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2022.12.28

駒大・田澤廉 激動の1年を乗り越えたケア方法とは?世界の舞台を経験し、挑むは駅伝最後の1冠
駒大・田澤廉 激動の1年を乗り越えたケア方法とは?世界の舞台を経験し、挑むは駅伝最後の1冠

学生長距離界のエース田澤廉

1月2日、3日に行われる第99回箱根駅伝に、2人の「日本代表」が挑む。田澤廉(駒大4年)と三浦龍司(順大3年)。この夏、世界と対峙した2人は、どんな思いで箱根路に挑むのだろうか。インタビューとは別に、トラック・駅伝とハードなシーズンを過ごす秘訣を探ってみた。

激動の1年を乗り越えられたケア方法

昨年、10000mで日本歴代2位となる27分23秒44をマークし、オレゴン世界選手権の参加標準記録を突破。「東京五輪を目指してきましたが出られなかったので、次は絶対に世界選手権に出てやると思ってスタートしました」。その強い気持ちが一つのかたちとなった。

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2022年シーズンを振り返り、一定の充実感はある。「世界選手権に向けて練習してきて、しっかり出場できました。自分の中では大きな目標を達成したのは良かったと思います」。その一方で、「ベストコンディションで臨めた試合は少ない」とも言う。

まさに激動の1年だった。

4月上旬の金栗記念5000mは「5月の日本選手権に向けた刺激」として臨んだ。ところが自己新となる学生歴代8位の13分22秒60を叩き出す。「プライドもありますし制御できず、“やりすぎた”タイムになりました」。

その反動は大きく、3位以内で日本代表に内定するという状況だった日本選手権10000mは「本来であれば出ない選択をするくらい状態が悪かった」という。「相澤さん(晃、旭化成)や伊藤さん(達彦、Honda)は日本選手権を勝って世界へ行かれました。自分も優勝して世界の舞台に立ちたかったので焦ってしまった部分もあります」。それだけ、強い思いを抱いて世界へ挑戦をしていた。

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日本選手権は10位となり即内定は得られず、2ヵ月後に追加招集というかたちで立った初のオレゴン世界選手権も本調子はほど遠い状況。「5000m過ぎまで対応できたのはよかった」ものの、世界の壁に跳ね返されて20位(28分24秒25)にとどまった。

今シーズンの振り返りと駅伝への意気込みを語る田澤

帰国後、疲労を考慮して夏は2次合宿から合流してチームを鼓舞。出雲駅伝は万全ではない中で3区区間2位。全日本大学駅伝では7区で驚異的な区間記録を打ち立てた。いずれも優勝に貢献。3冠へ王手をかけた。

元々、大きなケガをしないタイプだったが、世界選手権を踏まえた初めてのコンディション調整だったため、「原因は疲労だと思いますが、そういった状態に陥ったことが少ないので、どういう対応をすればいいかわからなかったんです」。

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学生として世界を目指す中での難しさはある。それでも、10000mで日本トップクラスの記録を出し、完全な状態ではないなかでも世界の舞台に立った。そして駅伝でもエースとしての役割をきっちりこなせた。なぜか。

セルフケアは「器具を使っています」。駒大の寮に完備されているマッサージルームにある機器やボディケア用品を活用。加えて、毎日のセルフケアとは別に、「1週間に1回は治療に行くようにしています」。それもいつも同じではない。「疲れが溜まっている時はマッサージ系、バランスが崩れている時はそれをメンテナンスします」。その時々で変えているのだという。

青森山田高時代から「肩こりがひどかった」という田澤。お気に入りはファイテンのチェーンネックスレスで、地元・八戸にある店舗を訪れ「自分で買いました」と言う。「昔から同じものをずっと使っています。今でもめちゃくちゃ肩がこったり肩甲骨が固まりやすかったりするのですが、ケアとして着けているとやっぱり違いますね」。今はチタン水晶ネックレスやパワーテープも着用。最後まで落ちない力強い腕振りを支えている。

シューズにもこだわる。「朝練習、本練習、スピード練習、距離走用の他に、快調走用やスパイクもあります。目的に応じて種類があるので(特徴を)生かさないといけません。全部同じシューズとかはダメだと思います」。

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休日にはチームメイトと買い物に出掛けたり、温泉に入ったり。「おいしいスイーツを食べにも行きます」というのがリラックス法。こうした心身のケアを経てレースに臨んでいる。

ランナーは身体が資本。ランナーとして日々、自分の走りの感覚を高めるために、どうコンディションを整えるか。特にこの1年は身体と向き合い、“対話”してきた。この意識の高さが、田澤を世界の舞台へと立たせ、激動の1年を乗り越えられた。

いよいよ迎える最後の学生最後の大舞台。来年のブダペスト世界選手権を見据えつつ、全日本大学駅伝で2冠を果たしてからは「最後ですから、チームのために箱根駅伝に向けてやっていこうと思ったんです」と力を込める。

駒大、そして恩師の大八木弘明監督にとって、学生駅伝3冠は悲願。「3冠をしたことがないので、監督にプレゼントするのが4年間の恩返しだと思っています」。駅伝の楽しさを知った。世界の壁も楽しさも知った。駒大での4年間の集大成を見せる舞台は、すぐそこまで来ている。

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最後の箱根駅伝に向かう田澤。3冠は監督への「恩返し」と語る

田澤廉(たざわ・れん)/2000年11月11日生まれ。青森県八戸市出身。青森・是川中→青森山田高。大学進学後は学生駅伝フル出場でこれまで区間賞5回獲得。10000mでは日本人学生最高の27分23秒44(日本歴代2位)を持ち、今夏のオレゴン世界選手権にも出場した。卒業後はトヨタ自動車で競技を続ける。

