024.05.07

【竹澤健介の視点】葛西潤と五島莉乃に感じた「意志」と冷静さ 太田智樹の安定感、前田和摩の潜在能力に驚き/日本選手権10000m
【竹澤健介の視点】葛西潤と五島莉乃に感じた「意志」と冷静さ 太田智樹の安定感、前田和摩の潜在能力に驚き/日本選手権10000m

24年日本選手権10000mで上位を占めた葛西潤(旭化成、中央)、太田智樹(トヨタ自動車、左)、前田和摩(東農大)

静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムを舞台に開催された第108回日本選手権10000m。男子は葛西潤(旭化成)が27分17秒46、女子は五島莉乃(資生堂)が30分53秒31と、ともに日本歴代6位の好タイムで初優勝を飾った。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、レースを振り返ってもらった。

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男子は最初の1000mを速く入って、そこから落ち着いてラストにつなげる。全体としてレース戦略がしっかりとしていて、うまく流れを作れたと感じました。

その中でも葛西潤選手は、常にレース全体を俯瞰できる位置をキープし、省エネの走りができていました。その余裕度がラスト1000mからの仕掛けにつながったと思います。スパートも自分で想定していたものだったと感じましたし、「こういうレースをする」という意志を感じました。

スパートの部分は一瞬で切り替えるというよりも、グーンと上がっていくタイプ。葛西選手自身は、自分のリズムを常にコントロールしながら走れていましたが、他の選手にとってはリズムを合わせるのが難しかったのではないでしょうか。

能力的には大阪・関西創価高時代から折り紙付きでしたが、大学ではケガが続いて苦しい4年間だったのではないかと想像します。しかし、地道にやってきたことが実を結び、今はしっかりとトレーニングを詰めていることで、今回の結果につながったのでしょう。

2位の太田智樹選手(トヨタ自動車)の、コンスタントに力を発揮する能力は素晴らしいと思います。ストライドをしっかりとコントロールし、小気味良いピッチを刻む。だから、レースで崩れないのでしょう。どんな時にも外さない力は世界大会向きでもあり、急激に変化する流れ、ハイスピードに対応できる可能性もあります。

課題は、前に位置することが多すぎる点でしょうか。前にいることは精神的には一番楽なのですが、ペースの変化に逐一反応せざるを得ない位置でもあります。終盤の勝負のために、体力を温存する展開を作ることができれば、いよいよ勝負を制する段階に入るのではないでしょうか。

3位の前田和摩選手(東農大)の走りには驚かされました。脚が長く、ストライドに余裕があります。全身がうまく脱力でき、力を入れるべきタイミングでしっかりと入る。今回のような65秒~66秒ペースでは、常に前の選手とストライドが詰まっている状況でした。27分台を切るポテンシャルが最もある選手の1人と言えるでしょう。

今年の箱根駅伝前にケガがありましたが、そこから地道なトレーニングで作り上げてきたことが想像できます。今大会もギリギリのタイミングで追加でエントリーできた状況であり、狙って臨んだものではないと思います。トレーニングの過程の中で、これだけの力を発揮できる選手はなかなかいないでしょう。

ただ、今回の日本選手権の位置づけとして、葛西選手や前田選手と、太田選手や10位にとどまった塩尻和也選手(富士通)ら他の有力選手、欠場となった田澤廉選手(トヨタ自動車)らでは臨む過程が違います。太田選手らはワールドランキングのポイント獲得を意識し、昨年から何度も10000mレースに出場してきました。何度もピークを持ってこないといけない苦しさがあったと思いますが、一方で日本選手権がポイントを獲得する大会という位置づけになりつつあるのかもしれません。

世界と本当の意味で戦っていくためには、このターゲットを「ポイント」から「標準」にできないと、その差は埋まっていかないでしょう。パリ五輪は出場権を獲得できるかどうかのボーダーラインにとどまりましたが、さらに4年後を見据えた時に、3年目には標準突破をし、ロサンゼルス五輪イヤーには世界とどう戦うかに集中できるようになっていてほしい。「出場する」からもう1つ上の段階に入れるような強化を目指してほしいと思っています。

女子はブダペスト世界陸上7位の廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)が欠場となり、出場人数も少なくてやや寂しい印象でした。

その中でも五島選手が、常に自分の状況を見定め、いいポジションからペースアップする盤石のレース運び。中盤でペースメーカーの前に出るのは難しい判断だったと思いますが、それを決断し、日本選手権という舞台で自己新を出せたことは、素晴らしいことです。

