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2026.05.04

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【高平慎士の視点】日本を救った男子4×400mRの北京世界陸上決定「予選敗退」の事実受け止め、アジア大会から再起を/世界リレー
【高平慎士の視点】日本を救った男子4×400mRの北京世界陸上決定「予選敗退」の事実受け止め、アジア大会から再起を/世界リレー

中島佑気ジョセフ(25年世界選手権)

5月2日~3日にバハマ・ハボローネで行われた世界リレーで、日本は来年の北京世界選手権出場権を男子4×400mリレーで獲得した。だが、同4×100mリレー、男女混合4×400mリレーは今大会で獲得できず、今後へと持ち越しとなっている。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

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結果的に、東京世界選手権で予選敗退だった男子4×400mリレーが北京世界選手権の出場権を獲得し、決勝に残った2種目が今大会で獲得できませんでした。日本にとっては救いの種目になったのかもしれませんが、五輪や世界選手権を想定するならば、3種目とも「予選敗退」だった事実も合わせて受けて止めないといけないと思います。

男子4×400mリレーは、予選、第2ラウンドのレースを総括すると、世界大会の「メダルを狙いたいけれども、決勝進出の当落線上でしっかりと争える」という立ち位置なのかなと感じました。

予選は3分00秒79で2組5着。中島佑気ジョセフ選手(富士通)を2走に置き、トップに立ちました。1、2走のバトンパスでややミスがあった点は課題として残りますが、日本のプランとしては成功と言えるでしょう。

3、4走の吉津拓歩(ミキハウス)選手、今泉堅貴選手(内田洋行AC)は、世界レベルのレースで先頭を走る経験を磨いていくことが必要。後方からこられるプレッシャーは相当なものではありますが、世界と戦うことを目指すのであれば、やり遂げなければなりません。彼らのポテンシャルをもってすれば、もっといい順位、タイムでもってこられたはずです。

第2レースは対戦相手や展開を読み、中島選手をアンカーに代えて、着実に「2着以内」を狙うオーダーでした。おそらく、中島選手までに1秒前後の差であれば許容範囲と考えたうえで、中島選手なら2着以内に入れるという戦略だったと思います。その中で、トップで中島選手にバトンを渡す展開を作ることができ、日本歴代4位の3分00秒19で1着を確保できたことは一つの成果。世界大会にはないこの1本を経験できたことを、今後の収穫として捉えてほしいですね。

東京世界選手権6位入賞を果たした中島選手は、現状の日本ロングスプリントの中ではただ1人、「抜く計算ができる」選手。今大会の決勝でボツワナが世界記録にあと0.18秒の2分54秒47、2位の南アフリカが国別世界歴代3位の2分55秒07、3位の豪州が同歴代4位の2分55秒20と、世界のレベルがどんどん上がっている中で、前半から勝負をするのか、好位置につけて中島選手で勝負を決めるのか。目標と今の日本の立ち位置を明確にしたうえで、戦略的にチームを作り上げていく必要があるでしょう。

パリ五輪以降、主要メンバーが固まりつつあります。新しいメンバーが入ることも大切なことではありますが、同じメンバーが価値観を共有していくことも大切なこと。彼らが責任と覚悟を持って日本のマイルを引っ張っていったくれることを期待します。

男子4×100mリレーについては、第1レースは1走から栁田大輝選手(Honda)、飯塚翔太選手(ミズノ)、桐生祥秀選手(日本生命)、守祐陽選手(渡辺パイプ)のオーダーで、38秒01の1組4着。日本としては、1走で抜け出し、桐生選手で勝負を決める展開を想定していたと思います。見た目の責任はアンカーに行ってしまいますが、ボツワナのレツィレ・テボゴ選手らが相手であり、1走からの流れで生まれた結果として、しっかりと受け止めなければいけません。

第2レースは守選手を1走に代えて、アンカーは昨年の予選、決勝ともに担っている井上直紀選手(大阪ガス)が入りました。守選手がややリードする展開を作りましたが、今回のチームの柱だった飯塚選手、桐生選手の2、3走でまさかの展開となりました。バトンが渡らず、飯塚選手が転倒。何とかバトンをつないで51秒57で5着という結果でした。

