◇びわ湖毎日マラソン(2月28日/滋賀県大津市・皇子山陸上競技場発着)
給水所のあった36.2km過ぎ、鈴木健吾(富士通)は目の覚めるような鮮やかなスパートを放った。
サイモン・カリウキ(戸上電機製作所)、土方英和(Honda)の息遣いをうかがいながら、「どこかしらのタイミングで出たいと思っていました」。給水を取り逃したことが、逆に「いくしかない」と開き直る契機になった。
ペースメーカーが1km2分58秒の設定でレースを先導し、大迫傑(Nike)の持つ日本記録(2時間5分29秒)を上回るハイペースで推移していたが、鈴木はそれでも余力があった。25km過ぎに井上大仁(三菱重工)が飛び出した時も、「まだこのタイミングで出るべきじゃない」と動かなかった。
「ペースメーカーがいる25km、または30kmで集団が動いたり、レースが変化する。そこで冷静に判断しよう」
プラン通り、終始じっくりと構えていた鈴木。しかし、勝負どころは逃さない。36km以降、1kmごとに2分53秒、2分52秒、2分51秒で突っ走る。カリウキ、土方との差をあっという間に広げていった。
その勢いを最後まで維持し、日本新どころかさらに驚きのタイムに結び付けた。自己ベストは神奈川大4年時に初マラソンとして挑戦した東京で出した当時学生歴代6位の2時間10分21秒だったが、それを一気に5分半も更新する、2時間4分56秒。日本人が初めて「2時間5分」の壁を破り、両手を上げて優勝のフィニッシュテープを切った。
「このタイムが出ると思っていませんでした。自分が一番ビックリしています。(琵琶湖畔を舞台にした)最後の大会で日本記録、大会記録を出せて、誇りに思います」
25歳の鈴木は、そう胸を張って誇らしげに語った。
愛媛・宇和島東高ではインターハイ5000mで10位に入っているが、脚光を浴びたのは神奈川大3年時。箱根駅伝の2区で区間賞に輝くと、4年時にはユニバーシアードのハーフマラソンで金メダル、全日本大学駅伝ではアンカーを務め、逆転優勝の立役者となった。さらに卒業前の東京マラソンでも好走。ロードでの強さが光る選手だった。
18年に富士通入り。その時から、鈴木の目標は「世界」だった。
「富士通のスローガン『世界で戦えるチーム』。まずはそこを目指してやっていくのは、富士通に入ったからには当然のこと」
入社後は左膝のケガに悩まされ、1年目はほとんどレースに出場できなかったが、東京五輪のマラソン代表への挑戦はあきらめなかった。代表を決める19年9月15日のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)への出場権を期限ぎりぎりで手にし、五輪選考レースの場に立つ。
結果は7位。さらに2020年3月のびわ湖毎日でも12位にとどまり、東京五輪の夢はかなわなかった。だが、自分の立ち位置は確認できた。
そこまではマラソンを走るためだけのトレーニングしかできていなかった。そこからは福嶋正監督とともに、身体のベースから見直し、着手できていなかったスピード練習にも取り組んだ。
福嶋監督が「コツコツと継続できる選手」と評するように、コロカ禍にも地道なトレーニングを重ねていった。その成果は昨年のトラックレースに表れ、10000mで27分台を2度マーク。そのスピードをもって12月の日本選手権10000mでの東京五輪代表入りにチャレンジしたが、総合33位に終わったことで、改めて自分の武器を見つめる。
「自分はトラックでは通用しない、マラソンで勝負するしかない」
全日本実業団駅伝で6区区間賞に輝き、チームの12年ぶり優勝に貢献。そこからマラソン練習を開始し、先輩の東京五輪代表・中村匠吾とともに、今大会への準備を重ねてきた。本来であれば中村とともに出場するはずだったが、10日前に中村が左腓骨筋腱鞘炎のため欠場を表明。それでも鈴木は、今回の結果は「匠吾さんと練習させてもらったお陰」ときっぱりと語る。
今後も、自分が目指す道を突き進むつもりでいる。マラソンで世界へ。
「まだまだ力はないけど、世界選手権、次の五輪で戦えるように、少しずつ力をつけていきたい」
鈴木の挑戦はまだ、始まったばかりだ。
■男子マラソン日本歴代10傑
2.04.56 鈴木健吾(富士通) 21年びわ湖
2.05.29 大迫 傑(Nike) 20年東京
2.06.11 設楽悠太(Honda) 18年東京
2.06.16 高岡寿成(カネボウ) 02年シカゴ
2.06.26 土方英和(Honda) 21年びわ湖
2.06.35 細谷恭平(黒崎播磨) 21年びわ湖
2.06.45 高久 龍(ヤクルト) 20年東京
2.06.47 井上大仁(三菱重工) 21年びわ湖
2.06.51 藤田敦史(富士通) 00年福岡
2.06.51 小椋裕介(ヤクルト) 21年びわ湖
■びわ湖毎日マラソン上位成績
1位 鈴木健吾(富士通) 2時間4分56秒=日本新
2位 土方英和(Honda) 2時間6分26秒=日本歴代5位
3位 細谷恭平(黒崎播磨) 2時間6分35秒=日本歴代6位
4位 井上大仁(三菱重工) 2時間6分47秒=日本歴代8位
5位 小椋裕介(ヤクルト) 2時間6分51秒=日本歴代9位タイ
6位 大六野秀畝(旭化成) 2時間7分12秒=自己新
7位 S.カリウキ(戸上電機製作所) 2時間7分18秒=自己新
8位 菊地賢人(コニカミノルタ) 2時間7分20秒=自己新
9位 聞谷賢人(トヨタ紡織) 2時間7分26秒=自己新
10位 川内優輝(あいおいニッセイ同和損保) 2時間7分27秒=自己新
