2019.05.15
Doha 2019
Gold Medalist Interview
橋岡優輝(日大)
世界に挑む若きジャンパー
20歳の若武者・男子走幅跳の橋岡優輝(日大)が、着々と階段を上がっている。昨年のU20世界選手権制覇に続いて、今年はシーズン早々にアジア選手権(カタール・ドーハ)で金メダル。8m22(+0.5)の優勝記録は日本記録にあと3cm届かなかったが、指導を受ける森長正樹コーチが1992年に作った8m25の日本記録更新は時間の問題。次戦となる5月19日のゴールデングランプリ大阪かIAAF主催のダイヤモンドリーグ(DL)上海大会(5月18日)で、「27年ぶりの日本新」が達成される可能性もある。それどころか、橋岡は「8m40 ~ 50あたりまでは見えている」とサラッと言ってのける好調ぶり。ドーハで自信を深めて帰ってきた〝サラブレッド〟に、今季の意気込みを聞いてみた。
納得できる跳躍ではないけど自信になった
──今季は3月末のテキサス・リレー(米国・オースティン)でシーズンインし、追い風参考記録になりましたが8m25(+4.2)を跳んでいました。アジア選手権では、それに近い記録(8m22)を公認でマークしたわけですね。
橋岡 僕は1回跳んだ距離を、その後に定着させていく傾向があるんです。それは強みだと思っています。
──体調は良かったのですか。
橋岡 悪くはなかったです。でも、すごく良かったかというと、そうでもなかったような……。シーズン初めで、体調はまだそこまで上がってなかったと思います。
──現地のコンディションはどうでしたか。
橋岡 サブトラックと本競技場のピットの材質が違うとか、踏み切り板が薄いとか、秋の世界選手権に向けて新調したらしく、いろいろ気になることはありました。8m00が予選通過記録なのに、7m47まで拾われていたので、選手によっては苦戦したようです。僕も予選の時は「どうしよう」と考えましたけど、決勝になってしっかりお尻の筋肉が使えるようになったら、そういう外的な要因は一切気にならなくなりました。予選の「どうしよう」は、お尻が使えずに感じていた違和感かもしれないです。
──逆転勝ちに結びつけた最後6回目の跳躍は、どんな感覚だったのでしょう。
橋岡 8m22も跳んだ感じはなかったんです。感覚としては、3回目の8m08(+0.4)の方が良かったですね。ただ、中国の選手の跳躍がまだ残っていたじゃないですか。確実にプレッシャーをかけられたと思って、「失敗するか、強い選手だったら大幅にそれを超えてくるか、どっちかだろう」と。でも、ああいう場面だと、ほとんどの選手がファウルをしますよね。
※注/3回目終了時で橋岡はトップだったが、最終跳躍の試技順が5回目終了時の順位の低い順に変更された。
── 森長コーチの記録(8m25)にはわずかに届かなかったですが、高校時代(東京・八王子高)にお世話になった、叔父さんでもある渡邉大輔先生の記録(8m12、1999年)は抜きましたね。
橋岡 はい、やっと(笑)。昨年のベストが8m09でしたから。
──6回目はベスト跳躍ではなかった、ということですね。
橋岡 スピードは出ていたんですけど、いつものキレのある助走ではなかったです。本来の自分の跳躍ではまってくれば、もっと記録は出ると思います。ただ、自信がついた跳躍ではありますね。
──表彰式では中国選手2人を従えて、表彰台の真ん中に立ちました。
橋岡 気持ち良かったですね。アジア大会の借り(4位)はアジア大会で返さないといけないですけど、取りあえず銀メダルだった張耀廣選手に勝てて良かったです。この大会は(ワールドランキングの)ポイントも高いですし、今のところ今季世界ランキング上位なので、ダイヤモンドリーグにも声をかけてもらえるかなと期待しています。
冬季に米国の金メダリスト2人から指導
──今季、これだけ好スタートを切れた要因は何でしょうか。
橋岡 冬季トレーニングが、ケガもなくかなりいいかたちでできたことが大きいと思います。2月にアメリカ(フロリダ)へ行って、ドワイト・フィリップス(2004年アテネ五輪金メダル、ベスト記録8m74=世界歴代5位タイ)ところで2週間キャンプしました。