文/向永拓史

1月2日、3日に行われる第99回箱根駅伝に、2人の「日本代表」が挑む。田澤廉(駒大4年)と三浦龍司(順大3年)。この夏、世界と対峙した2人は、どんな思いで箱根路に挑むのだろうか。インタビューとは別に、トラック・駅伝とハードなシーズンを過ごす秘訣を探ってみた。

激動の1年を乗り越えられたケア方法

昨年、10000mで日本歴代2位となる27分23秒44をマークし、オレゴン世界選手権の参加標準記録を突破。「東京五輪を目指してきましたが出られなかったので、次は絶対に世界選手権に出てやると思ってスタートしました」。その強い気持ちが一つのかたちとなった。 2022年シーズンを振り返り、一定の充実感はある。「世界選手権に向けて練習してきて、しっかり出場できました。自分の中では大きな目標を達成したのは良かったと思います」。その一方で、「ベストコンディションで臨めた試合は少ない」とも言う。 まさに激動の1年だった。 4月上旬の金栗記念5000mは「5月の日本選手権に向けた刺激」として臨んだ。ところが自己新となる学生歴代8位の13分22秒60を叩き出す。「プライドもありますし制御できず、“やりすぎた”タイムになりました」。 その反動は大きく、3位以内で日本代表に内定するという状況だった日本選手権10000mは「本来であれば出ない選択をするくらい状態が悪かった」という。「相澤さん(晃、旭化成)や伊藤さん(達彦、Honda)は日本選手権を勝って世界へ行かれました。自分も優勝して世界の舞台に立ちたかったので焦ってしまった部分もあります」。それだけ、強い思いを抱いて世界へ挑戦をしていた。 日本選手権は10位となり即内定は得られず、2ヵ月後に追加招集というかたちで立った初のオレゴン世界選手権も本調子はほど遠い状況。「5000m過ぎまで対応できたのはよかった」ものの、世界の壁に跳ね返されて20位(28分24秒25)にとどまった。 [caption id="attachment_88769" align="alignnone" width="800"] 今シーズンの振り返りと駅伝への意気込みを語る田澤[/caption] 帰国後、疲労を考慮して夏は2次合宿から合流してチームを鼓舞。出雲駅伝は万全ではない中で3区区間2位。全日本大学駅伝では7区で驚異的な区間記録を打ち立てた。いずれも優勝に貢献。3冠へ王手をかけた。 元々、大きなケガをしないタイプだったが、世界選手権を踏まえた初めてのコンディション調整だったため、「原因は疲労だと思いますが、そういった状態に陥ったことが少ないので、どういう対応をすればいいかわからなかったんです」。 学生として世界を目指す中での難しさはある。それでも、10000mで日本トップクラスの記録を出し、完全な状態ではないなかでも世界の舞台に立った。そして駅伝でもエースとしての役割をきっちりこなせた。なぜか。 セルフケアは「器具を使っています」。駒大の寮に完備されているマッサージルームにある機器やボディケア用品を活用。加えて、毎日のセルフケアとは別に、「1週間に1回は治療に行くようにしています」。それもいつも同じではない。「疲れが溜まっている時はマッサージ系、バランスが崩れている時はそれをメンテナンスします」。その時々で変えているのだという。 青森山田高時代から「肩こりがひどかった」という田澤。お気に入りはファイテンのチェーンネックスレスで、地元・八戸にある店舗を訪れ「自分で買いました」と言う。「昔から同じものをずっと使っています。今でもめちゃくちゃ肩がこったり肩甲骨が固まりやすかったりするのですが、ケアとして着けているとやっぱり違いますね」。今はチタン水晶ネックレスやパワーテープも着用。最後まで落ちない力強い腕振りを支えている。 シューズにもこだわる。「朝練習、本練習、スピード練習、距離走用の他に、快調走用やスパイクもあります。目的に応じて種類があるので(特徴を)生かさないといけません。全部同じシューズとかはダメだと思います」。 休日にはチームメイトと買い物に出掛けたり、温泉に入ったり。「おいしいスイーツを食べにも行きます」というのがリラックス法。こうした心身のケアを経てレースに臨んでいる。 ランナーは身体が資本。ランナーとして日々、自分の走りの感覚を高めるために、どうコンディションを整えるか。特にこの1年は身体と向き合い、“対話”してきた。この意識の高さが、田澤を世界の舞台へと立たせ、激動の1年を乗り越えられた。 いよいよ迎える最後の学生最後の大舞台。来年のブダペスト世界選手権を見据えつつ、全日本大学駅伝で2冠を果たしてからは「最後ですから、チームのために箱根駅伝に向けてやっていこうと思ったんです」と力を込める。 駒大、そして恩師の大八木弘明監督にとって、学生駅伝3冠は悲願。「3冠をしたことがないので、監督にプレゼントするのが4年間の恩返しだと思っています」。駅伝の楽しさを知った。世界の壁も楽しさも知った。駒大での4年間の集大成を見せる舞台は、すぐそこまで来ている。 [caption id="attachment_88770" align="alignnone" width="800"] 最後の箱根駅伝に向かう田澤。3冠は監督への「恩返し」と語る[/caption] 田澤廉(たざわ・れん)/2000年11月11日生まれ。青森県八戸市出身。青森・是川中→青森山田高。大学進学後は学生駅伝フル出場でこれまで区間賞5回獲得。10000mでは日本人学生最高の27分23秒44(日本歴代2位)を持ち、今夏のオレゴン世界選手権にも出場した。卒業後はトヨタ自動車で競技を続ける。 文/向永拓史

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