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2025.12.17

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今年度限りでの「引退」を表明した村澤明伸インタビュー【後編】 〝ぬけぬけ病〟に苦しんだ実業団生活、来年度からはチームのコーチに就任
今年度限りでの「引退」を表明した村澤明伸インタビュー【後編】 〝ぬけぬけ病〟に苦しんだ実業団生活、来年度からはチームのコーチに就任

年明けにどこかのレースでしっかり〝完走〟して競技人生に区切りをつけたいと思っている村澤明伸(SGホールディングス)

全国高校駅伝や箱根駅伝でヒーローになった村澤明伸(SGホールディングス、34歳)が今年度限りでの「引退」を表明した。実業団では故障に苦しみながら、マラソンにも挑戦。北海道マラソンで優勝して、MGCにも出場した。来年度からはSGホールディングスのコーチに就任。新たなキャリアが幕を開けるが、これまでどのような実業団生活を送ってきたのだろうか。〔全2回の後編〕

大学卒業後に単身で渡米、トラックでリオ五輪を目指す

──東海大を卒業後、日清食品グループに入社しました。どんな目標で実業団生活をスタートしたんですか?

まずは以前からやってみたかったことを実行しました。数ヵ月でしたが、標高2000mの米国・フラッグスタッフを拠点にトレーニングをしたんです。当時は北京五輪マラソン米国代表のライアン・ホールらが練習拠点にしていたので、(前年の)カージナル招待の後、下見に行きました。単身で行き、現地で練習パートナーを探しながら、トレーニングを積みました。日本と違う練習メソッドがあると思っていたんですが、そこで何か広がったというのは正直あまりなかったと思います。

──リオ五輪(2016年)はトラックで狙いましたが、思うような結果を残すことができませんでした。

リオ五輪の年までトラックを中心にやってきて、日本選手権の入賞(10000mで2015年に5位、2016年に8位)ぐらいまでは戻ってこられたんです。でも、そこから続かなかったですね。日本選手権に向けて急ピッチで仕上げてきたのに、さらに上げようとして身体が持たなかったんです。無理をせず、反復練習で再現性を高めた方が記録の向上はあったのかなと今は思っています。

2016年の日本選手権(名古屋)の10000mでは先頭を引っ張る積極性を見せたが最終的には8位。2ヵ月後のリオ五輪代表入りには至らなかった

2017年からマラソンに進出、2戦目の北海道で優勝

──その後は2017年3月のびわ湖で初マラソンに挑戦しました。

トラックで勝負するのは厳しいと感じて、当時の白水昭興監督にお願いして出走したかたちです。初めての挑戦なのでワクワク感がありましたね。練習もしっかりできていたんですけど、終盤は完全にストップしたのでマラソンは甘くないと思いました(2時間17分51秒で28位)。

2017年3月のびわ湖毎日でマラソンに初挑戦した村澤(右端)。中盤まで先頭集団に食らいついたが、35km過ぎから失速して28位(2時間17分51秒)。しかし、半年後の北海道マラソンに優勝(2時間14分48秒)して2019年9月のMGC出場権獲得の第1号となった

──2017年8月の北海道マラソンを2時間14分48秒で制して、東京五輪マラソン選考レースのMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権獲得の一番乗り。翌年3月の東京マラソンでは自己ベストとなる2時間9分47秒をマークしています。

初マラソンのびわ湖をまともに走りきれなかったので、北海道はちゃんとマラソンを走るのが目標でした。北海道でマラソンを走りきるだけの土台ができたので、東京に向けては、どうやって強度を上げていくのかを考えていました。でも、それが良くなかったのかもしれません。同じことを繰り返しても力はつくのに、何かを変えなければ自己ベストが出ない、という思いがありました。2018年の夏ぐらいからフォームに崩れが生じて、MGCの前はマラソン練習をこなすのも難しい状態になったんです。

