2026.07.29

山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第71回「物価高騰による合宿や遠征の費用捻出」
幼少期より夏は暑いものとして育ってきた。うどん県(讃岐・香川県)生まれの私にとって、冬は暖かいかけうどんに季節の具材を乗せて胃袋から温め、夏は冷たく締めたしょうゆかけうどんや冷かけうどんで涼を求めた。
7月25日の甲府は40度を超える酷暑日となった。土用の丑の日が近い……。頭に浮かぶのはウナギのかば焼きである。土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、江戸時代後期の蘭学者・平賀源内(現在の香川県さぬき市生まれ)の提案したキャッチコピーがきっかけであったとの説がある。
ウナギ屋から「夏の商売がうまくいかない」と相談を持ち掛けられた平賀源内が、 “夏の土用の丑の日にはウナギを食すべし”と貼り紙をして商いをしてみればと助言したところ、見事大当たりの商売繁盛となったそうだ。
今でいうところのマーケティングの巧みさに心が動かされたのだろう。日本は古来、夏の土用の丑の日には「う」の着くものを食する(梅・うり・うどん)と言われてきていたことを引き合いにしたそうだ。栄養学的にもウナギはトータルバランスに優れ、夏バテ気味の身体には効果的だろう。
今夏のウナギは養殖技術の向上もあり、多少お値段も下がったそうだ。とはいえ光熱費や他の調味料などの値上がりもあり、“土用の丑の日”の看板を見て、気合とともに買い求める高級食材であることに変わりはない。
世の中の経済動向はスポーツ選手にとって無視できない話題でもある。昨今の国内の遠征費や合宿費用も負担増は否めない。特にホテルなど宿泊費の高騰ぶりは北海道各地を転戦するホクレン・ディスタンスチャレンジなどに派遣されている関係者の方々の懸案事項でもある。インターハイの応援に駆けつけるご家族など関係者にとっても悩ましいところであろう。
一般的なビジネスホテルを例に挙げると、バブルの余韻が残る1990年代前半は1泊10000円台の宿泊が、1990年後半には5000円~7000円台の格安プランが人気となっていた。2010年台前半までは予約サイトの普及や低価格競争が継続していたため、10000円を割る価格設定であった。
ところが2010年代後半は訪日外国人観光客(インバウンド)の急増や、需要に合わせて価格が変動する「ダイナミックプライシング(変動価格制)」が導入され1泊10000円を超えるケースが珍しくなくなってきていた。
そして近年は人手不足・人件費の上昇・エネルギーコスト高騰の直撃を受け、宿泊相場は15000円前後、週末やイベント時には2万円を超えるなど過去最高水準への高騰が続いている。その週末に各種大会が重なる。
今年の関東学連網走長距離記録会は昨年より1週間早く、祝日連休の海の日と重ならなかったので、航空券及び宿泊費が抑えられたので良かった、との声が関係者から届いたほどである。
山梨学大陸上競技部元監督の上田誠仁氏による月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第71回「物価高騰による合宿や遠征の費用捻出」
幼少期より夏は暑いものとして育ってきた。うどん県(讃岐・香川県)生まれの私にとって、冬は暖かいかけうどんに季節の具材を乗せて胃袋から温め、夏は冷たく締めたしょうゆかけうどんや冷かけうどんで涼を求めた。 7月25日の甲府は40度を超える酷暑日となった。土用の丑の日が近い……。頭に浮かぶのはウナギのかば焼きである。土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、江戸時代後期の蘭学者・平賀源内(現在の香川県さぬき市生まれ)の提案したキャッチコピーがきっかけであったとの説がある。 ウナギ屋から「夏の商売がうまくいかない」と相談を持ち掛けられた平賀源内が、 “夏の土用の丑の日にはウナギを食すべし”と貼り紙をして商いをしてみればと助言したところ、見事大当たりの商売繁盛となったそうだ。 今でいうところのマーケティングの巧みさに心が動かされたのだろう。日本は古来、夏の土用の丑の日には「う」の着くものを食する(梅・うり・うどん)と言われてきていたことを引き合いにしたそうだ。栄養学的にもウナギはトータルバランスに優れ、夏バテ気味の身体には効果的だろう。 今夏のウナギは養殖技術の向上もあり、多少お値段も下がったそうだ。とはいえ光熱費や他の調味料などの値上がりもあり、“土用の丑の日”の看板を見て、気合とともに買い求める高級食材であることに変わりはない。 世の中の経済動向はスポーツ選手にとって無視できない話題でもある。昨今の国内の遠征費や合宿費用も負担増は否めない。特にホテルなど宿泊費の高騰ぶりは北海道各地を転戦するホクレン・ディスタンスチャレンジなどに派遣されている関係者の方々の懸案事項でもある。インターハイの応援に駆けつけるご家族など関係者にとっても悩ましいところであろう。 一般的なビジネスホテルを例に挙げると、バブルの余韻が残る1990年代前半は1泊10000円台の宿泊が、1990年後半には5000円~7000円台の格安プランが人気となっていた。