2022.01.28
学生長距離Close-upインタビュー
中西大翔Nakanishi Taiga 國學院大學3年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。14回目は、今年の箱根駅伝で4区区間4位と好走した國學院大の中西大翔(3年)をピックアップ。
双子の兄・唯翔とともに1年目からチームの主力として活躍し、2年時には5000mと10000mの國學院大記録を更新。今季はケガに苦しんできたが、見事箱根路で復活の走りを見せた。
尊敬する先輩の後を継ぎ、来季は主将としてチームを牽引する現在の心境とは――。
不振だった3年目の前期シーズン
今季の駅伝シーズン。國學院大は、ルーキーの平林清澄や全日本大学駅伝8区区間賞の伊地知賢造(2年)ら下級生の台頭があったほか、出雲駅伝と全日本では1区、2区を担った島﨑慎愛、木付琳(ともに4年)が上々のスタートを切るなど、昨年度以上の総合力を示してきた。
その一方で、昨季からダブルエースとしてチームを牽引してきた藤木宏太(4年)と中西大翔(3年)は、なかなか会心の走りを見せられずにいた。
藤木は7月に右脚のふくらはぎ(後脛骨筋)を痛めた影響で万全な状態で駅伝シーズンを迎えられず、中西は前回の箱根後に右足親指の付け根を疲労骨折し、完治した後もバランスを崩すなどして、本調子を取り戻せずにいた。
中西は出雲では4区区間2位と好走している。だが、これは状態が上がってこなかったために、直前になって負担の小さい区間に回った結果。もともとは3区を担う予定だっただけに、区間2位といえど、決して満足のいく走りとは言えなかった。
「トラックシーズンも、出雲も全日本も、自分の中では納得できる走りができていなかったので、この1年間、箱根駅伝にかける思いは強かったです」
不振のシーズンを送ってきただけに、1年間の集大成となる箱根にはきっちりと合わせるつもりだった。
当初、箱根は9区を予定しており、1ヵ月前の沖縄合宿では、単独走を想定した練習を取り入れていた。その沖縄合宿では、強風が吹き荒れる悪コンディションに他の主力選手が苦しんでいたが、中西は余力を持って練習をこなすことができ「どんどん状態が上がっているのを実感できた」と言う。その合宿後は、往路を言い渡されてもいいようにと準備を進めていった。
結局、当初予定していた平林が調子を落としたこともあり、中西が4区を走るプランが浮上した。そして、「(平林よりも)大翔のほうが4区で勝負できるんじゃないか」と前田監督から提案された際には、「4区で行かせてください」と自信を持って答えることができた。12月に入ってからは、それほど状態が良かったのだ。
走れなかった兄の分まで……
中西は1年時にも4区を走っている。その時には、青学大の吉田祐也(現・GMOインターネットグループ)には引き離されたが、単独走になってから淡々とペースを刻み、区間3位と好走している。それゆえに、4区に対しては良いイメージを持っていた。
中西がタスキを受けたのは先頭から1分42秒差の4位。前々回走った時と同じように、上位で平塚を出発した。
「1年時のレースをなぞるようなイメージで走りました」
快調に飛ばすと、レース中盤では帝京大をとらえて3位に浮上。さらに前を追った。
終盤に差し掛かる踏ん張りどころの15km地点では、双子の兄・唯翔から給水を受けた。
唯翔も、5月の関東インカレ(2部)のハーフマラソンで8位入賞を果たすなど力のある選手だが、箱根のエントリー直前に恥骨を疲労骨折し、メンバーから外れていた。
「唯翔がこの箱根にかけてきた思いを感じていましたし、相当落ち込んだ姿を見てきました。2人でそろって箱根に出たいという思いは1年目から変わらないので、唯翔が走れない分、自分ががんばりたいという思いを持って走っていました。その唯翔から給水をもらったので、絶対に走らないといけないと思いました」
兄からは給水とともに「自分の分まで頼んだ!」と鼓舞された。その言葉は何よりも「すごい力になった」と振り返る。
中西は区間4位の好走で、順位を1つ上げてタスキをつないだ。2位・東京国際大との差は、平塚では1分30秒もあったが、小田原では9秒差にまで迫っていた。
「区間賞を目標にしていたんですけど……。でも、この1年間苦しんできたので、これまでの努力が少し報われたかな」
苦しみ抜いた1年の終わりに、ようやく納得のいく走りができた。
「主将として、エースとしてチームを引っ張っていきたい」
チームは、4年連続でシード権を確保し、総合8位でレースを終えた。
「総合優勝を目指していたので、とても悔しいというのが率直な気持ちです」
常連校から強豪校へと歩みを進める半ばにあるだけに、もはやシード権を獲得しただけで満足することはなかった。今回の悔しさを晴らすチャンスは、中西にはあと1回しか残されていない。
新体制では、中西がキャプテンに就くことが決まっている。
「箱根の2週間前くらいに、前田さんからいきなり言われたのですが、15kmの給水の後の声掛けでも『来年はお前がキャプテンだからな』という言葉を受けましたし、しっかりがんばっていきたいです。
土方さん(英和、現Honda)、木付さんという尊敬するキャプテンの後を引き継ぐことにはプレッシャーや怖さがあります。でも、キャプテンやり遂げた後の達成感は、誰にも感じられないくらい大きいものがあると思っています。主将として、エースとして、チームを引っ張っていきたいです」
大学ラストイヤーは、名実ともにチームの大黒柱として、再び箱根の頂を目指す。
◎なかにし・たいが/2000年5月27日生まれ。石川県出身。緑中→金沢龍谷高→國學院大。自己記録5000m13分42秒24、10000m28分17秒84。