2019年秋のMGCは21位(2時間19分52秒)にとどまった村澤(右端)。この1年前から脚に力が入らなくなる〝ぬけぬけ病〟に悩まされていた

全国高校駅伝や箱根駅伝でヒーローになった村澤明伸(SGホールディングス、34歳)が今年度限りでの「引退」を表明した。実業団では故障に苦しみながら、マラソンにも挑戦。北海道マラソンで優勝して、MGCにも出場した。来年度からはSGホールディングスのコーチに就任。新たなキャリアが幕を開けるが、これまでどのような実業団生活を送ってきたのだろうか。〔全2回の後編〕

大学卒業後に単身で渡米、トラックでリオ五輪を目指す

──東海大を卒業後、日清食品グループに入社しました。どんな目標で実業団生活をスタートしたんですか? まずは以前からやってみたかったことを実行しました。数ヵ月でしたが、標高2000mの米国・フラッグスタッフを拠点にトレーニングをしたんです。当時は北京五輪マラソン米国代表のライアン・ホールらが練習拠点にしていたので、(前年の)カージナル招待の後、下見に行きました。単身で行き、現地で練習パートナーを探しながら、トレーニングを積みました。日本と違う練習メソッドがあると思っていたんですが、そこで何か広がったというのは正直あまりなかったと思います。 ──リオ五輪(2016年)はトラックで狙いましたが、思うような結果を残すことができませんでした。 リオ五輪の年までトラックを中心にやってきて、日本選手権の入賞(10000mで2015年に5位、2016年に8位)ぐらいまでは戻ってこられたんです。でも、そこから続かなかったですね。日本選手権に向けて急ピッチで仕上げてきたのに、さらに上げようとして身体が持たなかったんです。無理をせず、反復練習で再現性を高めた方が記録の向上はあったのかなと今は思っています。 [caption id="attachment_190818" align="alignnone" width="800"] 2016年の日本選手権(名古屋)の10000mでは先頭を引っ張る積極性を見せたが最終的には8位。2ヵ月後のリオ五輪代表入りには至らなかった[/caption]

2017年からマラソンに進出、2戦目の北海道で優勝

──その後は2017年3月のびわ湖で初マラソンに挑戦しました。 トラックで勝負するのは厳しいと感じて、当時の白水昭興監督にお願いして出走したかたちです。初めての挑戦なのでワクワク感がありましたね。練習もしっかりできていたんですけど、終盤は完全にストップしたのでマラソンは甘くないと思いました(2時間17分51秒で28位)。 [caption id="attachment_190820" align="alignnone" width="800"] 2017年3月のびわ湖毎日でマラソンに初挑戦した村澤(右端)。中盤まで先頭集団に食らいついたが、35km過ぎから失速して28位(2時間17分51秒)。しかし、半年後の北海道マラソンに優勝(2時間14分48秒)して2019年9月のMGC出場権獲得の第1号となった[/caption] ──2017年8月の北海道マラソンを2時間14分48秒で制して、東京五輪マラソン選考レースのMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権獲得の一番乗り。翌年3月の東京マラソンでは自己ベストとなる2時間9分47秒をマークしています。 初マラソンのびわ湖をまともに走りきれなかったので、北海道はちゃんとマラソンを走るのが目標でした。北海道でマラソンを走りきるだけの土台ができたので、東京に向けては、どうやって強度を上げていくのかを考えていました。でも、それが良くなかったのかもしれません。同じことを繰り返しても力はつくのに、何かを変えなければ自己ベストが出ない、という思いがありました。2018年の夏ぐらいからフォームに崩れが生じて、MGCの前はマラソン練習をこなすのも難しい状態になったんです。 [caption id="attachment_190822" align="alignnone" width="800"] 2019年秋のMGCは21位(2時間19分52秒)にとどまった村澤(右端)。この1年前から脚に力が入らなくなる〝ぬけぬけ病〟に悩まされていた[/caption]

