HOME バックナンバー
ALL for TOKYO2020+1 泉谷駿介(順大)110mHで五輪のファイナルに
ALL for TOKYO2020+1 泉谷駿介(順大)110mHで五輪のファイナルに

【ALL for TOKYO2020+1】泉谷駿介(順大)

110mHで五輪のファイナルに
〝我慢〟の今季は来年への試金石

10月の日本選手権に向けて準備を進める泉谷

1月に20歳になったばかりだが、175㎝、68㎏の身体には、とてつもないエンジンが積み込まれている。生み出される大きな力をまだまだ扱い切れず、今季はケガに悩まされてきた。これまでさまざまな種目を楽しんできたが、そろそろ〝専門〟を決める時がきたのかもしれない。大学最終学年で迎えることになった東京五輪へ、泉谷駿介(順大)の目は「ハードル」へと向く。国立競技場のファイナルの舞台に立つために――。

●文/小川雅生 撮影/船越陽一郎

広告の下にコンテンツが続きます

2度の肉離れで調整中

東京五輪イヤーの春を迎えようかという時期まで、泉谷駿介(順大)はとてつもない進化を果たしていた。

自身は、ひたすらベースアップすることだけを考えていたので、今の自分がどうなっているのか、周りが思うほど意識はしていなかった。代わりに、部長兼跳躍ブロックコーチの越川一紀先生が振り返る。

「100mなら10秒1は十分に狙えるぐらいのスプリントがついていました。走幅跳でも大げさでなく8m50はいくなと思っていました」

ただ、春先にアクシデントが襲った。加速走をしている際に、左ハムストリングスを肉離れ。トレーニングが中断した後、今度は新型コロナウイルス感染拡大によって緊急事態宣言が発令され、大学内への立ち入りが禁止に。寮生活をしていた仲間のうち、1人部屋だった泉谷はそのまま残ることができたが、多くは帰省を余儀なくされた。

その間、走れないこともあって「1ヵ月ちょっと休んで、リハビリをして」過ごしていたという泉谷。痛みがなくなると、人のいない場所、時間帯を探して坂ダッシュなどを繰り返す。練習時間以外は海外トップ選手の動画をひたすら見て、イメージを高めていった。

もちろん、目標にしていた東京五輪の延期は「残念ではあったけど……」、脚の状態のこともあり、切り替えは早かった。5月になると、できる範囲のトレーニングの中で徐々にスピードを出せるようになり、6月に入って学内のグラウンドの使用許可が出る頃には全力を出せるようになっていた。

こうなると、より一層トレーニングに入り込む。「やっぱりトラックで走るのは気持ちがいいですし、まとまっての練習はまだできなかったですが、みんなとトレーニングできることも楽しかったです」と、まるでかけっこを楽しむ子供のように笑う泉谷は、さらにギアを上げて自らを鍛え上げていく。

7月になると、各地で競技会が開催され始め、泉谷は23日~ 26日の東京選手権で今季初戦を迎えた。110mハードルは13秒80(-1.1)で3位だったが、走幅跳は7m92(+1.1)の自己タイ。初めて試したダブルシザースの着地が中途半端になり、しかも助走は「私は『7~8割ぐらいでいいよ』と言っていたのですが、本人に聞いたら『5割です』ということでした」(越川コーチ)。それでも、日本人初の8mジャンパー・山田宏臣(東急)が保持していた大会記録を55年ぶりに破ってみせた。

7月末の東京選手権準決勝ではスタートからのアプローチを7歩にしてみるなど、将来を見据えた模索を続ける

しかし、その1週間後にまたもケガに泣く。学内競技会の走幅跳で、今度は踏み切り脚の右脚ハムストリングスを肉離れした。1回目は東京選手権同様に左足がストンと落ちて7m79(+0. 8)。3回目の踏み切りで、激痛が走った。勢いが止まらず跳んでしまうと、8m近くに着地。大いなる〝可能性〟は、今後への楽しみにとっておく。

GGPでの覚醒とドーハでの悔しさ

神奈川・武相高3年のインターハイでは八種競技を高校歴代6位の5916点(現7位)で優勝。他にも110mハードルで13秒3、三段跳で15m69と、マルチな才能を発揮してきた選手だった。

