写真/時事
◇東京五輪(7月30日~8月8日/国立競技場)陸上競技6日目
陸上競技6日目のイブニングセッション、女子1500m準決勝で、田中希実(豊田自動織機TC)が大偉業を達成した。
予選で4分02秒33と自らの日本記録を更新して準決勝進出を決めていた田中。決勝は1組目に入った。
歴史を動かす大冒険がスタートした。
「4分を切らないと決勝は難しいと思っていました」。先手は取れなかったが、「ダッシュされたのですが1レーンが開いたのでスッと出られました」と、一気に先頭に立つ。
400mを62秒で通過。「入ったことのないペースでしたが、思ったよりきつくなくて、これは日本新、3分台が出せる」という感覚をつかんだ。800mは2分9秒。田中は4番手に下がるが、ズルズルはいかない。
ここはさすがに「きつかった」が、これまでこだわってきた「ラスト1周」は、積み重ねてきたものを発揮。通過ラインの5人目をきっちり守るだけでなく、最後は4番手を詰める走り。
5着で決勝進出。示された記録は3分59秒19。日本人女子で初めて4分を切る日本新、アジア歴代4位、とてつもない記録が誕生した。
「今の自分の全部をぶつけて、理想通りのタイムを出せて決勝に残れたのでうれしいです」
日本中の興奮をよそに、淡々と振り返れるのは、これが単なる夢物語ではなく現実と見据えて努力してきたからだろう。
「5000mと違って記録のプラスで拾われるのは2人しかいないので、着順(5位以内)を狙うことでタイムもついてくると思いました」
どこまでも冷静だった。
1999年9月4日生まれ、兵庫県出身の21歳。現在は同志社大の学生でもある。小野中、西脇工高と強豪で磨きをかけ、高校卒業後は父の健智さんと二人三脚でトレーニングしてきた。
中学時代から全国トップランナーで、全中1500mを制しているが、欲しかったタイトルにはライバルの前に敗れることも多かった。だが、「今日より明日、少しでも速くなりたい」という思いを胸に、常に自分に負けたくない、と走り続けてきた。
18年のU20世界選手権では女子3000mで世界一に輝いている。今思い返せば、この頃からすでに世界のトップランナーの一人になるべき存在だった。周囲からは「試合に出すぎではないか」と言われることもあったが、自分の信じた道を突き進んできた先に、この未来が待っていた。
これで、五輪前から1500mでは3本連続日本新。1500mでの決勝進出は、男女通じても初めての快挙だ。それでも、まだ冒険は終わらない。
「決勝はスローになることが多い。5000mの優勝者(S.ハッサン)は、5000mでもラスト1周を57秒くらいで上がるので、ラスト1周にこだわって走りたいです」
8月6日19時50分。小さな巨人が世界のトップへと果敢に挑む。
田中希実の自己記録
800m2分03秒19(日本歴代9位)
1500m3分59秒19(日本記録)
3000m8分40秒84(日本記録)
5000m14分59秒93(日本歴代4位)
10000m31分59秒89
●女子1500m日本歴代10傑
3.59.19 田中 希実 21年
4.07.86 小林祐梨子 06年
4.07.90 卜部 蘭 21年
4.09.30 杉森 美保 05年
4.10.00 吉川 美香 07年
4.10.08 陣内 綾子 13年
4.10.39 田村 育子 02年
4.11.10 弘山 晴美 94年
4.11.65 藤原夕規子 02年
4.12.06 木村 友香 19年

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