──フィリップス氏の指導はどんな内容でしたか。
橋岡 本当にアメリカの〝型〟があって、その通りでした。あのまま全部取り入れたら僕はたぶん跳べないんですけど、「全部やってみた」ということです。技術としては、新しい引き出しが増えました。
── いったん帰国して、3月に再び渡米し、
今度はカール・ルイス(1984年ロス五輪から4大会連続金メダル、ベスト記録8m87=世界歴代3位)を育てたトム・テレツ氏の元(ヒューストン)へ行ったのですね。
橋岡 テレツさんは森長先生が現役時代に何度も教わっている指導者で、ドワイトとはまた違っていました。ドワイトはIMGアカデミー(フロリダ)のコーチだったので、僕がIMGに行った時(2018年冬季)、その流れを汲んだ指導を受けているんですよ。だから、今回ドワイトに直接教わっても、吸収しやすかったんです。「まったくやったことがない」という中身はなかったですね。テレツさんも森長先生が教わった型なので、「すごく特別なことをやっている」という感覚はなくて、森長先生の指導の原点を見たというか……。「そういう感覚もあるんだ」と思ったのは、ルイスと話していた時です。踏み切りの1歩前は足をフラットに着くというイメージがあるんですけど、ルイスは身体の軸をしっかり固めて、「地面が近づいてくる」という言い方をしていました。
──地面が近づいてくる?
橋岡 フラットに着こうとするんじゃなくて、地面の方から近づいてくる。その決められた姿勢を1歩前にとるから、「IN(イン)」という表現をしていました。ドワイトのところでは「IN」は出てこなかったです。感覚が卓越するとそこまで行くのかなと思って、また引き出しが増えましたね。
──自分では1歩前をどう捉えているのですか。
橋岡 僕は「フラット接地」ということしか考えていません。腰を落とすとか全然考えてなくて、フラットに着けば重心は自ずと下がるし、逆に下げようとすると変な跳躍になりそうです。1歩前に身体を固めるというのはわかるんですけど、「IN」という表現までは今の僕にはないですね。
──それで、踏み切りは?
橋岡 もう、置くだけです。踏み切ろうとすると膝を使っていっちゃったり、前傾しちゃったりするので、身体は立てて、重心の真下に足を置いたら弾かれるイメージですね。
※この続きは2019年5月14日発売の『月刊陸上競技』6月号をご覧ください
Doha 2019 Gold Medalist Interview 橋岡優輝(日大)
世界に挑む若きジャンパー

納得できる跳躍ではないけど自信になった
──今季は3月末のテキサス・リレー(米国・オースティン)でシーズンインし、追い風参考記録になりましたが8m25(+4.2)を跳んでいました。アジア選手権では、それに近い記録(8m22)を公認でマークしたわけですね。 橋岡 僕は1回跳んだ距離を、その後に定着させていく傾向があるんです。それは強みだと思っています。 ──体調は良かったのですか。 橋岡 悪くはなかったです。でも、すごく良かったかというと、そうでもなかったような……。シーズン初めで、体調はまだそこまで上がってなかったと思います。 ──現地のコンディションはどうでしたか。 橋岡 サブトラックと本競技場のピットの材質が違うとか、踏み切り板が薄いとか、秋の世界選手権に向けて新調したらしく、いろいろ気になることはありました。8m00が予選通過記録なのに、7m47まで拾われていたので、選手によっては苦戦したようです。僕も予選の時は「どうしよう」と考えましたけど、決勝になってしっかりお尻の筋肉が使えるようになったら、そういう外的な要因は一切気にならなくなりました。予選の「どうしよう」は、お尻が使えずに感じていた違和感かもしれないです。 ──逆転勝ちに結びつけた最後6回目の跳躍は、どんな感覚だったのでしょう。 橋岡 8m22も跳んだ感じはなかったんです。感覚としては、3回目の8m08(+0.4)の方が良かったですね。ただ、中国の選手の跳躍がまだ残っていたじゃないですか。確実にプレッシャーをかけられたと思って、「失敗するか、強い選手だったら大幅にそれを超えてくるか、どっちかだろう」と。