大学に入って、その能力が飛躍的に磨かれ、特に110mハードルでは驚異的な成長を遂げている。その最たる例が2つ。1つは一昨年秋のU20日本選手権で、ジュニア規格(ハードルの高さ99.1㎝)ながら全規格を通じて日本人最速となる13秒19をマークしたこと。そしてもう1つが、昨年5月のセイコーゴールデングランプリ(GGP)大阪に追い風参考ながら13秒26(+2. 9)で圧勝したこと。特にGGP大阪での激走は、周囲に衝撃を与えた。

ただ泉谷自身、「なんで記録が出たんだろう?」と感覚をつかみ切れないでいる。4日後に関東インカレが控えていたこともあり、万全の調整をして臨んだわけではない。越川コーチからは「スタートが武器なんだから、そこで他の選手にプレッシャーをかけよう」と言われた。その1点に集中したことで、潜在能力の一端が覚醒したのかもしれない。

この続きは2020年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。

 

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

【ALL for TOKYO2020+1】泉谷駿介(順大)

110mHで五輪のファイナルに 〝我慢〟の今季は来年への試金石

10月の日本選手権に向けて準備を進める泉谷 1月に20歳になったばかりだが、175㎝、68㎏の身体には、とてつもないエンジンが積み込まれている。生み出される大きな力をまだまだ扱い切れず、今季はケガに悩まされてきた。これまでさまざまな種目を楽しんできたが、そろそろ〝専門〟を決める時がきたのかもしれない。大学最終学年で迎えることになった東京五輪へ、泉谷駿介(順大)の目は「ハードル」へと向く。国立競技場のファイナルの舞台に立つために――。 ●文/小川雅生 撮影/船越陽一郎

2度の肉離れで調整中

東京五輪イヤーの春を迎えようかという時期まで、泉谷駿介(順大)はとてつもない進化を果たしていた。 自身は、ひたすらベースアップすることだけを考えていたので、今の自分がどうなっているのか、周りが思うほど意識はしていなかった。代わりに、部長兼跳躍ブロックコーチの越川一紀先生が振り返る。 「100mなら10秒1は十分に狙えるぐらいのスプリントがついていました。走幅跳でも大げさでなく8m50はいくなと思っていました」 ただ、春先にアクシデントが襲った。加速走をしている際に、左ハムストリングスを肉離れ。トレーニングが中断した後、今度は新型コロナウイルス感染拡大によって緊急事態宣言が発令され、大学内への立ち入りが禁止に。寮生活をしていた仲間のうち、1人部屋だった泉谷はそのまま残ることができたが、多くは帰省を余儀なくされた。 その間、走れないこともあって「1ヵ月ちょっと休んで、リハビリをして」過ごしていたという泉谷。痛みがなくなると、人のいない場所、時間帯を探して坂ダッシュなどを繰り返す。練習時間以外は海外トップ選手の動画をひたすら見て、イメージを高めていった。 もちろん、目標にしていた東京五輪の延期は「残念ではあったけど……」、脚の状態のこともあり、切り替えは早かった。5月になると、できる範囲のトレーニングの中で徐々にスピードを出せるようになり、6月に入って学内のグラウンドの使用許可が出る頃には全力を出せるようになっていた。 こうなると、より一層トレーニングに入り込む。「やっぱりトラックで走るのは気持ちがいいですし、まとまっての練習はまだできなかったですが、みんなとトレーニングできることも楽しかったです」と、まるでかけっこを楽しむ子供のように笑う泉谷は、さらにギアを上げて自らを鍛え上げていく。 7月になると、各地で競技会が開催され始め、泉谷は23日~ 26日の東京選手権で今季初戦を迎えた。110mハードルは13秒80(-1.1)で3位だったが、走幅跳は7m92(+1.1)の自己タイ。初めて試したダブルシザースの着地が中途半端になり、しかも助走は「私は『7~8割ぐらいでいいよ』と言っていたのですが、本人に聞いたら『5割です』ということでした」(越川コーチ)。それでも、日本人初の8mジャンパー・山田宏臣(東急)が保持していた大会記録を55年ぶりに破ってみせた。 7月末の東京選手権準決勝ではスタートからのアプローチを7歩にしてみるなど、将来を見据えた模索を続ける しかし、その1週間後にまたもケガに泣く。学内競技会の走幅跳で、今度は踏み切り脚の右脚ハムストリングスを肉離れした。1回目は東京選手権同様に左足がストンと落ちて7m79(+0. 8)。3回目の踏み切りで、激痛が走った。勢いが止まらず跳んでしまうと、8m近くに着地。大いなる〝可能性〟は、今後への楽しみにとっておく。