経験豊富な飯塚選手が、出足で本来外側を走るべきなのに内側を走って守選手と重なるようになったこと、桐生選手に声をかける前にすでに動きが泳ぐようになっていたことを考えると、走る前から脚のケイレンなどのトラブルを抱えていたのかもしれませんし、そこにスイッチが入った時の桐生選手の出足の良さが重なり、バトンパスが届かないという結果となりました。

とはいえ、今回のチームのクオリティとしての結果であることに変わりはありません。本来は出場権獲得できるかどうかのレベルではなく、もっと上のステージで戦いたいと言っているチームです。そうであるならば、マイルリレーと同様に決勝に残れなかった時点で「負け」であること。ベストメンバーではないのは各国とも同じであり、それでも37秒台後半から中盤が続出していることを考えるなら、日本の4継は「メダル」を言えない立場に追い込まれていると言えるでしょう。今回、北京世界選手権の出場権を得られなかったダメージと宿題は、非常に大きいと思います。

予選、第2レースともに平川慧選手(東洋大)、井戸アビゲイル風果選手(東邦銀行)、佐藤拳太郎選手(富士通)、松本奈菜子選手(東邦銀行)のオーダーで臨んだ男女混合4×400mリレーは、予選が日本歴代2位の3分13秒61で2組4着。第2レースは3分12秒86と記録を短縮して1組3着。2着とはわずかに0.07秒差でした。

どうしてもアンカーが責任を背負う形になりますが、4継と同じく松本奈菜子選手(東邦銀行)が逃げ切れる展開を作れたのかどうかが大切。もちろん、女子ロングスプリント勢のレベルアップは欠かせませんが、世界的に見ても発展途上のこの種目は、アンカーの実力差で最後の大きく順位が変わる可能性を秘めています。

アンカーにラップ49秒で回れる選手がいるチームに対して、日本がどう戦っていくのか。ただ、世界大会では個人の400mよりも先に行われる種目であることを考えると、取り組み方が非常に難しいと言わざるを得ません。日本チームとして、どんな戦略を立てるのかが求められるでしょう。

今後は、残り4枠の出場権は、有効期限終了時のランキング上位国に与えられます。まずは、9月の名古屋アジア大会でタイムをしっかりと残すこと。中国、インド、カタールなど強豪ぞろいですが、そこでしっかりと金メダルを獲得することが、世界との勝負への一歩となるはずです。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

