2025.03.31
夏合宿で距離への不安を解消
「上級生になるので、よりがんばらないといけない」とスタートを切った今年度も、今度は右のアキレス腱痛で出遅れてしまう。ただ、それによって「箱根に出ること」だけに注力でき、じっくり強化できた効果もあったようだ。
「もともと長い距離を走るのが苦手というか、みんなより走れないという意識がありました。夏はとにかく距離を走ることをテーマに過ごして、8月だけで1018km走ったのは自己最高。今まで900kmを超えたこともなかったので、距離に対する不安はだいぶなくなりました」
チームは箱根駅伝予選会は6位通過。全日本大学駅伝は12位でシード権を失った。吉中も「夏の疲労が取れませんでした」と予選会で思うような走りはできなかったが、チーム全体の「箱根はしっかりやらないといけない」という危機感が箱根での躍進につながっていく。
1月の箱根駅伝は、大学3年目にしてようやくたどり着いたあこがれの舞台だった。12月25日に藤原監督から9区を言い渡されたとき、「自分の中では9区か10区のどちらかを走るだろうと予想していたので、どちらにも対応できるように準備していました。その上で9区に決まっていたので、焦りもありませんでした」と振り返る。
中大は同期の吉居駿恭(3年)が1区で独走態勢を築き、5区半ばまでトップをひた走った。往路は2位だったが、力強く走るチームメイトを見ながら、吉中は「もしかしたら優勝もあるんじゃないか」と思っていた。
翌日の復路を万全の状態で迎え、苦戦を強いられた8区の佐藤大介(1年)からタスキを受けた時は、「自分がしっかり挽回しよう」と走り出した。藤原監督からは「69分フラット」を目標タイムとして設定されていた。
ただ、2年時の全日本で経験した雰囲気と箱根とは、はるかに違った。「沿道の声援の大きさが全然違いましたし、注目度の高さも実感しました。僕は普段、そこまで緊張するタイプではないのですが、箱根駅伝ではすごく緊張してしまい、ガチガチになってうまく走れなかったです」と振り返る。
結果は1時間9分46秒で区間8位だった。悪くなりかけたチームの流れを引き戻したようにも見えたが、「もっといけると思っていたので、立て直したとは思っていません。納得のいく走りではなかったです」。初の箱根路を走れた喜び以上に悔しさの方が大きかった。だが、それが日本学生ハーフでの原動力になった。
箱根駅伝を総合5位で終えた中大は、吉居が主将、吉中が副主将となって新チームのスタートを切った。「(吉居)駿恭は競技力で引っ張っていくキャプテンで、僕はみんなとコミュニケーションを取りながらチームを1つにしていく役割。他の4年生が推薦してくれたので、頑張ろうという気持ちです」と意気に感じている。
吉居や溜池一太、白川陽大(ともに3年)といった強力な同期と臨む大学ラストシーズン。チームは「箱根駅伝総合優勝、出雲駅伝と全日本大学駅伝での表彰台」を目標に定めた。そのために吉中自身は「区間3位以内」でチームに貢献するとともに、個人としても「5000mでの日本選手権出場と、10000mでの27分台」を目指していく。
「出雲と全日本では、ラストスパートを生かせる1区を走ってみたい。箱根は9区でリベンジしたい気持ちがあります」
今年度は5月に全日本大学駅伝の選考会も入ってくるため、すべての目標を達成しようとすれば、かなりのハードスケジュールを強いられるだろう。だが、「いろいろな種目で記録を出せるようになって、楽しいです」と、充実の表情を浮かべる今の吉中に不安はない。
「トラックも駅伝も頑張りたいです」という入学当初の思いを貫き、しっかりと結果も残すつもりだ。
◎よしなか・ゆうた/2003年10月30日生まれ、山口県下関市出身。向洋中→豊浦高→中大。自己記録5000m13分44秒09、10000m28分23秒21、ハーフマラソン1時間0分45秒。
文/小野哲史

7年ぶりのハーフ中大新
丸亀ハーフマラソンと併催で行われた2月2日の日本学生ハーフマラソン選手権で、吉中が自身も驚く快走を披露した。「ここまで走れるとは思っていなかった」と話すように、約2ヵ月前にマークした1時間3分21秒を大きく更新する1時間0分45秒の自己ベスト。7年ぶりに中大記録(1時間1分32秒)を塗り替えた。 「61分台を出したいと練習してきました。丸亀は高速レースになるので、できるところまで前について挑戦していくレースプランでスタートしました」 14分06秒で5kmを通過したとき、「結構ゆとりがあったので、これは行けるんじゃないか」と手応えを感じた。15kmまでに大きな貯金ができたことで、吉中は「61分台」の目標達成を確信。さらに中大記録の更新も意識し始めたという。 さすがに15km以降は「いっぱいいっぱいで、ペースが落ちてしまった」ものの、最後まで粘ってフィニッシュ。「素直にすごくうれしかった」と喜ぶ吉中を、藤原正和駅伝監督は「おめでとう。まさかお前が(中大新を)出すとは思わなかったよ」と笑って祝福してくれた。 「2024年度の前半シーズンはケガでバタバタしてしまったのですが、そこからは順調に練習を積むことができました」と話し、「箱根駅伝がそこまで良い走りではなかったというか、自分の中で納得できる走りができませんでした。箱根後もしっかり気持ちを切らさず、練習できました」と、好走の要因だと言う。 小学6年生で陸上を始めた吉中は、山口・向洋中3年時に全中800mで7位入賞。1500mでも15位に入るなど、中学時代は「楽しく陸上をできていました」。豊浦高に進むと、1年時に国体少年B3000mで2位を占めたが、「そこからケガもあって、2、3年時はうまく結果が出ませんでした。