2018年の夏頃から〝ぬけぬけ病〟に苦しむ

──どんな原因があったのでしょうか? 医学的な症状名はないんですけど、長距離界で「ぬけぬけ病」と呼ばれるような症状です。私の場合は、脚の力が抜けてしまうような状況でした。最初は右脚でしたが、両方のときもありました。MGC(21位)の後、精密検査をしたところ、股関節に付着している「関節唇」という線維軟骨が損傷していたので、2019年10月に右股関節の手術をしたんです。しかし、状況があまり改善されるようなことはありませんでした。 ──日清食品グループ陸上競技部の活動休止に伴い、2021年4月にSGホールディングスに移籍しました。 最初にSGホールディングスの塩見雄介監督(現・総監督)に声をかけていただいたのが、手術して入院中のときでした。私の状況を知ってくださっているなかで、お誘いを受けて、感謝の気持ちが大きいです。結果で恩返しできていないのが不甲斐ないですけど、このチームに所属できたのは喜ばしいことだと思っています。ここまで競技を続けてこられた事実に対してすごく感謝しています。

今年度末で35歳、「やり残したことはあまりない」

──今年度限りで「引退」されますが、思い出に残っているレースは何ですか? マラソンを含めて初めて経験するレースはすべて印象に残っています。なかでも高校時代は毎回のように自己ベストを出せたこともあり、出場したレースは全部楽しかったなと思います。 ──3月の誕生日を迎えると35歳になります。長い競技生活のなかでやり切れたことと、やり残したことは何でしょうか? 同学年の実業団ランナーはほとんどいないので、ここまで続けてこられたのは、自分のなかでやり切れたことかなと思います。ただ、上には上野裕一郎先輩(ひらまつ病院)、佐藤悠基先輩(SGホールディングス)がいらっしゃいますし、違う種目では競歩の勝木隼人(自衛隊体育学校)が東海大の同級生です。東京世界選手権の35㎞競歩で銅メダルを獲得しましたし、純粋にすごいなと思いますね。 ──その一方で、やり残したと思えることはありますか? やり残したことはあまりありません。今振り返って、こうすれば良かったというのはあるんですけど、当時の自分は考えられなかったですから。これまでいい時もあれば、うまくいかない時もありました。競技への気持ちが切れそうになったこともありましたが、その時に応援してくれる方がいたから、これまで気持ちをつないでやってこられたので、感謝しています。 [caption id="attachment_192780" align="alignnone" width="800"] 実業団入り後は苦悩が続いたが、「やり残したことはあまりない」と話す。写真は2024年の北海道マラソン(27位)[/caption]

自分の気持ちも含めて「感覚」を大事にしてほしい

──今後はどんな道を歩む予定でしょうか? 来年度からはチームのコーチングに携わらせていただきます。今所属している選手、来年度入社してくれる選手は能力を持っている子が多いです。個々の持ち味を最大限に発揮させてあげられるようにしたいと思っています。選手の目標や夢に寄り添うのか、導くのかわかりませんが、いかにアプローチできるかを大事にしていきたいです。その前に、SGホールディングスのユニフォームでレース(ハーフマラソンの予定)をしっかり走って節目にしたいと思っています。 [caption id="attachment_190825" align="alignnone" width="800"] 来春からSGホールディングスのコーチに就任する村澤。現在、東海大大学院で勉強している運動生理学なども活かしながら選手にアドバイスしていく[/caption] ──最後に、若い世代の選手にメッセージをお願いします。 競技を好きでやっていると思うので、そのモチベーションを常に持ち続けてほしいなと思います。練習も義務ではなく、自分の好きなことと捉えるといいでしょう。スポーツは自分のカラダで感じて、表現するものです。走っているなかで何が一番面白いかというと、一緒に走っている選手の変化や、路面の感触、自分のなかの喜びや悔しさだと私は思っています。GPSウォッチなどで今はほとんどのものが簡単に測れるようになっていますが、自分の気持ちを含めて、「感覚」を大事にして、感性を養ってから、進んでいるスポーツサイエンスを十分に活用してほしいと思います。  

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