2026.05.16
◇セイコーゴールデングランプリ(5月17日/東京・MUFGスタジアム:国立競技場)
世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ゴールドのセイコーゴールデングランプリの女子やり投に北口榛花(JAL)が出場する。昨年、右肘を痛めた影響で9月の東京世界選手権では予選敗退。あの日以来の“復帰戦”となる。
前日会見で選手を待っていると、廊下からあの笑い声が聞こえる。記者やフォトグラファーの表情が思わず緩む。あ、戻ってきたな、と。北口はどこにいても、その笑い声ですぐにわかる。その笑顔が、昨年9月の国立競技場で見られなかった。
北口は2月に南アフリカへ渡り、男子世界記録保持者で五輪3大会金メダリストのヤン・ゼレズニー氏のトレーニングキャンプに参加。4月に正式にコーチ契約を結んだ。ケガからの復帰戦でもあり、新体制となっての初戦。「どういう結果になるかわかりませんが、自分を信じないと誰も信じてくれない。まずはこれが初めての試合になるので変化を信じたい」。その表情から、順調に過ごしたのが見てとれた。
会見には昨年の東京世界選手権5位に入っているエレナ・ツェンゴ(ギリシャ)とともに登壇。ツェンゴはダイヤモンドリーグ・ファイナルも優勝している23歳のホープだ。「こうして素晴らしい選手がまた東京に戻ってきてくれたのは本当にうれしい」と北口。前日練習では、ブダペスト世界選手権で北口と激しい金メダル争いを繰り広げたフロラ・デニス・ルイス・フルタド(コロンビア)の姿も。いつも世界を舞台に戦っている仲間たちだ。
ツェンゴが言う。「ハルカ選手はとても素晴らしい人物。いつもハッピーで、エネルギーをたくさんもらえます。また一緒に競技ができるのが私にとって重要なのです」。北口が金メダルを手にしたブダペスト世界選手権では予選落ち、パリ五輪はあと一歩で入賞を逃す9位。ずっと世界女王の背中を追いかけてきた。
そういえば、遠く離れたベルギー・ブリュッセルで、30m台のベストの若きやり投選手がダイヤモンドリーグの応援に訪れ、日の丸を持って「ハルカのファンなの」とはにかんでいた姿を思い出した。北口の笑顔は日本だけではなく、世界の人たちを魅了してきた。
東京世界選手権で予選敗退に終わり、会場をあとにするまで、涙を必死にこらえてファンに手を振っていた姿が忘れられない。この日、会見が終わると、あの日と同じピットへ。「明日のコーチ席を見てきてほしい」とゼレズニー・コーチから頼まれたとか。「声が届くかなぁ…」と心配そうにスタンドをチェック。「北口さんの声なら届くけど」と言うと、あの日あの場所で聞こえなかった、いつもの笑い声が国立競技場に響いた。女王が戻ってきた。
肘は慎重に状態を見ながら投てき練習も再開。痛みの不安なく試合ができるのも久しぶりだ。「海外選手も豪華で、いつも楽しくできる仲間。お互い良い時も悪い時もあるけど、みんなで記録を破りに行くという勢いが必要。私が盛り上げられるように頑張りたい。やり投の北口榛花が戻ってきた、と思ってもらえるように」。
投てきは「間違い探しを楽しんで」といたずら顔を見せるほど、そのフォームが変化しているとのこと。再び世界一へ、そして記録への挑戦の新しい一歩。もちろん、生粋の負けず嫌いであり、負けつもりはないだろう。それでもまずは明日、笑顔でケガなく思いっきり投げればいい。もっと遠く、はるか遠くへ。
文/向永拓史
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