2020.07.15
【ALL for TOKYO 2020+1】
新谷仁美(積水化学)
今もまだ進化の途中
どんな舞台でも〝仕事〟をするだけ
2018年に競技に復帰し、1年で世界の舞台へ舞い戻った。そこで痛感した世界との距離は、かつて自分が戦っていた舞台よりもさらに遠くに感じたという。タイムも競技成績もはたから見れば十分な成績を残した。それでも「世界で結果を出す」という〝仕事〟を完遂できなかった2019年は「敗北の1年」。2020年はハーフマラソン日本新、5000m8年ぶり自己新と着実に進化している姿を見せていた。
東京五輪が1年延期となり、スケジュールは大幅な変更を余儀なくされたが、スタンスも、やるべきことも変わらない。来るべき時に備え、自分の強さも弱さも受け入れて突き進んでいく。
◎文/向永拓史 撮影/船越陽一郎
〝仕事場〟がなくなり小休止
世間が自粛期間に入った4月からの約1ヵ月は、「ジョグすらしませんでした」と新谷仁美(積水化学)は笑い飛ばした。
「家に引きこもっていました。たまに補強をする程度。でも、こういう状況になる前から、それほど生活は変わりません。外を走らなくなっただけですよ」
5月中旬までは愛犬・猫の小太郎と武蔵との〝同居生活〟を満喫した。「家にいるほうが何か食べたくなってしまって。練習再開直後は顔がパンパンになりました」と言うが、周囲の状況を見ながら少しずつ走り始めて1ヵ月ほど。すでに身体はアスリートそのもの。よく日にも焼けていた。
「最初は身体が重いなって。体型は作れてきましたが、走りの感覚はまだもう少し。休んだのですが、『戻す』という考え方はしません。休んだことで進化させる。この期間をバネに、パフォーマンスを上げていく。しっかり休んだ判断に後悔はないし、自分で決めたので。だから、身体が重たかったからといって、『休まなければよかった』とはなりません」
1月の米国・ヒューストンでハーフマラソン日本新(1時間6分38秒)を叩き出し、翌月には豪州、ニュージーランドと遠征し、5000mで2012年以来の自己新(15分07秒02)。その勢いに乗って、4月にはスタンフォード招待(米国)の10000mにペースメーカーをつけて日本記録(30分48秒89 /渋井陽子、2002年)更新をもくろんでいたが、新型コロナウイルスの影響によって流れてしまった。新谷にとって、走ることは仕事。それが絶たれた状況をどう捉えていたのか。
「アスリートの需要がなくなってしまうかもしれないし、今後どうなっていくのか、という思いはあります。確かに走るのは仕事です。でも、仕事は試合で結果を残すこと。だから練習、そして試合に〝出る〟のは仕事のための準備なんです。過程も重要ですが、結果が出て初めて評価される。これはすべてのアスリートが勘違いしてはいけない部分だと思っています」
その〝仕事場〟である競技会が軒並み中止となってしまった以上、あがいても仕方がない。だから東京五輪の1年延期にも焦りはなかった。むしろ、「試合は緊張するから延期するとホッと一息つく面もあります」とも。それでも、競技会の日程が徐々に出始めるなか、練習再開1ヵ月でトレーニングに耐えうる身体に仕上げる集中力はさすがの一言だ。
負け続けた2019年シーズン
2013年モスクワ以来、6年ぶりの世界選手権となった昨年のドーハ10000m(11位)
2019年は「敗北の1年」だった。昨シーズンは東京五輪の参加標準記録(31分25秒00)突破を最優先に臨んだ4月のアジア選手権10000mで31分22秒63(2位)。5月の日本選手権10000mでは、鍋島莉奈、鈴木亜由子(ともに日本郵政グループ)に次ぐ3位に入り、世界選手権10000m代表に選出された。ドーハでは31分12秒99で11位。2013年モスクワ世界選手権を最後に一線から退き、18年に競技に復帰したことを考えれば順調そのものだ。ただ、本人にそんな気持ちはない。
「もちろん、国内でも世界でも、負けたことは何回もあります。でも、ここまでずっと負け続けた経験はなかったです」
