2024.04.10
棒高跳の申し子が世界への扉を開くか
棒高跳王国と言われる群馬で、小6からポールを握った。中学生で日本選手権にも出場し、当時の中学最高記録(3m81※室内)も樹立。高2初となる4m00ボウルターになり、中大では学生記録(4m30)も打ち立てた。
22年シーズン後からは、田中成コーチにメニューを一任し、「ガラッと変わりました」という。
「スプリントも週3回取り組んでいますし、苦手だった300mや200mも走っています。大学までは全然やってこなかったウエイトトレーニングも週2回くらいは必ず入れていて、マックスも上がっています。助走スピードも上がりましたし、ブレなくなりました。ポールが硬くなっても対応できるようにもなったと思います」
今の課題は「踏み切りの形を作ること」。まだ良い時と悪い時の振れ幅が大きいようで、「形が雑になると払われてしまって、身体が流れる跳躍になる」という。踏み切りに突っ込む局面でも恐怖心が出てはいけない。「怖がると後傾してしまうので、姿勢を崩さずに入っていきたいんです」。また、「もっとポールを曲げ込めたら反発を得られると思います」と、さらなる高さを見据えている。
「海外の選手では同じくらいの身長(165cm)で4m80くらい跳ぶ選手もいます。ロシアでは身長170cmに満たない選手で5m超えもいます。まずはしっかりフィジカル面をアップさせることを大前提に、どれだけ技術でカバーできるか。高い技術もフィジカルがないとついてこないので、やっぱりベースアップですね」
女子跳躍が活気づくなか、「まだ棒高跳は世界と差があるので、秦さんや森本さんのように世界に出て、私も追いついていきたい」と強い決意をにじませる。
パリ五輪の参加標準記録4m73はやや高いが、「シーズンに入ったらヨーロッパなど、ポイントの高い試合を少し狙えればと思っています。日本選手権までにしっかり(ワールドランキングを)上げていきたいです。アベレージをしっかり上げて、一つひとつの試合でベストを目指していきます。4m50は見えているので、それ以上を跳んでパリ五輪に行きたい」
この種目では12年ロンドン以来の五輪出場へ。日本女子棒高跳の扉を開いてきた諸田が新たな歴史を刻む。
文/向永拓史
23年度一発目の日本記録
昨シーズン、“日本新第一号”は諸田によってもたらされた。4月1日に4m41。ロンドン五輪に出場した我孫子智美の日本記録を11年ぶりに1cm塗り替えた。2023年度、栃木スポーツ協会からアットホームに所属となり、新しいユニフォームを着て臨む最初の試合だった。 「あそこで日本新が出るとは思っていなかったのですが、跳べたことで『今これくらい跳べるんだ』と自信になりました」。技術的に「良かったとは言えない」が、「冬季をケガなく積めてベースアップできた成果」だと振り返る。 特に助走の面では数年かけて改善してきた。「この2、3年で徐々に良くなってきて、形になってきました。特に後半、ラストの駆け上がりのところで後傾しないで走れるようになりました」。 4m41に関してはこう振り返る。 「最後の(踏み切りまでの)入りの勢いが全然違いました。1つ前の高さ(4m34)は少し上の方向に入ってしまったのですが、前方向にポールを曲げる意識を持ったら反発がもらえて、上に打ち上げられる感覚がありました」 棒高跳は陸上競技に置いて唯一、道具を使って身体を動かす種目である。助走スピードを生かし、ポールを曲げる。そのポールがまっすぐに戻ろうとする力を利用して空中へとテイクオフする。世界トップ選手は男子であれば6mを越える。それは“跳ぶ”よりも“飛ぶ”と表現しても大げさではない。 不思議なもので、高く跳び上がるのだが、失敗跳躍の時は「上に上がろうとしてしまう」。そうすると、「良い反発がもらえない」のだという。わずかなスペースに、ほぼ全速力でポールを突き刺す恐怖心に打ち勝ち、「前に力を加える」ことができれば、ポールが曲がり、身体は美しく宙を舞う。 2023年は7月のアジア選手権(タイ・バンコク)、秋のアジア大会(中国・杭州)をターゲットに置いていた。4m30前後で安定し、日本選手権も4m20で2年ぶりに制した。しかし、その後は左膝の痛みに苦しむ。 「膝が内側に入ってしまうのが原因で外側の軟骨が擦れてしまって痛みが出ます。手術はせず、動き・走り・フォームを改善したり、周囲を強化したり、根本から見直しています」 世界大会に出場するためには参加標準記録を突破するか、ワールドランキングで出場権獲得圏内に入る必要がある。アジア選手権はワールドランキングを上げるためのポイントが多く獲得できるチャンスがあった。 しかし、ケガのため4m00の4位。「一番痛みがきつくて、練習もまともにできていなかったです。心も身体も不安定なまま。そんなに甘くなかったですね」。アジア大会で殊勲の銀メダル
その後、1ヵ月は走らず、ポールワークもしなかった。上半身の強化など補強に努め、8月中旬くらいから走り始めたという。9月の全日本実業団対抗で4m20。「痛みがなくできたので、跳べる楽しさが出てきました」。状態を上げて中国へと向かった。 異様な雰囲気だった。アジア記録(4m72)を持つ李玲と、若手の牛春格という中国代表2人は世界トップ選手。地元選手への声援はとてつもないもの。まさに“アウェー”という状況だったが、「気にならずにすごく集中できたんです」。 不思議と「ピットに立った時に、『跳べる』という感覚があったんです。初めての感覚でした」。助走も悪い時は「いろいろ考え過ぎる」が、この日は「スッとスムーズにできて余裕があって、考え過ぎずに1本1本跳べた」という。 [caption id="attachment_132779" align="alignnone" width="800"]
23年はアジア選手権(写真)、アジア大会と出場した諸田[/caption]
前日練習から身体のキレは感じていたが、当日はさらに研ぎ澄まされ、「思っていた以上の動きができました」。3m80を難なくクリアすると、4m00から10cm刻みで、4m30まで一回で成功させた。