GGPでの覚醒とドーハでの悔しさ

神奈川・武相高3年のインターハイでは八種競技を高校歴代6位の5916点(現7位)で優勝。他にも110mハードルで13秒3、三段跳で15m69と、マルチな才能を発揮してきた選手だった。 大学に入って、その能力が飛躍的に磨かれ、特に110mハードルでは驚異的な成長を遂げている。その最たる例が2つ。1つは一昨年秋のU20日本選手権で、ジュニア規格(ハードルの高さ99.1㎝)ながら全規格を通じて日本人最速となる13秒19をマークしたこと。そしてもう1つが、昨年5月のセイコーゴールデングランプリ(GGP)大阪に追い風参考ながら13秒26(+2. 9)で圧勝したこと。特にGGP大阪での激走は、周囲に衝撃を与えた。 ただ泉谷自身、「なんで記録が出たんだろう?」と感覚をつかみ切れないでいる。4日後に関東インカレが控えていたこともあり、万全の調整をして臨んだわけではない。越川コーチからは「スタートが武器なんだから、そこで他の選手にプレッシャーをかけよう」と言われた。その1点に集中したことで、潜在能力の一端が覚醒したのかもしれない。 この続きは2020年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。  
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.11.06

クイーンズ駅伝エントリー発表! 日本郵政グループ・廣中璃梨佳、積水化学・新谷仁美、しまむら・安藤友香らが登録 第一生命グループは鈴木優花が外れる

11月6日、日本実業団連合は第45回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)のエントリー選手を発表した。 前回4年ぶり4回目の優勝を飾ったJP日本郵政グループはVメンバーの鈴木亜由子、廣中璃梨佳、菅田雅香ら全員が登録。 […]

NEWS 10000m記録挑戦競技会は日体大競技会など3大会と併催 参加資格男子は34分ターゲット

2025.11.06

10000m記録挑戦競技会は日体大競技会など3大会と併催 参加資格男子は34分ターゲット

関東学生陸上競技連盟は、主催の10000m記録挑戦競技会について、今年は11月15日の日体大長距離競技会(横浜市・日体大健志台)、11月22日のMARCH対抗戦(東京・町田市)、11月22日の東海大長距離競技会(秦野市) […]

NEWS RIKUJOフェスティバルに勝木隼人、赤松諒一、佐藤早也伽らトップ選手が参加

2025.11.06

RIKUJOフェスティバルに勝木隼人、赤松諒一、佐藤早也伽らトップ選手が参加

11月6日、日本陸連は11月29日に開催される「RIKUJO フェスティバル in 国立競技場」に参加するゲストアスリートを発表した。 同イベントは連盟創立100周年を記念して開かれるもの。参加者とトップアスリートが一緒 […]

NEWS 北海道・北照高が来春から陸上部で駅伝チームを強化 43年ぶりに再始動 工藤裕行氏が総監督就任

2025.11.06

北海道・北照高が来春から陸上部で駅伝チームを強化 43年ぶりに再始動 工藤裕行氏が総監督就任

11月5日、北照高は2026年春から陸上部において駅伝チームの強化を本格的にスタートすることを発表した。 北照高は北海道小樽市に校舎を置く私立高。野球部は甲子園に春夏あわせて10回出場を数える強豪として知られる。スキー部 […]

NEWS 全国高校駅伝都道府県代表出そろう 前年V佐久長聖&長野東など 最速は男女とも仙台育英 6日から地区大会順次開幕

2025.11.05

全国高校駅伝都道府県代表出そろう 前年V佐久長聖&長野東など 最速は男女とも仙台育英 6日から地区大会順次開幕

全国高校駅伝の出場権を懸けた都道府県高校駅伝が11月4日の埼玉をもってすべて終了し、都道府県代表がすべて出そろった。 昨年の全国大会は男子が佐久長聖、女子は長野東といずれも長野勢が優勝を遂げた。全国2連覇中の佐久長聖は県 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年11月号 (10月14日発売)

2025年11月号 (10月14日発売)

東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望

page top