でも、ああいう場面だと、ほとんどの選手がファウルをしますよね。 ※注/3回目終了時で橋岡はトップだったが、最終跳躍の試技順が5回目終了時の順位の低い順に変更された。 ── 森長コーチの記録(8m25)にはわずかに届かなかったですが、高校時代(東京・八王子高)にお世話になった、叔父さんでもある渡邉大輔先生の記録(8m12、1999年)は抜きましたね。 橋岡 はい、やっと(笑)。昨年のベストが8m09でしたから。 ──6回目はベスト跳躍ではなかった、ということですね。 橋岡 スピードは出ていたんですけど、いつものキレのある助走ではなかったです。本来の自分の跳躍ではまってくれば、もっと記録は出ると思います。ただ、自信がついた跳躍ではありますね。 ──表彰式では中国選手2人を従えて、表彰台の真ん中に立ちました。 橋岡 気持ち良かったですね。アジア大会の借り(4位)はアジア大会で返さないといけないですけど、取りあえず銀メダルだった張耀廣選手に勝てて良かったです。この大会は(ワールドランキングの)ポイントも高いですし、今のところ今季世界ランキング上位なので、ダイヤモンドリーグにも声をかけてもらえるかなと期待しています。冬季に米国の金メダリスト2人から指導
──今季、これだけ好スタートを切れた要因は何でしょうか。 橋岡 冬季トレーニングが、ケガもなくかなりいいかたちでできたことが大きいと思います。2月にアメリカ(フロリダ)へ行って、ドワイト・フィリップス(2004年アテネ五輪金メダル、ベスト記録8m74=世界歴代5位タイ)ところで2週間キャンプしました。 ──フィリップス氏の指導はどんな内容でしたか。 橋岡 本当にアメリカの〝型〟があって、その通りでした。あのまま全部取り入れたら僕はたぶん跳べないんですけど、「全部やってみた」ということです。技術としては、新しい引き出しが増えました。 ── いったん帰国して、3月に再び渡米し、 今度はカール・ルイス(1984年ロス五輪から4大会連続金メダル、ベスト記録8m87=世界歴代3位)を育てたトム・テレツ氏の元(ヒューストン)へ行ったのですね。 橋岡 テレツさんは森長先生が現役時代に何度も教わっている指導者で、ドワイトとはまた違っていました。ドワイトはIMGアカデミー(フロリダ)のコーチだったので、僕がIMGに行った時(2018年冬季)、その流れを汲んだ指導を受けているんですよ。だから、今回ドワイトに直接教わっても、吸収しやすかったんです。「まったくやったことがない」という中身はなかったですね。テレツさんも森長先生が教わった型なので、「すごく特別なことをやっている」という感覚はなくて、森長先生の指導の原点を見たというか……。「そういう感覚もあるんだ」と思ったのは、ルイスと話していた時です。踏み切りの1歩前は足をフラットに着くというイメージがあるんですけど、ルイスは身体の軸をしっかり固めて、「地面が近づいてくる」という言い方をしていました。 ──地面が近づいてくる? 橋岡 フラットに着こうとするんじゃなくて、地面の方から近づいてくる。その決められた姿勢を1歩前にとるから、「IN(イン)」という表現をしていました。ドワイトのところでは「IN」は出てこなかったです。感覚が卓越するとそこまで行くのかなと思って、また引き出しが増えましたね。 ──自分では1歩前をどう捉えているのですか。 橋岡 僕は「フラット接地」ということしか考えていません。腰を落とすとか全然考えてなくて、フラットに着けば重心は自ずと下がるし、逆に下げようとすると変な跳躍になりそうです。1歩前に身体を固めるというのはわかるんですけど、「IN」という表現までは今の僕にはないですね。 ──それで、踏み切りは? 橋岡 もう、置くだけです。踏み切ろうとすると膝を使っていっちゃったり、前傾しちゃったりするので、身体は立てて、重心の真下に足を置いたら弾かれるイメージですね。 ※この続きは2019年5月14日発売の『月刊陸上競技』6月号をご覧ください
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