今季の学生駅伝は混戦が予想されるが、その中でひときわ注目を集めているのが早稲田大学だ。「大学長距離界の中では一番インパクトを残した大学だと思いますし、自分たちの中でも、勢いがあるシーズンを送れたんじゃないかなと思っています」。駅伝主将の山口智規(4年)がこう振り返るように、今季の前半戦は早大の主力選手の活躍が目立った。チームに勢いをもたらした鈴木琉胤と佐々木哲という2人の注目ルーキーが話題を集めたが、彼らに負けじと上級生も奮闘し活躍を見せた。
〝強くなりたい〟という思いを胸に
「〝優勝〟という言葉を言えないチームではない。他大学のエースと張り合うことが一番の僕の目標です」
並々ならぬ決意を持って駅伝シーズンに臨むのが2年生の山口竣平だ。
今季は関東インカレ(1部)の5000mで8位に入賞し、日本選手権にも出場。「エース区間を走る」という意気込みは練習でも現れ、夏合宿では積極的にチームの先頭を走った。主力としての風格が備わりつつある。
しかし、大学1年目は決して順風満帆だったわけではない。5000m13分34秒59(当時、高校歴代5位)の記録を引っ提げて早大に入学し、即戦力として期待されたが、学生三大駅伝デビュー戦となった昨年の出雲駅伝は3区11位とほろ苦い結果に終わった。
「練習はできているんですけど、結果が付いてこない。走ることに前向きになれない時期もあった」と当時を振り返る。それでも「強くなりたい」という気持ちを折ることはなかった。
「誰しもがずっと好調で陸上をやっていけるとは僕は思っていないので、今は我慢する時だと思って、その期間を乗り切りました」
耐え抜いた先に、全日本大学駅伝では5区3位と盛り返した。そして初めての正月の駅伝では他校のエース級と渡り合って3区3位と快走。流れを変える走りで、11位で受けたタスキを5位まで押し上げ、チームに勢いをもたらした。
大学1年目に思わぬ挫折を味わったものの、それを乗り越えて今季はさらなる成長を見せている。
自身が思い描く〝強いランナー〟に
3年生の工藤慎作は、1、2年時に学生三大駅伝をすべて走っており、現在〝皆勤〟を継続中だ。とはいえ1年目は、トラックは好調だったものの駅伝では苦戦した。出雲は4区9位、全日本は4区13位と力を発揮できなかった。
「その時は何をしたらいいか、わからなかった」。なかなか出口が見えないトンネルの中で工藤はもがいた。
「きつくてやめたいんですけど、止まったら、もっときつい……」。そんな思いにとらわれながらも、工藤は走り続けた。
だが、その先にちゃんと長いトンネルの出口はあった。正月の駅伝で5区を任された工藤は、1年生ながら区間6位と好走。早大が度々課題としてきた5区が、工藤にとって輝きを放つ舞台になった。
2年生になると、出雲、全日本ともに最長区間の最終区を任され、出雲が6区2位、全日本が8区3位と好走した。そして、正月の駅伝では2度目の山上りで区間2位となり、歴代3位の好タイムを叩き出した。
ハイパフォーマンスは、箱根の山だけでなく平地でも。今年2月の日本学生ハーフマラソン選手権では、日本人学生歴代2位(留学生を含めた日本学生歴代5位)となる1時間0分06秒の好記録をマークして優勝を果たした。
7月のワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ)では大会新記録を打ち立てて、ハーフマラソンで金メダルに輝いた。
「強いランナーっていうのは、安定感があり、コースのアップダウンとかも関係なくパフォーマンスを発揮できる選手だと思っています」
この夏も順調にトレーニングを重ね、自身が思い描く〝強いランナー〟の理想像に近づいた。
悔しさを味わうたびに強くなった
今季の前半戦、最も特筆すべき活躍を見せたのが山口智規だろう。
「伝統あるチームの主将なので、そこに対して責任感を感じる。やるからにはしっかり覚悟を持ってやらないといけない」
そんな駅伝主将としての自覚が山口智規を突き動かした。5月の関東インカレは10000mで日本人トップの3位。6月の日本インカレでは日本人初となる1500mと5000mの2冠。
7月は、日本選手権の1500mで日本人学生歴代3位(日本学生歴代5位)となる3分38秒16の好記録で2位に入り、その翌週のホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会では5000mで日本人学生歴代3位(日本学生歴代7位)の13分16秒56 をマークして外国人勢をも破って1着フィニッシュした。
