2023.07.10
東京五輪4×100mリレー代表の青山華依(甲南大)が、大ケガからの復帰を目指し、一歩一歩進んでいる。7月9日に東京・大井で行われた学習院大対甲南大対校の円盤投で、今季初の競技会出場。16m55で2位ながら、「緊張しましたが、久々の試合の雰囲気を味わえて楽しかったです」と笑顔で振り返った。
大阪高時代から世代屈指の活躍をし、甲南大に入学してからは国内トップを争うスプリンターへと成長した。自己ベストは優勝した昨年4月の日本学生個人選手権準決勝で出した11秒47(学生歴代5位)。
だが、大学3年目のシーズンに向けて冬季練習の真っ最中だった今年2月9日、その競技人生が暗転する。ハードルジャンプの踏み切り時に「左膝が内に入り過ぎてしまって」前十字靭帯断裂、内側半月板損傷の大ケガを負ったのだ。
これまで、肉離れなどのケガは少なくなかったが、「痛いけど走ることはできました」。しかし、今回は明らかに違う。「走ることをあきらめないといけなかった」と当時の心境を明かした。
もちろん、競技を断念するという意味ではなく、「遠い目標よりもできる目標、絶対に達成できる目標を作っていく」タイプの青山にとって、「今、走れない」ことで目の前の目標を見失ったということだ。
それでも、ドクターやトレーナー、顧問の伊東浩司先生から復帰へのプランの説明を受け、「今、できること」を一つひとつクリアしていくことを決めた。
まずは手術後の回復を早めるために、手術までの1ヵ月間で筋力や可動域の確保をし、3月に手術を受けた。リハビリは翌日から。松葉杖を使って歩き、半月板が固まらないように緩めるマッサージから始まった約1ヵ月の入院期間は、1人で黙々と与えられたメニューをこなす日々だった。
退院後からは、復帰までの逆算をしたリハビリへと移った。10月にジャンプができるようになる。9月にダッシュができるようになる……そのために、2ヵ月は「アスリートに必要な場所に筋肉をつける」トレーニングなどに励み、普通に「歩く」こと、そしてその先の「走る」ことを目指した。6月上旬、ついにジョグをする段階に入る。
チームメイトや海老原有希さんの言葉に刺激を受けて
最初はゆっくりと、10分。「左膝が全然安定感がなくて、走り方もわからない。違和感だらけでした」という困惑もあったが、「やっと走れた」喜びも大きかった。一度、「膝の内側の筋肉が足りていなかった」ことでバイクトレーニングに戻ったが、その後に段階を1つ進めることができている。 「トラックで、800mを走りました。400mを1分40秒ペースで2周。スピードを出す感覚を戻していく段階ですが、めちゃくちゃきつかったです。酸欠で頭が痛くなるし(苦笑)」 回復の過程は、当初よりも全体的に1ヵ月早まっているという。「ジャンプを9月に、ダッシュを8月にと言われています」。そして、いよいよ復帰レースが見えてきた。 「11月のエコパトラックゲームスの4×100mリレーを目指していきます」 ここまで、目の前の「走れるようになること」を目指してきた青山に、さらに先の目標ができた。その過程が早まった要因には、チームメイトたちの活躍がある。 日本選手権では100mで1年生の藏重みゆが3位に食い込み、アジア選手権4×100mリレー代表に選ばれた。1年先輩の井戸アビゲイル風果は、200mで4月の日本学生個人選手権を制し、ワールドユニバーシティ代表に選出されている。2年生の岡根和奏、奥野由萌はともに100m、200mで自己新を連発している。 さらに、この4人で走った4×100mリレーでは関西インカレで44秒83をマーク。自身が2走を務めて大学初の日本一に輝いた昨年の日本選手権リレーで出した甲南大記録の44秒72(学生歴代3位)が、目前に迫るタイムだ。 「みんなの活躍はうれしかったです。でも、正直に言うと悔しい。このままだとみんなに追いつかれるし、リレーメンバーにも入れなくなる」。仲間たちからエースに送られた無言の“エール”。青山の心は、確実に揺さぶられた。 また、6月の日本選手権の時に、伊東先生を通じて、女子やり投で五輪2度(12年ロンドン、16年リオ)出場の海老原有希さん(国士大コーチ)と話す機会が得られたことも転機になった。 海老原さんは中学3年時に右膝の靭帯を断裂し、手術。大学時代にも同じ箇所を痛め、競技人生の大半は右膝の「テーピングと補強運動」と付き合ってきた。その経験を「マイナスなことはまったく言われず、こうすればいい、あれをしてきたと前向きに話してくださいました。すごくタメになったし、気持ちが楽になりました」と青山は、大先輩からのアドバイスに感謝する。 今季中の復帰に向けて、青山はまっすぐ前を見つめる。とはいえ、足元を見ていないわけではない。「いきなり自己ベストに戻せるなんて考えていません」。まずは12秒台でいい。それでも、来年が大学最後の年になることを考えたら、本来の短距離種目で「大会の雰囲気を味わって、記録を残しておきたいですよね」。それが、「冬季練習のモチベーションになるはずです」と言う。 本格復帰は来年。日本選手権の参加標準記録を切るところから始まるが、それでも、苦難の中で得たものは、自分の力になる。それを信じ、青山は一歩一歩、前を向いて進んでいく。 文/小川雅生
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