2025.09.26
2021年東京五輪男子1500mで金メダルを獲得し、5000mでも昨年のパリ五輪まで世界選手権を含め、国際大会3年連続優勝を遂げたヤコブ・インゲブリグトセン(ノルウェー)が東京世界陸上閉幕翌日の9月22日、東京・墨田区の東京スカイツリー展望デッキ フロア345「Sky Restaurant 634」内グランドルームで「COROS ✕ Jakob Ingebrigtsen メディアミーティング」という形式で国内外メディアのインタビューに応じた。TWOLAPSの横田真人代表が司会を務め、インゲブリグトセンは、トレーニング内容や考え方などを明かした。
長期スパンで2、3年後を見据えた練習
2000年9月生まれのインゲブリグトセン。東京五輪1500mをはじめ、5000mでは22年オレゴン世界陸上、23年ブダペスト世界陸上、24年パリ五輪と金メダルを手にしている。記録面でも1500mが3分26秒73(世界歴代4位)。1マイルは3分43秒73(世界歴代3位)が自己ベスト。また、2000m4分43秒13、3000m7分17秒55、2マイル7分54秒10と3種目で世界記録を保持している。
ショートトラックでも今年2月に1マイルで3分45秒14の世界新。その際の1500m通過では、ショートトラックで世界初の3分30秒切りとなる3分29秒63をマークした。さらに、3月の世界室内選手権では1500mと3000mの2冠に輝いている。
そんなインゲブリグトセンだが、その後の屋外レースはアキレス腱を痛めた影響で出場せず。東京世界陸上が今季初めてだった。結果は1500mが予選落ちで、5000mは10位。だが、5000mでは3600m過ぎから4500m過ぎまで先頭に立ち、日本のファンにその存在感を見せた。
まずはそのレースについて、「5000mの場合、私は最初から同じペースを刻んで走っている。あのレースは3000mを越えたあたりで先頭の選手がちょっと疲れていた。私はリズムを一定に保つ走りをしたかったので、結果的に前に出た。私にとって3000m以降で先頭に立つのはキーファクターなのでそれができて良かった」と振り返る。
インゲブリグトセンが先頭に立つと、いっそう盛り上がった国立競技場。「すごい歓声が上がったので、それがかなりパフォーマンスに直結した。日本の人たちからとても温かく迎え入れてもらったし、レース中も応援してくれた」と感謝していた。
話題は自身のトレーニングに。インゲブリグトセンは二重閾値走を取り入れている。これは、例えば午前に閾値走(乳酸が蓄積し始める閾値(LT値)に近い強度で20~40分程度走る)を軽くやったあと、午後はスピードをやや上げてインターバル的なトレーニングを行う。これを全力ではなく、余裕を持って一定のペースに抑えている。
「正しい負荷で、それを継続するのが、私のフィロソフィー。短いスパンで考えるのではなく、長期スパンで、2年後や3年後を見据えて取り入れている」と理由を明かした。
この二重閾値走を行うことによって「メリットはケガのリスクを最小限にできる」とインゲブリグトセン。「ほかのトレーニングだとスピードを余計に上げたりして、身体への負荷が大きくなり、ケガのリスクも高まる。二重閾値走は負荷こそ小さいが、それを積み挙げて、継続させることで自分が望むパフォーマンスを2年後や3年後に達成していく」と語った。
トレーニングにおいて最も大切にしていることは「できるだけ長い距離を走るランニング。マイレージを積むことを大事にしている」と言う。そのために「フィジカルトレーニングやリカバリーはあくまでも手段として補っている。フィジカルトレーニングは体幹やベーシックな内容で月曜と水曜に実施。ウエイトトレーニングは毎週金曜と日曜に行っている。それは身体を強くするだけでなく、ケガのリスクを下げるため」と理由を述べた。
ちなみに、火曜と木曜は「すごくコントロールされたペース」で走り、土曜は「ハードセッション。速いペースでのトレーニングがあるけど、そこはすごく気をつけている」そうだ。
長期スパンで2、3年後を見据えた練習
2000年9月生まれのインゲブリグトセン。東京五輪1500mをはじめ、5000mでは22年オレゴン世界陸上、23年ブダペスト世界陸上、24年パリ五輪と金メダルを手にしている。記録面でも1500mが3分26秒73(世界歴代4位)。1マイルは3分43秒73(世界歴代3位)が自己ベスト。また、2000m4分43秒13、3000m7分17秒55、2マイル7分54秒10と3種目で世界記録を保持している。 ショートトラックでも今年2月に1マイルで3分45秒14の世界新。その際の1500m通過では、ショートトラックで世界初の3分30秒切りとなる3分29秒63をマークした。さらに、3月の世界室内選手権では1500mと3000mの2冠に輝いている。 そんなインゲブリグトセンだが、その後の屋外レースはアキレス腱を痛めた影響で出場せず。東京世界陸上が今季初めてだった。結果は1500mが予選落ちで、5000mは10位。だが、5000mでは3600m過ぎから4500m過ぎまで先頭に立ち、日本のファンにその存在感を見せた。 まずはそのレースについて、「5000mの場合、私は最初から同じペースを刻んで走っている。あのレースは3000mを越えたあたりで先頭の選手がちょっと疲れていた。私はリズムを一定に保つ走りをしたかったので、結果的に前に出た。私にとって3000m以降で先頭に立つのはキーファクターなのでそれができて良かった」と振り返る。 