高校時代はインターハイ5000mで決勝に進出(14位)、世界クロスカントリー選手権(U20)に出場(45位)するなど活躍。双子の兄・唯翔とともに國學院大へ進学すると、いきなり出雲駅伝(2区3位)の優勝メンバーとなり、以降は学生三大駅伝フル出場を継続している。来季はチームの主将を務める。
文/和田悟志
学生長距離Close-upインタビュー
中西大翔Nakanishi Taiga 國學院大學3年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。14回目は、今年の箱根駅伝で4区区間4位と好走した國學院大の中西大翔(3年)をピックアップ。
双子の兄・唯翔とともに1年目からチームの主力として活躍し、2年時には5000mと10000mの國學院大記録を更新。今季はケガに苦しんできたが、見事箱根路で復活の走りを見せた。
尊敬する先輩の後を継ぎ、来季は主将としてチームを牽引する現在の心境とは――。
不振だった3年目の前期シーズン
今季の駅伝シーズン。國學院大は、ルーキーの平林清澄や全日本大学駅伝8区区間賞の伊地知賢造(2年)ら下級生の台頭があったほか、出雲駅伝と全日本では1区、2区を担った島﨑慎愛、木付琳(ともに4年)が上々のスタートを切るなど、昨年度以上の総合力を示してきた。 その一方で、昨季からダブルエースとしてチームを牽引してきた藤木宏太(4年)と中西大翔(3年)は、なかなか会心の走りを見せられずにいた。 藤木は7月に右脚のふくらはぎ(後脛骨筋)を痛めた影響で万全な状態で駅伝シーズンを迎えられず、中西は前回の箱根後に右足親指の付け根を疲労骨折し、完治した後もバランスを崩すなどして、本調子を取り戻せずにいた。 中西は出雲では4区区間2位と好走している。だが、これは状態が上がってこなかったために、直前になって負担の小さい区間に回った結果。もともとは3区を担う予定だっただけに、区間2位といえど、決して満足のいく走りとは言えなかった。 「トラックシーズンも、出雲も全日本も、自分の中では納得できる走りができていなかったので、この1年間、箱根駅伝にかける思いは強かったです」 不振のシーズンを送ってきただけに、1年間の集大成となる箱根にはきっちりと合わせるつもりだった。 当初、箱根は9区を予定しており、1ヵ月前の沖縄合宿では、単独走を想定した練習を取り入れていた。その沖縄合宿では、強風が吹き荒れる悪コンディションに他の主力選手が苦しんでいたが、中西は余力を持って練習をこなすことができ「どんどん状態が上がっているのを実感できた」と言う。その合宿後は、往路を言い渡されてもいいようにと準備を進めていった。 結局、当初予定していた平林が調子を落としたこともあり、中西が4区を走るプランが浮上した。そして、「(平林よりも)大翔のほうが4区で勝負できるんじゃないか」と前田監督から提案された際には、「4区で行かせてください」と自信を持って答えることができた。12月に入ってからは、それほど状態が良かったのだ。走れなかった兄の分まで……
中西は1年時にも4区を走っている。その時には、青学大の吉田祐也(現・GMOインターネットグループ)には引き離されたが、単独走になってから淡々とペースを刻み、区間3位と好走している。それゆえに、4区に対しては良いイメージを持っていた。 中西がタスキを受けたのは先頭から1分42秒差の4位。前々回走った時と同じように、上位で平塚を出発した。
「1年時のレースをなぞるようなイメージで走りました」
快調に飛ばすと、レース中盤では帝京大をとらえて3位に浮上。さらに前を追った。
終盤に差し掛かる踏ん張りどころの15km地点では、双子の兄・唯翔から給水を受けた。
唯翔も、5月の関東インカレ(2部)のハーフマラソンで8位入賞を果たすなど力のある選手だが、箱根のエントリー直前に恥骨を疲労骨折し、メンバーから外れていた。
「唯翔がこの箱根にかけてきた思いを感じていましたし、相当落ち込んだ姿を見てきました。2人でそろって箱根に出たいという思いは1年目から変わらないので、唯翔が走れない分、自分ががんばりたいという思いを持って走っていました。その唯翔から給水をもらったので、絶対に走らないといけないと思いました」
兄からは給水とともに「自分の分まで頼んだ!」と鼓舞された。その言葉は何よりも「すごい力になった」と振り返る。
中西は区間4位の好走で、順位を1つ上げてタスキをつないだ。2位・東京国際大との差は、平塚では1分30秒もあったが、小田原では9秒差にまで迫っていた。
「区間賞を目標にしていたんですけど……。でも、この1年間苦しんできたので、これまでの努力が少し報われたかな」
苦しみ抜いた1年の終わりに、ようやく納得のいく走りができた。
「主将として、エースとしてチームを引っ張っていきたい」
チームは、4年連続でシード権を確保し、総合8位でレースを終えた。
「総合優勝を目指していたので、とても悔しいというのが率直な気持ちです」
常連校から強豪校へと歩みを進める半ばにあるだけに、もはやシード権を獲得しただけで満足することはなかった。今回の悔しさを晴らすチャンスは、中西にはあと1回しか残されていない。
新体制では、中西がキャプテンに就くことが決まっている。
「箱根の2週間前くらいに、前田さんからいきなり言われたのですが、15kmの給水の後の声掛けでも『来年はお前がキャプテンだからな』という言葉を受けましたし、しっかりがんばっていきたいです。
土方さん(英和、現Honda)、木付さんという尊敬するキャプテンの後を引き継ぐことにはプレッシャーや怖さがあります。でも、キャプテンやり遂げた後の達成感は、誰にも感じられないくらい大きいものがあると思っています。主将として、エースとして、チームを引っ張っていきたいです」
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