日本選手権は誰もが序盤から先頭をひた走ると予想した。しかし、新谷は最後方からレースを進める。「引っ張るタイプがいなくて、おそらく私が行くことになる。でもずっと前を走って目標とされるのは避けたかった。そこで無駄な力を使ってしまいました」。ある程度、記録面で手応えもあったことで、「余裕を持ち過ぎていた」と認める。最後は「2人が私より強かった」。
「ショックでしたね。私はプライドが高いタイプなのですが、それをズタズタにされました。悔しかった。1ヵ月くらいは暗いオーラをまとっていましたね」
※この続きは2020年7月14日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
新谷仁美(積水化学) 今もまだ進化の途中 どんな舞台でも〝仕事〟をするだけ
18年に復帰してから圧倒的な存在感を発揮している新谷
2018年に競技に復帰し、1年で世界の舞台へ舞い戻った。そこで痛感した世界との距離は、かつて自分が戦っていた舞台よりもさらに遠くに感じたという。タイムも競技成績もはたから見れば十分な成績を残した。それでも「世界で結果を出す」という〝仕事〟を完遂できなかった2019年は「敗北の1年」。2020年はハーフマラソン日本新、5000m8年ぶり自己新と着実に進化している姿を見せていた。
東京五輪が1年延期となり、スケジュールは大幅な変更を余儀なくされたが、スタンスも、やるべきことも変わらない。来るべき時に備え、自分の強さも弱さも受け入れて突き進んでいく。
◎文/向永拓史 撮影/船越陽一郎
〝仕事場〟がなくなり小休止
世間が自粛期間に入った4月からの約1ヵ月は、「ジョグすらしませんでした」と新谷仁美(積水化学)は笑い飛ばした。 「家に引きこもっていました。たまに補強をする程度。でも、こういう状況になる前から、それほど生活は変わりません。外を走らなくなっただけですよ」 5月中旬までは愛犬・猫の小太郎と武蔵との〝同居生活〟を満喫した。「家にいるほうが何か食べたくなってしまって。練習再開直後は顔がパンパンになりました」と言うが、周囲の状況を見ながら少しずつ走り始めて1ヵ月ほど。すでに身体はアスリートそのもの。よく日にも焼けていた。 「最初は身体が重いなって。体型は作れてきましたが、走りの感覚はまだもう少し。休んだのですが、『戻す』という考え方はしません。休んだことで進化させる。この期間をバネに、パフォーマンスを上げていく。しっかり休んだ判断に後悔はないし、自分で決めたので。だから、身体が重たかったからといって、『休まなければよかった』とはなりません」 1月の米国・ヒューストンでハーフマラソン日本新(1時間6分38秒)を叩き出し、翌月には豪州、ニュージーランドと遠征し、5000mで2012年以来の自己新(15分07秒02)。その勢いに乗って、4月にはスタンフォード招待(米国)の10000mにペースメーカーをつけて日本記録(30分48秒89 /渋井陽子、2002年)更新をもくろんでいたが、新型コロナウイルスの影響によって流れてしまった。新谷にとって、走ることは仕事。それが絶たれた状況をどう捉えていたのか。 「アスリートの需要がなくなってしまうかもしれないし、今後どうなっていくのか、という思いはあります。確かに走るのは仕事です。でも、仕事は試合で結果を残すこと。だから練習、そして試合に〝出る〟のは仕事のための準備なんです。過程も重要ですが、結果が出て初めて評価される。これはすべてのアスリートが勘違いしてはいけない部分だと思っています」 その〝仕事場〟である競技会が軒並み中止となってしまった以上、あがいても仕方がない。だから東京五輪の1年延期にも焦りはなかった。むしろ、「試合は緊張するから延期するとホッと一息つく面もあります」とも。それでも、競技会の日程が徐々に出始めるなか、練習再開1ヵ月でトレーニングに耐えうる身体に仕上げる集中力はさすがの一言だ。負け続けた2019年シーズン
2013年モスクワ以来、6年ぶりの世界選手権となった昨年のドーハ10000m(11位)