世界大会で活躍した名だたるOBが居並ぶ中、1500mと5000mの2種目で早大記録保持者となり、10000mも早大歴代5位、ハーフマラソンも歴代2位と長距離4種目で歴代上位にランクインしている。
伝統校で確かな存在感を示している山口智規だが、これまでは辛酸を舐めることも多かった。
「3年間は、自分の思っているところにまったく届かなくて、モヤモヤしながら競技することが多かった」
潜在能力の高さは誰もが認めるところ。自身も高い志を掲げてきたが、その能力を存分に発揮することがなかなかできずにいた。特に今年の正月の駅伝で味わった悔しさは大きかった。2年連続で花の2区を任されながらも、区間12位に終わって7つも順位を落としてしまったのだ。
だが、その悔しさから目を逸らすことはしなかった。
「悔しいレースを何回もしてきたんですけど、そのたびに、これは強くなれる材料だって思って、逃げないようにしてきた。それに、その悔しい思いが大事なのがわかるから、乗り越えられるのかなと思っています」
悔しさを味わう度に、それを糧としてきた。そして、大学ラストイヤーに飛躍の時を迎えた。
「勝ちたいです」
ことあるごとに、山口智規はこう口に出してきた。その思いはチームメイトも同じだ。早大は、学生駅伝3冠を成し遂げた2010年−11年以来、学生三大駅伝の優勝から遠ざかっている。
良い時ばかりでなく、どんな時も変わらず、アシックスは早大の挑戦を支え続けてきた。この夏も、彼らはアシックスのウエアを身に付け、シューズに足を入れて、厳しいトレーニングに励んできた。
そして、ひと夏を越えて、確かな手応えはある。
「優勝する自信はかなりある」
主将自らがそう言い切るほど、戦力が整ってきた。各学年に核となる選手が揃う今季は15年ぶりの好機と言っていい。
まずは10月13日の出雲。いよいよ学生駅伝シーズンの幕が上がる――。
文/和田悟志
〝強くなりたい〟という思いを胸に
「〝優勝〟という言葉を言えないチームではない。他大学のエースと張り合うことが一番の僕の目標です」 並々ならぬ決意を持って駅伝シーズンに臨むのが2年生の山口竣平だ。 今季は関東インカレ(1部)の5000mで8位に入賞し、日本選手権にも出場。「エース区間を走る」という意気込みは練習でも現れ、夏合宿では積極的にチームの先頭を走った。主力としての風格が備わりつつある。 しかし、大学1年目は決して順風満帆だったわけではない。5000m13分34秒59(当時、高校歴代5位)の記録を引っ提げて早大に入学し、即戦力として期待されたが、学生三大駅伝デビュー戦となった昨年の出雲駅伝は3区11位とほろ苦い結果に終わった。 「練習はできているんですけど、結果が付いてこない。走ることに前向きになれない時期もあった」と当時を振り返る。それでも「強くなりたい」という気持ちを折ることはなかった。 「誰しもがずっと好調で陸上をやっていけるとは僕は思っていないので、今は我慢する時だと思って、その期間を乗り切りました」 耐え抜いた先に、全日本大学駅伝では5区3位と盛り返した。そして初めての正月の駅伝では他校のエース級と渡り合って3区3位と快走。流れを変える走りで、11位で受けたタスキを5位まで押し上げ、チームに勢いをもたらした。 大学1年目に思わぬ挫折を味わったものの、それを乗り越えて今季はさらなる成長を見せている。 [caption id="attachment_186431" align="alignnone" width="800"]
長野・佐久長聖高校時代から日本一を経験してしている山口竣平(2年)。昨年は1年生ながら主力として存在感を見せた[/caption]
自身が思い描く〝強いランナー〟に
3年生の工藤慎作は、1、2年時に学生三大駅伝をすべて走っており、現在〝皆勤〟を継続中だ。とはいえ1年目は、トラックは好調だったものの駅伝では苦戦した。出雲は4区9位、全日本は4区13位と力を発揮できなかった。 「その時は何をしたらいいか、わからなかった」。なかなか出口が見えないトンネルの中で工藤はもがいた。 「きつくてやめたいんですけど、止まったら、もっときつい……」。そんな思いにとらわれながらも、工藤は走り続けた。 だが、その先にちゃんと長いトンネルの出口はあった。正月の駅伝で5区を任された工藤は、1年生ながら区間6位と好走。早大が度々課題としてきた5区が、工藤にとって輝きを放つ舞台になった。 