2010年台前半までは予約サイトの普及や低価格競争が継続していたため、10000円を割る価格設定であった。 ところが2010年代後半は訪日外国人観光客(インバウンド)の急増や、需要に合わせて価格が変動する「ダイナミックプライシング(変動価格制)」が導入され1泊10000円を超えるケースが珍しくなくなってきていた。 そして近年は人手不足・人件費の上昇・エネルギーコスト高騰の直撃を受け、宿泊相場は15000円前後、週末やイベント時には2万円を超えるなど過去最高水準への高騰が続いている。その週末に各種大会が重なる。 今年の関東学連網走長距離記録会は昨年より1週間早く、祝日連休の海の日と重ならなかったので、航空券及び宿泊費が抑えられたので良かった、との声が関係者から届いたほどである。サポートしてくる存在のありがたみ
これが海外遠征ともなれば予算を圧迫しかねない事態となる。当然海外で武者修行を果敢に体験させることや、その雰囲気とレース展開を肌感覚として味わうことの重要性を指導者も選手自身も認識していることに疑う余地があろうはずもない。 海外遠征や合宿の話題は2022年8月第24回のコラムで書かせていただいた。海外遠征合宿や大会出場を行った1989年当時の為替レートで米国ドルは1ドルが120円台で推移し、1995年には一時期80円を割る円高が記録されている。2000年代に入ってからは120円前後を維持してきた。それがなんと現在では163円から164円の円安が続いている。 海外航空運賃も1990年代からの推移を見てみると、規制緩和やLCC(Low Cost Carrier/格安航空会社)参入、IT化による予約の多様化で実質的な運賃低下の時代が長らく続いていた。しかしながら、新型コロナ禍以降は世界情勢などに起因する原油高と歴史的な円安の進行により、燃料サーチャージを含めた総額が過去最高水準に急騰し続けている。 遠征や合宿、まして海外となると移動・食事・宿泊の費用を見積もるだけで肝が冷えるほどである。それでも7月11日に米国・ロサンゼルスで開催された世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・シルバーのサンセット・ツアーに、日本から記録に挑戦しようとエントリーされた選手がいた。 男子5000mにはセイコーゴールデングランプリ3000mで学生最高となる7分39秒51で快走した柴田侑(城西大4)が13分39秒07で6位、岡田開成(中大3)が13分19秒77の自己新記録に0.33秒届かずも1位、栗村凌(中大1)は残念ながら自己記録更新ならず14分23秒51で14位だった。 [caption id="attachment_131366" align="alignnone" width="800"]
ケニアで合宿する池田耀平(左から2人目、チーム提供)[/caption]
3000m障害には佐藤颯(富士山GX)がセカンドベストとなる8分32秒05で9位。女子800mでは久保凛(積水化学)が2分03秒07で8位、男子2部800mでは田母神一喜(薬王堂IIIF TC)は1分48秒56で7位との成績であった。
その他にも7月10日にはダイヤモンドリーグ(DL)モナコ大会にて、駒大の落合晃(2年)が1000mで2分15秒24の日本新記録を樹立。同レースではケニアのエマニュエル・ワニョニイが2分11秒83の世界新記録で走破している。ワニョニイの走りを目前でとらえながら、同一レースを走れたことは今後の競技力向上にはなくてはならない刺激であったに違いない。
アフリカ大陸に視点を移せば、ケニアの有名なトレーニングキャンプ地・イテンで池田耀平(花王)は、チームメイトのジョスファト・レダマ・キサイサとともに強化合宿を行っているそうだ。記録に挑戦するための遠征、そして鍛錬の夏を強化合宿地として選ぶのは、涼を求めて北へ向かうか、高地トレーニングの効果を求めて標高を上げてゆくことになろう。
経費負担は実業団であれば会社。高校・大学であればそれぞれの所属により違いはあるにせよ、保護者負担と強化費やOB会などからの援助などが中心だろう。日本陸連や日本実業団連合、日本学連、関東学連の派遣選手としても、その協会が高騰する費用を捻出するのは容易ではないことを認識しなければならない。
[caption id="attachment_131366" align="alignnone" width="800"]
米国のレースに出場した佐藤颯(左、チーム提供)[/caption]
この夏、様々なチャレンジをするアスリートのみなさんは、予算や経費の心配などをせずに競技に集中してほしい……と言いたいところではある。しかしながらその場所でレースに出場し、強化合宿などで日々のトレーニングができるのは、この物価高騰の中でその費用を負担してくれるサポート体制があることを心の隅にでも刻んでおいてほしいと願っている。
| 上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学名誉教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任し、26年3月に退任。 |
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