ハンガリー・ブダペストで開催されている第19回世界選手権(8月19日~27日)で行われた男子200m。日本からは鵜澤飛羽(筑波大)、上山紘輝(住友電工)、飯塚翔太(ミズノ)が出場し、鵜澤と飯塚が準決勝進出を果たした。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
鵜澤飛羽選手は初めての世界大会でしたし、率直に言って「がんばった」と思います。ただ、彼のポテンシャルを考えると期待度は高いので、準決勝で1つ前の4着の選手までがプラス通過だったという現実を受け止め、次に進んでほしいですね。
今の鵜澤選手の魅力は後半の爆発力です。ただ、世界の準決勝以上は、やはりそれだけでは難しくなります。トップスピードのレベルを引き上げ、前半から海外勢についていく流れを作れないと、ファイナルへの道は厳しいものになるでしょう。
そういう意味で、決勝のラインが目の前にあったことは、彼にとって今後やるべきことがより明確になるレースになったのではないでしょうか。今後のステップアップのためにも、いい経験が積めた大会になったと思います。
予選から20秒3台を連発する安定したパフォーマンスを発揮できたことは、初の世界大会とは思えないほど素晴らしいこと。この1年を通じて、非常に良い1年を過ごせていると思います。
ですから、今大会に向けての準備が足りなかったとはまったく思いません。準決勝で戦うためのレベルに届いていなかったということなので、この20秒3を超えるレベルに達するにはどうすればいいのか。「ケガをしないように」というところから一歩進んだ、ものすごく負荷がかかるゾーンに入りますが、ファイナルまでの3本を戦い抜くためのプランを明確に立てていく必要があるでしょう。
飯塚翔太選手は、予選が不運と言っていいぐらいのハイレベルだったことがすべてでした。
久しぶりに“飯塚選手らしさ”を存分に発揮したレースで、32歳にしてサードベストの20秒27(±0)は非常に素晴らしいと思います。
ただ、予選全体で11番目なのに、4着でプラス通過となってしまいました。そのため、ルールとして準決勝はコーナーのきつい内側のレーンに。他の組ならほとんどが着順通過できていたはずで、そうすれば彼の得意とする外側のレーンを取れたでしょう。決勝進出のプラス通過が20秒21までだったことを考えると、大いにチャンスがあったかもしれません。これは鵜澤選手も同様で、着順通過の重要性は100mよりも高いです。
それでも、パフォーマンスを発揮し切れない時期が続いた中で、これだけのレースを見せたことは、彼にとって大きな収穫でしょう。また、その背中を、日本のスプリンターたちにも見せてくれたと思います。この年齢でも、これだけのパフォーマンスを出せるのだ、と。
飯塚選手にとって4度目のセミファイナルで、またもファイナルに届かなかった。この現実から、もう一段階上のものが必要だと感じているでしょう。世界のレベルから、いつ決勝進出ラインが「19秒台」となってもおかしくはないので、20秒台のうちに狙っていってほしいですね。
上山紘輝選手は、初出場ながら準決勝に進出した前回のインパクトがあるので、出し切れなかったかなという印象です。7位だった日本選手権をはじめ、いろいろと追いかけないといけない状況となり、代表に滑り込み。200mを戦う準備が足りなかったのかなという印象です。
ただ、ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会の4×100mリレーではアンカーとして好走しました。まずは200mの技術、コンディションをかみ合わせ、本来の走りを取り戻せば、代表争いを引っ張る位置に来るでしょう。
19秒52(-0.2)で優勝したノア・ライルズ選手(米国)は、100mとの2冠。19秒81で3位のレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)、20秒02で4位のザーネル・ヒューズ選手(英国)を含めてこれが6本目のレースにして、これだけの力を発揮するのが世界のトップスプリンターです。
同じ条件である以上、体力面は言い訳になりません。そういう選手たちのいる土俵に立つためには何をすべきか。しっかりと向き合っていく必要があるでしょう。
ライルズ選手については技術もそうですが、トレーニングの充実度が相当いいのでしょう。エリヨン・ナイトン選手(米国)、テボゴ選手というホープたちの勢いは感じていたと思いますが、それを重圧としないかのように後半で圧倒しました。
レース前後のパフォーマンスも含めて、いよいよ“ネクスト・ボルト”の地位を固め、ファンを魅了するエンターテインメントの部分も背負う“ライルズ時代”に入ったと言える結果でした。あとは五輪のタイトルさえ手に入れれば、“レジェンド”の仲間入りとなるのではないでしょうか。
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