5月2日~3日にバハマ・ハボローネで行われた世界リレーで、日本は来年の北京世界選手権出場権を男子4×400mリレーで獲得した。だが、同4×100mリレー、男女混合4×400mリレーは今大会で獲得できず、今後へと持ち越しとなっている。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 結果的に、東京世界選手権で予選敗退だった男子4×400mリレーが北京世界選手権の出場権を獲得し、決勝に残った2種目が今大会で獲得できませんでした。日本にとっては救いの種目になったのかもしれませんが、五輪や世界選手権を想定するならば、3種目とも「予選敗退」だった事実も合わせて受けて止めないといけないと思います。 男子4×400mリレーは、予選、第2ラウンドのレースを総括すると、世界大会の「メダルを狙いたいけれども、決勝進出の当落線上でしっかりと争える」という立ち位置なのかなと感じました。 予選は3分00秒79で2組5着。中島佑気ジョセフ選手(富士通)を2走に置き、トップに立ちました。1、2走のバトンパスでややミスがあった点は課題として残りますが、日本のプランとしては成功と言えるでしょう。 3、4走の吉津拓歩(ミキハウス)選手、今泉堅貴選手(内田洋行AC)は、世界レベルのレースで先頭を走る経験を磨いていくことが必要。後方からこられるプレッシャーは相当なものではありますが、世界と戦うことを目指すのであれば、やり遂げなければなりません。彼らのポテンシャルをもってすれば、もっといい順位、タイムでもってこられたはずです。 第2レースは対戦相手や展開を読み、中島選手をアンカーに代えて、着実に「2着以内」を狙うオーダーでした。おそらく、中島選手までに1秒前後の差であれば許容範囲と考えたうえで、中島選手なら2着以内に入れるという戦略だったと思います。その中で、トップで中島選手にバトンを渡す展開を作ることができ、日本歴代4位の3分00秒19で1着を確保できたことは一つの成果。世界大会にはないこの1本を経験できたことを、今後の収穫として捉えてほしいですね。 東京世界選手権6位入賞を果たした中島選手は、現状の日本ロングスプリントの中ではただ1人、「抜く計算ができる」選手。今大会の決勝でボツワナが世界記録にあと0.18秒の2分54秒47、2位の南アフリカが国別世界歴代3位の2分55秒07、3位の豪州が同歴代4位の2分55秒20と、世界のレベルがどんどん上がっている中で、前半から勝負をするのか、好位置につけて中島選手で勝負を決めるのか。目標と今の日本の立ち位置を明確にしたうえで、戦略的にチームを作り上げていく必要があるでしょう。 パリ五輪以降、主要メンバーが固まりつつあります。新しいメンバーが入ることも大切なことではありますが、同じメンバーが価値観を共有していくことも大切なこと。彼らが責任と覚悟を持って日本のマイルを引っ張っていったくれることを期待します。 男子4×100mリレーについては、第1レースは1走から栁田大輝選手(Honda)、飯塚翔太選手(ミズノ)、桐生祥秀選手(日本生命)、守祐陽選手(渡辺パイプ)のオーダーで、38秒01の1組4着。日本としては、1走で抜け出し、桐生選手で勝負を決める展開を想定していたと思います。見た目の責任はアンカーに行ってしまいますが、ボツワナのレツィレ・テボゴ選手らが相手であり、1走からの流れで生まれた結果として、しっかりと受け止めなければいけません。 第2レースは守選手を1走に代えて、アンカーは昨年の予選、決勝ともに担っている井上直紀選手(大阪ガス)が入りました。守選手がややリードする展開を作りましたが、今回のチームの柱だった飯塚選手、桐生選手の2、3走でまさかの展開となりました。バトンが渡らず、飯塚選手が転倒。何とかバトンをつないで51秒57で5着という結果でした。 経験豊富な飯塚選手が、出足で本来外側を走るべきなのに内側を走って守選手と重なるようになったこと、桐生選手に声をかける前にすでに動きが泳ぐようになっていたことを考えると、走る前から脚のケイレンなどのトラブルを抱えていたのかもしれませんし、そこにスイッチが入った時の桐生選手の出足の良さが重なり、バトンパスが届かないという結果となりました。 とはいえ、今回のチームのクオリティとしての結果であることに変わりはありません。本来は出場権獲得できるかどうかのレベルではなく、もっと上のステージで戦いたいと言っているチームです。そうであるならば、マイルリレーと同様に決勝に残れなかった時点で「負け」であること。ベストメンバーではないのは各国とも同じであり、それでも37秒台後半から中盤が続出していることを考えるなら、日本の4継は「メダル」を言えない立場に追い込まれていると言えるでしょう。今回、北京世界選手権の出場権を得られなかったダメージと宿題は、非常に大きいと思います。 予選、第2レースともに平川慧選手(東洋大)、井戸アビゲイル風果選手(東邦銀行)、佐藤拳太郎選手(富士通)、松本奈菜子選手(東邦銀行)のオーダーで臨んだ男女混合4×400mリレーは、予選が日本歴代2位の3分13秒61で2組4着。第2レースは3分12秒86と記録を短縮して1組3着。2着とはわずかに0.07秒差でした。 どうしてもアンカーが責任を背負う形になりますが、4継と同じく松本奈菜子選手(東邦銀行)が逃げ切れる展開を作れたのかどうかが大切。もちろん、女子ロングスプリント勢のレベルアップは欠かせませんが、世界的に見ても発展途上のこの種目は、アンカーの実力差で最後の大きく順位が変わる可能性を秘めています。 アンカーにラップ49秒で回れる選手がいるチームに対して、日本がどう戦っていくのか。ただ、世界大会では個人の400mよりも先に行われる種目であることを考えると、取り組み方が非常に難しいと言わざるを得ません。日本チームとして、どんな戦略を立てるのかが求められるでしょう。 今後は、残り4枠の出場権は、有効期限終了時のランキング上位国に与えられます。まずは、9月の名古屋アジア大会でタイムをしっかりと残すこと。中国、インド、カタールなど強豪ぞろいですが、そこでしっかりと金メダルを獲得することが、世界との勝負への一歩となるはずです。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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