HOME 駅伝

2023.12.31

V6の名城大 それぞれが秘めた思いぶつける 原点の「やるべきこと」の徹底で結実/富士山女子駅伝
V6の名城大 それぞれが秘めた思いぶつける 原点の「やるべきこと」の徹底で結実/富士山女子駅伝

名城大7区の原田を仲間が見守る

◇2023全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝、2023年12月30日/静岡・富士山本宮浅間大社前~富士総合運動公園陸上競技場:7区間43.4km)

2大大学女子駅伝の一つ、富士山女子駅伝が行われ、名城大が2時間22分42秒で6連覇を達成した。

前回まで5連覇中の名城大は、今年もまた1区から一度もトップを譲ることなく、女王としての強さを存分に見せつけた。

チームを勢いづけたのは、1区から4人連続で区間賞に輝いた下級生だが、前人未到の6連覇を決定づけたのは、後半の勝負区間に起用された上級生だった。

米田勝朗監督は殊勲者として2人の名前を挙げ、その活躍を称える。「5区の谷本(七星/3年)がエース区間で、これだけ立派な走りをしてくれるんだなと感心しましたし、6区の増渕(祐香/4年)が区間新記録で優勝を決定づけるような素晴らしい走りをしてくれた。この3年生、4年生の上級生の走りが今日の優勝に大きな貢献をしたと思います」。

昨年に続いて1区に入った柳樂あずみ(2年)が、「最低でも区間賞を取る」と有言実行の2年連続区間賞発進。3秒リードでタスキを受けた2区の米澤奈々香(2年)は、「去年はケガの影響で最短区間に回ったので、今年は完全な状態で行く。去年走るべきだった区間で役割を全うする」と意気込んで飛び出し、2位に上がった立命大との差を14秒に拡大した。

ルーキーの山田未唯は、レース後、「3区を走ることになって、不安と緊張で正直、走りたくない思いもあった」と笑ったが、堂々の大学駅伝デビュー。後輩の走りに「背中を押された」という石松愛朱加(2年)も前回の2区から4区に回り、危なげない走りを見せる。谷本にタスキが渡った時には2位の立命大に46秒のアドバンテージができていた。

10月29日の全日本大学女子駅伝では、とびきりの笑顔で6連覇のゴールテープを切った谷本。その3週間後の10000m記録挑戦競技会は33分30秒25の17位と苦戦し、目標にしていた来年2月の世界大学クロスカントリー選手権代表の座はつかめなかった。

「10000m記録挑戦競技会で思うように走れず悔しい思いをして、そこからどうやったらうまく走れるかと自分自身で考えた時に、やっぱり駅伝の最長区間、エース区間で他大学のエースさんたちと戦ってしっかり勝ち切ることで、この悔しさを晴らせるかなと思いました」

そんな思いから米田監督に直訴した最長区間での出走だった。中継所を5位でスタートした大東大の留学生、サラ・ワンジル(1年)が後方から追ってきていたが、谷本は「名城大のエース区間で走れることに誇りを持って挑めた」と冷静にピッチを刻む。

入学以来、全日本と富士山で続けてきた5連続区間賞はワンジルに止められたものの、区間2位(日本人トップ)の好走できっちりと10.5kmを走破した。

この1年、チームで最も悔しい思いをしたのは、主将の増渕だっただろう。1年時からフル出場してきた2つの駅伝では、昨季までの6大会で3度の区間新を含む区間賞5回。自身も「駅伝では外さない。駅伝しっかり走ることが自分の存在価値」と自信を持っていた。

しかし、今季は春先の故障で歯車が狂い、最後の全日本を走ることができなかった。そこからは「富士山では絶対に自分の一番の走りができるように状態を合わせる」と切り替え、万全の状態でこの日を迎えていた。

「駅伝の悔しさは駅伝で晴らすしかない」

増渕は序盤から積極的な走りを見せ、3年前に自らが打ち立てた区間記録を4秒更新する19分27秒の区間新。今年最後の大一番で名城大の主将らしい強さを発揮し、アンカーの原田紗希(2年)に委ねた。