2位の小海遥選手(第一生命グループ)は、昨年7月のアジア選手権(優勝)、12月の日本選手権(3位)と、次の世代を引っ張る存在として結果を続けて出せています。ここからどんどん波を少なくし、上へ上へとつながっていけば、他の選手にも刺激を与えて層が厚くなるきっかけになるのではないでしょうか。

◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ)
摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00(日本人学生最高)、10000m27分45秒59。

静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムを舞台に開催された第108回日本選手権10000m。男子は葛西潤(旭化成)が27分17秒46、女子は五島莉乃(資生堂)が30分53秒31と、ともに日本歴代6位の好タイムで初優勝を飾った。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 男子は最初の1000mを速く入って、そこから落ち着いてラストにつなげる。全体としてレース戦略がしっかりとしていて、うまく流れを作れたと感じました。 その中でも葛西潤選手は、常にレース全体を俯瞰できる位置をキープし、省エネの走りができていました。その余裕度がラスト1000mからの仕掛けにつながったと思います。スパートも自分で想定していたものだったと感じましたし、「こういうレースをする」という意志を感じました。 スパートの部分は一瞬で切り替えるというよりも、グーンと上がっていくタイプ。葛西選手自身は、自分のリズムを常にコントロールしながら走れていましたが、他の選手にとってはリズムを合わせるのが難しかったのではないでしょうか。 能力的には大阪・関西創価高時代から折り紙付きでしたが、大学ではケガが続いて苦しい4年間だったのではないかと想像します。しかし、地道にやってきたことが実を結び、今はしっかりとトレーニングを詰めていることで、今回の結果につながったのでしょう。 2位の太田智樹選手(トヨタ自動車)の、コンスタントに力を発揮する能力は素晴らしいと思います。ストライドをしっかりとコントロールし、小気味良いピッチを刻む。だから、レースで崩れないのでしょう。どんな時にも外さない力は世界大会向きでもあり、急激に変化する流れ、ハイスピードに対応できる可能性もあります。 課題は、前に位置することが多すぎる点でしょうか。前にいることは精神的には一番楽なのですが、ペースの変化に逐一反応せざるを得ない位置でもあります。終盤の勝負のために、体力を温存する展開を作ることができれば、いよいよ勝負を制する段階に入るのではないでしょうか。 3位の前田和摩選手(東農大)の走りには驚かされました。脚が長く、ストライドに余裕があります。全身がうまく脱力でき、力を入れるべきタイミングでしっかりと入る。今回のような65秒~66秒ペースでは、常に前の選手とストライドが詰まっている状況でした。27分台を切るポテンシャルが最もある選手の1人と言えるでしょう。 今年の箱根駅伝前にケガがありましたが、そこから地道なトレーニングで作り上げてきたことが想像できます。今大会もギリギリのタイミングで追加でエントリーできた状況であり、狙って臨んだものではないと思います。トレーニングの過程の中で、これだけの力を発揮できる選手はなかなかいないでしょう。 ただ、今回の日本選手権の位置づけとして、葛西選手や前田選手と、太田選手や10位にとどまった塩尻和也選手(富士通)ら他の有力選手、欠場となった田澤廉選手(トヨタ自動車)らでは臨む過程が違います。太田選手らはワールドランキングのポイント獲得を意識し、昨年から何度も10000mレースに出場してきました。何度もピークを持ってこないといけない苦しさがあったと思いますが、一方で日本選手権がポイントを獲得する大会という位置づけになりつつあるのかもしれません。 世界と本当の意味で戦っていくためには、このターゲットを「ポイント」から「標準」にできないと、その差は埋まっていかないでしょう。パリ五輪は出場権を獲得できるかどうかのボーダーラインにとどまりましたが、さらに4年後を見据えた時に、3年目には標準突破をし、ロサンゼルス五輪イヤーには世界とどう戦うかに集中できるようになっていてほしい。「出場する」からもう1つ上の段階に入れるような強化を目指してほしいと思っています。 女子はブダペスト世界陸上7位の廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)が欠場となり、出場人数も少なくてやや寂しい印象でした。 その中でも五島選手が、常に自分の状況を見定め、いいポジションからペースアップする盤石のレース運び。中盤でペースメーカーの前に出るのは難しい判断だったと思いますが、それを決断し、日本選手権という舞台で自己新を出せたことは、素晴らしいことです。 2位の小海遥選手(第一生命グループ)は、昨年7月のアジア選手権(優勝)、12月の日本選手権(3位)と、次の世代を引っ張る存在として結果を続けて出せています。ここからどんどん波を少なくし、上へ上へとつながっていけば、他の選手にも刺激を与えて層が厚くなるきっかけになるのではないでしょうか。 ◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ) 摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00(日本人学生最高)、10000m27分45秒59。

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