◇びわ湖毎日マラソン(2月28日/滋賀県大津市・皇子山陸上競技場発着)
給水所のあった36.2km過ぎ、鈴木健吾(富士通)は目の覚めるような鮮やかなスパートを放った。
サイモン・カリウキ(戸上電機製作所)、土方英和(Honda)の息遣いをうかがいながら、「どこかしらのタイミングで出たいと思っていました」。給水を取り逃したことが、逆に「いくしかない」と開き直る契機になった。
ペースメーカーが1km2分58秒の設定でレースを先導し、大迫傑(Nike)の持つ日本記録(2時間5分29秒)を上回るハイペースで推移していたが、鈴木はそれでも余力があった。25km過ぎに井上大仁(三菱重工)が飛び出した時も、「まだこのタイミングで出るべきじゃない」と動かなかった。
「ペースメーカーがいる25km、または30kmで集団が動いたり、レースが変化する。そこで冷静に判断しよう」
プラン通り、終始じっくりと構えていた鈴木。しかし、勝負どころは逃さない。36km以降、1kmごとに2分53秒、2分52秒、2分51秒で突っ走る。カリウキ、土方との差をあっという間に広げていった。
その勢いを最後まで維持し、日本新どころかさらに驚きのタイムに結び付けた。自己ベストは神奈川大4年時に初マラソンとして挑戦した東京で出した当時学生歴代6位の2時間10分21秒だったが、それを一気に5分半も更新する、2時間4分56秒。日本人が初めて「2時間5分」の壁を破り、両手を上げて優勝のフィニッシュテープを切った。
「このタイムが出ると思っていませんでした。自分が一番ビックリしています。(琵琶湖畔を舞台にした)最後の大会で日本記録、大会記録を出せて、誇りに思います」
25歳の鈴木は、そう胸を張って誇らしげに語った。
愛媛・宇和島東高ではインターハイ5000mで10位に入っているが、脚光を浴びたのは神奈川大3年時。箱根駅伝の2区で区間賞に輝くと、4年時にはユニバーシアードのハーフマラソンで金メダル、全日本大学駅伝ではアンカーを務め、逆転優勝の立役者となった。さらに卒業前の東京マラソンでも好走。ロードでの強さが光る選手だった。
18年に富士通入り。その時から、鈴木の目標は「世界」だった。
「富士通のスローガン『世界で戦えるチーム』。まずはそこを目指してやっていくのは、富士通に入ったからには当然のこと」
入社後は左膝のケガに悩まされ、1年目はほとんどレースに出場できなかったが、東京五輪のマラソン代表への挑戦はあきらめなかった。代表を決める19年9月15日のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)への出場権を期限ぎりぎりで手にし、五輪選考レースの場に立つ。
結果は7位。さらに2020年3月のびわ湖毎日でも12位にとどまり、東京五輪の夢はかなわなかった。だが、自分の立ち位置は確認できた。
そこまではマラソンを走るためだけのトレーニングしかできていなかった。そこからは福嶋正監督とともに、身体のベースから見直し、着手できていなかったスピード練習にも取り組んだ。
福嶋監督が「コツコツと継続できる選手」と評するように、コロカ禍にも地道なトレーニングを重ねていった。その成果は昨年のトラックレースに表れ、10000mで27分台を2度マーク。そのスピードをもって12月の日本選手権10000mでの東京五輪代表入りにチャレンジしたが、総合33位に終わったことで、改めて自分の武器を見つめる。
「自分はトラックでは通用しない、マラソンで勝負するしかない」
全日本実業団駅伝で6区区間賞に輝き、チームの12年ぶり優勝に貢献。そこからマラソン練習を開始し、先輩の東京五輪代表・中村匠吾とともに、今大会への準備を重ねてきた。本来であれば中村とともに出場するはずだったが、10日前に中村が左腓骨筋腱鞘炎のため欠場を表明。それでも鈴木は、今回の結果は「匠吾さんと練習させてもらったお陰」ときっぱりと語る。
今後も、自分が目指す道を突き進むつもりでいる。マラソンで世界へ。
「まだまだ力はないけど、世界選手権、次の五輪で戦えるように、少しずつ力をつけていきたい」
鈴木の挑戦はまだ、始まったばかりだ。
■男子マラソン日本歴代10傑
2.04.56 鈴木健吾(富士通) 21年びわ湖
2.05.29 大迫 傑(Nike) 20年東京
2.06.11 設楽悠太(Honda) 18年東京
2.06.16 高岡寿成(カネボウ) 02年シカゴ
2.06.26 土方英和(Honda) 21年びわ湖
2.06.35 細谷恭平(黒崎播磨) 21年びわ湖
2.06.45 高久 龍(ヤクルト) 20年東京
2.06.47 井上大仁(三菱重工) 21年びわ湖
2.06.51 藤田敦史(富士通) 00年福岡
2.06.51 小椋裕介(ヤクルト) 21年びわ湖
■びわ湖毎日マラソン上位成績
1位 鈴木健吾(富士通) 2時間4分56秒=日本新
2位 土方英和(Honda) 2時間6分26秒=日本歴代5位
3位 細谷恭平(黒崎播磨) 2時間6分35秒=日本歴代6位
4位 井上大仁(三菱重工) 2時間6分47秒=日本歴代8位
5位 小椋裕介(ヤクルト) 2時間6分51秒=日本歴代9位タイ
6位 大六野秀畝(旭化成) 2時間7分12秒=自己新
7位 S.カリウキ(戸上電機製作所) 2時間7分18秒=自己新
8位 菊地賢人(コニカミノルタ) 2時間7分20秒=自己新
9位 聞谷賢人(トヨタ紡織) 2時間7分26秒=自己新
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