【ALL for TOKYO 2020+1】新谷仁美 今もまだ進化の途中(2020年8月号誌面転載記事)

【ALL for TOKYO 2020+1】

新谷仁美(積水化学)
今もまだ進化の途中
どんな舞台でも〝仕事〟をするだけ

18年に復帰してから圧倒的な存在感を発揮している新谷

2018年に競技に復帰し、1年で世界の舞台へ舞い戻った。そこで痛感した世界との距離は、かつて自分が戦っていた舞台よりもさらに遠くに感じたという。タイムも競技成績もはたから見れば十分な成績を残した。それでも「世界で結果を出す」という〝仕事〟を完遂できなかった2019年は「敗北の1年」。2020年はハーフマラソン日本新、5000m8年ぶり自己新と着実に進化している姿を見せていた。

東京五輪が1年延期となり、スケジュールは大幅な変更を余儀なくされたが、スタンスも、やるべきことも変わらない。来るべき時に備え、自分の強さも弱さも受け入れて突き進んでいく。

◎文/向永拓史 撮影/船越陽一郎

〝仕事場〟がなくなり小休止

世間が自粛期間に入った4月からの約1ヵ月は、「ジョグすらしませんでした」と新谷仁美(積水化学)は笑い飛ばした。

「家に引きこもっていました。たまに補強をする程度。でも、こういう状況になる前から、それほど生活は変わりません。外を走らなくなっただけですよ」

5月中旬までは愛犬・猫の小太郎と武蔵との〝同居生活〟を満喫した。「家にいるほうが何か食べたくなってしまって。練習再開直後は顔がパンパンになりました」と言うが、周囲の状況を見ながら少しずつ走り始めて1ヵ月ほど。すでに身体はアスリートそのもの。よく日にも焼けていた。

「最初は身体が重いなって。体型は作れてきましたが、走りの感覚はまだもう少し。休んだのですが、『戻す』という考え方はしません。休んだことで進化させる。この期間をバネに、パフォーマンスを上げていく。しっかり休んだ判断に後悔はないし、自分で決めたので。だから、身体が重たかったからといって、『休まなければよかった』とはなりません」

1月の米国・ヒューストンでハーフマラソン日本新(1時間6分38秒)を叩き出し、翌月には豪州、ニュージーランドと遠征し、5000mで2012年以来の自己新(15分07秒02)。その勢いに乗って、4月にはスタンフォード招待(米国)の10000mにペースメーカーをつけて日本記録(30分48秒89 /渋井陽子、2002年)更新をもくろんでいたが、新型コロナウイルスの影響によって流れてしまった。新谷にとって、走ることは仕事。それが絶たれた状況をどう捉えていたのか。

「アスリートの需要がなくなってしまうかもしれないし、今後どうなっていくのか、という思いはあります。確かに走るのは仕事です。でも、仕事は試合で結果を残すこと。だから練習、そして試合に〝出る〟のは仕事のための準備なんです。過程も重要ですが、結果が出て初めて評価される。これはすべてのアスリートが勘違いしてはいけない部分だと思っています」

その〝仕事場〟である競技会が軒並み中止となってしまった以上、あがいても仕方がない。だから東京五輪の1年延期にも焦りはなかった。むしろ、「試合は緊張するから延期するとホッと一息つく面もあります」とも。それでも、競技会の日程が徐々に出始めるなか、練習再開1ヵ月でトレーニングに耐えうる身体に仕上げる集中力はさすがの一言だ。

負け続けた2019年シーズン

2013年モスクワ以来、6年ぶりの世界選手権となった昨年のドーハ10000m(11位)

2019年は「敗北の1年」だった。昨シーズンは東京五輪の参加標準記録(31分25秒00)突破を最優先に臨んだ4月のアジア選手権10000mで31分22秒63(2位)。5月の日本選手権10000mでは、鍋島莉奈、鈴木亜由子(ともに日本郵政グループ)に次ぐ3位に入り、世界選手権10000m代表に選出された。ドーハでは31分12秒99で11位。2013年モスクワ世界選手権を最後に一線から退き、18年に競技に復帰したことを考えれば順調そのものだ。ただ、本人にそんな気持ちはない。

「もちろん、国内でも世界でも、負けたことは何回もあります。でも、ここまでずっと負け続けた経験はなかったです」

日本選手権は誰もが序盤から先頭をひた走ると予想した。しかし、新谷は最後方からレースを進める。「引っ張るタイプがいなくて、おそらく私が行くことになる。でもずっと前を走って目標とされるのは避けたかった。そこで無駄な力を使ってしまいました」。ある程度、記録面で手応えもあったことで、「余裕を持ち過ぎていた」と認める。最後は「2人が私より強かった」。

「ショックでしたね。私はプライドが高いタイプなのですが、それをズタズタにされました。悔しかった。1ヵ月くらいは暗いオーラをまとっていましたね」

※この続きは2020年7月14日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。

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