昨年は故障でメンバーに入れなかった原田は、「6区までの選手が2分近くの差をつけてくれた」とチームメイトへの感謝の思いを胸に、終盤の急な上りに立ち向かう。最後は3本の指を立てた両手で連覇の「6」を示し、フィニッシュへと飛び込んだ。

チームがなかなか波に乗れなかった夏場には、米田監督は選手たちに「やるべきことができないなら負けたほうがいい」と厳しく伝えたことさえあったという。もがき苦しみ、考え抜いて苦境を脱したからこそ、選手たちは手にした栄冠の重みを改めて感じたに違いない。

文/小野哲史

◇2023全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝、2023年12月30日/静岡・富士山本宮浅間大社前~富士総合運動公園陸上競技場:7区間43.4km) 2大大学女子駅伝の一つ、富士山女子駅伝が行われ、名城大が2時間22分42秒で6連覇を達成した。 前回まで5連覇中の名城大は、今年もまた1区から一度もトップを譲ることなく、女王としての強さを存分に見せつけた。 チームを勢いづけたのは、1区から4人連続で区間賞に輝いた下級生だが、前人未到の6連覇を決定づけたのは、後半の勝負区間に起用された上級生だった。 米田勝朗監督は殊勲者として2人の名前を挙げ、その活躍を称える。「5区の谷本(七星/3年)がエース区間で、これだけ立派な走りをしてくれるんだなと感心しましたし、6区の増渕(祐香/4年)が区間新記録で優勝を決定づけるような素晴らしい走りをしてくれた。この3年生、4年生の上級生の走りが今日の優勝に大きな貢献をしたと思います」。 昨年に続いて1区に入った柳樂あずみ(2年)が、「最低でも区間賞を取る」と有言実行の2年連続区間賞発進。3秒リードでタスキを受けた2区の米澤奈々香(2年)は、「去年はケガの影響で最短区間に回ったので、今年は完全な状態で行く。去年走るべきだった区間で役割を全うする」と意気込んで飛び出し、2位に上がった立命大との差を14秒に拡大した。 ルーキーの山田未唯は、レース後、「3区を走ることになって、不安と緊張で正直、走りたくない思いもあった」と笑ったが、堂々の大学駅伝デビュー。後輩の走りに「背中を押された」という石松愛朱加(2年)も前回の2区から4区に回り、危なげない走りを見せる。谷本にタスキが渡った時には2位の立命大に46秒のアドバンテージができていた。 10月29日の全日本大学女子駅伝では、とびきりの笑顔で6連覇のゴールテープを切った谷本。その3週間後の10000m記録挑戦競技会は33分30秒25の17位と苦戦し、目標にしていた来年2月の世界大学クロスカントリー選手権代表の座はつかめなかった。 「10000m記録挑戦競技会で思うように走れず悔しい思いをして、そこからどうやったらうまく走れるかと自分自身で考えた時に、やっぱり駅伝の最長区間、エース区間で他大学のエースさんたちと戦ってしっかり勝ち切ることで、この悔しさを晴らせるかなと思いました」 そんな思いから米田監督に直訴した最長区間での出走だった。中継所を5位でスタートした大東大の留学生、サラ・ワンジル(1年)が後方から追ってきていたが、谷本は「名城大のエース区間で走れることに誇りを持って挑めた」と冷静にピッチを刻む。 入学以来、全日本と富士山で続けてきた5連続区間賞はワンジルに止められたものの、区間2位(日本人トップ)の好走できっちりと10.5kmを走破した。 この1年、チームで最も悔しい思いをしたのは、主将の増渕だっただろう。1年時からフル出場してきた2つの駅伝では、昨季までの6大会で3度の区間新を含む区間賞5回。自身も「駅伝では外さない。駅伝しっかり走ることが自分の存在価値」と自信を持っていた。 しかし、今季は春先の故障で歯車が狂い、最後の全日本を走ることができなかった。そこからは「富士山では絶対に自分の一番の走りができるように状態を合わせる」と切り替え、万全の状態でこの日を迎えていた。 「駅伝の悔しさは駅伝で晴らすしかない」 増渕は序盤から積極的な走りを見せ、3年前に自らが打ち立てた区間記録を4秒更新する19分27秒の区間新。今年最後の大一番で名城大の主将らしい強さを発揮し、アンカーの原田紗希(2年)に委ねた。 昨年は故障でメンバーに入れなかった原田は、「6区までの選手が2分近くの差をつけてくれた」とチームメイトへの感謝の思いを胸に、終盤の急な上りに立ち向かう。最後は3本の指を立てた両手で連覇の「6」を示し、フィニッシュへと飛び込んだ。 チームがなかなか波に乗れなかった夏場には、米田監督は選手たちに「やるべきことができないなら負けたほうがいい」と厳しく伝えたことさえあったという。もがき苦しみ、考え抜いて苦境を脱したからこそ、選手たちは手にした栄冠の重みを改めて感じたに違いない。 文/小野哲史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.05.21

