2022.12.26
盲腸から復活
今季は同じ4年生が故障などでなかなか足並みがそろわない中、一人、大野だけは春先から絶好調だった。
4月に1500mと3000mで高校以来となる自己ベストをマークすると、6月の全日本大学駅伝選考会は第3組のトップでフィニッシュし、チームの5年ぶりとなる本戦行きに貢献。7月13日のホクレン・ディスタンスチャレンジ網走5000mでは13分55秒27、5日後の関東学生網走夏季記録挑戦競技会10000mでは28分35秒92と、シーズン前に掲げていた個人目標をあっさりとクリアした。
夏合宿は大野自身もチームも充実した日々を送った。
「真名子監督から『安定感と一体感と習慣が大事』だと口酸っぱく言われて、特に夏はその3つをチームで意識できました。昨年まではAチームでも積極的につく選手があまりいませんでしたが、今年はみんなが食らいついてできた結果、1年生や2年生もタイムが伸びて、チームが勢いを持って10月の箱根予選会を迎えられました」
予選会で大野は、全体の5位と好走したピーター・ワンジル(2年)に次ぐチーム2番手(20位)でまとめ、大東大は4年ぶりの本戦出場を決めた。
しかし、その直後に小さな躓きがあった。
「予選会の3日後に今までにないほどの腹痛があり、病院で診てもらうと盲腸と診断されました。薬で散らす治療にして、3、4日は走らずに休み、そこからジョグをし始めて、何度かポイントを入れて2週間後の全日本に臨みましたが、やはり誤魔化せませんでした」
全日本での大東大は、ワンジルの1区区間賞で好発進したものの、2区以降で大きく順位を落とし、14位に終わった。「僕と久保田以外は大学で初駅伝だったので、他大学とは経験の差が出てしまいました」と語った大野は5区で区間9位と悪い走りではなかったが、苦しい状況を打開するまでには至らなかった。

ともに主力としてチームを牽引する3年生の久保田徹(右)と
それでも強豪校と同じ舞台に立ち、自分たちの立ち位置が明らかになったことは大きな収穫だった。
大一番を前に大野は「自分は任された区間で区間賞を狙うつもりで、チームとしてはシード権をしっかり獲って、来年の後輩たちにつなげられるようにしていきたいです」と力強く宣言する。さらに、こうも付け加えた。
「チームは箱根から遠ざかってしまい、長い道のりでしたが、やっとつかんだチャンスを生かしたいと思います」
苦楽をともにした仲間とともに挑む最後の箱根に思いを馳せている。
おおの・はると/2000年4月14日生まれ。山形県米沢市出身。174cm・60kg。山形・米沢四中→九里学園高。5000m13分55秒27、10000m28分35秒92、ハーフ1時間3分12秒
文/小野哲史
関東学生連合の一員として臨んだ前回大会
前回大会で初出場を果たした箱根駅伝は、大野にとって、「すごく魅力がある大会」だった。 山形・九里学園高3年時に3000m障害15位という結果を残したインターハイよりはるかにスケールが大きく、注目度の高さに驚かされるばかりだった。区間13位相当のタイムで8区を走破し、「きつかったですが、遊行寺の上り坂も思っていたほどでなかった」のは、埼玉県東松山市の大学や合宿所があるあたりはアップダウンが多く、そうした環境で練習をやってきたからだと考えている。 ただ、関東学生連合の一員としての箱根駅伝だったため、「今まで一緒に練習してきた大東大の仲間とタスキをつなぐことができなかったのは寂しかった」と振り返る。 その箱根後は、最終学年として、これまで以上に高い意識で1日1日を過ごしてきた。 「前期シーズンからしっかりと4年生らしく、チームに貢献できるような走りを心掛けて、生活面も含めてトレーニングに対しての向き合い方をより一層見直しました。チームとしては、全日本大学駅伝の選考会と箱根駅伝の予選会通過が大きな目標で、そのためにも個人的には5000m13分台、10000m28分台は達成しないといけない目標だと考えていました」 大学最後のシーズンに懸ける思いは強かったが、4月に真名子圭新監督が就任したことは、大野のモチベーションをさらに高めることになった。 「宮城・仙台育英高校で全国高校駅伝優勝などを積まれた監督で、そういう監督のもとで陸上ができることにうれしさを感じていました。今まで僕が指導を受けてきた方々とは、考え方や指導のやり方できっと違うところがあるのだろうと、就任される前はワクワクしていましたね」 実際、新指揮官のもと、大東大は春から快進撃を続ける。大野もその先頭に立ってチームを力強くけん引してきた。 次のページ 自分に合った練習を模索して実力が開花自分に合った練習を模索して実力が開花
中学まで大野は野球少年だった。2人しか部員がいない陸上部の助っ人として、3年時に市の駅伝大会に出場。そこで優勝してメンバーと喜びを分かち合うとともに、陸上競技に興味を持って高校から本格的に陸上を始めた。 箱根駅伝は中学の頃から父親とテレビで見ていたが、大野は「何が何だかよくわからなかった」と笑う。「いつかは自分もあの舞台で」などと思うには程遠く、高校2年時に5000mで15分を切ってもそうした思いは芽生えなかった。 それでも「高1の時に当時の奈良修監督(現・豊川高監督)に声をかけていただいて、何度か合宿にも参加させてくださった」という縁から、早い段階で「大学は大東大に進学する」と決めていた。 [caption id="attachment_89595" align="alignnone" width="800"]
盲腸から復活
今季は同じ4年生が故障などでなかなか足並みがそろわない中、一人、大野だけは春先から絶好調だった。 4月に1500mと3000mで高校以来となる自己ベストをマークすると、6月の全日本大学駅伝選考会は第3組のトップでフィニッシュし、チームの5年ぶりとなる本戦行きに貢献。7月13日のホクレン・ディスタンスチャレンジ網走5000mでは13分55秒27、5日後の関東学生網走夏季記録挑戦競技会10000mでは28分35秒92と、シーズン前に掲げていた個人目標をあっさりとクリアした。 夏合宿は大野自身もチームも充実した日々を送った。 「真名子監督から『安定感と一体感と習慣が大事』だと口酸っぱく言われて、特に夏はその3つをチームで意識できました。昨年まではAチームでも積極的につく選手があまりいませんでしたが、今年はみんなが食らいついてできた結果、1年生や2年生もタイムが伸びて、チームが勢いを持って10月の箱根予選会を迎えられました」 予選会で大野は、全体の5位と好走したピーター・ワンジル(2年)に次ぐチーム2番手(20位)でまとめ、大東大は4年ぶりの本戦出場を決めた。 しかし、その直後に小さな躓きがあった。 「予選会の3日後に今までにないほどの腹痛があり、病院で診てもらうと盲腸と診断されました。薬で散らす治療にして、3、4日は走らずに休み、そこからジョグをし始めて、何度かポイントを入れて2週間後の全日本に臨みましたが、やはり誤魔化せませんでした」 全日本での大東大は、ワンジルの1区区間賞で好発進したものの、2区以降で大きく順位を落とし、14位に終わった。「僕と久保田以外は大学で初駅伝だったので、他大学とは経験の差が出てしまいました」と語った大野は5区で区間9位と悪い走りではなかったが、苦しい状況を打開するまでには至らなかった。 [caption id="attachment_89596" align="alignnone" width="800"]
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