2019年は「敗北の1年」だった。昨シーズンは東京五輪の参加標準記録(31分25秒00)突破を最優先に臨んだ4月のアジア選手権10000mで31分22秒63(2位)。5月の日本選手権10000mでは、鍋島莉奈、鈴木亜由子(ともに日本郵政グループ)に次ぐ3位に入り、世界選手権10000m代表に選出された。ドーハでは31分12秒99で11位。2013年モスクワ世界選手権を最後に一線から退き、18年に競技に復帰したことを考えれば順調そのものだ。ただ、本人にそんな気持ちはない。
「もちろん、国内でも世界でも、負けたことは何回もあります。でも、ここまでずっと負け続けた経験はなかったです」
日本選手権は誰もが序盤から先頭をひた走ると予想した。しかし、新谷は最後方からレースを進める。「引っ張るタイプがいなくて、おそらく私が行くことになる。でもずっと前を走って目標とされるのは避けたかった。そこで無駄な力を使ってしまいました」。ある程度、記録面で手応えもあったことで、「余裕を持ち過ぎていた」と認める。最後は「2人が私より強かった」。
「ショックでしたね。私はプライドが高いタイプなのですが、それをズタズタにされました。悔しかった。1ヵ月くらいは暗いオーラをまとっていましたね」
※この続きは2020年7月14日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.12.12
-
2025.12.12
-
2025.12.12
-
2025.12.12
-
2025.12.12
-
2025.12.07
-
2025.11.20
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.12
國學院大がライフネット生命とスポンサーシップ契約「箱根路で最高の景色を見せられるよう邁進」
ライフネット生命保険株式会社は12月12日、昨年から結んでいる國學院大陸上競技部とのスポンサーシップ契約を延長したと発表した。 2008年に開業したライフネット生命は、オンライン生保のリーディングカンパニーとして知られる […]
2025.12.12
全中3000mV出田隆之助擁する中京、前回8位の大淀、戦力充実の稲美北、常盤松などが有力 14日に中学駅伝日本一決定戦/全中駅伝男子展望
第33回全国中学校駅伝が、12月14日に滋賀県の野洲市と湖南市にまたがる希望が丘文化公園で開催される。 男子6区間18km、女子5区間12kmのコースに、各都道府県代表に開催地枠を加えた男女それぞれ48チームが出場し、中 […]
2025.12.12
京山が3連覇に向けて前進 東北勢初のトップ3目指す黒石野、初出場の男山三、鶴ヶ島藤が上位候補/全中駅伝女子展望
第33回全国中学校駅伝が、12月14日に滋賀県の野洲市と湖南市にまたがる希望が丘文化公園で開催される。 男子6区間18km、女子5区間12kmのコースに、各都道府県代表に開催地枠を加えた男女それぞれ48チームが出場し、中 […]
2025.12.12
豪州で18歳・ビークロフトが10000m競歩38分02秒68のU20世界新
12月11日、豪州シドニーで、ニューサウスウェールズ州10000m競歩選手権が行われ、I.ビークロフト(豪州)が38分02秒68のU20世界新記録をマークした。 ビークロフトは2007年生まれの18歳。競歩選手だった父の […]
2025.12.12
箱根駅伝初Vへ國學院大・前田康弘監督「ジョーカーにどう立ち向かっていくか」 主将・上原琉翔「先頭でタスキを」
第102回箱根駅伝で初優勝を狙う國學院大が12月12日、都内の渋谷キャンパスで壮行会と記者会見を開いた。 例年の合同による囲み取材形式から急遽、記者会見方式への変更。前田康弘監督は「今年は今のところ16人全員が元気で良い […]
Latest Issue
最新号
2025年12月号 (11月14日発売)
EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選
Follow-up Tokyo 2025