楽しくなかったわけではないけれど、どちらかと言うと苦しい3年間でした」と高校時代を振り返る。 2022年に中大に進学したのは、「トラックも駅伝も両方がんばりたい」という吉中の思いを汲んだ豊浦高顧問(当時)の富家章治先生が、藤原監督に吉中を売り込むための手紙を書いてくれたのがきっかけだった。競技を始めた頃からの「箱根駅伝に出たい」という思いも強かった。 しかし、チームに加わると、先輩や同期のレベルの高さや、やったことのない練習の質の高さに衝撃を受ける。しかも吉中自身は腸脛靭帯を痛め、左大腿骨も疲労骨折するなど早々に離脱。6月中旬に大学初レースを迎えたが、「みんなが速くて、ただただびっくりするだけだった」と明かす。 それでも、「自分はタイム的にも新入生で下の方からのスタート。上の人たちを下剋上で食っていくしかない」と覚悟を決め、日々の練習から力のあるチームメイトに必死に食らいついていった。 「自分の武器はラストスパート。普段の練習への取り組みは、とにかく何でもがんばるようにしています」と話す吉中は、地道に力をつけ、少しずつチーム内での存在感を高めていく。 1年時の3月に10000mで28分台に突入。2年目には関東インカレ1部5000mで8位に入賞し、7月には5000mで13分台をマークするなど、自身も「力がついてきた」という感触があった。 そして、2023年11月の全日本大学駅伝で学生駅伝デビュー。「注目されるし、走っていて楽しかったです」と、6区を堂々の区間4位で走破し、チームの4位に大きく貢献した。しかし、その後は12月の合宿中に左アキレス腱を痛めてしまい、念願だった箱根駅伝出場はかなわなかった。夏合宿で距離への不安を解消
「上級生になるので、よりがんばらないといけない」とスタートを切った今年度も、今度は右のアキレス腱痛で出遅れてしまう。ただ、それによって「箱根に出ること」だけに注力でき、じっくり強化できた効果もあったようだ。 「もともと長い距離を走るのが苦手というか、みんなより走れないという意識がありました。夏はとにかく距離を走ることをテーマに過ごして、8月だけで1018km走ったのは自己最高。今まで900kmを超えたこともなかったので、距離に対する不安はだいぶなくなりました」 チームは箱根駅伝予選会は6位通過。全日本大学駅伝は12位でシード権を失った。吉中も「夏の疲労が取れませんでした」と予選会で思うような走りはできなかったが、チーム全体の「箱根はしっかりやらないといけない」という危機感が箱根での躍進につながっていく。 1月の箱根駅伝は、大学3年目にしてようやくたどり着いたあこがれの舞台だった。12月25日に藤原監督から9区を言い渡されたとき、「自分の中では9区か10区のどちらかを走るだろうと予想していたので、どちらにも対応できるように準備していました。その上で9区に決まっていたので、焦りもありませんでした」と振り返る。 中大は同期の吉居駿恭(3年)が1区で独走態勢を築き、5区半ばまでトップをひた走った。往路は2位だったが、力強く走るチームメイトを見ながら、吉中は「もしかしたら優勝もあるんじゃないか」と思っていた。 翌日の復路を万全の状態で迎え、苦戦を強いられた8区の佐藤大介(1年)からタスキを受けた時は、「自分がしっかり挽回しよう」と走り出した。藤原監督からは「69分フラット」を目標タイムとして設定されていた。 ただ、2年時の全日本で経験した雰囲気と箱根とは、はるかに違った。「沿道の声援の大きさが全然違いましたし、注目度の高さも実感しました。僕は普段、そこまで緊張するタイプではないのですが、箱根駅伝ではすごく緊張してしまい、ガチガチになってうまく走れなかったです」と振り返る。 結果は1時間9分46秒で区間8位だった。悪くなりかけたチームの流れを引き戻したようにも見えたが、「もっといけると思っていたので、立て直したとは思っていません。納得のいく走りではなかったです」。初の箱根路を走れた喜び以上に悔しさの方が大きかった。だが、それが日本学生ハーフでの原動力になった。 箱根駅伝を総合5位で終えた中大は、吉居が主将、吉中が副主将となって新チームのスタートを切った。「(吉居)駿恭は競技力で引っ張っていくキャプテンで、僕はみんなとコミュニケーションを取りながらチームを1つにしていく役割。他の4年生が推薦してくれたので、頑張ろうという気持ちです」と意気に感じている。 吉居や溜池一太、白川陽大(ともに3年)といった強力な同期と臨む大学ラストシーズン。チームは「箱根駅伝総合優勝、出雲駅伝と全日本大学駅伝での表彰台」を目標に定めた。そのために吉中自身は「区間3位以内」でチームに貢献するとともに、個人としても「5000mでの日本選手権出場と、10000mでの27分台」を目指していく。 「出雲と全日本では、ラストスパートを生かせる1区を走ってみたい。箱根は9区でリベンジしたい気持ちがあります」 今年度は5月に全日本大学駅伝の選考会も入ってくるため、すべての目標を達成しようとすれば、かなりのハードスケジュールを強いられるだろう。だが、「いろいろな種目で記録を出せるようになって、楽しいです」と、充実の表情を浮かべる今の吉中に不安はない。 「トラックも駅伝も頑張りたいです」という入学当初の思いを貫き、しっかりと結果も残すつもりだ。 [caption id="attachment_131366" align="alignnone" width="800"]
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