インゲブリグトセンが先頭に立つと、いっそう盛り上がった国立競技場。「すごい歓声が上がったので、それがかなりパフォーマンスに直結した。日本の人たちからとても温かく迎え入れてもらったし、レース中も応援してくれた」と感謝していた。 話題は自身のトレーニングに。インゲブリグトセンは二重閾値走を取り入れている。これは、例えば午前に閾値走(乳酸が蓄積し始める閾値(LT値)に近い強度で20~40分程度走る)を軽くやったあと、午後はスピードをやや上げてインターバル的なトレーニングを行う。これを全力ではなく、余裕を持って一定のペースに抑えている。 「正しい負荷で、それを継続するのが、私のフィロソフィー。短いスパンで考えるのではなく、長期スパンで、2年後や3年後を見据えて取り入れている」と理由を明かした。 この二重閾値走を行うことによって「メリットはケガのリスクを最小限にできる」とインゲブリグトセン。「ほかのトレーニングだとスピードを余計に上げたりして、身体への負荷が大きくなり、ケガのリスクも高まる。二重閾値走は負荷こそ小さいが、それを積み挙げて、継続させることで自分が望むパフォーマンスを2年後や3年後に達成していく」と語った。 トレーニングにおいて最も大切にしていることは「できるだけ長い距離を走るランニング。マイレージを積むことを大事にしている」と言う。そのために「フィジカルトレーニングやリカバリーはあくまでも手段として補っている。フィジカルトレーニングは体幹やベーシックな内容で月曜と水曜に実施。ウエイトトレーニングは毎週金曜と日曜に行っている。それは身体を強くするだけでなく、ケガのリスクを下げるため」と理由を述べた。 ちなみに、火曜と木曜は「すごくコントロールされたペース」で走り、土曜は「ハードセッション。速いペースでのトレーニングがあるけど、そこはすごく気をつけている」そうだ。最適なトレーニングを探すことが大事
昨年3月にはスポーツテック製品メーカーのCOROS(カロス)と契約。その製品をトレーニングで活用している。COROSを通じて走行距離を管理するほか、トレーニングでの限界値を把握する。「限界値を超えた時はペースが早過ぎたのか、トレーニング頻度や強度が高かったのかを調べる。そして自分の練習を見直して、何がいけなかったのかを探すようにしている」とインゲブリグトセン。二重閾値走を取り入れているだけに「限界値を超えないところで負荷をかけ続けていくことが大事。そういったモニタリングを通じてトライ&エラーをしていくことで見えてくるものがある」と話す。 また、インゲブリグトセンはトレーニング内容やデータを公開している。ライバルたちにも知られることになるが、「不安はない」ときっぱり。「多くの選手のためになれば良いなと思っている」。しかし、「ハードトレーニングがその選手にとって良い方法かもしれないし、イージートレーニングでベストなパフォーマンスを生む選手もいる。自分自身の最適なトレーニングを探すことが大事」とも話す。要は、「自分が日々何をやっているか内容を理解しながらトレーニングしていく」ことが大事ということだ。 インゲブリグトセン自身はできるだけトレーニング時は生活のリズムを崩さないようにしているという。「月曜から日曜まで決まったスケジュールで動いている。就寝や朝食、トリートメントやマッサージを受ける時間も。そういったルーティンを非常に重要視していて、それを通じて何がいけなかったか、分析にもつながっている」と明かす。 中距離で世界記録を作ったり、主要国際大会で何度も優勝するなど栄光を重ねてきた。だが、「限界は定めていない。小さな積み重ねを長い期間続けていくのがフィロソフィーなので、もちろん1つの大会に勝つことは大事だが、それよりもっと広い視点でできるだけ長い期間、ベストを尽くせるようにしている」と、着実な進化を目指している。 [caption id="attachment_185185" align="alignnone" width="800"]
万全ではない状態で東京世界陸上に臨んだが、5000m決勝で一時先頭に立ち、見せ場を作ったインゲブリグトセン[/caption]
“身体の声”を聞いた負荷管理
メディアミーティングには、城西大の山中達貴主将(4年)と矢野凜誠主務(3年)も参加。インゲブリグトセンは箱根駅伝について、「もちろん知っているよ。見てみたいね」と笑顔を見せた。 学生は、乳酸値と心拍数の関係性による負荷の調整方法について質問した。 インゲブリグトセンは「乳酸や心拍数というのは同じ練習をしていても日々変わる。乳酸値を見てペースを下げたりすることもあり、そういったコントロールは普段からやっている。これも二重閾値走で言ったことと同じで適切な負荷で継続することが大事なんだ。だから乳酸値や心拍数のデータは日頃から有効活用している。これを正しく活用すれば、ケガの予防につながる」とアドバイスした。 城西大では低酸素ルームを備えている。その場合、インゲブリグトセンは「低酸素室ではペースを上げるよりも、下げるほうがより重要」と言う。加えて、「練習していくと疲労が溜まってくるので主観でも良いから感じてほしい」。データの活用も重要だが、「自分の感覚や身体がどんな状態かも必要で、身体の声を聞いて負荷管理をしてほしい。速く走らないといけないっていうことではない」とし、自身のトレーニング姿勢と同じく、「長期的な目で練習を重ねてほしい」とエールを送った。 文/井上敦RECOMMENDED おすすめの記事
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