インターハイ都府県大会 週末は大阪で開催 東北、北信越、東海、中国、九州でも行われ一挙23府県で実施

福岡インターハイ(7月28日~8月1日/東平尾公園博多の森陸上競技場)を目指して、各地で行われているインターハイ都府県大会。明日5月22日の石川を皮切りに、来週前半までに23府県で開幕する。 北から順に、東北では青森、岩 […]

NEWS 【プレゼント】コラントッテの2024年春夏新商品 好評のリカバリーシャツと磁気ネックスレス/2024年6月号

2024.05.21

【プレゼント】コラントッテの2024年春夏新商品 好評のリカバリーシャツと磁気ネックスレス/2024年6月号

磁気健康ギア「Colantotte(コラントッテ)」の製造・販売元である株式会社コラントッテより2024年春夏新商品が4月10日から発売されているが、その中で2種類の商品が好評を博している。 肩・背中の血行改善、コリを緩 […]

NEWS 男子5000mW星合柑太が21年ぶり大会新 全国入賞の円盤投・田中伸明、やり投・鈴木凰士朗も快投見せる/IH岐阜県大会

2024.05.21

男子5000mW星合柑太が21年ぶり大会新 全国入賞の円盤投・田中伸明、やり投・鈴木凰士朗も快投見せる/IH岐阜県大会

福岡インターハイ(7月28日~8月1日)に向けた都府県大会が5月上旬から各地で行われ、高校生たちが熱い戦いを繰り広げている。 岐阜県大会は5月17日~19日の3日間、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われた。 男子5 […]

NEWS 五輪マラソン代表の前田穂南が3000m9分26秒01で快勝! 男子中距離2冠の一宮颯斗、女子走高跳・武山玲奈がMVP/中国実業団

2024.05.21

五輪マラソン代表の前田穂南が3000m9分26秒01で快勝! 男子中距離2冠の一宮颯斗、女子走高跳・武山玲奈がMVP/中国実業団

第63回中国実業団選手権(5月11日、18日~19日/広島・三次)が行われ、女子3000mにパリ五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)が出場し、9分26秒01で優勝を飾った。 1週間前の仙台ハーフで優勝を飾っている前田は五 […]

NEWS 100mH清山ちさと13秒05 5000mW徳山莞太は日本歴代9位18分46秒76 ハンマー投・小田、砲丸投・尾山が大会新V/九州実業団

2024.05.21

100mH清山ちさと13秒05 5000mW徳山莞太は日本歴代9位18分46秒76 ハンマー投・小田、砲丸投・尾山が大会新V/九州実業団

5月18日、19日の両日、第67回九州実業団選手権が福岡県北九州市の本城競技場で行われ、女子100mハードルでは清山ちさと(いちご)が13秒05(+1.3)で優勝を飾った。 清山は昨年のセイコーゴールデングランプリで自身 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年6月号 (5月14日発売)

2024年6月号 (5月14日発売)

別冊付録学生駅伝ガイド

page top