2年生になると、出雲、全日本ともに最長区間の最終区を任され、出雲が6区2位、全日本が8区3位と好走した。そして、正月の駅伝では2度目の山上りで区間2位となり、歴代3位の好タイムを叩き出した。 ハイパフォーマンスは、箱根の山だけでなく平地でも。今年2月の日本学生ハーフマラソン選手権では、日本人学生歴代2位(留学生を含めた日本学生歴代5位)となる1時間0分06秒の好記録をマークして優勝を果たした。 7月のワールドユニバーシティゲームズ(ドイツ)では大会新記録を打ち立てて、ハーフマラソンで金メダルに輝いた。 「強いランナーっていうのは、安定感があり、コースのアップダウンとかも関係なくパフォーマンスを発揮できる選手だと思っています」 この夏も順調にトレーニングを重ね、自身が思い描く〝強いランナー〟の理想像に近づいた。 [caption id="attachment_186433" align="alignnone" width="800"]
7月にドイツで開催されたFISUワールドユニバーシティゲームズの男子ハーフマラソンでも金メダルを獲得するなど今シーズン好調な工藤慎作(3年)[/caption]
悔しさを味わうたびに強くなった
今季の前半戦、最も特筆すべき活躍を見せたのが山口智規だろう。 「伝統あるチームの主将なので、そこに対して責任感を感じる。やるからにはしっかり覚悟を持ってやらないといけない」 そんな駅伝主将としての自覚が山口智規を突き動かした。5月の関東インカレは10000mで日本人トップの3位。6月の日本インカレでは日本人初となる1500mと5000mの2冠。 7月は、日本選手権の1500mで日本人学生歴代3位(日本学生歴代5位)となる3分38秒16の好記録で2位に入り、その翌週のホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会では5000mで日本人学生歴代3位(日本学生歴代7位)の13分16秒56 をマークして外国人勢をも破って1着フィニッシュした。 世界大会で活躍した名だたるOBが居並ぶ中、1500mと5000mの2種目で早大記録保持者となり、10000mも早大歴代5位、ハーフマラソンも歴代2位と長距離4種目で歴代上位にランクインしている。 伝統校で確かな存在感を示している山口智規だが、これまでは辛酸を舐めることも多かった。 「3年間は、自分の思っているところにまったく届かなくて、モヤモヤしながら競技することが多かった」 潜在能力の高さは誰もが認めるところ。自身も高い志を掲げてきたが、その能力を存分に発揮することがなかなかできずにいた。特に今年の正月の駅伝で味わった悔しさは大きかった。2年連続で花の2区を任されながらも、区間12位に終わって7つも順位を落としてしまったのだ。 だが、その悔しさから目を逸らすことはしなかった。 「悔しいレースを何回もしてきたんですけど、そのたびに、これは強くなれる材料だって思って、逃げないようにしてきた。それに、その悔しい思いが大事なのがわかるから、乗り越えられるのかなと思っています」 悔しさを味わう度に、それを糧としてきた。そして、大学ラストイヤーに飛躍の時を迎えた。 「勝ちたいです」 ことあるごとに、山口智規はこう口に出してきた。その思いはチームメイトも同じだ。早大は、学生駅伝3冠を成し遂げた2010年−11年以来、学生三大駅伝の優勝から遠ざかっている。 良い時ばかりでなく、どんな時も変わらず、アシックスは早大の挑戦を支え続けてきた。この夏も、彼らはアシックスのウエアを身に付け、シューズに足を入れて、厳しいトレーニングに励んできた。 そして、ひと夏を越えて、確かな手応えはある。 「優勝する自信はかなりある」 主将自らがそう言い切るほど、戦力が整ってきた。各学年に核となる選手が揃う今季は15年ぶりの好機と言っていい。 まずは10月13日の出雲。いよいよ学生駅伝シーズンの幕が上がる――。 [caption id="attachment_186435" align="alignnone" width="800"]
駅伝主将として、正月の駅伝で総合優勝という目標に向かってチームを牽引する山口智規(4年)[/caption]
■注目選手のムービーをチェック(アシックス駅伝特設サイト)
文/和田悟志 RECOMMENDED おすすめの記事
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