14フィート・150ポンド、フレックスの硬いマックスポールをうまく使いこなせた。4m40も成功させると、4m48にバーが上がった。「助走の最後の力強さと、一気に振り上げて身体を持ってくるところだけ」意識。力強い踏み切りから一気に身体が浮き上がった。
アジア歴代9位のビッグレコードで銀メダル。世界が近づいたジャンプだった。
この冬季は「モチベーションを上げて入れました」。ケガなく過ごした成果は、すでに表われている。1月にニュージーランドで4m25、4m40と好記録を続けた。2月の日本選手権・室内では4m35と我孫子の持っていた室内日本記録も11年ぶりに更新。さらに、3月には台湾の室内競技会で4m36をクリアした。幸先良いシーズンインとなっている。
棒高跳の申し子が世界への扉を開くか
棒高跳王国と言われる群馬で、小6からポールを握った。中学生で日本選手権にも出場し、当時の中学最高記録(3m81※室内)も樹立。高2初となる4m00ボウルターになり、中大では学生記録(4m30)も打ち立てた。 22年シーズン後からは、田中成コーチにメニューを一任し、「ガラッと変わりました」という。 「スプリントも週3回取り組んでいますし、苦手だった300mや200mも走っています。大学までは全然やってこなかったウエイトトレーニングも週2回くらいは必ず入れていて、マックスも上がっています。助走スピードも上がりましたし、ブレなくなりました。ポールが硬くなっても対応できるようにもなったと思います」 今の課題は「踏み切りの形を作ること」。まだ良い時と悪い時の振れ幅が大きいようで、「形が雑になると払われてしまって、身体が流れる跳躍になる」という。踏み切りに突っ込む局面でも恐怖心が出てはいけない。「怖がると後傾してしまうので、姿勢を崩さずに入っていきたいんです」。また、「もっとポールを曲げ込めたら反発を得られると思います」と、さらなる高さを見据えている。 「海外の選手では同じくらいの身長(165cm)で4m80くらい跳ぶ選手もいます。ロシアでは身長170cmに満たない選手で5m超えもいます。まずはしっかりフィジカル面をアップさせることを大前提に、どれだけ技術でカバーできるか。高い技術もフィジカルがないとついてこないので、やっぱりベースアップですね」 [caption id="attachment_132780" align="alignnone" width="800"]
今年は室内日本記録を樹立するなど好調を意地している[/caption]
女子跳躍が活気づくなか、「まだ棒高跳は世界と差があるので、秦さんや森本さんのように世界に出て、私も追いついていきたい」と強い決意をにじませる。
パリ五輪の参加標準記録4m73はやや高いが、「シーズンに入ったらヨーロッパなど、ポイントの高い試合を少し狙えればと思っています。日本選手権までにしっかり(ワールドランキングを)上げていきたいです。アベレージをしっかり上げて、一つひとつの試合でベストを目指していきます。4m50は見えているので、それ以上を跳んでパリ五輪に行きたい」
この種目では12年ロンドン以来の五輪出場へ。日本女子棒高跳の扉を開いてきた諸田が新たな歴史を刻む。
文/向永拓史 RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.12.07
立命大が大会新で優勝 前回の雪辱果たす4年ぶりV/京都学生駅伝
-
2025.12.07
-
2025.12.07
-
2025.12.06
-
2025.12.01
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.07
Japan Athlete Games in Osakiが2月に開催 トラック種目は国内唯一の室内競技会
大崎町陸上競技の聖地創り実行委員会は、2026 Japan Athlete Games in Osakiを来年2月14日、15日の2日間の日程で開催すると発表した。 「Japan Athlete Games in Osa […]
2025.12.07
西山雄介が日本勢最上位でロス五輪MGC切符「非常に悔しい」終盤まで優勝争い展開、2年連続2位/福岡国際マラソン
◇福岡国際マラソン2025(12月7日/福岡市・平和台陸上競技場発着) MGCシリーズ2025-26男子G1の福岡国際マラソン2025が行われ、バイエリン・イエグゾー(エチオピア)が2時間7分51秒(速報値)で優勝した。 […]
2025.12.07
立命大が大会新で優勝 前回の雪辱果たす4年ぶりV/京都学生駅伝
京都学生駅伝成績 1位 立命大A 2時間11分45秒=大会新 2位 京産大A 2時間12分45秒=大会新 3位 龍谷大A 2時間17分15秒 4位 同志社大 2時間18分32秒 5位 明治 […]
2025.12.07
大学対校男女混合駅伝の出場が決定! 前回より1チーム増の22チームに出場権 新潟医療福祉大が初出場
第6回大学対校男女混合駅伝出場校 ・シード校 日本体育大学 6年連続6回目 大東文化大学 2年連続2回目(第2回大会はエントリー後、欠場) 順天堂大学 6年連続6回目 駿河台大学 3年連続3回目 筑波 […]
2025.12.07
西山和弥が日本人トップの2位でMGC切符!23年ブダペスト世界陸上代表が復調気配/防府読売マラソン
防府読売マラソン 上位成績をチェック! ●男子 1位 ワークナー・デレセ(ひらまつ病院) 2.06.58 2位 西山和弥(トヨタ自動車) 2.07.49 3位 ビダン・カロキ(トヨタ自動車) 2.08.04 以上、大会新 […]
Latest Issue
最新号
2025年12月号 (11月14日発売)
EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選
Follow-up Tokyo 2025